落つる水音(「一滴の水」の序幕編 哀→コ)

2016.03.15 17:31|一滴の水 番外編
ぽつり、ぽつりと何処かで何かの音がする-。
それは少しずつだが、確実に溜まっていく人の”想い”の落ちる音。

工藤君、否、今は江戸川君が銭湯でいなくなり、心配をしていたら蘭さんの元にメールが届いた。
『怪我はたいしたことなかったから心配しないで。知り合いのお兄ちゃんとご飯食べてくる。』
所在が分かって安心した彼女とは、逆に阿笠博士と哀は胸中に黒い雲か浮かびあがるのを感じた。
(可笑しい。同一人物の二人が一緒になんて出掛けられるわけないし。それにこの文章・・。)
「でも、なんなのよこのふざけたメール。ご飯食べるんなら、私達も誘ってくれればいいじゃない。・・・・・・帰るわよ。」
携帯の画面に“工藤新一”と表示された為、彼女はコナンと新一が一緒にいるのだと勘違いしてしまっていた。
機嫌の悪い彼女が冷たい表情で博士に放った言葉に些か呆れながら、哀は頭脳をフル回転させる。
(何も博士に不機嫌さをぶつけなくても・・それに行くわよって命令形何て普通、身内でもない年上の男性に使うかしら?
いえ、それよりも、彼よ。よしんば急に事件とか見つけていなくなり、”工藤君”が”江戸川君”を連れていったという設定としたにせよ
”知り合いのお兄ちゃん”なんて彼が書くわけない。いつも”新一兄ちゃんに聞いた”って言ってるもの。
一緒に暮らしていて、彼女何を聞いているのかしらね?・・・今はそれよりも工藤君の行方だわ。)
親よりも年上で保護者的な存在の阿笠に八つ当たりする非常識さと、いつものコナンの言動からはありえないメールの文章の奇妙さに
気付きもしない蘭の視野の狭さに怒りを覚えるが、それよりも彼の行方の方が先、と思考を切り替える。
彼以外の人物がこのメールを打ったという事は、彼の意思が反映されていない、という事になる。
(事件か事故か・・。彼の性格上、多分絶対事件だわ・・。)

其処から先の事はあまり思い出したくないくらい大変だった。
普段彼に任せている子供の演技まで駆使して追跡したが、途中でばれてしまい、車から外へ放り出されてしまったのだ。
一瞬走馬灯のように過去の事が甦る。


”逃げるなよ 灰原。自分の運命から逃げるんじゃねーぞ。”
組織のメンバーに見つかったと思い、バスの爆破もろとも自身を始末しようと思い残った自分を命懸けで助けてくれた彼。

”ガキのくせに生意気!!”
”へいへい”
雪山で二人でスノボーで移動中、犯人からの狙撃からごく自然に哀を守ってくれたコナン。
突如沸き起こった動悸を誤魔化す為にあんな風に言ってしまったけれど、とても嬉しかった。

”それ掛けてると正体バレないんだぜ?”
”絶対守ってやっから!” 
笑った表情、得意げな表情、彼の顔と声ばかりが浮かぶの何故-?

そう思った瞬間に脳裏に彼が探偵グッズを使用している情景まで浮かんで咄嗟に真似をし、九死に一生を得た。
かろうじて彼の探偵グッズを駆使して無事に済んだが、上着はぼろぼろで多分身体中に擦り傷があるだろう。


全てが終わった後-。
「さっき、コナン君と一緒にいた男の人、誰?」
「知らない。」哀は素っ気なく答えた。
「で!結局、新一は一体どこにいるのよ?」
まだ蘭は一人でぷりぷり怒っている。
(同居している子供が誘拐されたのに、工藤君、工藤君って・・)
身体が更に脱力し、疲労に拍車が掛かった。


多分彼女からしたら一番に彼に優先されるのは、自分であるべきであり、例え弟のようなコナンでも其処は譲れないのだろう。
そんな思考回路になれるのは、愛されるのが当たり前という幸せな子供時代を送った人だけだ。
悪いとは言わないし、憧れがないとは言い切れない。けれど・・。
(頭がお花畑のように、幸せな人ね。)
だからと言って他者への配慮や思い遣りに欠けるのはどうなのだろう。
(これも嫉妬、なのからしら?)

蘭が怒っていて、上手く言い訳を思いつかないから薬をくれという、工藤君。
「ダ・メ・よ。」
「・・ケチ。」
「・・貴方の為。」
この解毒薬はまだ未完成であり、これ以上余計な耐性を付けさせるわけにはいかない。
(せっかく薬が完成しても、耐性があって効かないなんて洒落にならないわ。)
現に戻れている時間は短くなりつつある-。
(それが彼女の我儘のせいで起きるとか・・。貴方が彼女の事を好きなのはよく知ってるけど、巡り巡って苦しむのは貴方と彼女よ。)
それでも、彼の為とやっている事に文句を言われると、やはり切ない。
(ああ・・工藤君。貴方いつもこんな想いしているの。)
彼女の安全の為に”工藤新一”は離れているのに、文句ばかり言っていた蘭の姿が脳裏を過る。


けれど彼は彼女と同じではなかった。
「ありがとな。こんなボロボロになってまで・・。」
「別に・・。」
色んな感情が胸を渦巻いていた為、敢えて無表情を保ち、一切コナン君を見ずに答える。
見返りを求めて行動したわけではないが、やはり感謝されると、御礼の言葉を言われると胸に響く程、嬉しい。
思わず哀は振り返って、さっき其処には居たコナンを想い、頬を染めた。
「・・私ではダメかしら?・・なーんてね。」
志保はとっくに気付いている事実に眼を瞑り、やり過ごした。
だがそれは本人すら知らぬところで、組織で凍った心を溶かすほどの熱い想いがひっそりと溜まっていくことになる。

***************************************************
「ご飯食べるんなら、コナン君だけじゃなくて、私も誘ってくれればいいじゃない!今新一何処にいるのよ!!」
「コナン君、誘拐されて大変だったんだから!!新一、何やってたのよっ!!」
まだ成り済ましメールを信じ込み、新一に怒りの電話をする蘭。
(どうしてよ!今まで新一の一番は私だったのに。いくらコナン君と仲が良いからって!ずっと事件事件なんだから時間あるなら私のトコ来なさいよ!)
新一が小さい頃から蘭の事を好きで推理以外は大抵彼女を優先させていた過去故に、同じ事がこれからも続くと信じて疑わない蘭。
それは愛されているが故の”傲慢”、黒の組織の事を知らないが故の”無知”が元だが、今までと違い
彼が側にいない不安、事情を説明してもらえないという不満が相乗効果になり、彼女の負の感情が溜まっていくことになる-。
”何も知らせない”という守り方もあるという事、恋を持続するには、愛情だけでなく自制心が必要である事を、まだ彼女は理解していなかった-。

「あのなあ、蘭。コナンが俺の事、知り合いのお兄ちゃんなんてメールするわけないだろ?」
(どうしてこんな簡単な事も分からねえのか。それに俺が誘拐された事より食事に誘われなかった事の怒りが強いのは気のせいじゃねえな。)
溜息しながら蘭の怒りの電話の相手をする新一。
結局あのメールは成り済ましだと説明して事無きを得たが、蘭の精神的に幼く未熟な様には参った。
(言う事聞かせようと空手を連発するし、さあ。・・電話で却って良かったかも。)
それは、彼女の両親が育児放棄気味だった事、更に大人より優れた頭脳を持つ彼自身がいつも彼女を助けていた為
彼女の自立・成長を妨げていた事が大きな原因だと言う事に、聡明なはずの彼は、遂に気付かなかった-。
彼女自身との関係が近すぎるが故の弊害である。
(確かに嘘付いてるのは悪りいなって思うけど・・それも、蘭やおっちゃん、皆の安全の為なんだけどよ。)
”事件で帰ってこない”そう思わせたのは自分だから、それ故の非難に文句は言わない。
全くの嘘ではないし、ある意味真実だ。
ただそれが彼女らを守る盾になるからこそ選んだ道なのに、批難・不満ばかり口にされれば流石に彼とて傷つかないわけではないのだ。
(・・・確かに不安にさせてるけどさ・・それにしたって蘭ってこんなに自己中だったけ?)
(反対に灰原はメールで察して、命懸けて俺を助けてくれようとしたんだよな。あのボロボロの上着・・。)
彼女は然程語らなかったが、あの上着の状態を見ただけで、相当危ない橋を自分の為に渡ってくれたのだと分かった。
結局彼は、良く知っていたはずの幼馴染の独占欲・執着心に唖然とし彼女への恋心に溝が出来るようになり、反対に相棒には信頼が増していく事になる-。


ぽとり、ぽとりと大きくなった水音が三人の心の杯を満たし始めた-。
希望、不安、愛情沢山の感情を呑み込んで、それはもう後数滴で、溢れそうであった-。
零れた時に、もたらす感情の吐露がもたらすものは、束縛か解放か?見栄か本心か?
”最後の一滴”がもたらされるのは、後少し・・。

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後書 『江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』ベースの哀→コナン話です。
ですからテレビ・DVDをご覧になってからの方が分かりやすいです。
皆様が書いているのを読んで、書きたくなりました(笑)
本編「一滴の水」の序幕編にあたり、これで蘭ちゃんの告白放置と「待たない」発言を発端に
心の杯の水が溢れ出し、お話が進むというストーリー仕立てになっております。
宜しければ本編も読んでみて下さいませ。

似た者母娘(一滴の水 番外編 英理視点)

2015.11.20 00:00|一滴の水 番外編
理論的で冷静な母親(わたし)と感情豊かで素直な娘。
自分達は似てない親子だと思っていた。

夫の小五郎から珍しく「母親であるお前の助けが必要なんだ。」と電話が入り、クリスマス商戦に湧く街を突っ切って赴いたかつての自宅で見た光景が信じられなかった。
「新一、CMまで出ちゃうんだね、遠い、遠いよ。TVだと近くに感じるけど遠いよ。」
「新一、新一が近くて遠いよ・・・!!」親友とその息子が出ているCMを見ながら泣き叫ぶ愛娘。
その上気を高ぶらせて過呼吸の発作を起こしてしまっていたのだ。
ひゅーっ、ひゅーっと呼吸する娘にビニール袋を押し当てる夫の姿に「一体、どうしたの!?」と問い詰めたい気持ちが沸々と湧き上がってくる。
(いえ、原因は分かりきってるわ、新一君ね。・・あの人の話だと5月頃、全然話しなくなって、失恋から立ち直ったんじゃなかったの?)
「一体何があったの?また新一君がらみなんでしょ!?」
蘭を部屋に寝かせて、居間でまた娘を傷つけて、と新一への怒りに震えながら、腰に手をあて、仁王立ちで夫を問いただす英理。
「いや、奴は何もしちゃあいねえよ。」
「だったら何で蘭はあんな目に遭ってるの!!??」
「失恋への経緯は確かに貴方から聞いたわ。・・確かに告白の返事をしなかった蘭が悪いけど、まさかそんな事になってると思わないわ!」
高校生が命を狙われてるから、好きな子と距離を置いてたなんて、想像つくわけがない。
好きな事をしていて帰ってこないなら、帰ってきた時に返事すればいいと考えた娘の気持ちも英理には分かるのだ。
(確かに結果的に命掛けの戦いをしていた新一君には酷な事をしたけど・・・、それはあくまで結果論。
蘭の悪い点を敢えて言えば返事をするつもりで待っていたなら、他の男性に靡いてたは駄目だったわ。)
話を聞いて「そう、残念ね。」と言った過去の自分が甦る。
だけど、それは蘭自身の失恋という結果となったはずだった。
(もう報いは受けたでしょう!?なのに、この上!?)
過去、彼が娘を冒険と称して引きずり回しぼろぼろにした経験からどうしても評価が厳しくなる。
十年以上直接彼とは顔を会わせていない。
だから、英理の新一への評価は幼い頃の”賢いが好奇心が強すぎ 且つ娘を振りまわす困った男の子”のままであった。
「いや、探偵坊主が蘭に何もしてないからこそ、と言うべきかな。」
「・・・どういう事?」
頭が?だらけになり視線で小五郎に説明を求める。
「鈴木の嬢ちゃんが言うにはだな・・。」
そして聞かされた話は実は全然蘭は新一の事を諦めきれておらず、それを察した園子ちゃんが
次の恋へ向かわせる為敢えて”告白して振られてすっきりする”というのを提案し娘もそれにのったのだ、と云うものだった。
「そう・・よっぽど手痛く振られでもしたの?・・それか新一君の彼女に何か言われたとか?」
「いいや、何も。」
「じゃあ、どうしてっ?」
「その日はな、阿笠博士だけじゃなくて新一の結婚式でもあったんだ。例の彼女さんとのな。・・ダブル挙式ってやつか。」
「!!!???」驚愕に絶句する英理。
「だから奴は何もしちゃあいない。・・それ以前の問題で目撃した蘭はその場で倒れたから話もしてねえって聞いた。」
多分奴は同じホテルに蘭が居た事すらおそらく知らないだろう、と続ける夫の台詞にもう言葉も出なかった。
(それでああ、なのね。・・蘭、可哀想に。)
玉砕覚悟で告白するくらい好きなら何故すぐに返事をしなかったのか、別の男性と交際してしまったのかと思うがそれは今更だ。
「それで私はどうしたらいいのかしら?」
手遅れな過去の事をほじくり返しても仕方ない、とこれからの対策へと話を向ける。
「ああ。蘭の側にいてやって欲しい。後、正論で叱らないでやってくれないか。」
「え?」
「俺がな、もうやっちまったんだ。けど全然受け入れてくれなくて反発ばっかでな。それで今回の事も話してくれなくてこの様だ。」
正論を言う事が常に正しい対応とは限らないし、失敗した方法と分かっているなら、別の方法を取った方がいい、と云った趣旨の事を言う夫に思わず尊敬の念を抱く。
(この人は本当に近い人ほど観察力が鋭いわ。)
ギャンブル好き、女好きで時々愛想を尽かしたくなるが、それでも留まっているのは、肝心な時に判断を間違えない小五郎の長所があるからだった。
普通は英理のように普段優秀だが、身内が絡むと動揺し先入観が邪魔をして見誤る、という人間が多い。
彼女は知る由もないが実は新一もこちらの種類の人間である。
だが小五郎は逆で普段は全然駄目な割に、身内や友人もしくはそれに似た人ほどじっくり観察し、その眼光は冴える。
バレンタインの時、やはり娘可愛さに目が曇った彼女が新一に連絡しようとした時、止めたのは小五郎だった。
あまり表には出さないが娘を溺愛している夫がそう言うには根拠があるはず、と手を止めたのだった。
その時に失恋の経緯を説明されたのだった。
(そう言えばあの時、貴方、蘭の幼馴染だからという恋愛観に否定的な事を言ってたわね。で、それを蘭に言っちゃった、と。)

そんな両親の会話の後、落ち着いた蘭にしばらく英理がこちらに通う事になった旨を告げる。
「本当に?お母さん仕事忙しいんじゃないの?」
「大丈夫よ。」
(蘭は本当に良い娘。)
自身が大変な時でも母親を気遣ってくれる娘に何とか笑顔で返す。
夕食をどこかで外食しましょうか 買い物でもと話掛けながら世間話をして、何とか蘭の気持ちを盛り立てた。
だが1時間後、こんな時に限って緊急な用事が入ったりする。
「え?裁判所からの急な依頼?」
秘書からの電話で裁判所からの大口依頼が入ってしまい、結局事務所に戻る事になってしまった。
後ろ髪引かれながら、事務所に戻り電車に乗ろうとしたところで定期入れを兼ねていた紙幣入れを忘れていたことに、気付き慌てて戻った。
「ふう。ただいま ええと何処に置いたのかしら?あ、あったわ、良かった。」
玄関口でお目当ての物を見つけ、最後にもう1回、夫と娘に声を掛けようと居間を覗くべく動き始めた英理の耳に二人の会話が聞こえてきた。
「どーせ、お父さん年末年始飲み会でしょ!」
「いや、今年は家に居る。英理もだ。家族旅行でも行かないか?ホラ、ここなんかどうだ?」
「お母さん、結局、年末年始もまた仕事だよ!!さっきもそうだったじゃない!」
「いや、今年は・・」「もういいから!!」
夫の言葉を遮って怒って拗ねた顔した娘が八つ当たりのように、今夜の夕飯であろう肉にバシバシと包丁をあてている。
「今夜は豚カツだから。」
「・・おう。」宥めようとして、疲れたような諦めたような夫の顔が目に入った途端、居た堪れなくて咄嗟に踵を返していた。
”お仕事だもん、仕方ないよ。”
さっき見せた娘の健気な言動とは反対の現場を目にして英理は平静さを装いながらも内心はパニックに陥っていた。
(今の何なのかしら?・・蘭はずっと私の前では演技してたって事?)
良く知っているはずの一人娘が急に分からなくなり、また騙されていたような心持ちになり
事務所に辿り着いた時にはふらふらだった。
「先生!電話で話した通り急な大口で資料があとちょっと・・ってどうされたんですか!顔色悪いですよ。・・少し横になります?」
「・・ええ。あ、ちょっといつもの喫茶行ってコーヒー飲んでくるわ。」
「え?コーヒーなら此処にもありますけど。」
「いえ、あそこのコーヒーが飲みたい気分なの。・・悪いけどその件の資料が揃った頃に連絡くれる?」
「はい。分かりました。」
「よろしくね。」

「ふう。」物憂げな表情で行きつけの喫茶のコーヒーの香りと味を確かめる。
いつもなら落ち着く一時だが、今日は喉を素通りしている気がする。
「どうしました?英理さんらしくない。」
「マスター。」
声を掛けてきたのは喫茶店のマスターだった。
ここには小さい頃の彼女が父に連れられて以来、親子2代、否、蘭も連れてきた事があるから親子3代でお世話になっている事になる。
口の堅さと人柄も良い彼に信頼を置いていた上に、半端な時間の為、ほとんど客がいなかったのもあって英理は思わず先程の事を話していた。
「ああ、それは蘭ちゃんは英理さんに戻って来て欲しいんですよ。」
「え、ええ。それは知っているけれど。」何度も夫との仲直りの場を設けた娘の真意が分かっている英理は今更と思いつつ相槌を打つ。
「だから頑張っちゃたんでしょうね。」
「え?」
「戻ってきて欲しいから蘭ちゃん、英理さんの前では、良い子でいようと頑張って、頑張り過ぎちゃってるんでしょう。」
「そんな・・。」
「演技じゃなくて、無理して頑張った分の反動が旦那さんにいってるんじゃないですかね。」
(それはあの人には素で接しているけど、私にはそうじゃないって事!?)
一人娘に無理を押しつけたのは自分だと言われた気がして愕然とした。
マスターは旦那さんを愛しているなら戻られた方がいいですよ、人生いつ何があるか分からないといいますしと優しい声で続け、最後に「私も3人でまた此方へ来て頂けたら嬉しいですよ。」と英理の好きな持ち帰り用のクッキーを1缶サービスで渡してくれた。
そこには小さな付箋に”ご家族でどうぞ”と書かれていたのだった。
「ありがとう、マスター。」
マスターの指摘に傷ついたが的確でもあったし、彼の心遣いが嬉しくもあった英理は水を飲みながら”冷静に 冷静に”と自身に言い聞かせる。
そしてふと思いついたのは離婚案件での依頼人の愚痴だった。
”たまにしか会わなきゃ、イイ子イイ子って言ってりゃいいですもんね。おしめ変えてご飯作ってって付きっきりで面倒みたのは私なのに”
彼女は夫が長引いた単身赴任中に浮気されてしまい、養育費と慰謝料を貰い離婚した。
養育費は問題なかったが面会権の回数と慰謝料の金額で揉めた為、英理が代理人として仲裁したのだった。
彼女の手腕でほとんど依頼人の希望通りになって礼を言われたが、悪いのは夫なのに子供達が父親の味方をすると
前述のような愚痴に最後付き合わされたのだった。
”たまにしか会わなければ祖父母と一緒でただ可愛がってれば、そりゃ良い親でいられますよ”
”子供だって月1会うだけのお金くれるだけの父親なら”良い子供”でいられるに決まってますでしょ。”
嘗ての依頼人の愚痴がそのまま英理に突き刺さる。
(そんなつもりじゃなかったわ。必要なお金だから渡してたし、できるだけ蘭とは連絡取ってたし、きちんと母親やってた と思ってたわ。)
そう、つもりだったのねと落ち込む自分に喝を入れる為、英理は一気に氷水を飲み干した。
(騙された、裏切られたと思う資格は私にはないのね。・・そうさせたのは私。蘭、ごめんなさいね。)

気付いたのなら今回の事を機に、親子関係をやり直そうと決めた英理は頻繁に蘭と会うようにしていた。
「お母さん、本当にクリスマス仕事ないの?」
「大丈夫よ。蘭。このフレンチへ行きましょ。貴方予約してくれたのよね?」
「おう、したぜ。フルコース3人分。」
「じゃあ、本当なんだ?」わあいと年齢より何処か子供っぽく喜ぶ娘の姿に嬉しくなるが、そんなに信用がないのかと思うと切なくなった。
(そんなに懐疑的になる程、私何かしたかしら・・)
家出をしたのは確かに良くなかったけど、と思わず過去を振り返るが「法曹界の女王(クイーン)」という異名を取る程の明晰な頭脳が中々働いてくれない。
(思い出せないわ。そうだ、アルバム!!)
そして引っ張り出した小学生高学年から中学生までのアルバムを眺めていると娘がとある写真を指差し話出した。
「この旅行、お母さん結局仕事で行けなくて、お父さんは初日だけ参加だったよね~。結局、新一と博士でキャンプファイヤーしたんだよ。」
「博士が撮ってくれたの。」
写真には夜のキャンプ場を背景にした幼い娘と彼が写っている。
その後もアルバム片手に親子3人で会話をしたが
「この時、新一ったらね。推理オタク丸出しな行動してね。」
「迷路で迷子になってちょっと泣きそうになってたら、新一が迎えに来てくれてね。」
「ここでね、新一と二人で食べた料理すっごく美味しかったんだよ。」等々。
娘の想い出のほぼ8割方 新一との思い出だったのだ。
残りは一緒に行ってくれた博士か夫、もしくは親友の園子ちゃん。
写真もほぼそれに比例して写っている人物がいる。だからか新一とのツーショットが多い。
英理のは数枚しかなかった。
(どうして?私だって参加した旅行とかイベントあったはずのに。)
信じれない思いで過去を振り返ると参加しても、別居中の夫と喧嘩してしまったり、盛り上がる前に仕事で帰ってしまっていた事に気がついた。
(・・ああ、だからこんなに少ないのね。)
悄然とする母親に気付かないのか蘭は楽しげに新一との思い出を語り続ける。
それを複雑そうに見守る夫と目が合い思わず気まずけに微笑んだ。

その夜クリスマスを家族で過ごした後、英理は深夜、自宅で一人きりで音楽を聴いていた。
考えをまとめる際に、音楽を聴くのは彼女の癖だった。
蘭の想い出の大半が新一君とのもの。
失恋して発作を起こして尚、あんなに楽しげに彼との出来事を語る娘の笑顔。
”無理して頑張った分の反動が旦那さんにいってるんじゃないですかね”
馴染みの店のマスターの声が脳裏に蘇る。
(もしかして新一君もその反動を受け止めていてくれた人だった・・?)
(蘭にとって幼馴染、好きな男の子ってだけじゃなくて、身内みたいな・・そうコナン君みたいな・・コナン君が弟なら
新一君は兄のような存在だった・・?)
本当なら自分が自分が其処に、娘の心の安定の楔になるべきだった。
深い悔恨が英理を襲う。

理論的で冷静な母親(わたし)と感情豊かで素直な娘。
自分達は似てない親子だと思っていた。
小五郎とはたまに会っても互いに悪口を言い合い意地を張っているが、内心大事に想っている。
結婚指輪を着けていることがその証。
蘭が貶しながらも滔々と、好意に溢れながら新一の事を語っているのと似てはいまいか・・?
(ああ、こんな処が似ちゃったのね。)
”好きな人に憎まれ口をしてしまう。彼なら分かってくれると甘えてしまう。”
(それでも私は結婚して蘭を産んでから離れたから、まだ繋がっていられる けど蘭は・・。)
結婚し夫婦という関係性、何より娘という確かな絆が出来てから離れた自分達と違い、その前段階で物理的にも精神的にも離れてしまった娘の恋はもう残念ながら実を結ぶ事はないだろう。
「戻ろう。まだやり直せるわよね、私達。」
(まだ母親としての役目が残っているわ。蘭、貴方、待っててね。今帰るわ。)
夫に戻る話をしようと決意した英理が、蘭の学資保険分を弁償するまでは待っててくれと夫にまさかの猶予を申し出られいつでも帰れると考えていた自身の考えが甘かったのを知るのは次の日である。
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後書 一滴の水 番外編 英理さん視点 まろん様リクエストです!!
ああ、やっと書けました!!(*´▽`*)
蘭ちゃんと同じく英理さんにも自覚させたい事多すぎてorz
けど蘭ちゃんほど登場していない、新一君と直接会ってない(けど辛口)彼女視点は
常々コメント欄でも言及している通り、彼女自身のキャラが可笑しい点からいっても
書きづらいったらなくて、ネタばかり浮かぶのに、それに至るまでの過程が中々厳しい。
もっと書きたいエピやテーマもありましたが話の都合上、カット!でも頑張りました!!
ちなみに3年で意外と頑固な小五郎が借金?を返済し終えて、蘭が大学4年生頃、英理は戻ってくる予定です。
この3年の間に積極的にやり直そうと努力した夫婦の賜物で同居前でもかなり良好な家族関係の毛利一家になります。
良かったね、蘭ちゃん(^_-)-☆ 
今回のテーマは結局似てないようで似てた英理さんと蘭ちゃんという親子でした。

最後に まろん様へ お待たせいたしました。お元気になられたら、どうぞ読んで感想なり頂けたら嬉しいです!(^^)!
ご健康とご期待に沿えていることを祈って☆彡

迷探偵の独白(一滴の水 番外編 小五郎編)

2015.10.06 01:25|一滴の水 番外編
娘の初恋の失恋を防げたのは自分だけだった。
今ならそれが良く分かる。


(鈴木のお嬢ちゃんも余計な事をしてくれた。)
覇気のない顔で勉強をする娘の横顔を新聞の合間から覗き見た小五郎は、こっそりと溜息を吐いた。
(今更、探偵坊主に告白して何になるってんだ?・・そりゃまあ、蘭の気は済むかもしれないが。)
その玉砕覚悟の想いも、結婚式当日に突撃しては意味無しだ、と更に溜息が深くなった。
過呼吸の発作を起こした蘭は、その日から1ヶ月弱寝込み、期末テストが受けれず、明日から追試の為勉強中である。
ただまだ発作が度々ある為、自室ではなくこの居間で勉強させているのだ。
(御蔭でテレビも見れねえ。また間が悪い時に有希子ちゃんとCM出てやがる。)
「蘭、そろそろ休んだらどうだ?」
「・・うん。そうする。もう寝るね。」
蘭が居間を出てから付けたTVに、お笑い番組の後のCMに見覚えのある二人が現れた。
”永遠に貴女を輝かせる ジュエリースター キャンぺーン フサエブランド限定品”
星の形をしたダイヤモンドのネックレスを付けて美しくそれでいて愛らしく微笑む有希子。
”昼と夜の貴女の魅力を引き出す アレキサンドライト フサエ イヤリング”
昼の太陽光下では青緑、夜の人工照明下では赤へと色変化する様を魅せる
片耳にだけイヤリングを付けた新一が嫣然と微笑む。
1週間前このCMを見た娘は、いつも隣にいたはずの幼馴染が、離れた存在になった事を痛感したのか
『新一、CMまで出ちゃうんだね、遠い、遠いよ。TVだと近くに感じるけど遠いよ。』
『新一、新一が近くて遠いよ・・・!!』と泣きながら、また気を高ぶらせて発作を起こしてしまったのだ。
ひゅーっ、ひゅーっと呼吸する娘にビニール袋を押し当てながら、感じた心配と無念さを小五郎は忘れる事が出来ない。
新一は悪くないが、自分は蘭の父親だから、どうしても蘭の側から考えてしまう。
そのTV画面の新一の顔をじっと見つめた。
「なあ?そろそろ蘭を解放してやってくれないか?」

幼稚園で出会った彼と娘。
出会ったばかりに、鋭い観察力で蘭の誘拐を防いでくれた男の子。
娘はその事を知らないが、当時から娘は自覚なしに彼を特別視していたように思う。
(小さい頃からの想いって中々抜けねえからな。)
蘭の失恋の痛手は思ったより長期化するかもしれない、とふと思った小五郎の脳裏にある考えが閃いた。
”4歳から18歳の今まで育った想いを忘れるには、消化するには、同じくらいの歳月が必要なのではないか?”
”素直だが、頑固でもある蘭は、思い込んだらそれに捕らわれて中々抜け出せないのではないか?”
(いや、蘭はまだ若いし、親から見ても可愛い。大丈夫だ、新しい恋を見付けるとも。)
頭を振って自身の思いつきを否定するが、その予感は消えてくれない。
だが小五郎のこの何時になく冴えた推理は残念ながら、悉く的中する事となる。


”俺だけは、探偵坊主が蘭を守る為に何も言わなかったのに気付けたはずだった。”
”幼い頃の誘拐未遂事件を結局口外しなかった事を知っていたのだから!”
”且つ蘭の側にいた父親の自分なら、蘭にその事を言えたはずだった。 坊主の不在を淋しがる代わりに年末、側にいてやる事も出来たはずだった。”
気付けなかったのは、やらなかったのは何故か?
絶対に認めないが、自分より遙かに探偵としての能力に優れた新一への嫉妬、それと・・。
(てめえの恋愛事くらい自分で解決しろ、だよな。)
それくらい出来なければ、大事な一人娘をやるものか、と思っていた。
(結局、俺も新一が蘭を好きな事を”周知”の事と見做していたって事か。)


娘の初恋の失恋を防げたのは自分だけだった。
蘭の幸せを願うなら、父親の自分より頼られる奴に嫉妬して目を曇らせてはならなかった。今ならそれがよく分かる。
(けれど、もう手遅れ、だな。だったら新生活に発破掛けるか。)
徐に携帯を取り出し、別居中の妻に掛ける。
「英理、あ~明日、家族3人で食事でもしないか?」
叶わなかった恋に終止符を打つ手伝いを、新しい恋への希望を示そう。

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後書 新志挙式を蘭が目撃後の小五郎さん視点です。
彼は普段迷探偵ですが、英理さんや親しい人の事になると鋭くなるので
娘の蘭の事も名推理するんじゃないかな~との思いから書いています。
また今まで気づけなかったのは何故か?と言うのも盛り込んでます。

もう一つの幼馴染の恋(一滴の水 番外 和葉編)

2015.10.03 09:37|一滴の水 番外編
花嫁の控室で出番待ちにベールを直しながら、急に一人になった静けさから、和葉はかつての友人の事を思い出していた。
(遂に呼べへんかった、蘭ちゃん。いつか、いつか笑って会える時が来るやろうか。)
和葉の脳裏に、高校2年生の時の自分が鮮やかに甦った。

「何やて!?工藤君に蘭ちゃんじゃない別の彼女いてた!?」
「う、うん。和葉ちゃん。わ、私、ずっと待ってたのに・・!!うぅ。」
「ロンドンで告白されたんやろ、蘭ちゃん!!」
「うん。されたよ。好きだって!なのに、なのに。あれ、何だったの!?ひどいよ、新一ぃ!!うわぁぁぁん。」
遂に堪え切れず号泣している蘭の泣いている声が、心に痛い。
平次から工藤君が帰ってきた事を聞き、だったらバレンタインを過ぎた辺りには、もう恋人同士になってるだろうと祝福と
冷やかしをするつもりで掛けた電話からは、予想外の話をされた。
すぐ飛んでって友人を慰めたいが、大阪と東都の距離と高校生のいう身分がそれを許してはくれない。
「ら、蘭ちゃん。元気だし!・・・やって難しいだろうけど。」
「うん。和葉ちゃん、ありがとう。ごほっごほっ。」
「風邪引いてるんやったな、ほなお大事に。・・・またね。」
「うん。じゃあまたね。」
(何でや?何であんな健気で可愛い蘭ちゃんを捨てて、他所の女といちゃついとるねん!)
”工藤君しばいたる!!”と意気込む和葉だったが、よく考えれば和葉自身は彼に数度しか会った事がなく、しかも蘭経由ばかりだ。
当然ながら、彼の連絡先や自宅など知らない。
(やったら、平次に聞くしかないわ!!)
その想いのまま、服部家に突撃した彼女だったが、そこで幼馴染から聞かされた事情は、まるで違っていた。
「何でそないに怒ってるんや?」
「当たり前やろ、あんなに待ってた蘭ちゃんどうなるん!?工藤君、酷い!!」
「毛利の姉ちゃん待ってへんで。」
「へ?何言うてるの?」
「・・・聞いてへんのか、まあいい。俺が聞いた話を説明したる。あんな、イブにな工藤にデート断られた毛利の姉ちゃんがその日のマジックショー付き合ってくれた転校生と付き合うたんや。」
「嘘やろ。」ひたすら彼を一途に待ち続けた蘭を知っている和葉にとって信じられない話だった。
「でや、翌日その事を工藤は知ったらしい。毛利探偵から聞いた言うとったな。その2日後だったかいな、今やっとる大捕物の関係で負傷した宮野の姉ちゃんに付き添っとった工藤は告白されて、付き合い始めたそうや。・・・工藤の何処が悪いのか、俺には分からへんわ。」
(そないな事聞いとらへんで、蘭ちゃん!!それがホンマやったら工藤君責める資格はないで。でも・・)
「・・・・。」
蘭を信じたいが、予想外な事言われて絶句してしまった彼女を見遣った幼馴染は、ちょっと顔をしかめて言った。
「あんな、どう毛利の姉ちゃんから聞いたか知らんけど、工藤は今までごっつう苦労してきたんや。守秘義務あるさかい詳しゅう言えんけどな。
毛利の姉ちゃんは待ってて辛いのは分かるけどな、待たせてる方が何も思わないわけないんやで。
その上、告白の返事を放置て、俺から言わせれば姉ちゃんの方がヒドイわ。」
「蘭ちゃん、告白の返事してへん?信じられへん・・。」
(でもそう言えば、蘭ちゃんから告白の返事の話、聞いた覚えないわ・・・。)
当たり前に恋人のような顔していたので、返事をしていたとばかり思い込んでいた。
「何でやの・・蘭ちゃん・・・。」彼への怒りが沈静化したと同時に、信じていた分だけ今度は蘭に裏切られた気分だった。
「まあ、毛利の姉ちゃん、淋しかったんやろうな。俺はそれを責めはせえへん。」
「そ、そや、きっと蘭ちゃん淋しかったんやな。一時の気の迷いなさかい。」
それでも今までの彼女との友情を否定したくなくて、咄嗟に蘭を庇っていた。
「せやけど、それで男作ったらもう工藤に何も言う権利あらへんで。」
「・・!!せやけど、せやけど!!」
(あんなに待ってたのに、何で!?)
それは蘭への非難か上手く行かなかった二人の恋に対する悔しさなのか分からぬまま”何故”を心の中で何度も叫ぶ。
「和葉、お前何でそないに工藤と毛利の姉ちゃんがくっつく事にこだわる?」
「当たり前やん、蘭ちゃんは友達なんやで!」
「せやけど他人が人の恋路に口出さん方がええ。」
「他人って友達なのに!何でや!!」
「それでも当事者やない。現にお前、姉ちゃんの言い分だけ聞いて工藤に理不尽に怒っとったやないか。」
平次の正論過ぎる正論にもう言い返す言葉がない。
でも自分でも、どうしようもない虚無感、怒りに捕らわれて、「もう、ええわ!!」と吐き捨てて和葉は服部家を後にしていた。

それから少し経った頃に日本中を震感させた黒の組織とその壊滅のニュースが流れ、和葉は平次が言った言葉の意味を知った。
”工藤はごっつう苦労してきたんや”
”守秘義務あるさかい詳しゅう言えん”
”待たせてる方が何も思わないわけやない”
(うち、蘭ちゃんの側からばっかり物事を見てたんやな。工藤君に悪い事したわ。)
服部平蔵と父親の会話を漏れ聞いたところによると、彼は何も知らせない事によって周囲の人を守ろうとしていたらしい。
(それでも蘭ちゃんにだけは言うといてあげてほしかったけど・・)
”平次が儂に頭下げるさかい、何かと思ったらこんなに危険な犯罪組織とやりおうとったとはな。気付かんかったのが悔しいわ。”
”よう無事やったな、工藤君、ホンマに大したモンやで”
”全くや、倅も少しは成長したやろうか。にしても、年末年始ずっとその関連の大捕物ばっかりやって、よう一段落ついたから部下に休みやれるわ”
”せやな、秘密厳守と多忙さからもせっかくの正月に帰ってへん若いもん沢山いるさかい”
”餞別やった方がええやろうか”
”そやな”
平次から彼の父を通じて秘かに大阪府警にも応援を頼んだその精鋭部隊は、年末から3月までずっとその後処理をしてきたらしい。
(お父ちゃんも正月なのに、ほとんど家におらへんかった。たまに居ても、あまり喋らへんで、厳しい顔してた。)
それだけ危険な組織だったのだ、と痛感できてしまった彼女はもう彼を非難する事は出来なかった。
けれど彼の側に非がない事が明らかになるに比例して、蘭を責める気持ちが押さえきれない。
自分に都合の悪い事を隠して、さも被害者のような顔してきた彼女に今までのような全面的な信頼がなくなってしまった。
同時に今までの彼女の気遣いや優しさも否定出来なくて、したくなくて、和葉はどうしていいのか分からなかった。
(わざとやない、とは思う。ショックで言うの忘れてた、とかありそうや。でも・・。)
あの時はそれで通じても、後で冷静になれば電話でもメールでも告げる事は出来たはずだ。
それをしない彼女に狡さや卑怯さを感じてしまい、友情が冷めていくのを感じた。
こちらから電話しようか、と思ったけど責めてしまいそうで、失恋したばかりの病みあがりな彼女にそれは流石に酷であると止めた。
それとは別に気掛かりな事もあったからだ。

”和葉、お前何でそないに工藤と毛利の姉ちゃんがくっつく事にこだわる?”

蘭への思いとは別にあの日からずっと心から離れない言葉だ。
(ホンマに何でやろう?)
そんな思いでぼーっと待ち合わせ場所のカフェでお茶していたら隣のOLっぽい二人組の会話が漏れ聞こえてきた。
「アナ雪良かったね~。もう、エルサに共感しちゃった。」
「あ、咲も長女だもんね。」
「そうなのよね。ああいう映画って人によって感動する場面が違うよね。投影してる人物にフォーカス当てるらしいよ。」
「それ、分かる!!こないだ彼氏とシンデレラ観に行ったんだけど、私はドレスの魔法のシーンとかに目奪われたし
最後のキッド王子が兵士の振りして、悪大臣の裏を書くのに感嘆したけど、彼ったら、あのシーンで王子に向かって、仕事どうしたんだよって言ってた。」
「あは、男性らしい視点だよね。其処は突っ込まないお約束!でも実際問題、その間の国事どうしたのって言われちゃうかもね。」
「男性視点て面白いよね。ってかタイタニックなんか男女関係なく泣いたシーンが人によって違うらしいよ。」
「そうね。王道はディカプリオが死ぬシーンだけど、私、あの沈みゆく豪華客船の中で演奏した楽団にぐっときたな。」
「私、諦めたお母さんが子供に物語聞かせるシーン!!」
”投影してる人物にフォーカス当てる”という彼女らの会話を聞いた途端、天啓の様に和葉にある考えが下りてきた。
(うち、もしかして工藤君と蘭ちゃんに、自分と平次の事、重ねてみてたん?)
東西の名探偵と言われた二人に、空手と合気道という武道を嗜む小さい頃から一緒だった幼馴染という蘭と和葉。
まるで鏡合わせのような自分達。
(蘭ちゃん達の恋が実ったら、自分達の恋も実るような気がしてた・・?)
だからあんなに応援してたんやろうか、と自己の心を振りかえる彼女に聞き慣れた声が掛かる。
「和葉!お待っとさん!」
「平次、遅いやないの!」
「スマン、スマン!これ中々やな。」
謝りながら買ったばかりの本を広げる平次とその本を覗きこむ。
それは東都大学の赤本だった。
「え・・?平次、京大受けるんやないの?」
「最初はな、そのつもりやってん。でも工藤と話してたら、やっぱり日本一ってだけあって設備は勿論教授陣が凄いいいらしいんねんて。」
まだ工藤も通ってへんけど、飛び入学の入試時にかなりカリキュラムの説明をされた中に面白い授業あるんや、と続ける。
その中に平次が受けたい授業があったらしい。
「い、嫌や。行かへんといて!」
「何でや!?」
「だって離れてしもうたら・・」
(嫌や!!離れてしまったら工藤君と同じになってしまう。別の女のものになってしまう!そんなん嫌や!!)
蘭と自分をある意味同一視したままの思考で、幼馴染が離れてしまう恐怖が彼女を動かした。
「あんな平次、うち、あんたの事めっちゃ好きやねん!!彡」
「へ!?ええと彡」
「だから行かへんといて!!」
「・・遠恋じゃあかんか?」
「え?」
「4年後絶対帰って来るで、な。」
「平次・・。」
それでも尚、心細げな顔をする和葉に対し、更に言葉を紡ぐ。
「俺も好きやで、和葉。ほんなら俺の女って事でええんやな!?好きってそういう意味やな?」
「うん。」
「もし前言撤回するなら今しかないで。後からは受け付けん。」
「前言撤回なんか絶対せえへん!」

そうして二人は両想いになり、紆余曲折ありながらも遠距離恋愛を乗り越え、大学卒業とほぼ同時に今日結婚する。
実は蘭には何度か連絡を取ったが、会う度にお互いの幼馴染との冷やかし合いをするのが当たり前だったのが嘘のように、二人ともその話題を避けてしまっていた。
(ウチだけ幸せになるの、後ろめたかってん。)
そうなると元々は幼馴染が探偵同士がきっかけで仲良くなった二人は、共通項がなくなり疎遠になっていった。
(蘭ちゃん、特待生で試合に出てばかりやったしな。)
だがそれは言い訳だと分かっていた。
だって遠恋中だった平次には2ヶ月おきには会えるよう、バイトに、勉強に頑張っていた。
あの時自分の非を言わず、まるで悲劇のヒロインのような彼女に醒めた気持ちがあり、かと言って嫌いになったわけでもないが、特に付き合う理由もなくなった、というのがより正しいだろうか。
(でも嫌いにならへん。基本的にええ子や。連絡がいつでも取れても平次と4年離れててウチ淋しかった。・・蘭ちゃんなんか、何処にいるか分からない上に、たまにしか連絡なくて・・もっと孤独やったろう。)
自身の経験から隣に彼がいない孤独に共感したから、待てなかった彼女を責める気持ちは薄らいでいった。
嫌いになったわけでも喧嘩したわけでもないが、あの時の事がしこりとなり、疎遠になってしまった彼女と話したくて、結婚式に招待しようと思ったが、新郎側の友人枠の招待客に工藤一家がいたのだ。
(それだけやったら招待したけど、まさか蘭ちゃんがまた遠距離恋愛になって彼氏と別れたばかりやなんて。)
半年前、人伝に空手部の元先輩との別れを聞き、タイミングの悪さに思わず溜息を付いてしまったものだ。
平次の婚約者として、この4年間蘭とより遥かに多く彼らと会っている彼女は、工藤夫妻の仲睦まじさとその間に産まれた蒼と美保の事も良く知っていた。
恋人と別れたばかりの蘭にとって、かつての初恋の人とその妻、そしてその間の愛の結晶達を見るのはかなり辛くないだろうかと考え、結局郵送されずに終わった招待状が実家にはある。
そして冒頭の和葉の独白となったわけである。
(御免。蘭ちゃん、結局ウチの口からは何も言えへんかった。工藤君の結婚も子供らの事も。)
(遂に呼べへんかった、蘭ちゃん。いつか、いつか笑って会える時が来るよね・・?)

「そろそろお時間です。」
「はい。行きます。」
今日から平次と夫婦として歩む最初の日。
(ほな、行こう。平次が待ってる。)
***************************************************
後書 一滴の水 番外編の和葉視点です。
大阪弁が難しくて苦労しました(;^ω^)
青山先生は幼馴染至上主義のようですが、当BLOGの中では、幼馴染の中で唯一平和だけが上手くいきそうとの想いから書いています。
と言うのは蘭ちゃんは好きなのに、告白されてるのに待ってるだけで本編のような展開になりそう。
青子ちゃんは子供っぽ過ぎて自分の気持ちに気づくのが遅く、新一と蘭と同じように男性側の急成長についていけなさそうなんです。ただし天然さんなので人間関係が緩やかなまま兄妹的な関係になっていきそう。
それに比べ、和葉ちゃんだけは原作で告白し(相手が鈍すぎてスルーされてしまってましたが)
平次も「俺の和葉」と明言してます。故にこのCPだけ上手くいきそうだな、と。
よく似た蘭ちゃんの失敗を反面教師とし、自分で行動するを進めた彼女は幼馴染との恋を叶えたのでしたww
感想待ってます(^^♪

共に歩む幸せを(一滴の水 番外編 蘭幸せ編)

2015.09.18 23:30|一滴の水 番外編
来てくれますように、と願いながら手紙を投函した蘭はその足で自宅兼ペンションへ戻った。
宿泊客の夕食作りに励み、後はお鍋でぐつぐつ煮込むのを待つだけ、となった際に、想いは先程出した手紙の宛先の事に飛んでった。
成就を信じて叶わなかった初恋の相手、工藤新一。
隣にいるのが当たり前で、これまた隣には親友の園子もいてずっと3人で過ごしていけると思っていた眩い記憶。
園子は結婚式の時に来てくれて、米花町の何処を見ても思い出だらけと笑い合えて、心は一気に過去へ還って懐かしくて嬉しかった。
(あの頃の話をしたいと新一も思ってくれていたらいいな。)
失恋したからと言って過去の想い出を全部否定する必要はない。今でも彼は蘭の大事な幼馴染だ。

サプライズ挙式を見て寝込んだ高校3年生の11月。
またその頃彼は、母親と共にジュエリーのCM出演しており、忘れようと思ってもクリスマス商戦の為、心の準備なくテレビに出てくるので、過呼吸の発作がよりひどくなり、苦しめられ涙した年末。
(あれは最悪のクリスマスだったよね。あ、でもお父さんとお母さんが二人揃って年末年始家に居てくれたっけ。)
あまりの蘭の状態を心配した毛利夫妻がずっと家に居てくれた事は、彼女にとって嬉しい事だった。
そして幾つもの出会いと別れを繰り返し、やっと今の夫と出会った。
一昨年のクリスマス、前の彼氏と別れた後、優花のアドバイス通り”自分を大事にする”事にした。
興味があるものは何でもトライした中で、軽い気持ちで参加した登山にハマったのだ。
(一歩一歩進んで行くと絶対登頂できるんだものね。しかも大自然見てると、月並みだけど自分の悩みがちっぽけになるっていうか。)
体力のある蘭は、ハイキングから本格的な登山に移行するのにそれ程掛からなかった。
ある山荘で、自分の飲み物に名前をきちんと書いたはずなのに、なくなってしまい困っていたら、何と同じ毛利という姓の男性が
間違えて取って使ってしまったと、お詫びに、よく似た飲み物と共に別の食料をくれた。
1人分も2人分も作る手間一緒だからと、蘭が振舞った手料理を「すごく美味しいよ!!」と絶賛してくれたのが好意のきっかけだった。
難易度の高い山でも付いてこれ、且つ料理も上手な蘭と彼は気が合い、交際するようになったのだ。
彼は世間で言う一流会社に勤めており、だが山が好きでいつか登山客の為のペンションがやりたいと言う夢を持っていた。
蘭は思わず「素敵な夢ね!!私厨房担当ね。」と賛同していた。
それが結婚の決め手だった、と後に嬉しそうに夫は語ってくれた。
「嬉しいな!蘭ちゃんはそう言ってくれるんだね。・・・でも本当にいいのかい?
そういうと今までの彼女はせっかくエリート街道乗ってるのに勿体ないって言うんだよ。
それか田舎暮らししたくない、とかね。」
彼女らは一流商社マンの自身が好きだったのだと淋しげに呟いた。
「そんな、何で!?好きな人の夢を応援するのは当然だよ!」
「うん、でも価値観は人様々だから・・・毛利蘭さん、僕と結婚して下さい。」
「は、はい彡。」

一気に過去を振り返った蘭は、かつて新一が側にいても淋しい時があった理由が分かる気がした。
(私、好きな人の役に立ちたかったんだ。新一も料理美味しいって言ってくれてたけど、そうじゃなくて彼の一番大事なところで。)
けれど空手以外は平凡な蘭に推理で役立てるわけもなかった。
新一は別に其処まで要求しなかったけれど、蘭はそうなりたかったのだ。
18歳のあの時、平成のミズ ワトソン若しくはアイリーン・アドラーと称された彼の妻が羨ましくてならなかったのだ。
(好きな人の夢が自分の夢になる。好きな人の夢を一緒に追いかけたい。)
其れが叶えられないからあんなに”推理オタク”とか言って否定しまっていたのだと今なら分かる。
家事をし我が家を整え、好きな旦那さんの帰りを待つというのもよくある夫婦の形だし、嘗ては蘭もそれに憧れた。
(お母さんが家出しちゃったから、余計に私は子供に淋しい思いはさせない!専業主婦になるんだって思ってた。)
だが心の奥底では違う事を祈っていた。だからこそ今が楽しい。
自営業ならずっと家にいながら、夫の仕事の手助けも出来るのだ。
小学生から家事一切をやってきた蘭にとってペンションでの掃除・洗濯・料理は慣れたもので、その見事な手捌きに
「蘭の御蔭で、山岳ガイドや営業に心おきなく出掛けられるよ。ありがとう。」と夫は感謝してくれている。
電話応対も接客も、探偵事務所や嘗ての前職での経験で慣れてお手の物。
「「「ただいま~。」」」
「お帰りなさい!」
「今日の夕ご飯は何ですか~?」
「本日はじっくり煮込んだシチューと自家製焼き立てクルミ入りパン、サーモンと人参のマリネです。デザートは夫が持って帰って来るもので決まるので、お楽しみって事で。」
「お、やった!!此処の料理何でも旨いけど、今日山の雨で冷えたからさ~。」
「そうなんですか。デザートも温かいものにしましょうか?」
そう客とやりとりしながら、蘭はこのペンションでの自分の存在意義を感じてにっこりと笑んだ。
(此処なら私は私らしく在れる。一緒の物を見て、歩いて行けるってこんなに幸せなんだね。)
新一も志保さんと出会って同じ事を思ったのかなとちらっと考えながら、夫を出迎える為に裏口へ回った。
「お帰りなさい、貴方!」
***************************************************
後書 おそらく新一編より待たれているであろう蘭編(何故かそうなんです。)
さてネタばれと言うか詳しく話すと結婚式の時は、ペンション オープンでかなりお金を費やし
お互いの身内とごく親しい友人のみ招待したので、新一は参列していないのです。
この話のポイントは一緒に歩いて行ける相手を見つけた蘭ちゃんが幸せになり、新一と志保もそうだったのでは、と気付く。
推理オタクと貶していた理由がクリスマスで気付いた「一番になりたかった」だけではなく別にもあったと思い至るトコです。
個人的には、専業主婦で待っているというのもアリだと思います。
組織の事さえなければ、新蘭夫婦になったかもしれないとの想いも入ってますが、其処まで書けませんでした^^;
私は待つだけは退屈なんで自分も仕事(でも旦那とは別がいい 仕事と家庭は別を推奨派)しますが、蘭ちゃんは自営業の娘ですし
依存性が高い淋しがり屋ですから、こっちの方が向いてるって思ったんですね。
そしてもう1つのポイント☆彡
志保が平成のミズ ワトソン若しくはアイリーン・アドラーと呼ばれている点につきましては私の好みです(笑)
支部でそういう趣旨の上手なイラスト見つけて、このフレーズ使いたいx2になりました。
平成のミズ ワトソンは、ホームズの助手兼医者でもある彼女
アイリーン・アドラーはホームズが愛した、彼を唯一出しぬいた頭脳と演技の持ち主という意味が込められてて
警察関係者に秘かに浸透している呼び名です。
蘭ちゃんが何故知っているのかと言うのは、目暮警部と父:小五郎が話しているのを聞いてしまい
まだ失恋の痛手から立ち直っていない蘭ちゃんが更に落ち込んだという、裏話があります。
でもま、幸せになったので・・皆様の祝福をお待ちしております(●^o^●)
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プロフィール

30代OLが歴史・節約・日頃・二次小説のことを書き綴っています。 コメント大歓迎★ ですが、宣伝や本文に何も関係ないもの もしくは激しく不愉快、コピペ等、そういった類は、私の判断により 誠に勝手ながら削除の方向です。楽しく語りたいです♪ 二次創作小説もありますが、このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。

雪月花桜

Author:雪月花桜
タイトル通り歴史大好きな女がブログしてます。
歴史を元にした小説なんかも大好きでそれらについても語ったり、短編なんか書いてみたいです。
現在それ以外でも二次小説をupしておりますし、OLなりの節約・日々の徒然を語っています。

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