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一滴の水 最終章①

私の恋はどうしていつも上手くいかないのだろう?
いつまで待っていたらいいの?

10月中旬のある日、社会人となった蘭は彼氏との待ち合わせで駅前のロータリーにいた。
もう既に10分が過ぎていて、電話しようかと思った矢先に彼から電話が入った。
「はい。」
「悪りィ、今フィーバー中なんだ!もうちょい待ってて!!」背後でパチンコの音が響いている。
「あ、う、うん。あの」
「じゃ、そういう事で!!」
待ち合わせ先を眼の前のカフェに変えようと言おうとしたら、と言い終わる前に一歩的に電話を切られてしまった。
「ふう。まあ、フィーバー中じゃ仕方ないよね・・。」
溜息をつきながら、蘭はこれからどうしようかと考え始めた。
あのカフェで待っていれば、ロータリーは見えて彼が来るのが分かり便利だが、くさくさして、何だか歩きたい気分だ。
(1回フィーバーしたら1時間は来ないもんね。ぶらぶらしよう。)
高3の秋に、初恋である新一のサプライズ挙式を見てから、もう何度も季節が巡った。
あの時はショックのあまり過呼吸を起こし、ホテルの小部屋で休憩する羽目になった。
そして落ち着いた頃には、感情豊かな蘭のあまりの静かさに園子には抱きしめられながら
「ごめん、蘭。私が余計な事言わなきゃ!泣きな!蘭、泣きなよ!!」と逆に大泣きされてしまった。
人は極限状態になると表情や涙を失うらしい。
園子のその泣き顔とぬくもりにやっとあの結婚式が現実なんだと実感して、鳥が殺される悲鳴のような、自分が出したとは思えない声をしたのだけは覚えている。
それからバレンタインの時と同じような、否もっとひどい状態になり1カ月寝込んだ。
何も手がつかなくなり、スポーツ推薦で既に進路が決まっていたのが不幸中の幸いだった。
先生には「毛利、推薦が決まったからって、ちょっと気を抜き過ぎだぞ。」と苦言を呈されたくらいには、成績が赤点だらけでひどかった。
あれからお嬢様大学へ行った園子や帝舟高校の皆とは、次第に疎遠になっていった。
蘭の通った大学は勉強もスポーツもかなりの実力主義で、エスカレーター式だった母校出身者がほとんどいなかったのだ。
そうして何とか大学を卒業し、就職してという日常の中で蘭は幾つかの恋もした。
けれどその恋は1年が限界になる事がほとんどだった。
(どうして私の恋は長続きしないんだろう?私だってもう28歳よ。結婚したいし、子供だって産みたいのに・・。)
両親が学生結婚で若くして結婚している上に、一人娘の蘭は親、周りから「良い人いないの?」とプレッシャー掛けられる始末。
同僚も友人も最近結婚ラッシュで、彼女は焦りを感じていた。
(彼氏はいるけど、ギャンブル好きでいつかビックになるが口癖なのよね 何もしないけど。結婚も考えてくれてるのかなあ?)
正直今の彼氏は好きだけど駄目男で、両親に、特にあの母親に紹介できるわけない。
そんな事をつらつら考えながら歩いていると、路地裏のある一角で「毛利さん。」と声を掛けられた。
「この間はありがとうございました。」そう言いながら柔らかく微笑むのは、路地裏で占いの店を出している女性だった。
「店長の・・!こ、こちらこそ。」咄嗟にぺこりと頭を下げる。
彼女は今蘭が勤めている店舗の店長が懇意にしている優花という名の占い師さんで、飲み会の帰りに数度一緒に連れてこられたりしていた。
店長曰く”修行中の為、お金は要りません”との札を出していることで良心的だし、よく当たるしという事で
「毛利さんも美人でよく働くのに、何故か男運悪いよね~占ってもらったら?」と勧められていたりする。
その場では断ったものの、占い師さん自身は優しい美貌の同性という事で蘭は好印象を持っていた。
「宜しかったら、占いますよ。」柔らかい茶色の髪を揺らしながら、優花さんは言う。周りにはいつも待ってるお客さんがいない。
(何だか誰かに話聞いて欲しい気分。あ、結婚運みてもらおう。)
「じゃあ、よろしくお願いします。」
それからひとしきり、妙齢の女子の王道な恋愛運、結婚運の話になった。
「ええ、ちゃんと結婚線ありますし、これからですね。」
「本当ですか?嬉しい!あ、でも私いつも付き合う人ダメンズばっかだから。」
学生時代付き合った先輩はともかく社会人になってからの彼氏は、蘭が尽くしても尽くしても働かなかったり、ギャンブル好きだったりした。
私がついててあげなきゃ、いつかしっかりしてくれるのでは、と希望を持ち待っていても駄目になる。
そんな過去の恋愛話を幾つか話すと何やら悲しくなった。
「そうなんですか。」
「はい。どうしてでしょう。」切なそうに笑いながら言う言葉を聞きながら、占い師はじっと手相を見つめていた。
「何か?」
「あのですね・・。もしかして忘れられない初恋とかありません?」
「!!??」
「それがトラウマになってる、とか。」
蘭は途端に動揺し椅子から落ちそうになった。
「だ、大丈夫ですか??」
「は、はい。」
一瞬の沈黙の後、蘭は「凄いですね~。手相でそんな事まで分かっちゃうなんて。」と笑い飛ばそうとして失敗した。
言い終えた途端、大粒の涙が泉のように溢れて止まらないのだ。
「うっっ、ううっ。うわぁぁん。」
それは蘭にとって、水底に封印した過去の恋だった。

「落ち着かれました?」
「す、すいません。急に泣いたりして・・恥ずかしい。」
ティッシュを差し出してくれる彼女の心遣いが嬉しいが、子供みたいに泣きじゃくってかなり恥ずかしくて居た堪れない。
「いえ、こちらこそ、急に核心に触れ過ぎたみたいで。ごめんなさい。」
「いいえ!あの、あの聞いて頂きたいんですが、いいですか!?」
「はい。構いませんよ。」
蘭は本当に久しぶりに新一との話を語り出した。
ずっと一緒に居た頼れる幼馴染に抱いた淡い恋心、ある日彼が行方不明になり泣きそうになりながら待ち続けた1年。
告白されて夢みたいに幸せだった事、帰って来てからと延ばしてしまったその返事。
イブにデートを断られ、今までの淋しさの蓄積から頷いてしまった別の男性との交際。
そして帰ってきた幼馴染にはもう別の恋人がいて、玉砕覚悟で告白しようとしたら、彼の結婚式の日だった事。
「あの世界遺産ミステリで有名な工藤新一さんですかっ?」
そう現在新一は探偵としてだけではなく、父:優作の翻訳を手掛け、組織殲滅の本を自身の名で出版し、世界遺産を題材にしたミステリー小説家として名を馳せていた。
探偵、小説家、翻訳家と2足ならぬ3足の草鞋をはいているのだった。
"そんなに推理が好きなら小説家になればいいじゃない。”
かつて蘭自身が言った言葉通りになったが、それをもたらしたのは自分ではない為、嬉しくなかった。
(あの綺麗な人の影響なんだろうな。)
「はい。十年振りに話しました。この失恋話。」
蘭は思わず18歳の自分を思い出していた。
帝舟高校では二人は公認カップルの雰囲気だったが、蘭が待ち切れず瀬川という彼氏を作った事と組織殲滅者の英雄が相手という事で、園子の言う通り最早蘭に「彼は自分の」と主張できる、話せる内容ではなくなった。
待ち続けた日々を知っていた園子と父:小五郎でさえも、同時に告白の返事を保留した事を知っている為、蘭の失恋も致し方ないと見ていた。
二人が絶対的な自分の味方だと信じていた当時の蘭は、これに傷ついた。
実は、入学したばかりの大学で相手が英雄である工藤新一であるとバレないように、事情をオブラートに包んで、空手部の合宿で話した事もある。
彼が悪いのではないが、何も知らされなかった自分も悪くないと言って欲しくて、「大変だったね。」と共感して欲しかったのである。
だが帰ってきた皆の反応は「告白の返事しないって失礼じゃない?」「普通、その場で返事しないか?待てるのって俺せいぜい2週間。」だったりした。
蘭が”友人”の話として話したので、皆、率直な意見が返ってきたのかもしれない。
いくら昔から夫婦扱いされてて、暗黙の了解で恋人でと説明しても「だからってさ、大事な事は言葉にしなきゃ」と否定的だった。
何より堪えたのが「でも返事する前に別に彼氏作っちゃ、その告白”お断り”って意味だよ。」という意見だった。
いくら本気じゃなかった、淋しかったからと言っても誰の共感も得られず、話の中心は何故か”告白の返事をいつまで待てるか?”になった。
早い人はその週、遅い人で3カ月、最終的に「バレンタインに告白してホワイトディで返事とか卒業式に告白して新学期始まる前に返事とかが常識じゃない?」
という女子部の主将の意見で1ケ月という結論に落ち着いた。
その時初めて蘭は、自分の行動が常識外であること、彼の誠意を無視し、ひどく傷つけた事を理解したのだった。
そう言えば告白されて1月経った頃から彼からの連絡が少なく素っ気なくなっていった事にその時初めて気付いた。
(そんなつもりじゃなかった!!そんなの知らなかった!!誰も教えてくれなかった!!)
今更過ぎる自覚だった。
これは毛利夫妻の在り方と共にエスカレーター式で小・中・高でずっと仲が良かった為、周りの友人もほとんど変わらず、長年夫婦扱いしていた環境の所為だった。
高校生にとって、自宅と学校が世界のほとんどであると言っても過言ではない。その狭い世界で、蘭は勘違いをしてしまったのだ。
大学生になり新しい世界が広がり、そこで初めて蘭は”夫婦同然”が通用しない世界で、彼に好意を伝える事をしなかった”怠慢”と彼の愛情に胡坐を掻いていた”傲慢”に気付き愕然として、二度とこの話をしなくなった。
(謝りたいけど、今更だよね。)
”タイミングって大事だよね”、告白の返事の時期の話題時に出てきた誰かの台詞がその時からずっと蘭の胸に突き刺さったままである。
***************************************************
後書 いよいよ最終章です。10年後の蘭メイン視点のお話です。
彼女の話になると長くなるのが難点(;^ω^)
書きたいことあり過ぎて。
新一との事を引き摺ってダメンズとばかり付き合ってる蘭がどう立ち直っていくか見守って下さいませ( ^)o(^ )

一滴の水 志保編⑥

「お姉ちゃんは大丈夫だから、志保は自分の事だけ考えてね。」
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
姉が自分の為に、自身以外にも大切な人を作らせようとしていたのを知っていたけれど
物心つく前に両親が他界した為、少女にとって姉だけが唯一の家族で大事な人だった。

『Ladies&Gentlemen!It’s show time!!』
その言葉と煙幕と共に合同結婚式が始まった。
最初に博士とフサエの結婚式、次に自分達の番だった。
新郎姿の阿笠博士が新婦姿の志保と腕を組み、これまた新郎姿の新一の元に誘うという、傍から見たら不可思議な光景が展開されていた。
既に新婦の父親の如く、涙でうるうるしている博士である。
(ちょっと早過ぎやしないかしら?)
「新一、志保君を頼んだぞ。」
「ああ、博士。」
神妙なそれでいて自信に満ちた彼はいつもより数段カッコイイと思うのは惚れた欲目だろうか?
式は滞りなく進み、神父の言葉が紡がれる。
*****************************************
汝【工藤新一】は、この女【宮野志保】を妻とし
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、
神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
*****************************************
「誓います。」
こっそり横目で見た、静かに告げる彼の横顔が凛としていて見惚れる。
”自分の運命から逃げるんじゃねーぞ”
爆破数秒前のバスから命掛けで助けてくれた。
”心配すんな!やばくなったら俺が何とかしてやっからよ。”
本当に組織を何とかしてしまった彼。
今までの彼の言動が鮮やかに蘇る。
ああ、なんて愛おしいのだろう。
(きっと私は世界一幸せな女だわ。)
同じ誓いの言葉が花嫁にも向けられ、迷う事なく首肯する。
この男性とずっとずっと一緒にいたい。
”「死が二人を分かつまで”
―いいえ 例え死が訪れようとも、私はずっと貴方に恋をし続ける―。


「おめでとう。志保お姉さん!!綺麗~!!」
「おめでとうございます。宮野のお姉さん。お綺麗です!」
「おめでとーっ!宮野のねーちゃん。」
「ちょっと元太君。食べながらお祝い言わないで下さいよ。失礼ですよ。」
「いいじゃねーかよ。このサンドイッチ、スゲー旨いんだぞ。光彦も食えよ。もぐもぐ。」
「元太君~。こんなに綺麗な花嫁さんの前でそれないんじゃない?」
歩美が元太を呆れた目で見てから、キラキラした憧れの眼差しでまた志保を見上げる。
(変わらないわね、この子達。)
挙式後のガーデンパーティで少年探偵団と志保はにこやかに談笑していた。
「ちなみにこの後、展望レストランで食事あるから、それ以上食べるとはいらなくなるわよ?」
(とりあえずには小嶋君には、この後の予定を伝えておいてあげよう。)
「あっ!しまった・・!!やべー食べらんなかったら、どうしよう。」
「心配ないと思うよ。」「心配要りませんよ。」
ほぼ同時の歩美と光彦の突っ込みに志保は思わず噴き出してしまった。
(ふふ幸せね。そうだ・・!忘れない内に。)
「歩美ちゃん。これ、どうぞ。」
年上の女性らしく、歩美をちゃん付けし、ブーケを差し出す。
(同じ男性を愛した私の親友へ)
江戸川コナンは、歩美の初恋の人は、もう二度現れないし、真実も告げられない。
その事を思うと罪悪感が襲うし、心が締め付けられる。
それでも、大事な事を教えてくれた親友へできる限りの感謝を示したい。
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
(ありがとう、吉田さん。)
心の中でのみ、今だけと言い聞かせながら灰原哀になる。
「ええ!!あの、あのもらっていいんですか?」
「もちろんよ。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!!うわあ綺麗!!」ぱああと顔を輝かせる歩美。
「次は歩美ちゃんの番ですね!」
「何だそれ?」
「花嫁のブーケもらった女性が次の花嫁って云われてるんですよ。」
「へえ~。」
子供たちの様子を微笑ましく眺めながら、志保の思考はもう一人の女性に向っていた。
(蘭さん・・。もう一人の同じ男性を愛したお姉ちゃんに似た人。)
天然な夫は気付いていないが、志保はホテルで会った時に、彼女の心がまだ新一にあると気付いてしまった。
(バレンタインの時は半信半疑だったけどね。)
待ち切れず作った彼氏はどうとか経緯はよく分からない。
けれどあれは恋する女性の眼だった。
それでも、と思う。
(それでも新一が選んだのは、選んでくれたのは私。蘭さん、ごめんなさいね。私譲れないわ。だって彼を愛しているもの。)
今まで色んな事を諦めてきた、かつての彼女だったら、優しい命の恩人に譲っていたかもしれない。
かつて震えながら身をもって、哀を庇ってくれた女性。
でももう彼の側にいる心地良さ、抱かれる安心感を知ってしまった。
新一の存在は志保にとって、空気や水のように必要不可欠なものだ。
「志保!」「志保君~!」「志保さん!」友人らに囲まれた夫と父とも慕う博士とフサエが笑顔で手招きしている。
背後に見える銀杏並木の金色のせいだろうか、やけに眩しく感じる。
(お姉ちゃん、私幸せよ。)志保は飛び切りの笑顔で、3人に腕を振った。

「お姉ちゃんは大丈夫だから、志保は自分の事だけ考えてね。」
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
その姉が自分を助ける為に死んだ時、彼女の世界は灰色になった。
姉を看取った少年を責めながら泣いたけれど、その少年こそが少女を助けてくれた
彼が掛け替えのない男性になった時、世界に色が戻った。
否、より色鮮やかな世界が、其処にはあった。
少年だけではなく、周りの人たちも自分にとって大事な人達になった事に気付いた時、自身以外にも大切な人を作らせようとしていた姉の想いを知る。
(自分を愛してくれる、信用してくれる人がいる。それがこんなにも幸福なものなのね、お姉ちゃん。)
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後書 歩美ちゃん⇒蘭ちゃん⇒明美さんと結婚式で思いを馳せる志保さんです。
ブーケを歩美ちゃんに渡す志保さんが書けて満足です(^◇^)

一滴の水 新一編⑥

「助けてよ!!新一!!」
どうにもならなくなった時、よく初恋の少女が彼に涙ながらに告げた言葉。
自分を信用して頼っていてくれていると嬉しかった。

「博士、遂に結婚だってよ。」
受話器を持ちながら妻に声を掛ける新一。
「本当!?お祝いしなきゃ。」
10月下旬、工藤邸では若い夫妻の喜びの声が挙がっていた。
「え?親父、何?・・へーい。」
父親との会話を終え、受話器を置き何やら考え込む夫に志保が声を掛けた。
「お義父様、何か言ってたの?」
「いや、実はさ。さっきも電話中に言った通り、博士が結婚する事になったけど、50代って事もあって挙式はせず親族、友人のみでの食事会をする事にしたんだって。
けど、父さん、其れだけじゃつまらないって言い始めてさ。」
「ふうん。でどうしろと?」
「支払いは自分がもつから、博士に今までのお礼も兼ねて何かサプライズしなさい、だとよ。」
「なるほどね。・・食事会はどこでやるか決まってるの?」
「米花国際ホテルの展望レストラン。ほらフサエさんの親族・友人がイギリスから来るからさ。宿泊もそこで手配したって。」
「あそこのホテル、空港からの交通の便良いものね。」しかも国際ホテルと銘打ってるだけあって、英語が話せるスタッフが多いはず。
「食事会が11月22日だから、何をやるにしても会場押さえねえと。」
「レストランでサプライズ企画してもいいんじゃない?」
確かに、二人の思い出を上映するとか、レストランでもできる企画はある。
「あの親父が納得すると思うか?」
「・・無理かも。」
「だよな。」
息子の誕生日に婚姻届を送付する規格外な、あの父がサプライズと言ったからには、本当に”驚く”レベルの企画にしなければ満足しないだろう。
(さてどうしようか。)
「できたらホテル内か近くの方が招待客にはいいな。」
「そうね。あんまり移動ばっかりってのもね。」
そう言いながら志保は既にカタカタとパソコンを操作し、ホテルのホームページを覗きこんでいた。
ホテル内の施設は大ホール、中ホール、小ホールがある。
「招待客って何人なの?」
「ええと、さっき親父がメール送ったって言ってた・・。あ、あったこれだ!」携帯の添付ファイルを開けると、リストがあった。食事会人数は自分達も含めて、30人ほどである。
「だったら、大ホール、中ホールはないわね。大きすぎるわ。でも小ホールだと何か素っ気ないわね。」
「だな。」
小ホールは、規模・収容人数は丁度良いが、おそらく会社のセミナーや小規模な講演に使われるらしく、会議室の風体である。
「他には・・あら?ここ庭が自慢ですって。しかも近くにあるのこれ教会じゃない?」
「施設じゃなくてWeddingの項目に載ってるんじゃね?」
新一が言った通り、Weddingの項目に”花と木々に囲まれたガーデンウエディングができる結婚式場”とあった。
何より彼の目を惹いたのは、”春は桜、秋が銀杏で有名なガーデン”の箇所だった。
「なあ、志保。俺が何考えてるか、分かるか?」にやっと笑みつつ志保を見る。
「ええ。私もきっと新一と同じ事考えてる。」
食事会は11月下旬である。その時期なら二人の思い出の銀杏が盛りのはずだ。
そして挙式するつもりのない二人を驚かせるのに、こんなにぴったりの企画もない。
「でも、後1月くらいしかないのに空いてるかしら?」
結婚式会場は準備に時間が掛かることから1年前から予約しているカップルも多い。
一流ホテル併設のガーデンウエディングができる結婚式場となれば既に予約で埋まっていても可笑しくない。
「それは聞いてみないと分からねえよ。」早速電話で問い合わせする新一である。

会話から2時間後、既に二人は、米花国際ホテルの1Fラウンジにいた。
「いや~良かったな。」「良かったわ。」
「こちらこそありがとうございます。」
ホテルに問い合わせたところ何と件の日に、終日つまり一日中貸切予約していたカップルが1か月前にまさかのキャンセルしたらしく、どの時間帯でも受付可能と願ってもない状況であった。
(多分あの財閥同士の婚約だろうな。提携が危うくなって結婚が延期になったか?まあこっちにはラッキーだな。)
ただせっかくの日曜日、自慢の庭が美しい時期に予約がなくなってしまったのは、経営上痛かったらしく話を振ったら、ものすごく歓迎された。
念の為見学し確認したが、教会も庭も十分なスペースがあったし、その他の点も特に問題はなかった。
こちらは終日とまでいかないものの、夜に食事会があるので余裕を見ての午後貸切である。これだけでもかなりの金額である。
父がスポンサーだからできる即決であった。
サイン済みの契約書をファイルにしまいながら、スタッフがにこやかに続けた。
「もうすぐ紅葉が本当に綺麗になりますから是非お楽しみ下さいね。」
具体的な段取りは後日、現場の担当スタッフと話す事になり、話が終わった。
(途中で蘭と園子に会ったのは驚いたぜ。女ってケーキ好きだよな。)
「そういや此処の2Fの店のロールケーキ旨いぜ。志保、買ってくか?」
「あら、いいわね。」

それから、準備が大変だった。
出席者に事情を説明し、早く集まってもらうよう依頼通知しながら、本人には秘密で式の段取りを進めるのだ。
時間配分、用意する花や軽食などなど結構決めることがある。
(結婚式って大変なんだな。)
実は当初は新婦にも秘密にしようと思っていた。
「デザイナーがウエディングドレス着るなら色々拘りとかあるんじゃない?自分でデザインしたいとか。」
だが、志保のこの言葉が最もで、花嫁は他にも衣装合わせ、肌の手入れ、小物選びとか事前に色々やっておきたいであろう事がある。
(博士に黙っておけば”サプライズ”になるしな。)
おまけに博士が秘密を嗅ぎ付けそうになったら誤魔化してもらうのに、彼女以上の適任はいない。
結論として、フサエにサプライズ企画を打ち明けると泣いて喜んでくれた。彼女もやはり花嫁衣装が着たかったらしい。
(よし。これで博士の衣装は、好みをさり気なく、フサエさんに聞き出してもらうとして、サイズは志保が分かるな。)
(あともう一捻り何か欲しいな。)
大学の講義室で休憩中に出席者からの、教会への出席か否の回答状をまとめながら、新一は考え込んでいた。
「新一、何やってんだ。」
「ああ、快斗。出欠のリスト作りを・・。そうだ、ここにびっくり人間がいるじゃねーか!!」
「何だあ?」こてんと首を傾げる学友に簡単に話をする新一である。
「ってなわけでお前、得意のマジックで博士とフサエさんを衣装替えさせてくれ。」
ギリギリまで秘密にする為に、瞬間衣装替えのマジックを、快斗に依頼することにした。
「なるへそ~。でもそれだけでいいわけ?もっと色んなマジックやろうか?」
「おう、頼むぜ。金は勿論払うからさ。」
「別にいいよ。親友の頼みだし。」
「ダメだって。お前プロになるんだろ?自分を安売りするな。」
「・・サンキュ。新一と志保ちゃんは挙式しないわけ?」
「あ~俺はしたいんだけどさ。志保がなかなか頷いてくれなくてさ~。」志保の花嫁姿を見たい新一はがっかりした顔をしながら、そう回答した。
「何で?」
「新郎側と新婦側の出席数が違いすぎること気にしててさ。だから今、冬休みにでも身内のみの海外挙式しないかって説得中。」
「一緒にやっちゃえば?」
「は?」
「だから結婚式一緒にやっちゃえば?」
何言ってんだ?と言いかけた新一だが、さっき足りないと感じた一捻りがそれで埋まる気がした。
(これぞ本当にサプライズだぜ。)

早速志保に打ち明けると、最初こそ「博士の結婚式なのに」と難色を示したが新一が説得した。
「だってさ志保が呼びたいと思ってる、博士、フサエさん、歩美、光彦、元太全員来るんだぜ?俺の両親も来るし。」
これが何より志保の心を動かした。
実は少年探偵団には阿笠邸に遊びに来た時知り合い、新一はコナン似で組織を潰した頼れるお兄さん、志保はキャンプで自分達を助けてくれた哀似のお姉さんとして慕われている。
だが、年齢がネックになり、結婚式に呼べるほどの親密さはもうない。
歩美の事を今でも親友と大事に思っている志保にとって、それは淋しいことだった。
下手に仲良くすればいつかの蘭のように、幼児化を気付かれる事になる。
だが、確かに合同結婚式にすれば、怪しまれずに子供たちを招待できるのだ。
「招待客に他に未婚の女性いないし、歩美にブーケやったらきっと喜ぶぜ!!」
「そうね。」
「博士泣くかもな。あ、そうだ、お前博士と入場すれば?」
「素敵ね。」
志保の事を娘のように思っている博士に父親代わりをしてもらうように進めたら、志保は花の様に笑ってくれた。

そして11月22日当日。
ホテルの庭の銀杏並木が綺麗だから、会食前に見ましょうという名目で何も知らない阿笠博士がフサエと共に来た。
教会は既に列席者で埋まっている。
「さていよいよだな、志保。」
「ええ。」博士に気付かれないよう小声でこそこそ話す。
「実はさ博士に結婚祝いがあるんだ。」
「ほう、嬉しいのう。何かね。」
「快斗」
「オッケー!」
『Ladies&Gentlemen!It’s show time!!』
煙幕があがり、自身が新郎の衣装に身を包んだ事を確認する。
(さすがだぜ、怪盗KID!)
一度に4人も衣装替えマジックできるマジシャンはそうはいないだろう。
そして目の前には、白く輝く衣装に身を包む最愛の妻が立っていた。

「助けてよ!!新一!!」
自分の強さを実感できるようで嬉しかったその言葉が、依存だと感じたのは、命がけで自分を助けようとしてくれた相棒の行動だった。
困った状況下での、少女の助けを否定するつもりはない。
だが助けを呼ぶ前に自らの意思で、能力で、行動する相棒との精神的な差は歴然としていた。
「頼む」だけで、状況を把握してくれる相棒に信頼と感謝が傾くのは止められなかった。
新一は、甘え頼る少女に歩調を合わせるより、共に自然と同じ歩調で生きていける彼女との未来を望んだ。
(さあ、一緒に生きていこう、志保)
***************************************************
後書 サプライズ企画の経緯です。
発案者何と彼☆彡楽しんで頂けると幸いです。

一滴の水 蘭編⑥後編

「園子の言ってたお店ってここだよね?」
普段入らない一流ホテルのこれまた、2Fの高級そうな外観の喫茶室前で蘭は不安そうに親友を待っていた。
頑張って編んだマフラーはラッピングした袋に入れて抱えていた。
今日は11月22日で、阿笠博士の挙式(推理)と食事会(こちらは確定)がある日だ。
あの後園子が調べてくれた情報によると挙式は昼から夕方に掛けて、展望レストランの貸切が夜になっていたという。
挙式後に自慢の庭園でガーデンパーティするのがこのホテルのウリらしいが、肌寒くなってきた季節
レストランの時間も考えると16時~17時には終わるだろう、との事だった。
念の為15時30分から喫茶室の個室を予約し、ガーデンパーティが終わる頃を見計らって声を掛けるというのが彼女らの計画だった。
「蘭~っ!お待たせ~。」
「園子、良かった!ここで合ってたんだね。」
「うん。予約してあるから、行こう。」
財閥令嬢らしく慣れた足取りで、お店に入っていく園子についていく蘭。
「こんな高そうなとこ、普段来ないから落ち着かないね。」
「そう?たまにはいいでしょ?」
予約していた部屋は、窓が大きく日光が振り注いでいる。
「そこからさ、教会とその後のガーデンパーティがよく見えるっていうわけ。」
「・・・本当だ。」
窓の先にはホテルと連結している可愛らしい教会と綺麗に整えられた庭が見える。
「あ、ねえそれが休み時間にも編んでたマフラー?」
「う、うん。」
「蘭はすごいよね~。私手作りがあんなに根気要るなんて知らなかったわ。ギブ。」
「園子ったら。でもセーターはともかく、マフラーはそんなに難しくないよ。平面だけだから。」
「そうかな~。さて、腹が減っては何とやら。蘭、何か頼もう。私季節のパフェがいいかな。」
「うん。」
そこで覗いたメニューを見て蘭はびっくりした何とケーキセットで1600円もする。
飲み物だけにしようかと思ったがペリエだけで900円。
さすがは一流国際ホテルの2階に店を構えるだけある値段設定である。
(こ、この間のケーキバイキングも結構高いって思ったけど単品でこれって・・!!)
普通の女子高生にポンと出せる値段ではない。
目を白黒させている蘭に気付いたのか、園子は気を利かせて言った。
「今日は告白する蘭を激励して、園子様が奢ってあげる!好きなの頼みなよ!」
「え?そんな悪いよ。」
「いいから、いいから。その代わり、勇気出すのよ、蘭!」
「う、うん。ありがと。」
結局二人して季節のパフェを頼んでいた。

(本当、ここが正念場だから、ガンバよ、蘭。)
園子は志保の事を今までの経歴や噂から、組織戦で知り合った女性だと見当つけていた。
普段なら命を狙われる男女が恋に落ちるなんて素敵~となるのだが、今回ばかりは親友の失恋が掛かっている。
蘭に言った言葉に偽りなく、次の恋へとの為なのだが、今まで十年以上も特別同士な二人を見ていた園子は、実はまだ望みを捨てきれないでいた。
”吊り橋効果”という言葉がある。
吊り橋の恐怖によるドキドキと恋愛のドキドキを混同して、 錯誤する事から生じるもの。
だったら組織戦で緊張感を共有した体験すると、連帯感や恋愛感情が生まれるという効果もあるのではないか?
そしてその非日常がなくなった今でも二人は恋愛関係を保てるのだろうか?
醒めた時に仲の良い、かつて好きだった幼馴染を思い出す事があるのではないだろうか?
(かすかな、かすかな確率って分かってるんだけどね。)
自身も海や山で会った時はカッコイイと思っていた男性と都会で会うとがっかりした実経験があるので、余計そう思ってしまうのだった。
(新一君、本当に蘭に一途だったからね。でも多分可能性ないから蘭には言わない。)
ダメ元という言葉通り、上手くいったら儲けもの、みたいな賭けだ。
(蘭がこの可能性に気付いてない事を祈るしかないわね。)
ただでさえ、彼に関しては自分の都合の良いように考えがちな親友をぬか喜びさせたくない。
(どっちみち蘭から告白しない事には、成就も、玉砕して次の恋へ行く も出来ないんだもの。)
前にも後ろにも進めなくなっていた親友への手助けだった。
園子は心から蘭の事を思って今日の事を段取りしたのだが、この思い遣りは最悪な結果となる事に二人ともまだ気付いていなかった。

「美味しかったね~。特にクリーム、舌の上で蕩けるっていうかなくなったわ。」
「ね~美味しいよ。あ、このクリーム使ったロールケーキのお持ち帰りがあるって、園子!」
「本当?帰り買わなきゃ!!」
さすがにお値段だけあってパフェは美味しかったが、窓の外が気になってならず、二人してそわそわしていた。
「そろそろ挙式終わって、ガーデンに出てきても可笑しくない時間なのよ。」
「そうなんだ。」
もうすぐ16時になろうかという時間にそんな会話をしていたら、下からざわざわと音がし始めた。
見ると新郎姿の阿笠博士とお相手らしい女性が腕を組んで教会から出てくるところだった。
「嘘。あれって木下フサエじゃない!?フサエブランドの!」園子が驚きの声を上げる。
「新一が言ってた、”博士のお相手が結構有名人”ってこういう意味だったんだ・・・。」
(私だって秘密くらい守れるのに!!)
「改めて見るとすごい美人。やるわね~阿笠博士、あんな美人摑まえるなんて!」
「そうだね。」
「じゃあ、あのガーデンパーティ終わりそうな頃、新一君に声掛けてくるわね。多分1時間くらいかな。
時間あるし、喉乾いたから、追加でドリンクか何か頼まない?・・・蘭?」
窓辺からメニューに視線を移しながら話す園子は、親友の返事がない事に訝しげに再度声を掛けた。
蘭は園子の言葉など耳に入っていなかった。
眼の前の光景に唖然としていたからである。
阿笠博士と木下フサエが出てきた後に、新一の姿を探し、窓から目を離さなかった彼女はそこで信じられない光景をありありと見ることになる。
(ねえ、どうして?どうして、白いスーツの新一とウエディング姿の宮野さんが一緒に腕を組んでいるの?)
白く輝く美しい衣装に負けないくらいの彼女の幸せそうな笑顔と隣で見守るように優しく微笑む新一。
どうしてあそこにいるのが自分ではないのだろう。
予想外の事に、視界がぐらぐらする。立っていられない。
呼吸も陸に上がった魚みたいに上手くいかず、苦しくてたまらない。
(助けて!)哀しい事にそんな時でも咄嗟に思い浮かべるのは、振り向いて腕を差し伸べる新一の姿だった。
「蘭っっ!!??」園子の悲鳴のような声を最後に彼女の意識は闇に沈んだ。

”良い子で待っててね、蘭”
後姿で去った母は、良い子にしてても、振りむいてくれなかった。
”死んでも戻って来るから待ってて欲しい”
大好きな幼馴染も待ってたけど、彼は結局他の女の所に行ってしまった。
(ずっと私は待ちぼうけばっかり。)

”私、新一の事、だーい好き!!!”
彼によく似た幼い少年に言った、あの言葉は蘭の喉に突き刺さったまま、永遠に本人に言えなくなってしまった。
(”また”置いてけぼりなの。)
***************************************************
後書 やっと蘭編⑥終わりました・・!!
まさかの3P!!
1人1話1テーマ1頁のマイルールを崩した蘭は確かにヒロインでした。
蘭ちゃん一筋な新一君を見続けた園子ちゃんも実は一縷の望みを捨てきれていませんでした。
志保さん一筋な場面の彼を一目でも見れば分かったのでしょうがね^^;
どっちみち蘭をふっ切らせる為に同じ行動したのですが、結果は・・・・です。
これも、さすがに可哀想かな?と削ろうか悩んだエピソードです。
でも初期小説プロットでもう出てたし、何より博士との合同結婚式ネタがやりたくてx2。
そうなると時系列同じというこの小説ルール上、蘭側はこれしかなくなり?(^^ゞ
皆さんが引かれない事祈っております><

一滴の水 蘭編⑥中編

「蘭、新一君に告白しなよ。」
席に戻るなり蘭は、園子にそんな事を言われた。
「は?園子何言ってるの?新一には宮野さんがいるじゃない!今見たでしょ!?」
未だに新一たちの方をちらちら見ながら、言った自身の言葉に傷ついた表情になる蘭。
「うん。見た。綺麗な大人の女性ね。」
仲間外れにされたと拗ね執拗に尋ねる蘭に対し、取り成してくれた彼女のあの大人な対応。
(子供の蘭にゃ敵わないわね。)
明るく優しく面倒見が良い親友が好きだし、彼女にはない、蘭には蘭の良さがあると思っている園子だが、あの場面では彼女に軍配をあげざるを得ない。
「だったら何で!!」
「だから告白してきっぱり振られなよ。」
酷い事を言ってる自覚はあるが親友の為、心を鬼にして言う園子。
(このままじゃ、次に進めないよ、蘭)
「は?何それ?ひどい、酷いよ、園子!」
「だって蘭、吹っ切ったかと思ったけど全然新一君の事、吹っ切ってないから。」
「私、新一の事別に何とも思ってないよ。気になるのは幼馴染だからで!」
「嘘。」
「嘘じゃない!」
「嘘だわ。じゃあ、どうして新一君が自分に秘密があると、詰問してるわけ?」
「私だって博士のお祝いしたいよ!関係なくないよ。」
「それは後付けの理由だわ。博士の結婚を知る前から詰問口調だったじゃない!
あのね、蘭。はっきり言わせてもらうと、さっきのあんた、彼氏に秘密があってそれが浮気じゃないかって問い詰めてる嫉妬深い彼女にしか見えなかったよ。」
「そ、そんな・・。」親友の指摘に瞳にみるみる涙を溜め、落ち込み俯く蘭。
「幼馴染だからって言い訳使うのもう止めなよ。」
「でも新一、昔は何でも話してくれたのに・・!」
「昔は昔。今は今!それに幼馴染だからって何でも話さなきゃいけないわけ、ないでしょ?
例え奥さんにだって人間だもの。話してない事や知らせてない一面とかある旦那さん、いっぱいいると思うよ。蘭のご両親なんかどうなるの?」
蘭には園子の正論が正し過ぎて胸が痛い。
(だけど今更告白したって振られるだけ そんなの意味あるの?)
「あのね蘭、振られてもね。告白出来た人ってスッキリしてるものなのよ。」
ふと優しい声音になった園子に思わず顔を上げる蘭の眼に、優しい顔をした親友が映っていた。
その後園子は簡単に告白を薦めた理由を話してくれた。
恋愛話大好きな園子は色んな話を聞くのが好きだったが、その分失恋話も聞いた。
失恋しても爽やかな顔をし次の恋へ向かうのが早い人と長い間引き摺っている人の差にある日気付いたのだと言う。
それは想いを告げたか否かと言う事だった。
自分の気持ちを言う、という事がどれだけ大事なのか、園子は力説した。
「だからね、蘭が次の恋を進む為に、告白しなよ。それと謝りたいって言ってなかったっけ?」
園子の説得は蘭の心を揺り動かした。
(私、新一からの言葉を待っているばかりで自分からなんて言った事なかった。)
(素直になれなかった、これが報い、なのかな。)
「でもいつ言ったらいいのか・・。私、新一の連絡先知らないんだもん。」
「んなの、家に行きゃいいじゃない。」
「家は嫌!宮野さんがいる場所は嫌!!」
そこだけはどうしても譲れなかった。
「え?彼女がいない時行けばいいんじゃない?」
「だって彼女、新一の家に住んでるんだよ!」
「え?本当??っていうか何で蘭そんな事知ってるの?」
「じ、実は・・。」蘭はそこで初めて東都大学のオープンキャンパスに行った事とその時聞いた内容を打ち明けた。
「そうだったんだ。知らなかった。蘭何も言ってくれないから。」思わず責める声音になってしまった事は否定できない。
「うん、ごめんね園子、何か言いづらくて・・。」秘密にした自覚があるのか、気まずげな表情の親友がいる。
(かなりショックだよ、蘭。私達親友だと思っていたのに・・。でも、そうだよね、日下君の言った通りだった。)
人は別に悪い事をしていなくても、秘密にしておきたい事がある。
(怒ったらダメ。それにこれはさっき蘭に新一君が蘭に秘密を打ち明ける義務ないって諭した事と同じ。)
自身が言ったことが、ブーメランのように返ってきただけ、と言い聞かせ、大きく深呼吸する園子。
「そっか。話してくれてありがとう、蘭。」
「園子。」ほっとした顔をする蘭。
「じゃあさっき、連絡先聞いておけば良かったな~。どうしよう。う~ん。そっか、食事会の日に、ここ来れば良いんだ!」
「え?でも日取りなんて。」
「園子様はちゃんと聞いてました!11月22日だって。」
「すごい。あ、でも、どうせ宮野さんも一緒だよ。」
「あのねえ、そこで諦めない!食事会とサプライズの間かその前後に呼び出せばいいじゃない。幹事なら忙しいからサプライズの後がいいわね。」
「でも時間分からないよ。」
「大丈夫よ、私に任せて。」
その後園子は、鈴木家でイベント予定があるという名目で11月のホール管理表で予定が”空いている”スケジュール表をもらってきた。
「11月22日は大ホールと教会以外空いてるのか。」
「大ホールでやるのかな。」
「いや、少人数の食事会メンバーで集まるにはあそこ大き過ぎるわ。」
「じゃあ教会?でも新一、挙式しないって言ってたよね。」
「・・・もしかして、だからこそ、サプライズになるんじゃないっ?」
「そっか、園子賢い!!」
教会が空いてない時間は午後の時間帯だった。
「じゃあ、挙式が終わる頃に私が新一君に声掛けるから、蘭は何処かでスタンバイしてなよ。」
「でも挙式がいつ終わるかなんてことまで、この表じゃ時間幅ありすぎて園子分からなくない?」
確かに午後貸切だが、3時に終わるのか7時に終わるのか分からない。
「大丈夫、そこは今までの人脈で、準備係とかから、大体の時間帯聞き出すわ。それにね2階のカフェから教会がよく見えるの。」
そう言って園子は2階のある一角を指差す。今いる場所より高級そうなラウンジである。
「あそこね、海外からのVIPを迎えたり、重要な商談する時パパが使っててね。
個室あるから、そこで待ち合わせして、二人でお茶しながら博士の挙式終わるの待つの見計らって私が声掛けるわ。」
考えながら園子は言葉を紡ぐ。
「だから終わる頃、蘭はあそこで待ってなよ。個室だし、邪魔入らないから、丁度良いじゃない。」
もし宮野さんが付いてきそうだったら、何とか止めておくからと続ける園子に蘭は頷いていた。
「園子・・・。ありがとう。」
「いいのよ、私達、親友でしょ!」

(1年前、新一に告白された頃と同じ時期に玉砕覚悟で告白する決心をすることになるだなんて。)
自宅に帰った蘭は、園子の友情に感動しながらも、そう思って落ち込んでいた。
あの時どうしてすぐに返事しなかったのだろう?
どうして新一はずっと自分を好きでいてくれるなんて思い込めたのだろう?
そんな今更な事が、ぐるぐる頭を渦巻いていた。
告白する時、何かを渡したくて、”思い出の品”がないか部屋を探していたら、彼のセーターを編んだ残りの毛糸が眼に止まった。
”あったけえよ”
セーターを贈った時の彼の電話越しの声が彼女の脳裏によぎる。
(あの時確かに心が通じ合っていたのに。)
幸せだった過去の欠片を思い出し、ひっそり涙する。
「そうだ。これでマフラー編もう。うん。」
後1月弱しかないから凝った物は難しいし、それにこれでセーターとお揃いになる。
そうしてマフラーを無心で編んでいる内に、徐々に彼女の心に変化が表れてきた。
(今まで待たされてる不安・不満ばっかりだったけど、待つ相手がいる、贈る相手がいるってこんなに幸せなんだ。)
待つ相手がいるという事は、大事な相手が生きてこの世に存在している証。
その事にようやっと蘭は気付き始めたのだった。
(どうしてあの時それに気付けなかったのかなぁ?)
***************************************************
後書 まだ終わりません(@_@;)た、多分次で・・!!
ようやっと現実を見始めた蘭ちゃんですが、時既にってやつです(*^^)v
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雪月花桜

Author:雪月花桜
タイトル通り名古屋OLがブログしてます。
歴史を元にした小説なんかも大好きでそれらについても語ったり、一次小説なんかも書いてますす。好きな漫画(コナンやCLAMP etc)&小説(彩雲国物語)の二次小説をupしておりますし、OLなりの節約・日々の徒然をHappyに語っています。

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