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天泣(てんきゅう)



天泣(てんきゅう)-上空に雲がないのに降る雨のことを指し、雨を涙と喩えた呼び方である-。


それは会議前の資料準備中であった。
「園子様。こちらを拡張してしまうと、日本の事業に影響が出てしまいます。」
「・・ああそうね。もう少し視野を広く持たないと・・。」
視野の狭さと数字が園子の弱点だ。
数字は秘書や部下たちに任せられる面もあるが、視野の広さは経営者には絶対に必要なものである。
「あら?雨?」
「晴れなのに・・・。」
「天泣ね。」園子はぽつりとそう呟くと、過去に想いを馳せた。

高校3年のあの日。
親友の恋を一区切りさせるつもりで、失恋すると分かっていながら、恋人のいる新一に告白するよう背中を押した。
前にも後ろにも進めなくなっていた親友への手助けのつもりだった。
選択とは難しいもので、良かれと思ってしたことが裏目に出たり、善意で選んだものが不幸を招いたりすることもある。
この時のそれが正にその最たるもので-最悪な結果となった。
(まさか阿笠博士と木下フサエさんだけじゃなくて、新一君と宮野さんの結婚式までやるとは、ね。)
晴れなのに雨が降る-天泣-を観て思い出したのは、その時の蘭の顔だ。
ごっそりと感情が抜け去った無表情-。
嬉しい時に笑い、悔しい時に怒り、悲しい時に泣く感情豊かな親友のそんな顔は初めてで、1回きりだった。
あの時、晴れているのに、静かな細い雨が降っていたのだ。あの修羅場でよくそんなことに気づけたなと思うけれど。
(代わりに天が泣いてるようだって思ったのよね。)
だから園子は今でも天泣は好きではない。

「天気雨ですね。」
「狐の嫁入りですね。」
秘書と部下が口々に言う。
「え?天泣じゃないの?」
「ああ、そうとも言いますね。地域によって違います。沖縄県では同じ現象を方言で「ティーダアミ」と呼んでいるらしく、太陽雨という意味だそうで、言い方カッコよいですよね。」博識の秘書の影に、聡明な幼馴染をふと思い出す-。
「あっ虹が出た!狐の嫁入りって感じでウキウキしますよね!」
「…狐の嫁入り…」
(あの時、虹が出ていたっけ?)
過呼吸になってしまった蘭に意識が向かっており、記憶が朧気だけれど、虹が掛かり更に結婚式が盛り上がった声が背後で聞こえていた気がしてくる。
絶望の淵にいた親友が可哀そうで、それどころじゃなくて、賑やかな声が却って鬱陶しくて記憶の底に沈めてしまったけれど。
(蘭の事が気がかりだったにせよ、今思えば新一君におめでとうの一言も言ってなかったな…。)
彼だって大事な幼馴染なのに、と自分の当時の視野の狭さに嫌になる。
(面と向かっては言えなくても、結婚式の日に言えなくても、手紙とか電話で伝える手段あったのに。)
二人とも大事な幼馴染。なのに、園子は蘭に比重が偏り過ぎていた と今になって思う。
(ごめん。新一君、おめでとうの一言も言ってあげられくて。)
それは多分蘭だけでなく、園子も新一の結婚を受け入れられなかったからだ。
園子は僅かな可能性で元鞘に戻ることを期待していたし、蘭も多分そうだろう。期待値は園子より高かったかもしれない。
(蘭は多分無意識で、志保さんと別れて自分のところに来るのを期待、してただろうな。)
良い子だから略奪は考えないだろうが、無意識下で恋の計算はしていたように思う。
新一と蘭の絆はそれだけ深かったし、彼が彼女に甘く優しかった過去もそれを後押しした。
組織戦での高揚感 連帯感がなくなった後で日常に戻ってくる彼を受け止める彼女-そんな風に考え、否 切望していたのだろう。
(その期待が結婚という決定打で粉々になってしまったから、あの恐ろしい無表情になった、と思うのよね。)

「すごい大きな虹になりましたね。」「綺麗です。」
「綺麗ね。」
苦手だった現象の思わぬ面を知って園子は笑顔になっていた。
「あっ!もう10分で会議ですね。コーヒーを用意してきます。」
「私は直した資料のコピーしてきます。」
会議前特有の慌ただしさで部下と秘書が出ていって、広い会議室の中に一人きりになる。
園子は立ち上がり、窓を開けた。風と少しの雨が心地よい。大きな虹を見ながら小さな声で呟いた。
「新一君、結婚おめでとう。…今更過ぎるけど、さ。」

***************************************************
後書 園子視点で一滴の水 蘭編⑥後編を追憶している話です。
天泣(てんきゅう)という言葉を知り、どうしても使いたくなりましたv( ̄Д ̄)v イエイ 
そして当ブログでは使う相手は蘭ちゃんになってしまうという・・・ごめんよ、蘭ちゃん。
感情豊かな人が無表情って逆にその衝撃っぷりが分かると思うんですよね~。
ちなみに本小説には出てないですが、、「ごめん、蘭。私が余計な事言わなきゃ!泣きな!蘭、泣きなよ!!」と園子に大泣きされ、その泣き顔とぬくもりにやっとあの結婚式が現実なんだと実感して、鳥が殺される悲鳴のような泣き声をやっとあげれた蘭というのが続きます。(一滴の水 最終章①を読んでみて下さいね(^_-)-☆)
話を戻して…同じ現象でも心の持ちようで受け取る側の気持ちも変わってくる というのも書きたくて挑戦してみました。
そうそう、だから一滴の水 阿笠博士&フサエさん、新一&志保 W挙式は、紅葉が綺麗で且つ虹が出ているという最高のシチュエーションになりました(⋈◍>◡<◍)。✧♡

お読み頂き、ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
皆様に楽しんで頂けたら嬉しいです(((o(*゚▽゚*)o)))
感想コメント頂けたら、もっとHappyです(⋈◍>◡<◍)。✧♡

共に不幸になる権利(一滴の水 番外編 蘭追憶編)


「ねえ。どうして?私には貴方と共に不幸になる権利もなかったの?」

師走の慌ただしい日々。とある駅の路地裏。
実家に帰る前に手作りのレモンパイと手荷物を抱えて、優花の元に顔を出しに行くことにした蘭の姿があった。
(結婚式に出席して貰ったお礼言わなくちゃ。あと近況報告でペンションのこととか話したいなぁ。)
客が少なければそのまま話が出来るが、多ければ挨拶だけしてぱっと帰って別の日に話そうかな、と占い師の優しい美貌の顔を浮かべながら、今後の予定の段取りを浮かべる。
(あ、優花さんだ…!今占っているお客さんだけ。しかも話が佳境っぽい。)
長くみても後30分くらいかなとそのまま次の客席に座る。
通りで簡易的な机と椅子だけでやっている占いなので、相談内容が聞こうとしなくても自然と耳に入る。
30代半ばと思しき華やかな美人のお客さんは最初、夫と上手くいかないという悩みだったのだが、徐々に昔の恋人の話になっていく-。
(結婚運占ってもらって、新一の話になった私みたい。)
彼女は所謂、いいところのお嬢様で、大学時代に旧家の末息子と恋に落ちた。
箱入りお嬢様だった彼女にとってそれが初めての恋人だったそうだ。
厳格な彼のお父様にも気に入られ、このまま結婚すると思っていたが、その彼の父親が急逝。
当主が亡くなって、その旧家が実はかなりの財政難に陥ってことが判明し、彼は大学を辞めざるをえなくなった。
しかも彼女は恋人に「今の家の状態では、貴女を幸せにできない。」と言って別れを告げられてしまう。
彼女はまだ恋心を抱いていたが、両親からも破産寸前の家に行くことなどないと猛反対されてしまい、良い子でお嬢様の彼女にはそれを跳ねのける強さなどなかった。そもそも、彼自身に振られてしまっている-。
そして二人は別れ、彼女は適齢期に親の勧める人と見合い結婚したが、初恋の彼を忘れられず、夫と上手くいかなくなった、ということらしい。
「”こんなに大変な家に嫁いで貰って、苦労させるわけにはいかない。”って言ってたって、この間、彼のお兄様から聞きました。」
「私のこと、なのに決めるのは彼、両親…。私も若くて 世の中ってそうなのかな って流されてしまったけど、私のこと、なのに。」
「幸せにしてくれって言ってないのに。」
「ねえ。どうして?私には貴方と共に不幸になる権利もなかったの?」
見捨てられたかのようにポツンと呟いた彼女の声は蘭の心に響いた。

(ああ…!分かる 分かるよ!お姉さんの気持ち、分かる!)
思わず彼女に声を掛けたくなるが我慢する。
「蘭、新一はな、お前を巻き込みたくないから、守りたいから黙っていたんだ!」
「新一君はもう別の世界の人よ。蘭 付いていけないわ。諦めなさい。」
両親の窘める声が甦る-。
「・・悪い。手が離せないんだ。」
苦しげな新一の声がする-。
他にも園子、目暮警部、世良ちゃん、高木刑事 色んな人の声が反芻する。
そのどれもが蘭を想い、危険から遠ざけようとしてくれていた。それは理解出来る、けれど-。
(ずっとモヤモヤが消えなかった。悲しかった。悔しかった。…さっきのお姉さんの言葉で分かった。)
自分のことであるのに、良かれと思って皆が選択肢を決めていたからだ。
告白の返事をせずに瀬川君に頷いてしまった蘭にその権利は最早ないかもしれない。
だが蘭には分かってしまう。
返事をしていても、誠実に向き合っていても新一はおそらく、組織の事を黙っているという選択肢を取るであろうことが。
それが彼の思い遣りからきていることでも蘭は悲しかった。組織の恐ろしさも守秘義務の大変さも理解した今でさえ。
知らされない 苦労も共有できない。失敗も挫折すらない-。だから成長も出来ない。
恋愛=幸せしか見えてなかった蘭には不幸になる覚悟と言ってもどこまで理解できたか。無理だったろう。けれども-。
目や耳を塞ぎ、綺麗なものだけを視界に写すような-。
(まるでガラスケースのお人形みたいな扱い…。)

”ペンションをやりたいから苦労させるかもしれない。でもついてきてくれないか?蘭さん。”
夫の顔が浮かぶ-。苦労させるかもしれないが共に居てほしいと正直に言ってくれた男性(ひと)。
(貴方と結婚出来て、本当に良かった。)
ペンション経営してまだ半年。
ようやっと軌道に乗り始めたけど、建築費用の借金はまだまだあるし、やることは山積み。
だが夫婦で共に同じことを築き上げる苦労は蘭を充実させていた。だからこそ思えることがある。
(さようなら。私をガラスケースのお人形扱いして大事にしてた新一。新一をヒーロー扱いしてた子供の私。近いと…近すぎてお互いの姿が見えなくなっちゃうんだね。)
お互いがお互いの中に理想を見過ぎたのだ。
大粒の涙を零した彼女を見て応援したい気持ちに駆られる。
(落ち着いたら声掛けてみようかな。あ、レモンパイ一緒に食べませんか?って誘ってみようかな。)
お節介かもしれない。拒否されるかもしれない。
でも蘭は知っているのだ。人は放っておいてほしい時もあるけれど、側に居てくれるだけでいい時もあると-。
それは大事な人だったり、反対に行きずりの人が良かったりと様々だけれど。
(私もお人形じゃない。貴女もお人形じゃない-。生きているんだから-。)

***************************************************
後書 蘭が結婚して初の里帰りする途中で優花さんに会いに行く話。
優花さんの元にきたお客さんの話を聞いて過去の自分を追憶する蘭。
幸せだからこそ、大人になったからこそ分かることがあります。
最後 実は迷いました。私は見ず知らずの人に一緒に食べませんか?ってやれません(踏み込まない優しさってあると思う)が蘭ちゃんはやりそうだな、と。(踏み込む優しさ)
こういうのって正解はないので、でも私には書けないので、声を掛けるつもりで終わらせました(笑)
続き どなたか書いて頂けたら嬉しいです(おい
楽しんで頂けたら幸いです。
感想頂けたらもっと嬉しいです。
ちなみに”共に歩む幸せを” http://haruharu786.blog11.fc2.com/blog-entry-1069.html の蘭幸せ編と題名は対称的になってます。

PS 実はハロウィンの映画ネタ 書きたかったのですが、コ哀ネタは殆どないし(こっそり二人で抜け出そうとするシーンくらいかな?何かネタありましたらお教え下さい。)、警察学校組は3年前なので夢の絆 チート新一にも救済出来ない~>< でも何か書きたい熱だけは沸き上がったので、昔読んだ探偵シリーズからネタを貰い、書いてみたのが本作品です。

少年探偵団の輝き~30年目の懐古~(一滴の水 番外編 元太編)


「お父さん、早く!早く!!」
「分かった。分かった。あんまり走るな。転ぶぞ。」
その日、俺は息子と公園で遊んでいた。
先月、入学式のスーツを購入した。もう数日したらピカピカの一年生になるのが嬉しいのだろう。
息子は家で何度もランドセルを背負ったり、着ていく予定のスーツを眺めたりして、ワクワクしているせいか、いつもより元気だ。
(いや、いつも元気いっぱいだけどな。子供の体力ってどこからくんだよ!?)
巨漢の体では追いつこうにも息が上がる。妻が言う通りダイエットすべきかもしれない。
(俺の小さい頃もこうだったけ?)
自分が小さい頃遊んだ公園で、我が子も遊んでいる風景-。
懐かしさに脳が刺激され、元太の記憶は一気に30年前に戻っていった-。


笑顔の可愛い小さい7歳の歩美-元太の初恋の女性だ。気を惹きたくて、大食いとか今思うと馬鹿なことばかりしていた気がする。
彼女は10年前に結婚した。夫の転勤で引っ越ししていった為、最後に見た花嫁姿が元太の記憶に残っている-。
(綺麗だったな、歩美…元気かな。)

次に脳裏に浮かぶのはそばかすが特徴的な7歳の光彦の顔。
彼だけは今でも付き合いがある為、歩美と違ってあまり感慨深くないし、すぐに大人の今の顔になる。
ただ一生付き合っていける、掛け替えのない親友であることには間違いない。
彼も歩美に遅れて数年後結婚した。彼の奥さんと自分の妻も気が合い、夫婦ともども付き合いがある。
(歩美の結婚のときは流石に心配したけどよ…。ま、終わり良ければ総て良しってか?)
(灰原のことも衝撃受けてたけどな。しっかしあいつら本当に水くせえよな。結婚したならしたって言えや。)
「友人なんだから、おめでとう ぐらい言わせろよな。」ポツンと呟く。
だが同時に招かれた工藤夫妻の結婚式が思い出され、そのモヤモヤもどこかに消える。
(別人なのにな。あんまり似てるから、か?)
真実の片鱗に触れながらも到達することは出来ずそのまま思考を続ける。

最後に浮かぶのはコナンと灰原だ。
子供に似合わぬ不敵な笑みの少年と大人びたどこか影を背負った少女。
元太はガキ大将で自分が少年探偵団の団長だと主張していたが、今振り返るとどう考えてもコナンがリーダー的存在だった。
その圧倒的な頭脳、行動力でいつも解決に導く-。
無茶もした少年探偵団だが、何とか無事だったのは二人のおかげだと大人になった今なら分かる。
「ギフテッド、か。」
今までどうしてたんだと歩美の結婚式で思わず問い詰めた彼らから聞いた話-。
彼らはアメリカでは天才児と認定され、それゆえに悪い奴らから狙われ、緊急避難として来日。
組織が潰れても残党はおり、保護者に引き取られてもやはり狙われやすく各地を転々としてたのだ、と。
(だからか。)
普段あんなに賢いのに、大人の前で幼い言動を繰り返すコナンに「んなことしたら舐められる。」と言ったが、あれは人より賢すぎる彼が世の中で上手くやっていく為の手段だったのだろう。よくよく考えると灰原でさえも、大人の前では子供ぶったことがあった。
(羨ましいって思ってたけど、天才は天才で大変だな。…やっぱ普通が一番、か。)
昔はヒーローになりたかったし、今も憧れはあるけれど、親になった今ならそう思える。
ただ今思い出すのは宝箱のような時間-。
少年探偵団として遭遇した事件、冒険-。楽しかった少年時代が脳裏を元気良く駆け巡る-。
(逆に考えると俺らの前では二人とも素の状態だった、ってことだよな。)
それが嬉しい。友人だったと胸を張って言えるから-。
(お父さんにはすごい友だちがいたんだぞ って自慢してやろうかな。)

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後書 歩美編、光彦編ときたら、元太君も出さないとね、と半ばノリで書いてみました(笑)
ただコナンに片思いしていた歩美、哀と歩美両方が好きで且つ賢かった光彦君と比べ、元太君ってガキ大将でうな重好きなイメージしかない(;'∀')…いや彼も歩美が好きだったのは分かっていたのだけれど…それは光彦君でやってますからねぇ(おい)
意外にうんうんと唸った挙句に彼が父親視点から少年探偵団時代を振り返る といった感じになりました。
最初はギフテッドゆえの苦悩とかにも、もっと話を踏み込ませようと思っていたのですが、そこは大人になっても元太(笑)
ザ・シンプルになりました。
ギフテッドだから狙われている云々は無論 そういう設定です。
江戸川コナン・哀 夫婦が今まで疎遠だった理由とこれからもそう頻繁に会うわけにいかない根拠として作りました。

それにしても、大方書き尽くしましたね~(^^♪あとは…歩美ちゃんが結婚式にコナン君を呼びたくて新一に依頼⇒新一がコナンに扮して出席ネタ(光彦編の舞台裏になります)、40年目コナン編、50年目哀編、くらいでしょうか。書けるか分かりませんが。

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初恋の二人~20年目の再会~(一滴の水 番外編 光彦編)


「同時に二人の女性を好きになってしまった僕って、いけない男なんでしょうか!?」
…我ながらマセた子供だったと思う。

今日は歩美の結婚式で、その二人の女性-歩美ちゃんと灰原さん-と同時に20年ぶりに会える日である。
受付係をしているので、真っ先に見つけられるはずだ、と胸が高鳴った。
(初恋が二人って可笑しいのは分かっているんですけどね。)
赤みがかった茶髪だった灰原さんは茶金の髪の美しい大人の女性になっていた。
(何故か志保お姉さんに似た少しだけ赤みのある落ち着いた茶髪になっている気がしてました。お二人が本当に似ているから。)
そしてその隣にはコナンが当たり前のようにいる。
(志保お姉さんの隣にいる新一お兄さんみたいですね。)
今回住所が分からない二人に結婚式の招待状を出すために工藤探偵に依頼したと歩美から聞いていたので、余計そのような連想をしてしまうのかもしれない。
二人の親密な雰囲気にある種の予感がして、覚悟を決める。
受付で二人の記帳-江戸川コナン・江戸川哀-を見て、ああやっぱり と思った
「久しぶりね。円谷君。」
「久しぶりですっ!灰原さん!…いえ 江戸川さんですよね?」
そう言うと微かに胸が痛む。自分以外の人を愛し、愛されて美しくなった初恋の人-。
(結局、歩美ちゃんも灰原さんの心もみーんな コナン君がもっていっちゃったんですね。)
全然興味ないという顔しながらズルい男である。
「ふふっ。灰原さんでいいわよ。…え、花嫁さんが呼んでるから、私 ちょっと行ってくるわね。」
「おう。」
結婚式場の係員に案内され、哀が立ち去る。

「よう。光彦 久しぶりだな。」
にかっと笑う笑顔に光る眼鏡…変わっていない。
「久しぶりです、コナン君。」
「もうっ水くさいですよ。お二人が結婚したならしたって知らせてくれたら絶対参列したのにっ!」
ちょっとむくれてみせる。
「わりーわりー!でも学生結婚だったからさ。本当に家族と近所の人だけの、ちょっとしたホームパーティの式だけだったんだ。」
「それでも!お祝いくらいしたかったですよ!…学生結婚ってとこまで一緒なんですね。」
「ん?ああ新一兄さんたちと似ているってか。」
「ええ、本当に。」
しみじみと呟く。
(時々お二人の正体が大人なんじゃないかと思ってたから余計に。…でもそんな事あるわけないですよね。)
皮肉なことに光彦の頭の良さが、常識が、真相に到達するのを邪魔していた。
まあ普通、大人が子どもになる なんて目の前で目撃するか、決定的な何かを見聞きしなければ信じられるわけもない。
「…良かったのか?」小さく問いかけられる。
「何がですか?」
「歩美のことだよ。好きだっただろう。」
「一体、いつの事言ってるんですかね!確かに歩美ちゃんの事好きでしたけど、小学生のころですよ。」
嘘だ。本当は高校生まで好きだった。実は告白して交際していたこともある。
けれどその交際は長続きしなかった。
(僕では駄目だった。探偵団の僕の側では、歩美ちゃんはいつまでもコナン君を忘れられなかった。)
圧倒的存在感を放っていた江戸川コナン-。
でも悔しいから、当の本人には絶対に言わない。
そして挑むような気持で真実の半分を告げる。
「僕は灰原さんも好きでしたよ。だからコナン君、彼女を泣かせたら、さらっていきますからね。」
その言葉に驚いた顔をするコナン。
ちょっとだけ、出し抜けた気がして ふふんと笑う。
(普段鋭いくせして、妙なとこ鈍いんですよね。特に恋愛関係。)
「それはねーから、大丈夫!あいつ、幸せで泣くぜ。」
にやりと不敵な笑みを浮かべるコナン。
(ああ変わってないな。)
悔しいと思う半分、自分の想い人を二人とも奪っていったのだから、それくらいの男でなければ困るとも思う。
(今日は僕の初恋の失恋日ですかね。歩美ちゃんの綺麗な花嫁姿と灰原さんの素敵なドレス姿を眼に焼き付けよう。)

「同時に二人の女性を好きになってしまった僕って、いけない男なんでしょうか!?」
当時の自分の声が、心が蘇る-。
胸は痛むけれど、愛する人達の幸せを嬉しく思えた自分が誇らしく、幸せを感じていた-。

**************************************************
後書 クリスマスの奇跡~10年目の真実~(一滴の水 番外編 歩美編)で秋乃様にリクエストされた一滴の水 番外編 光彦編です。秋乃様 こんな感じで如何でしょうか?
歩美編でコナンと哀の正体バレ ネタを使ってしまったので苦戦しました💦
本当は光彦こそ、彼らの正体に気付く可能性1番高そうなのですが、歩美ちゃんが気付いてしまったので二番煎じネタはやめにして初恋の女性 に的を絞ってみました。
コナンは眼鏡がありますが、哀は特に志保と差別化してなかったので、新一や有希子に相談の上、志保は赤ちゃん時代、茶金髪だったことにヒントを得て、”灰原哀”の成長した姿に採用してます。
今回 歩美が新一の元に江戸川コナン君と灰原哀ちゃんに結婚式に来て欲しい と依頼して二人とも少しだけ若作りしてます。(この舞台裏話もちょっと書いてみたいなぁ)
ただぼろを出さない為に、名前と髪以外は元々の実生活 工藤夫婦と同じ設定のままで話をしております。
ですので江戸川コナン・哀 夫婦には男女各々の子供がいる というところまで一緒です。

楽しんで頂けたら嬉しいです(((o(*゚▽゚*)o)))
感想コメント頂けたら、もっとHappyです(⋈◍>◡<◍)。✧♡

PS 万里様 夢見る少女シリーズ ”忘れ雪 ~ 夢見る少女29歳 焦りの婚活の果てに”は2022年1月2日up予定です。
乞う お楽しみに☆彡

クリスマスの奇跡~10年目の真実~(一滴の水 番外編 歩美編)


急に消えた、大好きな幼馴染。
どんな困難な状況でも、溢れる知恵と勇気と度胸でどうにかしてしまう彼が大好きだったから、淋しくて仕方なかった。

(初恋だった…。コナン君、どこ行ったの?)
正確には消えたのではなく、転校。
親元に帰っただけと聞かされたのだが、父親が地質学者で世界中を飛び回っているらしく、彼からの手紙も届いたのはほんの数通だけだった為、歩美にとっては、消えたとしか感じられなかった。
続いて哀までも、イギリスの親戚に引き取られていってしまった。
大好きな二人ともが自分の元からいなくなってしまって、あの頃の歩美は呆然としたものだ。
(光彦君と元太君が必死に慰めてくれたっけ。)
その後二人が大人になったかのような、彼らの親戚である新一お兄さんと志保お姉さんと交流が始まった。
結婚式でブーケを貰ったのは、今でも幸せな思い出だ。
(哀ちゃんから貰えたようで-。)
とても似ている彼らと話していると、コナンと哀がいるかのようで嬉しかったけれど、本人ではない。
彼らはやはりお兄さん、お姉さんで保護者的立ち位置だった。
小学校高学年から徐々に疎遠になり、中学生になった頃、工藤一家は海外に引っ越していったと聞いた。
会えなくなって淋しいと同時に正直ほっと一安心もしていた。
(新一お兄さんと志保お姉さんがコナン君と哀ちゃんに似すぎてて、思い出して切なかったんだよね。)
「でも今は素直に会いたいなぁ。」
日本に戻ってきたと風の噂で聞いたから、博士の家に久しぶりに顔を出してみよう。
二人に会えるのは博士の家が多かった為、咄嗟にそう思いつく。
「今日クリスマスイブだし。ケーキ買ってこうっと。…会えるといいな。」
(博士も元気かな。食べ過ぎてないといいな。フサエさんが管理しているから大丈夫だよね。)
街中でケーキを買って近道をしようとしたら、公園に新一と志保が見えた。
「わあ。」
(会いたいと思ったら…!)
喜んで駆け寄ろうとした瞬間、二人の側にいる子供達がかつてのコナンと哀にそっくりで歩美は棒立ちになった。
(そ、、そっくり。あ、でも眼の光が違う。コナン君はもっと意志の強い光る瞳をしていた。哀ちゃんは知性ある瞳をしていた。)
当たり前だよね、コナンと哀は自分と同じ17歳のはず。きっと彼らは、赤ちゃん時代に見たことある、工藤夫婦の子供達だ。
何となく声を掛けそびれて、でも離れがたくて静かに彼らの背中に近づく。

「新一、貴方、美保に甘過ぎよ!」
「そ、そうか!?ついつい志保が言い聞かせてくれっからさ。」
「もう!あの子達にはもきちんと叱っていたじゃない。」
「え?あいつらにだって、雪山で志保が もう言った って言ったから俺、結局説教しなかったぜ。まあする必要なかったっていうか。」
「しなかった時の話だけ取り上げない。…懐かしい話するわね。元気かしら?あの子達。」
「歩美は可愛くなってんじゃないか。光彦は見所あるから将来、探偵になってくれたら面白いな。元太はうな重食ってそうだな。」
「どうして彼だけ今日の献立なのよ。…今日だからケンタッキーフライドチキンじゃないかしら?」
「なるほど。」

”おめーら!!!”
”もう言った。”
歩美の脳裏に雪山で無茶をして、コナンに叱られかけた時のことが蘇る。
(それに新一お兄さん、呼び捨てにした。いつもは歩美ちゃん 光彦君 元太君って呼ぶのに。)
”あの二人、絶対、年齢 誤魔化してますよ。””サバ読んでるぜ。”
光彦と元太の声が歩美の脳裏に響く-。
彼女は直観的に真実を悟った。新一がコナンだったのだ。志保が哀だったのだ-。

コナン君、どこ行ったの?-こんなところに居たんだ-。近くにいてくれたんだ-。
二人が転校していってから10年が過ぎて女子高生の歩美は泣きそうになり、俯く。
騙されたという想いがなくはない。
大人が子どもになるわけがないという理屈も心のどこかにはある。
けれど歩美はこれこそが真実だと何故か確信があった。
(だからあんなに知識があって、頼りがいがあったんだ。)
そしてこの時歩美は、後から振り返って自分でも驚くほど、最良の選択を無意識に選び取っていた。
懐かしさと共に詰りたい、問い詰めたい気持ちもある。けれど真実は言ってもらえないだろう。それに1番大切なのは-。
(コナン君に告白出来なかったこと。好きと言わなかったこと。)
出来なかったのは勇気がなかったから。しなかったのは別れが受け容れられなかったから。
(そして多分、歩美が恋愛対象外だったのが悔しかったから。)
あのね、コナン君 歩美は貴方が好きでした-。
告白してくれる人もいたけれど、貴方が強烈過ぎて、鮮明過ぎて、中々上手くいきませんでした。
それももう終わりにしよう。真実を知って何やらすっきりしている。
「歩美はコナン君が好きだった。大好きだったよ。」新一の背中に小さく、ちいさく呟く。
聞かせる気はない。困らせる気はない。これは歩美の初恋の終わりの儀式だから-。
「ありがとう。コナン君。」
それに相手は新一お兄さんではなく、5人で一緒に過ごした歩美の中の”コナン君へ”。

そうして歩美は大きく息を吸った。
「メリークリスマス!新一お兄さん。志保お姉さん。」
明るく大きい声で呼びかける。
驚きと喜びに満ちた顔で振り返る二人に歩美は飛び切りの笑顔を向けた。
クリスマスの夜の奇跡に感謝を-。


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後書 まさかの一滴の水 歩美ちゃん編です。久しぶりに書いた一滴の水 しかも歩美ちゃん編 作者が一番驚きました(おい)
少し早いクリスマス小説でございます。
最初の2行だけ蘭ちゃんチックです(笑)こういう誤認トリック?っぽいの好きで♪
蘭が初恋の人、新一に10年ぶりに会い初恋をきちんと終わらせたのと同日に歩美ちゃんも急に消えた初恋の人 コナン君の真実を知り、初恋を終焉させるという仕掛けになっております。副題 初恋よ さようなら でしょうか。
光彦と元太の台詞はうろ覚え 確かこんなようなことを原作かアニメで言ってたような記憶があるんです。
しかし罪な男になっておりますなぁ新一(笑)
最初、別のシリーズで歩美ちゃんが結婚式にコナン君を呼びたくて新一に依頼⇒新一がコナンに扮して出席とかも考えたんですが…中々ちょっと難しくて💦そのシリーズならではの物語展開とマッチしないなぁ、と。
あとせっかく12月なのでクリスマスネタがいいかも♪ と思ってからは、クリスマスなら一滴の水でしょ と思い、こう相成りました。
あ、歩美ちゃんの結婚年齢を30歳前後にすれば、コナンの年齢30歳と40歳(新一)の差って眼鏡とメイク次第でどうとでも出来ましたね、一滴の水シリーズで。
後書でそれに気付くっていったいorz 
うーん 全部知っててでも”コナン君”に会いたくて依頼する歩美ってのもありかな?どなたか書いて下さいませんか-!(他力本願)
楽しんで頂けたら嬉しいです(((o(*゚▽゚*)o)))
感想コメント頂けたら、もっとHappyです(⋈◍>◡<◍)。✧♡

PS 万里様 夢見る少女シリーズ ”忘れ雪 ~ 夢見る少女29歳 焦りの婚活の果てに”は2022年1月2日up予定です。
乞う お楽しみに☆彡
プロフィール
ご訪問ありがとうございます(≧▽≦) 名古屋OLが歴史・節約・日頃・二次小説のことを書き綴っています。 コメント大歓迎★ ですが、宣伝や本文に何も関係ないもの もしくは激しく不愉快、コピペ等、そういった類は、私の判断により 誠に勝手ながら削除の方向です。楽しく語りたいです♪ 二次創作小説もありますが、このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。

雪月花桜

Author:雪月花桜
タイトル通り名古屋OLがブログしてます。
歴史を元にした小説なんかも大好きでそれらについても語ったり、一次小説なんかも書いてますす。好きな漫画(コナンやCLAMP etc)&小説(彩雲国物語)の二次小説をupしておりますし、OLなりの節約・日々の徒然をHappyに語っています。

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