夢の絆⑥~服部平次の独り相撲~
今回は些か服部厳しめ 要素がございます。彼のファンは回れ右願います。
本シリーズ作品はヒロインあまり出ませんが彼女には優しくありませんので、ranちゃんファンはご遠慮願います。
このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。
私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。
*******************
新一には逆行し再び組織壊滅を決意した時から、心に決めた事がある。
それは妙に鋭く暴走癖のある蘭を筆頭に不安要素をなるべく遠ざけること。
誰も死なすつもりはない。綺麗事過ぎるかもしれない。
けれど最初から諦めたくなかった。
ただその為に今までの生活から切り捨てるべきものがあるのも覚悟していた。
『あの西の探偵さん、迂闊過ぎるんじゃないかしら?』
『だよね~。やたら小さい名探偵を工藤呼びするしさ。』
逆行前の相棒たちとの会話が蘇る。
「…だな。」
服部はイイ奴だ。
気に入らない人間にすぐ怒鳴ったり絡んだりする欠点はあるが、正義感も探偵能力もある熱血漢と評して差し支えない。
あの底抜けの明るさに救われる人間もいるだろう。
普段の生活では以前と同じように友人をやる分には問題ない。
だが組織相手と考えると、その認識はガラリと変わる。
まず年上の相手でも敬語を使わない。
面識がない新一に突撃する為、いきなり毛利探偵事務所に乗り込んでくる。
FBIやCIA、公安等と連携する未来を考えるともうこれだけで駄目だ。
それだけではない。
幼児化した自身を何度注意しても工藤呼びする迂闊さ、秘密保持への甘さ。
もし組織の奴らに聞かれていたらと思うと今でもぞっとする。
結論は逆行前と同じだった。
「わりいな、服部。」
”以前”と同じく服部は対組織戦には関わらせない-。
(だとしたら、蘭と同じでそもそも親しくならない方がいいな。)
(一緒に解決した事件もあるし、いつかは出会うだろうけど、それまではなるべく避けよう。)
自身とほぼ対等の能力と事件にのめり込む好奇心で、おそらく親しくなればなるほど、情報漏洩の危険性が増える-。
志保からファンレター風の暗号の手紙で返事を貰い、快斗と極秘裏に救出作戦を練り続けていた新一にとって優先順位は、はっきりしていた。
*******************
「推理に勝ったも負けたも、上も下もねーよ、真実はいつもたった一つしかねーんだからな…」
結局自宅に突撃されて、逆行前と同じく推理勝負を吹っ掛けられてしまった。
渋ったものの、同時刻目暮警部から要請があり強引に同行され、外交官殺人事件で服部にこの台詞を言うことになっていた。
(どうか分かってくれ。服部。推理には勝負などない事を-。)
その考え方は被害者のみならず、自身をも貶める行為であることを。
*******************
服部平次は苛立っていた。
「東の工藤、西の服部」と呼ばれ、自分と並び賞される工藤新一の推理力を試しに東都まで行った。
結果、新一に負けて言われた事と勝負に拘り過ぎたことを反省して、「真実」を優先するように考えを改めた。
だが最初の事件で犯人の仕掛けたミスリードにまんまと引っ掛かってしまった事を皮切りに、その後の事件でも工藤の方が圧倒的に早く事件解決していた。
生来負けん気の強い平次には、これはもの凄く悔しい事だった。
逆行前でさえ、僅差とは言え新一の方が推理力が上だった。
おまけにコナンになったが故に上がった臨機応変力や周りへの配慮。
その上、逆行という現象により新一は事件が前と同じか?という点に注意すればいいのだ。
違う時は軌道修正するが、何も知らずに捜査を始める服部と差が出るのは至極当たり前だった。
この点は仕方ないとは言え、服部には些か気の毒な事だった。
加えて工藤の何処か壁を作った雰囲気が気に喰わない。
服部は彼をライバルだと思っているし、もっと親しくしたいのだが、ただの知人という枠からそれ以上踏み込ませないのだ。
これは無論将来の組織壊滅を視野に入れた新一の配慮なのだが、服部からしたら、知る由もない。
よって彼からしたら、対等だと思っているライバルに悉く先を越された挙句認められていない、という探偵としての矜持をいたく傷つけられた思いを抱えることになる。
(何でやねん!!くっそ-!!次こそは勝つ!勝って認めさせたる!!見てろや!工藤っ!!)
結局平次は諌められたことを忘れ、再び勝つ事に執念を燃やしてしまうのであった。
そして訪れた蜘蛛屋敷との異名をとる武田家での殺人事件で、またしても二人の探偵は邂逅した。
蘭や小五郎はいないものの、事件はほとんど以前と同じに進み、やはり和葉は吊るされる事になった。
「あっという間に解決してしもうて、工藤君ってホンマ凄いんやね。」
「帰るんもめっちゃ早いけどな。用事でもあったんやろうか?」
無邪気に和葉が言った言葉が突き刺さり、敵愾心が燃える。
結論から言うと今回も工藤の勝利だった。
和葉まで巻き込まれ冷静さを失った自身と違い、何処までも冷静で殺人事件のみならず、被害者らが麻薬密売に手を染めていた事まで突き止めていた。
余談だが、この一件で麻薬入り人形の購入者が芋づる式に発覚し、ほとんどが逮捕され、新一は鳥取県警からも大層感謝される事になる。
「…俺かて解いてたんや。」
(工藤の推理に出えへんかった美沙さんの自殺の真相…。―工藤は気ぃ付いとるんやろか?)
(事件に直接関係ないから言わへんのか。犯人に気ぃ遣ったか。…それとも、気ぃ付いてへんのやろか?)
以前と違い、別々に捜査していたので双子ちゃんからは各々話を聞いていた。
だから推理というほどのものでもないが、平次には美沙の自殺の本当の原因が分かっている。
気付いていないなら自身の推理力が上だという証明になる、と些か黒い愉悦が平次の中に湧き上がる。
だが良心が辛うじてそれを言葉にすることを抑えていた。
「ほなら言うたらええやないの。」
「少し遅かっただけや。」
(ほんの少しの差や!!そうや!!)
「ならやっぱり工藤君の方が…」
「じゃかあしいっっ!!」
「あ、平次何処行くん?」
「何処でもええやろっっ !!付いてくんなや!」
(くっそ!!苛々するっ!)
気が付いたら彼は事件現場に戻っていた。
先程の新一の推理から検証をしているらしく、ロバートもいる。
実は平次はロバートに関して言いたい事があった。
「なあ、あんた。何で無関係な和葉を巻き込んだんや?やり過ぎちゃうんか?」
「もう何がどうなってもよかったんだよ!!彼女がいないなら!!」
その逆切れに平次の堪忍袋の緒が切れた。切れてしまった-。
先程抑えたはずの蓋が開く音がする。
勝負に負け続けた八つ当たり的な気分もあった。
「こらあかんわ。黙っといたろう思たけど 。」
「何だよ!言えよ!彼女がいない今となっては失うものなど何もないよっ!」ロバートの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。
「当時精神的に不安定やった美沙さんが自殺したホンマの理由はもしかして、もしかしたらなァ…!!!」
そうして語られた3年前の双子と美沙の話。
~帰りのバス停で、美沙に頼まれた双子から「美沙姉ちゃんの事、どー思ってるの?」と尋ねられたロバートは紙に「shine」と書いた。
ロバートは「シャイン=光のような輝く人(=愛する人)」という意味で記したのだが、
もともと英語が苦手で看護中のロバートとの筆談をローマ字で行っていた為、美沙は「死ね (shine)」と言われたと誤解してしまう。
そして3日後に自殺してしまったのだった。
また双子も、当時6才で英語が分かるわけもなく、知り合いの根岸 (negishi) の名刺からローマ字読みの「死ね」であると誤解。
再会した時の余所余所しい態度、ロバートを人殺し呼びしたのもそのためであった。~
語り終えたその瞬間、ロバートの眼に涙が盛り上がり、体中から力が抜けたように膝から崩れ落ちたのであった。
*******************
ドガァッ!!
数日後別件で大阪府警内にいた平次は、父である服部平蔵に呼び出された挙句に速攻殴られていた。
「何すんねん!!親父!!!」
「…ほう心当たりないんか?」
「あるわけあらへんやろ!!」
バキィ!!机が割れる寸前の音を立てる。
「ほなら話してやるか。」
「何やねん一体!!」
カァッと片目を見開く平蔵に、内心恐れ慄きながら表面上は必死に平静を装う。
「鳥取の蜘蛛屋敷での事件や。」
「あれなら工藤が推理したんや。」
「推理が問題なんやない。その後のお前の行動や。」
鳥取県警から苦情が来たわと苦々しげに語られたのはその後の犯人の事だった。
平次から美沙の自殺の真相を知らされたロバートは連行されるパトカーの中で、『なんで僕は日本人じゃなかったんだ… なんで彼女はアメリカ人じゃなかったんだ…』と何度も何度も同じことを繰り返していた。
まるで魂が抜けてしまったようで、事後処理が全く進まないらしい。
言い過ぎた気まずさに心中ギクリとしながらも、悪い事はしていないと必死に自身に言い聞かせる。
「それが何やねん。探偵がホンマのこと言うて何が悪いんやっ!!」
「勘働きが頼りの危なっかしい推理か。平次、お前には工藤新一君ほどの理論構成力はないわ!!」
かっとなって反論しようとするも、父親に畳み掛けられる。
「おまけに言わんでいいことの区別もつかへんのか!!」
「せやかてヤツ、関係ない和葉まで…!!」
「事件に巻き込まれるのが嫌なら和葉ちゃんを連れていくな!!」
ドガァッッ!!
先程より強い渾身の力で殴られた。
口の中を切ったのか錆びた鉄のような味がする、と思ったところで衝撃の一言が放たれた。
「犯人がな自殺を図ったそうや。」
「‥‥え?」咄嗟に言われた内容が理解出来ない。
「幸い、工藤君からの指示で注意していた鳥取県警がすぐに応急処置して大事に至らんかったそうやが。」
「…良かった。」
「良くないわ!!この馬鹿息子がァ!!」
阿呆ではなく馬鹿呼びで平蔵の怒りの程が伺える。
「って工藤の指示?」
「そうや。どうせお前の事や、和葉ちゃんの事だけやない。工藤君が気付かん思ってた事実を自分が、って思うたんやろ?」
「ところがどっこい工藤君はお前より早く気付いて指示出してたんや。」
鳥取県警からや、とそう言った平蔵は1枚のFAX用紙を平次の前に広げる。
其処には例の事件の真相が綴られていたが、最後に注意書きがあった。
”~以上がこの事件の真相です。
ただ1つ懸案事項があります。
美沙さんの自殺原因がロバートさんが誉め言葉のつもりで書いた「shine」をローマ字読みしてしまった可能性がある事です。
ご両親の喧嘩で顔に傷を負い美沙さんが精神的に落ち込んでいたこと、英語が苦手でローマ字で何とかやり取りしていた彼女の当時の状況ですと残念ですが、その可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
そして同じく間違った読み方をした武田紗栄ちゃん、絵未ちゃんからその事が伝わってしまう恐れがあります。
どうか二人を接触させず、又いない場所で連行願います。
また同じく服部探偵も気づく可能性があります。同じ配慮を彼にも適応願います。
万が一、三人の誰かもしくは別人物から知らされてしまった場合、彼が命を絶つ可能性がありますので厳重体制で対応願います。
工藤新一”
(そう言えば、推理終わった後、工藤何やら紙を渡していたな。)
「‥‥。」自身より早く事件を網羅し、先手を打っていた新一に対し、平次は愕然とし、もう言葉もなかった。
「分かったかァ!!全てにおいてお前は工藤君の足元にも及ばん!!」
「警察がな、お前の声に耳を傾けるのは儂の息子やからや!!実力で刑事達の信頼を勝ち取った彼とお前とでは雲泥の差や!!」
「俺は親父の力なんて借りたことあらへんっっっ!!」親の七光りは平次の最も嫌う事の一つだ。
「お前にそのつもりはなくとも、周りはそうは思わへんわ!!お前の後ろに儂を見るから辛うじて捜査協力に応じてくれてるだけや!!」
「ほなら工藤かてそうやんか!!工藤の親父さん、有名な推理小説家で探偵やろ!せやから…」
「工藤君が活躍し始めたのは、優作氏がロスへ移住してからや。そんな事も知らんのか?」
まあ子供時代に父親経由で刑事に顔見知りがいたくらいはあるだろうが、其処は黙っておく。
警察関係者の身内がおらず、彼だけの実力で事件を解決したという点が重要なのだ。
『まあこっちもせっかくの工藤君の忠告を活かせなかったのは痛恨の極みですけどね』
『立ち去ったと思ってた御子息が、まさか顔を知らない新人刑事が側にいる時に来て暴露してしまうとかねえ』
『双子ちゃんの方は、子供だから連行シーン見せたくないしでかなり気を遣ってたんですけどね おばあさんが上手く誤魔化してくれましたし。』
『運が悪い時は重なるものですなぁ』
鳥取県警からの溜息交じりの電話が忘れられない-。
(同い年でこの違い…。なんなんやろ。)
事件に対する姿勢、遺族や犯人までも考え行動する深慮遠謀さ-。
普段表に出して認めていないが、平蔵は平次を我が子ながらよく出来た息子だとは思っている。
だが今回の件はいただけない。
まだ未熟で頭に血が上ると危なっかしくて仕方がない息子の悪い面ばかりが露呈された。
(いや、違うな。平次が未熟というより、工藤君が出来過ぎなんや。成熟し過ぎというか。)
平次が犯した過ちは才能のある若者が驕って、自己顕示欲が前面に出てやりがちな類のモノだ。
優秀な新人によくある傾向だと、数多く部下を持つ大阪府警本部長は経験上知っていた。
だが新一の言動は、其処から更に社会人になって、失敗等沢山の経験を積み、新人から一人前になった部下の刑事を彷彿とさせる。
(なんぞよっぽどの経験でも積んだんやろうか?)
流石は大阪府警本部長、といったところである。
物事の本質を見抜いている。
(まあ今は平次の事や。)
助け舟を出してばかりでは育つわけがない
我が子が大事なら、今回は厳しくすべきとこだろう。
「平次!!お前当分、事件に関わるなッ!!」
「何でやっ!!」
「お前の要らん言動のせいで人一人殺しかけたんや!!それを肝に銘じや!!」
「ぐッ!!」
「お前が来ても協力せえへんように通達しとくさかいな。これで話は終いや。」
好奇心旺盛で謎解きが大好きな息子にはこの仕打ちは堪えるだろう。
だがもしも探偵を続けるなら、分かって貰わねばならない。
不用意な言動が自身も含め誰の命を危険に晒すかもしれない事を-。
(まあホンマに好きなら1・2年くらい我慢しいや。)
(ちょうど、進路を考える時期やし、良い機会や。)
おそらく息子は諦めきれず事件に関わろうとするだろうが、親としては此処は徹底させる。
這い上がってくる事を疑わない程度には自分は息子を信頼している。
(せいぜい気張れや、平次。)
*******************
後書 服部探偵 フェードアウト編でした(身も蓋もないな('◇')ゞ)
大阪弁と題名に苦心した作品でした。
題名は”敗北”とか付けると推理は勝負じゃないに反する気がするし、”殺人未遂”とかだと何やら字面物騒な( ゚Д゚)
”戦力外通告”もいいんだけど・・・うーん(゜-゜)と悩み、結局、”独り相撲”にしました。
一人相撲(本来2人で行うべき相撲を1人で行う神事)でなく、独り相撲なのは、物事を1人だけで気負いこむことを意味しているからです。
しかし今回色々調べたら、語源が本来は神事の一つで神様と相撲を取るもので、神様は姿が見えないことから一人で相撲をとっているように見えるところからいい、最後は神様に負けて終わる という意味があるのに驚きました。へ~ボタン 連打(゚д゚)!
そして大阪弁は・・・・ええっと関西人の方、もしや此処は可笑しいぞ?ってな内容ありましたが、是非にコッソリ優しく教えて下さいませ
紙メンタルなので、平次ばりに「何しとんじゃ!」とか言われると、天の岩戸化しそうです。チキンです(;^ω^)
ちなみに逆行後は以前も書きましたが、概ね前と同じになりますが、微細はどんどん変化していっています。
犯行原因が誤解でそれを解けば解決orそうでなくとも本人の意思次第で成実さん様に救われるケースもあれば、今回のロバートさんのように、其れをする暇もなく、おまけに平次の言動によりショックを自殺未遂 というルートになってしまう場合もありました。
PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))
本シリーズ作品はヒロインあまり出ませんが彼女には優しくありませんので、ranちゃんファンはご遠慮願います。
このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。
私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。
*******************
新一には逆行し再び組織壊滅を決意した時から、心に決めた事がある。
それは妙に鋭く暴走癖のある蘭を筆頭に不安要素をなるべく遠ざけること。
誰も死なすつもりはない。綺麗事過ぎるかもしれない。
けれど最初から諦めたくなかった。
ただその為に今までの生活から切り捨てるべきものがあるのも覚悟していた。
『あの西の探偵さん、迂闊過ぎるんじゃないかしら?』
『だよね~。やたら小さい名探偵を工藤呼びするしさ。』
逆行前の相棒たちとの会話が蘇る。
「…だな。」
服部はイイ奴だ。
気に入らない人間にすぐ怒鳴ったり絡んだりする欠点はあるが、正義感も探偵能力もある熱血漢と評して差し支えない。
あの底抜けの明るさに救われる人間もいるだろう。
普段の生活では以前と同じように友人をやる分には問題ない。
だが組織相手と考えると、その認識はガラリと変わる。
まず年上の相手でも敬語を使わない。
面識がない新一に突撃する為、いきなり毛利探偵事務所に乗り込んでくる。
FBIやCIA、公安等と連携する未来を考えるともうこれだけで駄目だ。
それだけではない。
幼児化した自身を何度注意しても工藤呼びする迂闊さ、秘密保持への甘さ。
もし組織の奴らに聞かれていたらと思うと今でもぞっとする。
結論は逆行前と同じだった。
「わりいな、服部。」
”以前”と同じく服部は対組織戦には関わらせない-。
(だとしたら、蘭と同じでそもそも親しくならない方がいいな。)
(一緒に解決した事件もあるし、いつかは出会うだろうけど、それまではなるべく避けよう。)
自身とほぼ対等の能力と事件にのめり込む好奇心で、おそらく親しくなればなるほど、情報漏洩の危険性が増える-。
志保からファンレター風の暗号の手紙で返事を貰い、快斗と極秘裏に救出作戦を練り続けていた新一にとって優先順位は、はっきりしていた。
*******************
「推理に勝ったも負けたも、上も下もねーよ、真実はいつもたった一つしかねーんだからな…」
結局自宅に突撃されて、逆行前と同じく推理勝負を吹っ掛けられてしまった。
渋ったものの、同時刻目暮警部から要請があり強引に同行され、外交官殺人事件で服部にこの台詞を言うことになっていた。
(どうか分かってくれ。服部。推理には勝負などない事を-。)
その考え方は被害者のみならず、自身をも貶める行為であることを。
*******************
服部平次は苛立っていた。
「東の工藤、西の服部」と呼ばれ、自分と並び賞される工藤新一の推理力を試しに東都まで行った。
結果、新一に負けて言われた事と勝負に拘り過ぎたことを反省して、「真実」を優先するように考えを改めた。
だが最初の事件で犯人の仕掛けたミスリードにまんまと引っ掛かってしまった事を皮切りに、その後の事件でも工藤の方が圧倒的に早く事件解決していた。
生来負けん気の強い平次には、これはもの凄く悔しい事だった。
逆行前でさえ、僅差とは言え新一の方が推理力が上だった。
おまけにコナンになったが故に上がった臨機応変力や周りへの配慮。
その上、逆行という現象により新一は事件が前と同じか?という点に注意すればいいのだ。
違う時は軌道修正するが、何も知らずに捜査を始める服部と差が出るのは至極当たり前だった。
この点は仕方ないとは言え、服部には些か気の毒な事だった。
加えて工藤の何処か壁を作った雰囲気が気に喰わない。
服部は彼をライバルだと思っているし、もっと親しくしたいのだが、ただの知人という枠からそれ以上踏み込ませないのだ。
これは無論将来の組織壊滅を視野に入れた新一の配慮なのだが、服部からしたら、知る由もない。
よって彼からしたら、対等だと思っているライバルに悉く先を越された挙句認められていない、という探偵としての矜持をいたく傷つけられた思いを抱えることになる。
(何でやねん!!くっそ-!!次こそは勝つ!勝って認めさせたる!!見てろや!工藤っ!!)
結局平次は諌められたことを忘れ、再び勝つ事に執念を燃やしてしまうのであった。
そして訪れた蜘蛛屋敷との異名をとる武田家での殺人事件で、またしても二人の探偵は邂逅した。
蘭や小五郎はいないものの、事件はほとんど以前と同じに進み、やはり和葉は吊るされる事になった。
「あっという間に解決してしもうて、工藤君ってホンマ凄いんやね。」
「帰るんもめっちゃ早いけどな。用事でもあったんやろうか?」
無邪気に和葉が言った言葉が突き刺さり、敵愾心が燃える。
結論から言うと今回も工藤の勝利だった。
和葉まで巻き込まれ冷静さを失った自身と違い、何処までも冷静で殺人事件のみならず、被害者らが麻薬密売に手を染めていた事まで突き止めていた。
余談だが、この一件で麻薬入り人形の購入者が芋づる式に発覚し、ほとんどが逮捕され、新一は鳥取県警からも大層感謝される事になる。
「…俺かて解いてたんや。」
(工藤の推理に出えへんかった美沙さんの自殺の真相…。―工藤は気ぃ付いとるんやろか?)
(事件に直接関係ないから言わへんのか。犯人に気ぃ遣ったか。…それとも、気ぃ付いてへんのやろか?)
以前と違い、別々に捜査していたので双子ちゃんからは各々話を聞いていた。
だから推理というほどのものでもないが、平次には美沙の自殺の本当の原因が分かっている。
気付いていないなら自身の推理力が上だという証明になる、と些か黒い愉悦が平次の中に湧き上がる。
だが良心が辛うじてそれを言葉にすることを抑えていた。
「ほなら言うたらええやないの。」
「少し遅かっただけや。」
(ほんの少しの差や!!そうや!!)
「ならやっぱり工藤君の方が…」
「じゃかあしいっっ!!」
「あ、平次何処行くん?」
「何処でもええやろっっ !!付いてくんなや!」
(くっそ!!苛々するっ!)
気が付いたら彼は事件現場に戻っていた。
先程の新一の推理から検証をしているらしく、ロバートもいる。
実は平次はロバートに関して言いたい事があった。
「なあ、あんた。何で無関係な和葉を巻き込んだんや?やり過ぎちゃうんか?」
「もう何がどうなってもよかったんだよ!!彼女がいないなら!!」
その逆切れに平次の堪忍袋の緒が切れた。切れてしまった-。
先程抑えたはずの蓋が開く音がする。
勝負に負け続けた八つ当たり的な気分もあった。
「こらあかんわ。黙っといたろう思たけど 。」
「何だよ!言えよ!彼女がいない今となっては失うものなど何もないよっ!」ロバートの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。
「当時精神的に不安定やった美沙さんが自殺したホンマの理由はもしかして、もしかしたらなァ…!!!」
そうして語られた3年前の双子と美沙の話。
~帰りのバス停で、美沙に頼まれた双子から「美沙姉ちゃんの事、どー思ってるの?」と尋ねられたロバートは紙に「shine」と書いた。
ロバートは「シャイン=光のような輝く人(=愛する人)」という意味で記したのだが、
もともと英語が苦手で看護中のロバートとの筆談をローマ字で行っていた為、美沙は「死ね (shine)」と言われたと誤解してしまう。
そして3日後に自殺してしまったのだった。
また双子も、当時6才で英語が分かるわけもなく、知り合いの根岸 (negishi) の名刺からローマ字読みの「死ね」であると誤解。
再会した時の余所余所しい態度、ロバートを人殺し呼びしたのもそのためであった。~
語り終えたその瞬間、ロバートの眼に涙が盛り上がり、体中から力が抜けたように膝から崩れ落ちたのであった。
*******************
ドガァッ!!
数日後別件で大阪府警内にいた平次は、父である服部平蔵に呼び出された挙句に速攻殴られていた。
「何すんねん!!親父!!!」
「…ほう心当たりないんか?」
「あるわけあらへんやろ!!」
バキィ!!机が割れる寸前の音を立てる。
「ほなら話してやるか。」
「何やねん一体!!」
カァッと片目を見開く平蔵に、内心恐れ慄きながら表面上は必死に平静を装う。
「鳥取の蜘蛛屋敷での事件や。」
「あれなら工藤が推理したんや。」
「推理が問題なんやない。その後のお前の行動や。」
鳥取県警から苦情が来たわと苦々しげに語られたのはその後の犯人の事だった。
平次から美沙の自殺の真相を知らされたロバートは連行されるパトカーの中で、『なんで僕は日本人じゃなかったんだ… なんで彼女はアメリカ人じゃなかったんだ…』と何度も何度も同じことを繰り返していた。
まるで魂が抜けてしまったようで、事後処理が全く進まないらしい。
言い過ぎた気まずさに心中ギクリとしながらも、悪い事はしていないと必死に自身に言い聞かせる。
「それが何やねん。探偵がホンマのこと言うて何が悪いんやっ!!」
「勘働きが頼りの危なっかしい推理か。平次、お前には工藤新一君ほどの理論構成力はないわ!!」
かっとなって反論しようとするも、父親に畳み掛けられる。
「おまけに言わんでいいことの区別もつかへんのか!!」
「せやかてヤツ、関係ない和葉まで…!!」
「事件に巻き込まれるのが嫌なら和葉ちゃんを連れていくな!!」
ドガァッッ!!
先程より強い渾身の力で殴られた。
口の中を切ったのか錆びた鉄のような味がする、と思ったところで衝撃の一言が放たれた。
「犯人がな自殺を図ったそうや。」
「‥‥え?」咄嗟に言われた内容が理解出来ない。
「幸い、工藤君からの指示で注意していた鳥取県警がすぐに応急処置して大事に至らんかったそうやが。」
「…良かった。」
「良くないわ!!この馬鹿息子がァ!!」
阿呆ではなく馬鹿呼びで平蔵の怒りの程が伺える。
「って工藤の指示?」
「そうや。どうせお前の事や、和葉ちゃんの事だけやない。工藤君が気付かん思ってた事実を自分が、って思うたんやろ?」
「ところがどっこい工藤君はお前より早く気付いて指示出してたんや。」
鳥取県警からや、とそう言った平蔵は1枚のFAX用紙を平次の前に広げる。
其処には例の事件の真相が綴られていたが、最後に注意書きがあった。
”~以上がこの事件の真相です。
ただ1つ懸案事項があります。
美沙さんの自殺原因がロバートさんが誉め言葉のつもりで書いた「shine」をローマ字読みしてしまった可能性がある事です。
ご両親の喧嘩で顔に傷を負い美沙さんが精神的に落ち込んでいたこと、英語が苦手でローマ字で何とかやり取りしていた彼女の当時の状況ですと残念ですが、その可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
そして同じく間違った読み方をした武田紗栄ちゃん、絵未ちゃんからその事が伝わってしまう恐れがあります。
どうか二人を接触させず、又いない場所で連行願います。
また同じく服部探偵も気づく可能性があります。同じ配慮を彼にも適応願います。
万が一、三人の誰かもしくは別人物から知らされてしまった場合、彼が命を絶つ可能性がありますので厳重体制で対応願います。
工藤新一”
(そう言えば、推理終わった後、工藤何やら紙を渡していたな。)
「‥‥。」自身より早く事件を網羅し、先手を打っていた新一に対し、平次は愕然とし、もう言葉もなかった。
「分かったかァ!!全てにおいてお前は工藤君の足元にも及ばん!!」
「警察がな、お前の声に耳を傾けるのは儂の息子やからや!!実力で刑事達の信頼を勝ち取った彼とお前とでは雲泥の差や!!」
「俺は親父の力なんて借りたことあらへんっっっ!!」親の七光りは平次の最も嫌う事の一つだ。
「お前にそのつもりはなくとも、周りはそうは思わへんわ!!お前の後ろに儂を見るから辛うじて捜査協力に応じてくれてるだけや!!」
「ほなら工藤かてそうやんか!!工藤の親父さん、有名な推理小説家で探偵やろ!せやから…」
「工藤君が活躍し始めたのは、優作氏がロスへ移住してからや。そんな事も知らんのか?」
まあ子供時代に父親経由で刑事に顔見知りがいたくらいはあるだろうが、其処は黙っておく。
警察関係者の身内がおらず、彼だけの実力で事件を解決したという点が重要なのだ。
『まあこっちもせっかくの工藤君の忠告を活かせなかったのは痛恨の極みですけどね』
『立ち去ったと思ってた御子息が、まさか顔を知らない新人刑事が側にいる時に来て暴露してしまうとかねえ』
『双子ちゃんの方は、子供だから連行シーン見せたくないしでかなり気を遣ってたんですけどね おばあさんが上手く誤魔化してくれましたし。』
『運が悪い時は重なるものですなぁ』
鳥取県警からの溜息交じりの電話が忘れられない-。
(同い年でこの違い…。なんなんやろ。)
事件に対する姿勢、遺族や犯人までも考え行動する深慮遠謀さ-。
普段表に出して認めていないが、平蔵は平次を我が子ながらよく出来た息子だとは思っている。
だが今回の件はいただけない。
まだ未熟で頭に血が上ると危なっかしくて仕方がない息子の悪い面ばかりが露呈された。
(いや、違うな。平次が未熟というより、工藤君が出来過ぎなんや。成熟し過ぎというか。)
平次が犯した過ちは才能のある若者が驕って、自己顕示欲が前面に出てやりがちな類のモノだ。
優秀な新人によくある傾向だと、数多く部下を持つ大阪府警本部長は経験上知っていた。
だが新一の言動は、其処から更に社会人になって、失敗等沢山の経験を積み、新人から一人前になった部下の刑事を彷彿とさせる。
(なんぞよっぽどの経験でも積んだんやろうか?)
流石は大阪府警本部長、といったところである。
物事の本質を見抜いている。
(まあ今は平次の事や。)
助け舟を出してばかりでは育つわけがない
我が子が大事なら、今回は厳しくすべきとこだろう。
「平次!!お前当分、事件に関わるなッ!!」
「何でやっ!!」
「お前の要らん言動のせいで人一人殺しかけたんや!!それを肝に銘じや!!」
「ぐッ!!」
「お前が来ても協力せえへんように通達しとくさかいな。これで話は終いや。」
好奇心旺盛で謎解きが大好きな息子にはこの仕打ちは堪えるだろう。
だがもしも探偵を続けるなら、分かって貰わねばならない。
不用意な言動が自身も含め誰の命を危険に晒すかもしれない事を-。
(まあホンマに好きなら1・2年くらい我慢しいや。)
(ちょうど、進路を考える時期やし、良い機会や。)
おそらく息子は諦めきれず事件に関わろうとするだろうが、親としては此処は徹底させる。
這い上がってくる事を疑わない程度には自分は息子を信頼している。
(せいぜい気張れや、平次。)
*******************
後書 服部探偵 フェードアウト編でした(身も蓋もないな('◇')ゞ)
大阪弁と題名に苦心した作品でした。
題名は”敗北”とか付けると推理は勝負じゃないに反する気がするし、”殺人未遂”とかだと何やら字面物騒な( ゚Д゚)
”戦力外通告”もいいんだけど・・・うーん(゜-゜)と悩み、結局、”独り相撲”にしました。
一人相撲(本来2人で行うべき相撲を1人で行う神事)でなく、独り相撲なのは、物事を1人だけで気負いこむことを意味しているからです。
しかし今回色々調べたら、語源が本来は神事の一つで神様と相撲を取るもので、神様は姿が見えないことから一人で相撲をとっているように見えるところからいい、最後は神様に負けて終わる という意味があるのに驚きました。へ~ボタン 連打(゚д゚)!
そして大阪弁は・・・・ええっと関西人の方、もしや此処は可笑しいぞ?ってな内容ありましたが、是非にコッソリ優しく教えて下さいませ
紙メンタルなので、平次ばりに「何しとんじゃ!」とか言われると、天の岩戸化しそうです。チキンです(;^ω^)
ちなみに逆行後は以前も書きましたが、概ね前と同じになりますが、微細はどんどん変化していっています。
犯行原因が誤解でそれを解けば解決orそうでなくとも本人の意思次第で成実さん様に救われるケースもあれば、今回のロバートさんのように、其れをする暇もなく、おまけに平次の言動によりショックを自殺未遂 というルートになってしまう場合もありました。
PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))