結婚式舞台裏 その4(嵐の中心で愛を叫ぶ)
嵐の中心は静かなものだと、俗に言う。
それは本日結婚式が進行中の貴陽紅本家でも同じだった。
ただし嵐が通常天候という人知が及ばぬところで発生するのに反して、こちらは人の手によるものだったりする。
姪を限りなく愛し(愛し過ぎという意見多数)、陰から見守ること十数年(いい加減名乗れという意見多数)
その姪が嫁ぐ相手が相応しいかどうか試験(という名の暗殺者だったり、毒酒だったりした)していた。
賢明なる読者の皆様にはもうお分かりだろうが、その叔父の名は、紅黎深。
本日の式もあらゆる妨害騒動を起こし、弟である紅玖琅はそれを秀麗には気づかれぬよう秘密裏に処理しながら、
遂に最終奥義:二人の兄 紅邵可を引っ張りだした。
そして鶴の一声で、この列席者控室に放り込まれた次第である。
当然のことながら、控室には、彼の妨害を止めることができる数少ない人物達がいた。
*******************************************************************
「いい加減諦め・・認めてあげたらいかがですか?」穏やかな声で悠舜がそう黎深に問いかける。
「全くだ。まあ叔父だと名乗れてもいない、叔父とも思えない行動とってるお前の許しがいるとは思えんが。」
その声に応えるより先に、別の声が重なった。ものすごい美声である。
通常の人間であれば、失神するほどの声だが、誰も倒れない。
この控室にはそんな可愛げのある通常の神経の持ち主はいなかった。
「いくら悠舜の言うこととはいえ、これは譲れんぞ!!
何が悲しくて、可愛い可愛い可愛い姪をあんな陰険男にくれてやらねばならんのだ!
しかも鳳珠!私が秀麗の叔父と思えないだと!!
秀麗は兄上の娘なのだぞ!間違いなく私と血が繋がってる私の最愛の姪だ!
しかも私の行動が叔父とは思えないだと!こんなに日陰から見守ってる
心優しくて繊細な叔父など彩雲国中どこを探してもおるまい!」
怜悧冷徹冷酷非情と言われた噂などどこかへ飛んでいきそうな剣幕である。
否、背後にはどろんどろんと暗雲が渦巻き、その瞳に殺気に満ちた光を宿していた様子は
噂通り大魔王だった。
そして放たれた言葉は突っ込みどころ満載だった。
凡人であれば我が身可愛さに、その言葉を心の中のみで叫ぶものだが、やはり
悠舜と鳳珠は悪夢の国試を及第した者だった。
「お前の何処が心優しくて繊細なんだ。お前が優しいと言うなら世の中法律いらんぞ。
善人だらけでな。しかもお前の神経の何処が繊細なんだ?図太過ぎて周りが倒れているだろうが」
ぴしゃりと冷静に入る容赦のない突っ込み。
「もういい加減、日向から見守ってあげませんか?」
「確かに日陰すぎだな。全く私と悠舜が幼い秀麗を追いかけ回すお前に、
どれだけ振り回されたことか。彼女が成人してもこれか。」
「あの時の秀麗殿はとても可愛らしかったですね。懐かしい。」
「秀麗が可愛いのは当たり前だ!というか今でも可愛い!!」
「ああ、あの幼子が花嫁か。月日が経つのは早いな。」
その言葉を聞いた途端、黎深の両手に握られた扇は、ばっきっんっと折られた。
ちなみに部屋には同じように折られた扇が70本ほど散らばっていた。
(それだけしか折ってないなら良しとしましょうか)さらりと流す悠舜はやっぱり悪夢国試組、状元及第者だった。
自らを黎深と比べて平凡と評した彼だが、世の中の本当に平凡な人から見れば十分規格外だった。
ぶるぶると手を震わせている友人をしみじみと眺め、卓に頬杖をついた鳳珠は呆れた声をだした。呆れた声でも麗しいのは、彩雲国広しといえど、彼だけかもしれない。
「いい加減祝福してやれ。」
「できるか~!!私の秀麗が嫁に行くなどど!!
秀麗にはこの国一番の男でないと相応しくない!
兄上の義理の息子になるんだから!・・息子 真っ赤な他人が兄上の息子・・
そんな馬鹿な・・むしろ私がなりたい・・というかそんな男許さん!!!」
遂に支離滅裂な事言い始めた姪馬鹿もとい、叔父馬鹿。親馬鹿という言葉が存在するのだから、この場合、叔父馬鹿の方が適切と言えるかもしれない。
まるで愛娘を嫁に出したくない父親の図である。
実の父が飄々としているのに反して、名乗りもできない叔父がこれである。
悠舜と鳳珠の間に無言で会話が成り立った。
(「駄目だな」「駄目ですね」)
何言っても無駄、という結論に一秒で達した二人は作戦変更した。
無理だった説得から酔わせて寝かせる手段である。
「まあ飲め。」
「そうですよ。さすが紅家。これなんか極上のお酒ですよ。」
この後、作戦通り酔った黎深はもう妨害しなかった。
その意味では作戦成功である。だが・・
「私と秀麗の思い出156話、終わり。いい!何て良い話なんだ!・・では声援に応えまして、次は聞くも涙、語るも涙のお話。
あれは兄上と私と秀麗が・・。」
酒に強い黎深は、なかなか眠らずえんえんと「この国一番の素晴らしい兄上と同じく、この国一番の可愛い姪との思い出」を語り始めたのである。
(「これは何時になったら終わるんだ!!いい加減うんざりだ!」)
(「・・・疲れましたね・・・」)
(「叔父と認識されていないのに何故こんなに思い出話がある!何処まであいつの妄想なんだ!」)
(「邵可様曰く、7割妄想 2割9分現実を脚色、1分、真実とか」)
(「・・・だんだんあいつが哀れに思えてきた・・。」)
この後、何とか黎深を寝かせて、結婚式に列席した二人は花嫁から「体調お悪いのですか?」と気遣われるほど精神的疲労していた。
嵐の中心もとい原因である秀麗は、決してその被害にあうことはなく、周りが甚大な被害にあったのであった。
それは本日結婚式が進行中の貴陽紅本家でも同じだった。
ただし嵐が通常天候という人知が及ばぬところで発生するのに反して、こちらは人の手によるものだったりする。
姪を限りなく愛し(愛し過ぎという意見多数)、陰から見守ること十数年(いい加減名乗れという意見多数)
その姪が嫁ぐ相手が相応しいかどうか試験(という名の暗殺者だったり、毒酒だったりした)していた。
賢明なる読者の皆様にはもうお分かりだろうが、その叔父の名は、紅黎深。
本日の式もあらゆる妨害騒動を起こし、弟である紅玖琅はそれを秀麗には気づかれぬよう秘密裏に処理しながら、
遂に最終奥義:二人の兄 紅邵可を引っ張りだした。
そして鶴の一声で、この列席者控室に放り込まれた次第である。
当然のことながら、控室には、彼の妨害を止めることができる数少ない人物達がいた。
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「いい加減諦め・・認めてあげたらいかがですか?」穏やかな声で悠舜がそう黎深に問いかける。
「全くだ。まあ叔父だと名乗れてもいない、叔父とも思えない行動とってるお前の許しがいるとは思えんが。」
その声に応えるより先に、別の声が重なった。ものすごい美声である。
通常の人間であれば、失神するほどの声だが、誰も倒れない。
この控室にはそんな可愛げのある通常の神経の持ち主はいなかった。
「いくら悠舜の言うこととはいえ、これは譲れんぞ!!
何が悲しくて、可愛い可愛い可愛い姪をあんな陰険男にくれてやらねばならんのだ!
しかも鳳珠!私が秀麗の叔父と思えないだと!!
秀麗は兄上の娘なのだぞ!間違いなく私と血が繋がってる私の最愛の姪だ!
しかも私の行動が叔父とは思えないだと!こんなに日陰から見守ってる
心優しくて繊細な叔父など彩雲国中どこを探してもおるまい!」
怜悧冷徹冷酷非情と言われた噂などどこかへ飛んでいきそうな剣幕である。
否、背後にはどろんどろんと暗雲が渦巻き、その瞳に殺気に満ちた光を宿していた様子は
噂通り大魔王だった。
そして放たれた言葉は突っ込みどころ満載だった。
凡人であれば我が身可愛さに、その言葉を心の中のみで叫ぶものだが、やはり
悠舜と鳳珠は悪夢の国試を及第した者だった。
「お前の何処が心優しくて繊細なんだ。お前が優しいと言うなら世の中法律いらんぞ。
善人だらけでな。しかもお前の神経の何処が繊細なんだ?図太過ぎて周りが倒れているだろうが」
ぴしゃりと冷静に入る容赦のない突っ込み。
「もういい加減、日向から見守ってあげませんか?」
「確かに日陰すぎだな。全く私と悠舜が幼い秀麗を追いかけ回すお前に、
どれだけ振り回されたことか。彼女が成人してもこれか。」
「あの時の秀麗殿はとても可愛らしかったですね。懐かしい。」
「秀麗が可愛いのは当たり前だ!というか今でも可愛い!!」
「ああ、あの幼子が花嫁か。月日が経つのは早いな。」
その言葉を聞いた途端、黎深の両手に握られた扇は、ばっきっんっと折られた。
ちなみに部屋には同じように折られた扇が70本ほど散らばっていた。
(それだけしか折ってないなら良しとしましょうか)さらりと流す悠舜はやっぱり悪夢国試組、状元及第者だった。
自らを黎深と比べて平凡と評した彼だが、世の中の本当に平凡な人から見れば十分規格外だった。
ぶるぶると手を震わせている友人をしみじみと眺め、卓に頬杖をついた鳳珠は呆れた声をだした。呆れた声でも麗しいのは、彩雲国広しといえど、彼だけかもしれない。
「いい加減祝福してやれ。」
「できるか~!!私の秀麗が嫁に行くなどど!!
秀麗にはこの国一番の男でないと相応しくない!
兄上の義理の息子になるんだから!・・息子 真っ赤な他人が兄上の息子・・
そんな馬鹿な・・むしろ私がなりたい・・というかそんな男許さん!!!」
遂に支離滅裂な事言い始めた姪馬鹿もとい、叔父馬鹿。親馬鹿という言葉が存在するのだから、この場合、叔父馬鹿の方が適切と言えるかもしれない。
まるで愛娘を嫁に出したくない父親の図である。
実の父が飄々としているのに反して、名乗りもできない叔父がこれである。
悠舜と鳳珠の間に無言で会話が成り立った。
(「駄目だな」「駄目ですね」)
何言っても無駄、という結論に一秒で達した二人は作戦変更した。
無理だった説得から酔わせて寝かせる手段である。
「まあ飲め。」
「そうですよ。さすが紅家。これなんか極上のお酒ですよ。」
この後、作戦通り酔った黎深はもう妨害しなかった。
その意味では作戦成功である。だが・・
「私と秀麗の思い出156話、終わり。いい!何て良い話なんだ!・・では声援に応えまして、次は聞くも涙、語るも涙のお話。
あれは兄上と私と秀麗が・・。」
酒に強い黎深は、なかなか眠らずえんえんと「この国一番の素晴らしい兄上と同じく、この国一番の可愛い姪との思い出」を語り始めたのである。
(「これは何時になったら終わるんだ!!いい加減うんざりだ!」)
(「・・・疲れましたね・・・」)
(「叔父と認識されていないのに何故こんなに思い出話がある!何処まであいつの妄想なんだ!」)
(「邵可様曰く、7割妄想 2割9分現実を脚色、1分、真実とか」)
(「・・・だんだんあいつが哀れに思えてきた・・。」)
この後、何とか黎深を寝かせて、結婚式に列席した二人は花嫁から「体調お悪いのですか?」と気遣われるほど精神的疲労していた。
嵐の中心もとい原因である秀麗は、決してその被害にあうことはなく、周りが甚大な被害にあったのであった。
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