道化師~愚者か賢者か幸いなる者か~
前書
蘭ちゃんが可哀想な事になっております。
彼女のファンは見ないで下さい。
見た後の苦情は受け付けておりませんので、悪しからず><
**********************************************
(どうしてこんな場所で鉢合わせするんだろう。)
蘭は喫茶店で身じろぎもせずに、息を殺していた。
時は少し遡る-。
その日は2月の自主登校日で既に進路の決まっていた蘭は、一人で帰宅への途についていた。
(園子は家の都合、世良さんも受験でいない。お父さんも仕事でいないし、食事作りたくないな。)
不思議なもので誰かのと為と思うと疲れていても料理する気力が湧くが、自分一人だと適当でいいやと思えてしまう。
だが今日はポアロの臨時休業日。
(別のカフェか喫茶店ないかな。出来ればフードメニューが充実してて美味しそうなとこ。)
偶然駅近くで新規オープンと銘打った喫茶店を見つけ、制服姿で一人の為、少し肩身が狭い気分ながら入店した。
ちょっと早い夕食用としてグラタンを頼んだ後、備え付けのTVを見ていた。
蘭の左横の天井近くに備え付けしてある画面の為、少し見づらいが暇潰しにはなる。
そして見たのが、いわゆる恋愛ドラマだった。
ダブルヒロインで一人の男性を巡る恋物語といった風体で蘭は地味だが清楚で一途なヒロインの方に感情移入して見ていた。
だが物語が進むにつれ、相手役は華やかな美人の方のヒロインに心魅かれていく。
”「何で?何でなの?こんなに尽くしてあげたのに」”
”「そういうの、うざいんだよ!!・・悪い。今までありがとう。でも、もう世話やいてくれなくていいから。」”
”「付き合っているって思ってたの私だけだったって言うの?・・そんなとんだピエロじゃない!笑い者じゃない!うわぁぁぁん!」”
”「知らねえよ!勝手に思い込んだ事までこっちのせいにしないでくれよ!」”
1年前の工藤邸での失恋を思い出し、これは過去の自分だと認識した蘭が泣きそうになったその時、耳は信じられない音を拾った。
「俺、コーヒー。志保は紅茶か?」それは嘗ての想い人の声だった。
「ええ。ミルクティーがいいわ。ご機嫌ね、ホームズさん。」
「おう。だって絶版のあの本、手に入ったんだぜ!?軽く何か食うか?」わくわくと言う新一。
「そうねえ。あ、この季節のホットケーキ、アップルフィリングのってて美味しそうよ。」
「だな。ただ量が多いな~。・・半分こするか?」
「そうね。シェアしましょう。旦那様のおごりでね♪」
「仰せのままに。奥様。」
誰が聞いても仲の良いカップルの会話が後ろからする。
否、結婚式を目撃した蘭には新婚ほやほやの夫婦の会話だった。
そして冒頭に話は戻るわけである。
二人の会話なんて聞きたくない蘭は、すぐさまこの場を去ろうとしたが、まだ注文したグラタンが来ていない。
しかも、蘭の方が奥まった席に居た為、出ようとするなら、二人の前を通らなくてはいけない。
惨めで自分が居た事すら知られたくない蘭は、立ち去る事も出来ず、じっと待っているしか出来なくなっていた。
(どうしてこんな場所で鉢合わせするんだろう。)
不幸中の幸いは、この喫茶店の背もたれが通常のよりずっと高く厚い事であった。
つまり存在を知られたくなければ、ここで息を潜めて、二人が去るのを待てばいい。というより他に方法がなかった。
目尻に涙が溜まるのを感じながら、テレビに集中しようとするが、意識はどうしても背凭れを境にした背中合わせの新一とその向かい側の席にいるであろう彼女の会話に向かう。
「このヒロイン、自分の事ピエロだって言ってるけど、ピエロに失礼だよな~。」
(何でそんな事言うの、新一!??可哀想過ぎるよ!)
「あら。笑い者って意味では合ってる言葉の使い方だけど。」
(宮野さんまで・・!!酷い、酷いよぉぉ!)
「そうだけどさ、ピエロ・・道化師ってさ。マジシャンみたいに大道芸で人を楽しませるって良い意味もあるし
その意味じゃなくてさ、王に遠慮なく意見言えるってアドバイザーって説もあるのに。ほらリア王とかさ。」
(リア王?シェイクスピアの四大悲劇だよね。それのピエロ?)
「貴方マジシャン好きね。・・ええ、確かに鋭い意見を随所で言うわね。」
(え?え?)
「だろ?彼の皮肉に満ちた言葉は核心を幾度となく突いてるよな!王も其処で気付けばいいのに。」
「そうねえ。現実だとスタニスワフ・ゴンスカかしら。ポーランド黄金期にもうその陰りに気づいていたとか凄いわよね。」
「だな。大抵黄金期ってこの繁栄がずっと続くって思ちまって、問題に眼を逸らしがちな人が多いのにな。」
(スタ・・何?ポーランド??)
「新一も気をつけなさいよ。貴方、調子に乗ると天井知らずなんだから。」
「俺は大丈夫さ。・・だって志保、おめえが側に居てくれるんだろ。」
「・・新一ったら、もう!////」
惚気満載の会話に彼女はどん底だと思っていた気分が更に下がるのを感じた。
11月のサプライズ挙式で受けた失恋の傷がどくどくと音を立てて血を流す-。
今までの彼女なら”幼馴染”を盾に会話に乱入しただろう。
10月に当然のような顔をしてそうしたように。
だがそれはもう出来ない。
何故なら志保は彼の”妻”だから。
いかに彼女とて”幼馴染”が”妻”より優先されるなんて、思い違いは出来なかった。
それをしたら、彼女の恋愛観の元になった両親の否定になる。
別居していても妻だから、お母さんはお父さんの1番と言えなくなる-。
だが堪えても堪えても、遂にぼろぼろと滂沱の涙を頬を伝う。
泣き声を上げないでいるのが精一杯だった。
(お願い・・!!発作は、発作だけはおきないで!)
サプライズ挙式を見てからの過呼吸の発作だけは、二人にだけは見られたくなかった蘭はもう必死に祈った。
その後は彼らの方が早く飲み物とホットケーキが来たようで、会話はあまりなくカチャカチャと音が聞こえた。
二人の会話を聞きたくない蘭は、さっきの会話の意味が知りたい気持ちから、スマフォで検索を掛け、意識を集中させた。
雑学を載せているホーム頁にそれはあった。
”道化師 滑稽な格好、行動、言動などをして他人を楽しませる者(大道芸人)が現代では一般的。
サーカスのクラウン (clown) や、中世ヨーロッパの宮廷道化師 (jester)の意味もある 。”
”宮廷道化師の仕事は、その名の通りの主人または周囲の人物達を楽しませる役割。
ただ、宮廷道化師達は小人症などの肉体的障害を持っているものが多く、笑い物としての対象にされていた。
現代でも使われるピエロにされた等と笑い者にされた様は、此処から派生した言い方である。
反面、君主に向かって無礼なことでも自由にものを言うことができる唯一の存在でもあり
意見するオンブズマン (Ombudsman) としての役割も果たしていた説が有る。”
(こういう意味だったんだ。・・多分リア王の宮廷道化師は鋭い意見を言うキャラなんだろうな。)
腑に落ちた蘭の目の前にグラタンが置かれる。
その様をぼんやり見ていたが、その後ウエイターが後ろの席を片づける音が聞こえた為、愕然とする。
(いつの間に二人とも帰ったの!?)
気持ちを切り替えようと、テレビを見るともう時間的に終わりである。
結局TVの中の彼は、奔放で華やかな美人と新婚旅行に行く最後のシーンだった。
(もう、嫌!もうやだよぉ!)
何故、テレビだけでなく、現実でも癒えていない失恋の傷を抉られなければいけないのか-。
「うわぁぁぁん!」(しんいち、しんいちぃ)
悲鳴のような泣き声に周りの客達からの遠巻きの視線を感じるが、構っていられなかった。
蘭は耳を塞ぎ目を閉じ、いやいやと現実を拒絶するように頭を振っていた。
20分以上経っただろうか-。
(早く食べてもう帰ろう!)
彼女は徐にスプーンを取りだし、冷めかけたグラタンをすごい勢いで食べ始める。味なんて分からない。知らない。
その時スプーンがスマフォにあたった。
自分の知りたい情報だけ見た彼女が見ていないHP管理者の締めの文章が、誰にも知られず拡大された。
”愚者としてのピエロ 賢者としてのピエロ 人を笑わすピエロ。
様々な意味がある道化師ですが、皆さんはどれが好きですか?
私はお喋り・軽快な踊りやジャグリングなので人を幸福に出来る現代のピエロが大好きです(^◇^)”

**********************************************
後書 蘭高校3年の卒業間際のお話です。
前書通り、蘭ちゃんが可哀想な事になっております。一言も喋っていないのにも係わらず(^^ゞ
物事を多角的に見れて幅広い知識を持つ知性派カップルとそれについていけない視野狭窄な蘭ちゃんを書きたかったから満足(^v^)
ピクシブで、緋色組とアンチヒロインの小説が大盛況で触発されて思わず書いてしまいました(笑)
え?って事は次は最強3人組のお話?うわあ楽しいけど大変そう)^o^( 墓穴掘った??(笑
イメージ画像のピエロは、表情豊かでお気に入りなガラスピエロでした(^◇^)
蘭ちゃんが可哀想な事になっております。
彼女のファンは見ないで下さい。
見た後の苦情は受け付けておりませんので、悪しからず><
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(どうしてこんな場所で鉢合わせするんだろう。)
蘭は喫茶店で身じろぎもせずに、息を殺していた。
時は少し遡る-。
その日は2月の自主登校日で既に進路の決まっていた蘭は、一人で帰宅への途についていた。
(園子は家の都合、世良さんも受験でいない。お父さんも仕事でいないし、食事作りたくないな。)
不思議なもので誰かのと為と思うと疲れていても料理する気力が湧くが、自分一人だと適当でいいやと思えてしまう。
だが今日はポアロの臨時休業日。
(別のカフェか喫茶店ないかな。出来ればフードメニューが充実してて美味しそうなとこ。)
偶然駅近くで新規オープンと銘打った喫茶店を見つけ、制服姿で一人の為、少し肩身が狭い気分ながら入店した。
ちょっと早い夕食用としてグラタンを頼んだ後、備え付けのTVを見ていた。
蘭の左横の天井近くに備え付けしてある画面の為、少し見づらいが暇潰しにはなる。
そして見たのが、いわゆる恋愛ドラマだった。
ダブルヒロインで一人の男性を巡る恋物語といった風体で蘭は地味だが清楚で一途なヒロインの方に感情移入して見ていた。
だが物語が進むにつれ、相手役は華やかな美人の方のヒロインに心魅かれていく。
”「何で?何でなの?こんなに尽くしてあげたのに」”
”「そういうの、うざいんだよ!!・・悪い。今までありがとう。でも、もう世話やいてくれなくていいから。」”
”「付き合っているって思ってたの私だけだったって言うの?・・そんなとんだピエロじゃない!笑い者じゃない!うわぁぁぁん!」”
”「知らねえよ!勝手に思い込んだ事までこっちのせいにしないでくれよ!」”
1年前の工藤邸での失恋を思い出し、これは過去の自分だと認識した蘭が泣きそうになったその時、耳は信じられない音を拾った。
「俺、コーヒー。志保は紅茶か?」それは嘗ての想い人の声だった。
「ええ。ミルクティーがいいわ。ご機嫌ね、ホームズさん。」
「おう。だって絶版のあの本、手に入ったんだぜ!?軽く何か食うか?」わくわくと言う新一。
「そうねえ。あ、この季節のホットケーキ、アップルフィリングのってて美味しそうよ。」
「だな。ただ量が多いな~。・・半分こするか?」
「そうね。シェアしましょう。旦那様のおごりでね♪」
「仰せのままに。奥様。」
誰が聞いても仲の良いカップルの会話が後ろからする。
否、結婚式を目撃した蘭には新婚ほやほやの夫婦の会話だった。
そして冒頭に話は戻るわけである。
二人の会話なんて聞きたくない蘭は、すぐさまこの場を去ろうとしたが、まだ注文したグラタンが来ていない。
しかも、蘭の方が奥まった席に居た為、出ようとするなら、二人の前を通らなくてはいけない。
惨めで自分が居た事すら知られたくない蘭は、立ち去る事も出来ず、じっと待っているしか出来なくなっていた。
(どうしてこんな場所で鉢合わせするんだろう。)
不幸中の幸いは、この喫茶店の背もたれが通常のよりずっと高く厚い事であった。
つまり存在を知られたくなければ、ここで息を潜めて、二人が去るのを待てばいい。というより他に方法がなかった。
目尻に涙が溜まるのを感じながら、テレビに集中しようとするが、意識はどうしても背凭れを境にした背中合わせの新一とその向かい側の席にいるであろう彼女の会話に向かう。
「このヒロイン、自分の事ピエロだって言ってるけど、ピエロに失礼だよな~。」
(何でそんな事言うの、新一!??可哀想過ぎるよ!)
「あら。笑い者って意味では合ってる言葉の使い方だけど。」
(宮野さんまで・・!!酷い、酷いよぉぉ!)
「そうだけどさ、ピエロ・・道化師ってさ。マジシャンみたいに大道芸で人を楽しませるって良い意味もあるし
その意味じゃなくてさ、王に遠慮なく意見言えるってアドバイザーって説もあるのに。ほらリア王とかさ。」
(リア王?シェイクスピアの四大悲劇だよね。それのピエロ?)
「貴方マジシャン好きね。・・ええ、確かに鋭い意見を随所で言うわね。」
(え?え?)
「だろ?彼の皮肉に満ちた言葉は核心を幾度となく突いてるよな!王も其処で気付けばいいのに。」
「そうねえ。現実だとスタニスワフ・ゴンスカかしら。ポーランド黄金期にもうその陰りに気づいていたとか凄いわよね。」
「だな。大抵黄金期ってこの繁栄がずっと続くって思ちまって、問題に眼を逸らしがちな人が多いのにな。」
(スタ・・何?ポーランド??)
「新一も気をつけなさいよ。貴方、調子に乗ると天井知らずなんだから。」
「俺は大丈夫さ。・・だって志保、おめえが側に居てくれるんだろ。」
「・・新一ったら、もう!////」
惚気満載の会話に彼女はどん底だと思っていた気分が更に下がるのを感じた。
11月のサプライズ挙式で受けた失恋の傷がどくどくと音を立てて血を流す-。
今までの彼女なら”幼馴染”を盾に会話に乱入しただろう。
10月に当然のような顔をしてそうしたように。
だがそれはもう出来ない。
何故なら志保は彼の”妻”だから。
いかに彼女とて”幼馴染”が”妻”より優先されるなんて、思い違いは出来なかった。
それをしたら、彼女の恋愛観の元になった両親の否定になる。
別居していても妻だから、お母さんはお父さんの1番と言えなくなる-。
だが堪えても堪えても、遂にぼろぼろと滂沱の涙を頬を伝う。
泣き声を上げないでいるのが精一杯だった。
(お願い・・!!発作は、発作だけはおきないで!)
サプライズ挙式を見てからの過呼吸の発作だけは、二人にだけは見られたくなかった蘭はもう必死に祈った。
その後は彼らの方が早く飲み物とホットケーキが来たようで、会話はあまりなくカチャカチャと音が聞こえた。
二人の会話を聞きたくない蘭は、さっきの会話の意味が知りたい気持ちから、スマフォで検索を掛け、意識を集中させた。
雑学を載せているホーム頁にそれはあった。
”道化師 滑稽な格好、行動、言動などをして他人を楽しませる者(大道芸人)が現代では一般的。
サーカスのクラウン (clown) や、中世ヨーロッパの宮廷道化師 (jester)の意味もある 。”
”宮廷道化師の仕事は、その名の通りの主人または周囲の人物達を楽しませる役割。
ただ、宮廷道化師達は小人症などの肉体的障害を持っているものが多く、笑い物としての対象にされていた。
現代でも使われるピエロにされた等と笑い者にされた様は、此処から派生した言い方である。
反面、君主に向かって無礼なことでも自由にものを言うことができる唯一の存在でもあり
意見するオンブズマン (Ombudsman) としての役割も果たしていた説が有る。”
(こういう意味だったんだ。・・多分リア王の宮廷道化師は鋭い意見を言うキャラなんだろうな。)
腑に落ちた蘭の目の前にグラタンが置かれる。
その様をぼんやり見ていたが、その後ウエイターが後ろの席を片づける音が聞こえた為、愕然とする。
(いつの間に二人とも帰ったの!?)
気持ちを切り替えようと、テレビを見るともう時間的に終わりである。
結局TVの中の彼は、奔放で華やかな美人と新婚旅行に行く最後のシーンだった。
(もう、嫌!もうやだよぉ!)
何故、テレビだけでなく、現実でも癒えていない失恋の傷を抉られなければいけないのか-。
「うわぁぁぁん!」(しんいち、しんいちぃ)
悲鳴のような泣き声に周りの客達からの遠巻きの視線を感じるが、構っていられなかった。
蘭は耳を塞ぎ目を閉じ、いやいやと現実を拒絶するように頭を振っていた。
20分以上経っただろうか-。
(早く食べてもう帰ろう!)
彼女は徐にスプーンを取りだし、冷めかけたグラタンをすごい勢いで食べ始める。味なんて分からない。知らない。
その時スプーンがスマフォにあたった。
自分の知りたい情報だけ見た彼女が見ていないHP管理者の締めの文章が、誰にも知られず拡大された。
”愚者としてのピエロ 賢者としてのピエロ 人を笑わすピエロ。
様々な意味がある道化師ですが、皆さんはどれが好きですか?
私はお喋り・軽快な踊りやジャグリングなので人を幸福に出来る現代のピエロが大好きです(^◇^)”

**********************************************
後書 蘭高校3年の卒業間際のお話です。
前書通り、蘭ちゃんが可哀想な事になっております。一言も喋っていないのにも係わらず(^^ゞ
物事を多角的に見れて幅広い知識を持つ知性派カップルとそれについていけない視野狭窄な蘭ちゃんを書きたかったから満足(^v^)
ピクシブで、緋色組とアンチヒロインの小説が大盛況で触発されて思わず書いてしまいました(笑)
え?って事は次は最強3人組のお話?うわあ楽しいけど大変そう)^o^( 墓穴掘った??(笑
イメージ画像のピエロは、表情豊かでお気に入りなガラスピエロでした(^◇^)