彼は、雪の残る公園に来ていた。
彼女が自分を残して消えた場所に。
「夕梨・・・。」
”何処に行っちまったんだよ”
心で本音を呟いて、中学の卒業アルバムを開く。そこには”彼女”が屈託なく笑っている。
彼の恋人は5年前この場所の雪解けの水たまりから突如消えた。
当初は彼の「話していて数十秒して、振り向いたら消えていた」
という話があまりに突拍子もなくて、氷室自身が疑われたくらいだ。
しかし幸いと言うか、確かに彼の供述通りに二人で歩いていて、
その後彼女がいない、と探していた彼の姿を見たという公園の証人がいた為
あらぬ疑いを掛けられぬことはなくなった。
だが別の問題があった。
では、何故、彼女が消えたのか?、ということである。
ずっと頑張っていた高校の受験も合格し、家出の理由もない。
いや、よしんば誰にも言えない事情で家出するしても、服もお金も持たずに家出する少女などいない。
彼女の衣服や預金通帳は手付かずであったし、捜査をすればするほど彼が眼を離した僅かな間に消えたとしか
考えられず、警察もお手上げ状態になってしまった。
あの頃、彼女は確かに様子がおかしかった。
あまり外に出なくなり、プールに誘ったらすぐに拒否する割りに、映画はあっさりOKするし・・・。
離れることなど考えていなかった。守りきれると思っていた。続く未来があると信じて疑わなかった。
”カイル、カイル。見て!デイルがね・・・”
風変わりな、そう古代の歴史の教科書の衣装を合わせたような豪奢な衣服を着て、
彼女に良く似た赤ん坊を抱いて、微笑むのは・・・夕梨!?
”どうしたのだ?またデイルがやんちゃしたのか。ユーリ?”
彼女にカイルと呼ばれた男性は、薄い金色に琥珀の瞳の整った顔立ちの長身の男性で
明らかに外国人と分かる顔立ちをしている。
その二人の雰囲気は甘くて優しくて・・・。
一目で恋人同士だな、と分かった。
(生きててくれた)
彼女が無事だったのが涙が出るほど嬉しかった。
でも。
どうして、自分じゃない男が傍にいる!?
何も別れを告げず!?どれほど彼女を探したことか、心配したことか!!
苦いモノが心から込み上げる。
その心のまま、夕梨に詰め寄ろうとした。が。
(・・・・・・・!?)
彼の手は彼女の体をすり抜けてしまった。
しかも彼女も、周りの誰も氷室には気づかない。
(どういうことだ!?)
「皇帝陛下、皇妃陛下。お出ましを。」
その声に応えるかのように頷き、カイルと呼ばれた男性と彼女は手を取って露台に歩いていく。
「・・・・・・・・・・・はっ!」
気づくとそこはあの公園だった。
アルバムを見ていて眠ってしまったらしく、頁が風で大分めくれてしまっている。
夢を見ていた。
彼女が、夕梨が見知らぬ地で、自分でない男性と家庭を築いて幸せに暮らしている姿。
「・・・しかも皇帝とか皇妃とか言ってなかったか・・・?」
「ったくどうなってんだよ。」
でも。
あの夢が真実であるような気がする。
彼女の生は行方不明のあの時に、止まったのではなくて。
常識とかそんなものとりあえず置いといて。
胸に残るちくちくした痛みも無視して。
彼女はあれから懸命に生きていたのだ。そう確信できるのは。
夢の邂逅で見た、彼女の眼は、”少女”ではなく”女性”だったから。
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後書 天河小説日本に残された氷室君編です。
再びリメイク版です。
以前一度upしたものの歌詞を引用していた為、お蔵入りさせたものです。
歌詞部分は削除しリメイクさせて頂きました(*´σー`)エヘヘ
(それを使い回しと人は言う(;^_^A)
ですから記憶力の良い方は既視感を感じると存じます(*- -)(*_ _)ペコリ
これはH2O 『想い出がいっぱい』の歌詞が彼の心情に合うなあと思って書きましたシリアスです。
曲を聞きながら読んで頂くとより臨場感が増します。
再upですが楽しんで頂けたら嬉しいです(((o(*゚▽゚*)o)))
感想コメント頂けたら、もっとHappyです(⋈◍>◡<◍)。✧♡
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雪月花桜の呟き
コナン二次小説とリメイク小説 UPが一段落しまして今後どうしようかな~と考えております。
全くのオリジナルに挑戦したい気持ちもありつつ、一番コメントの多い コナン二次小説をもう少し書こうとかと悩み中です。
コナン二次ですと、夢の絆の色々(実は蘭その後もネタあり( ̄ー ̄)ニヤリ)、他の人も色々あり)、『原作その後』のその後も
彼女が現実と向かい合うので書けるのですが…こちらは童話チックにしてて、あれはあれで完結したので‥更にその後とかどうだろう?(シンデレラで王子様と結婚して幸せになった後のリアル苦労を書くような感覚)とかで迷ってます。
何かご意見や楽しいアイディアなぞありましたら(欲望に忠実過ぎる)、コメント願います(*- -)(*_ _)ペコリ
自分の中で方向性・結論が出たら、また執筆させて頂きます($・・)/~~~
ジャンプで連載中で来年にはアニメ化も決まっている勢いある漫画『約束のネバーランド』の二次小説になります。
エマの独白になります。
********注意書き********
『約束のネバーランド』本作品中の台詞が出て来ます。
ネタバレ要素ありますので、未読の方はご遠慮下さい。
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注意書き読まれましたね?
それではどうぞw
続きを読む
弟:大津の死-。
その報せは大伯皇女を奈落の底に堕とし、長らく寝込む事になった。
(嘘!嘘よ!!)
心が悲鳴を上げる-。
続く凶報は妃であった山辺皇女の後追い自殺であり、それが大津の死が揺るぎないものであると突き付けられたのであった。
そしてその伏せていた間に、身内に不幸があったとして彼女の斎王の任は解かれて帰京する事が決まっていた。
「照!私戻りたくない!!だって大津はいないのに戻って何になると言うの!」
「それならずっといたこの伊勢に居たい!風と森と海の国が好き!照とも離れたくない!」
いつもは物静かな親友が泣き縋る様に前に照は途方に暮れていた。
(大伯の願いを叶えたい-。でも対価が釣り合わない。)
大津を助ける為に、彼女は豊かな髪と霊能力を差し出した。
その願いは本人による拒絶という思わぬ結果になってしまった。
(対価を払ったけれど願いを叶える事が出来なかった。ならその分、別の願いを叶えてあげたい。例えば伊勢に留まりたいという-。)
けれど、と理を知る神としての彼女は即座に足りないと判断を下してしまった。
(せめて大津皇子本人からの拒絶でなく、間に合わなかったとかなら願いを”変える”という手段も遣えたものを…!)
だが本人の拒絶という例外が起り、叶えられなかった分の願いを聞くにしても、本当に僅かしか叶えられない。対価が残っていない。
(そしてもう大伯には差し出せるモノがない。これ以上となったら”彼女の幸せ全て”か”命”になってしまう…!)
目を瞑り照は考える。自分で出来る限りの事を-。
「大伯、まだ少しだけ貴女の願いを叶えてあげられる。ただ伊勢に置いてあげられる程でない。皇后はすぐにでも貴女を戻そうとしている。」
「そんな…!」
「だから私が代わりに一緒に行くわ。」
「え?」
「私と居たいのでしょう?」
「でも貴女が此処に居なかったら…!」
「いいのよ。元々私は宮廷にいたのだから。それに”天照大御神”なら同時に二箇所いるのだって可能よ?」
「あ…!!」
「それでいい?と言うかそれが精一杯なのよ。」
「ええ!!ありがとう!!照!」
それからの彼女の歌は、万葉集に4首残しているがそれは全て最愛の弟:大津への想いであった。
神風の伊勢の国にもあらましを なにしか来けむ君もあらなくに
見まく欲(ほ)りわがする君もあらなくに なにしか来けむ馬疲るるに
うつそみの人にあるわれや明日よりは 二上山を弟背(いろせ)とわが見む
磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど 見すべき君がありといはなくに
退下・帰京途上で詠んだ歌として2首、大津皇子を二上山に移葬したときの歌2首である。
そして十数後の元号が変わった或る日、彼女は死の床にいた。
「照、ありがとう。今まで側に居てくれて…。」
「何を言うの。楽しかったわ。とても。」
あれから照は新しい侍女という名目でずっと側に居てくれた。
それがとても嬉しかった。
一人では耐えられなかったあろう”孤独”。
それを照は救い上げてくれた。
「ねえ照。一つお願いがあるの…。」
「なあに?」
「あのね…。もしも もしもこれから先の斎王で私みたいに全てを投げうってでもという願いがあったら…いいえ…なくても斎王とは都を離れ孤独なもの…。その…その姫たちのね、味方になってあげて欲しいの。差し出せるものがこれくらいしかないのだけれど。」
そう言って白髪の大伯が差し出したのは、亡き父からの形見分けの見事な細工の櫛であった。
「そんなのいいわよ。対価は本人から頂くもの…それくらい私の大伯の仲よ。私の生きている限り手を差し伸べてあげるわ。
但しその手を取るかどうかはその姫次第ね。」
「ふふ…照らしい。でもそれでいいわ。ありがとう。ねえ照 生きている限りって照はどのくらい生きるの?」
「さあ?それはあなた方次第ね。」
「え?」
「私たちは人間の心によって成り立っている。だからね信じなくなったら、必要とされなくなったらそれが”死”なのよ。」
「そうなの…。」
「ええ。喉渇いてない?何か飲む?」
「大伯?…大津の元に逝ったのね。」
一陣の風が吹き抜けた。
大宝元年12月27日 大伯皇女 薨去。
歴史書には簡単にそう記される事になる。
そして此処から斎王と姫神との秘かな交流が続いていくことは史書には記されない事であった。
********
後書き
やっと終わりました(;・∀・)
この天照大御神と歴代斎王との交流が初代斎王の大伯皇女との”約束”と”友情”であるという事を最初に書いた方がいいかなと思い本作品が出来ました。
今思えば、初代を後にしても良かったなとか思います(;'∀')
なぜか歴代斎王(短編が幾つか)を助けてくれる華やか姫 実は昔------的に持って行っても良かったな~って(;^_^A
何はともあれ一区切りつきまして、ほっとしています。
楽しんで頂けたら幸いです(*- -)(*_ _)ペコリ
コメントや拍手頂けたらもっと嬉しいですヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
「…何を差し出せる?」
「え?」
「願いには対価が要るの…。それに見合う、ね。」
その瞬間、大伯は照の眼差しに雷光を観た気がした。
決して揺るがない、世の理(ことわり)を説く神の姿-。
「な…に…でしたら、いいのでしょうか。」
彼女は思わず敬う口調になっていた。
(霊力、髪くらいしか思いつかない…!身分は…多分意味を為さない!)
そんな巫女姫の思考を読んだかのように、天照大御神から言葉が紡がれた。
「それでいいわ。」
咄嗟に反応して髪を切る道具を探そうとするが見当たらずに焦る。
「一人じゃ綺麗に出来ないでしょ。後で側付きの者にやって貰いなさいな。」
「でもっ早くしないと…!」
「大丈夫よ。私達の仲じゃない。”後払い”でもいいわ。」
そうして目を閉じ、何処かに意識を飛ばしている照を見守るも哀しそうな顔をして此方を見てくる姿に嫌な予感が募る。
「拒否されたわ…。」
「拒否!?」
「その対価だと出来る事は限られる。”大津皇子”のままでは死が待つのみ。だから彼に”名”を捨てさせて生き永らえさせようとしたの。」
「ああ、そうなるのね。」得心した。
「でも拒否って…?」
「そのままの意味よ。これは名を捨て身分を捨てるという事だからその対象が”諾”してくれないと成り立たないの。」
確かに幾ら策や術を弄しても、本人が名乗ってしまったら終わりである。
「そんな…!」
(失敗した。大津が此処に居た昨夜願い、そして私自身が大津を説得するべきだった…!)
「今から追い掛ければ!」
「無理よ。相当な強行軍で移動している。…それに斎王が無断で宮を出たら益々事態は悪化するのではなくて?」
「っッ!!」
”父が天皇、母が皇女、姉が斎王、それが私の誇り。それを奪おうというのか”照が聞かせてくれているのか、大伯の頭に直接、弟の声が響く。
「照…。」
「ええ、これが貴方の弟君の言い分よ。名を取るか、実を取るか どちらが大切なのかは人によって違うのでしょうけれど。」
どちらも大事。けれど けれども。
(死んでしまったらおしまいなのよ!大津!!!!!!!!!!!!!!!!!)
脳裏に小さい頃亡くなった、母の姿が過る-。
例え公に会えずとも、ひっそりとでも生きてくれた方が身内にはどれだけ嬉しいか-。
照の力を借り、直接大津へ語りかけるもついに弟は頷かず、数日が過ぎた。
だがその数日が命取りになった。
「…大伯、もう繋げないわ。」
「え?どうしてっ!?照!」
「…もう息をしていない…。」
「…え??」
嘘よと言いつつ、照がそのような偽りを言うはずがない事も分かっている為、彼女は混乱の極致であった。
否、ただ現実を受け止めたくなかった。頭を振り、必死で抗っていたとも言える。
その瞬間、凄まじい雷光が大空を覆った。
(本当、なのね。)
ついで、ふらりと彼女の身体は傾いで倒れたのであった。
皇后は、伯母は電光石火の如く、甥を葬り去ったのであった。
**************************************************
後書 今回”雷光”で女神たる照姫の神々しさや畏怖
後に持統天皇となる皇后の素早い政治的判断を表現してみました。
いよいよクライマックスに近づいてきましたヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
大津のどんな嘆きも愚痴も受けとめよう。
そう決意した大伯だったが弟皇子は遂にそのような事を口にしなかった。
「この花は昔母上が好きでしたよね。姉上も好きかと思って道すがら摘んで参りました。」
「ありがとう、大津。嬉しいわ。」
「そう言えば昔、この花と果物を取りに一人で出かけたら後で、皆にこっぴどく叱られました。」
「当たり前よ。母上はそれは心配されていたのだし、私もそうよ。舎人達総出で探していたのだから。」
「私としては、ほんの少し外に出てただけのつもりだったのですが、気がつけば暗くなってて驚いたものです。」
「だからほんの少しではなかったの。昼に気付いて夕暮れになっても帰ってもこないし。まったく、もう。」
「いやあ。あはは。」
ただひたすら昔話を楽しそうに語り、翌朝都へ向けて出立した。
(大津…。貴方、もしかしてもしかすると、覚悟しているの?)
死という言葉を無意識に避けた皇女だが、見送りながら視界が滲んで、はらはらと涙が零れていった-。
ずっと立ち尽くしていると、朝焼けの美しさが眼に、心に沁みる。
「わ、わが背子を大和に遣るとさ夜ふけて・・・あ、 暁(あかとき)露にわが立ち濡れし」
(私の愛する人を都へやるために見送って,夜明けまで立ち尽くしていたので,私の裳裾は朝露に濡れてしまった-。)
大伯皇女は涙声で思わず歌を詠んでいた。
濡れているのは皇女の頬か、裳裾か その両方か-。
そうして泣いて 泣いて 泣いて どれ程時が経っただろか、其処には親友が側に居てくれた。
「貴女…。大丈夫、じゃないわよね。」
「照。」
「大伯、とりあえずお水飲んだ方がいいわよ。声がかすれているわ。」
「ん。美味しい。」
「でしょう?我が一族に伝わる泉の湧き水だから。」
「ありがとう。美味しい…美味しいわ。本当に…。」
「生きているって尊いことよね…。」
「大伯…。」
「照、お願いがあるの-。」
「私に出来ることならば。」
「貴女にしか出来ないわ、照姫。いいえ、天照大御神(あまてらすおおみかみ)-。」
大伯は、吹っ切ったように頭を上げ、照に今まで告げなかった彼女の真実であろう真名を口にした-。
鳥の濡場色の豊かな黒髪に紅い唇 まるで太陽のような華やかな姫君。
であるのに、斎宮寮に誰一人として気付かれないで斎王たる彼女の前に現れる-。
(ずっと前から疑問に思っていたの。だって全然美貌が変わらない。舎人や巫女たちに気付かれずに会いに来る。)
それだけではない。
物静かで知性派な弟と元気過ぎるくらい元気な末弟。
双子の弟たちの話は、そのまま月讀命(つくよみのみこと)と建速須佐之男命(すさのおのみこと)ではあるまいか。
そして、まるで自身が見たかのように話す、小碓皇子こと倭建命(やまとたけるのみこと)、倭姫命(やまとひめのみこと)が決定打であった。
(でも初めて出来た親友を失いたくなかった。大事だった。)
(人の身で神の名を口にしていいものかどうか分からなかった。)
(でも大津を、たった一人の弟をこのまま見殺しになんて出来ない!)
友情、神への畏怖、弟への愛情で大伯の胸は嵐が、激情が駆け抜けた。
(間違いない。照は天照大御神(あまてらすおおみかみ)-。)
(お願い、大津を助けて!)
**************************************************
後書 遂に今回照姫の正体が明らかになりました。
ヒントありありだったので事前に気が付かれた方多そうですが…如何でしょうか(;'∀')
拍手やコメント頂けるととても励みになりますヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪