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夢の絆⑥~服部平次の独り相撲~ 

今回は些か服部厳しめ 要素がございます。彼のファンは回れ右願います。
本シリーズ作品はヒロインあまり出ませんが彼女には優しくありませんので、ranちゃんファンはご遠慮願います。


このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。
私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。

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新一には逆行し再び組織壊滅を決意した時から、心に決めた事がある。
それは妙に鋭く暴走癖のある蘭を筆頭に不安要素をなるべく遠ざけること。
誰も死なすつもりはない。綺麗事過ぎるかもしれない。
けれど最初から諦めたくなかった。
ただその為に今までの生活から切り捨てるべきものがあるのも覚悟していた。

『あの西の探偵さん、迂闊過ぎるんじゃないかしら?』
『だよね~。やたら小さい名探偵を工藤呼びするしさ。』
逆行前の相棒たちとの会話が蘇る。

「…だな。」
服部はイイ奴だ。
気に入らない人間にすぐ怒鳴ったり絡んだりする欠点はあるが、正義感も探偵能力もある熱血漢と評して差し支えない。
あの底抜けの明るさに救われる人間もいるだろう。
普段の生活では以前と同じように友人をやる分には問題ない。
だが組織相手と考えると、その認識はガラリと変わる。
まず年上の相手でも敬語を使わない。
面識がない新一に突撃する為、いきなり毛利探偵事務所に乗り込んでくる。
FBIやCIA、公安等と連携する未来を考えるともうこれだけで駄目だ。
それだけではない。
幼児化した自身を何度注意しても工藤呼びする迂闊さ、秘密保持への甘さ。
もし組織の奴らに聞かれていたらと思うと今でもぞっとする。
結論は逆行前と同じだった。
「わりいな、服部。」
”以前”と同じく服部は対組織戦には関わらせない-。

(だとしたら、蘭と同じでそもそも親しくならない方がいいな。)
(一緒に解決した事件もあるし、いつかは出会うだろうけど、それまではなるべく避けよう。)
自身とほぼ対等の能力と事件にのめり込む好奇心で、おそらく親しくなればなるほど、情報漏洩の危険性が増える-。
志保からファンレター風の暗号の手紙で返事を貰い、快斗と極秘裏に救出作戦を練り続けていた新一にとって優先順位は、はっきりしていた。

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「推理に勝ったも負けたも、上も下もねーよ、真実はいつもたった一つしかねーんだからな…」
結局自宅に突撃されて、逆行前と同じく推理勝負を吹っ掛けられてしまった。
渋ったものの、同時刻目暮警部から要請があり強引に同行され、外交官殺人事件で服部にこの台詞を言うことになっていた。
(どうか分かってくれ。服部。推理には勝負などない事を-。)
その考え方は被害者のみならず、自身をも貶める行為であることを。

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服部平次は苛立っていた。
「東の工藤、西の服部」と呼ばれ、自分と並び賞される工藤新一の推理力を試しに東都まで行った。
結果、新一に負けて言われた事と勝負に拘り過ぎたことを反省して、「真実」を優先するように考えを改めた。
だが最初の事件で犯人の仕掛けたミスリードにまんまと引っ掛かってしまった事を皮切りに、その後の事件でも工藤の方が圧倒的に早く事件解決していた。
生来負けん気の強い平次には、これはもの凄く悔しい事だった。
逆行前でさえ、僅差とは言え新一の方が推理力が上だった。
おまけにコナンになったが故に上がった臨機応変力や周りへの配慮。
その上、逆行という現象により新一は事件が前と同じか?という点に注意すればいいのだ。
違う時は軌道修正するが、何も知らずに捜査を始める服部と差が出るのは至極当たり前だった。
この点は仕方ないとは言え、服部には些か気の毒な事だった。
加えて工藤の何処か壁を作った雰囲気が気に喰わない。
服部は彼をライバルだと思っているし、もっと親しくしたいのだが、ただの知人という枠からそれ以上踏み込ませないのだ。
これは無論将来の組織壊滅を視野に入れた新一の配慮なのだが、服部からしたら、知る由もない。
よって彼からしたら、対等だと思っているライバルに悉く先を越された挙句認められていない、という探偵としての矜持をいたく傷つけられた思いを抱えることになる。
(何でやねん!!くっそ-!!次こそは勝つ!勝って認めさせたる!!見てろや!工藤っ!!)
結局平次は諌められたことを忘れ、再び勝つ事に執念を燃やしてしまうのであった。

そして訪れた蜘蛛屋敷との異名をとる武田家での殺人事件で、またしても二人の探偵は邂逅した。
蘭や小五郎はいないものの、事件はほとんど以前と同じに進み、やはり和葉は吊るされる事になった。
「あっという間に解決してしもうて、工藤君ってホンマ凄いんやね。」
「帰るんもめっちゃ早いけどな。用事でもあったんやろうか?」
無邪気に和葉が言った言葉が突き刺さり、敵愾心が燃える。
結論から言うと今回も工藤の勝利だった。
和葉まで巻き込まれ冷静さを失った自身と違い、何処までも冷静で殺人事件のみならず、被害者らが麻薬密売に手を染めていた事まで突き止めていた。
余談だが、この一件で麻薬入り人形の購入者が芋づる式に発覚し、ほとんどが逮捕され、新一は鳥取県警からも大層感謝される事になる。
「…俺かて解いてたんや。」
(工藤の推理に出えへんかった美沙さんの自殺の真相…。―工藤は気ぃ付いとるんやろか?)
(事件に直接関係ないから言わへんのか。犯人に気ぃ遣ったか。…それとも、気ぃ付いてへんのやろか?)
以前と違い、別々に捜査していたので双子ちゃんからは各々話を聞いていた。
だから推理というほどのものでもないが、平次には美沙の自殺の本当の原因が分かっている。
気付いていないなら自身の推理力が上だという証明になる、と些か黒い愉悦が平次の中に湧き上がる。
だが良心が辛うじてそれを言葉にすることを抑えていた。
「ほなら言うたらええやないの。」
「少し遅かっただけや。」
(ほんの少しの差や!!そうや!!)
「ならやっぱり工藤君の方が…」
「じゃかあしいっっ!!」
「あ、平次何処行くん?」
「何処でもええやろっっ !!付いてくんなや!」
(くっそ!!苛々するっ!)
気が付いたら彼は事件現場に戻っていた。
先程の新一の推理から検証をしているらしく、ロバートもいる。
実は平次はロバートに関して言いたい事があった。
「なあ、あんた。何で無関係な和葉を巻き込んだんや?やり過ぎちゃうんか?」
「もう何がどうなってもよかったんだよ!!彼女がいないなら!!」
その逆切れに平次の堪忍袋の緒が切れた。切れてしまった-。
先程抑えたはずの蓋が開く音がする。
勝負に負け続けた八つ当たり的な気分もあった。
「こらあかんわ。黙っといたろう思たけど 。」
「何だよ!言えよ!彼女がいない今となっては失うものなど何もないよっ!」ロバートの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。
「当時精神的に不安定やった美沙さんが自殺したホンマの理由はもしかして、もしかしたらなァ…!!!」
そうして語られた3年前の双子と美沙の話。

~帰りのバス停で、美沙に頼まれた双子から「美沙姉ちゃんの事、どー思ってるの?」と尋ねられたロバートは紙に「shine」と書いた。
ロバートは「シャイン=光のような輝く人(=愛する人)」という意味で記したのだが、
もともと英語が苦手で看護中のロバートとの筆談をローマ字で行っていた為、美沙は「死ね (shine)」と言われたと誤解してしまう。
そして3日後に自殺してしまったのだった。
また双子も、当時6才で英語が分かるわけもなく、知り合いの根岸 (negishi) の名刺からローマ字読みの「死ね」であると誤解。
再会した時の余所余所しい態度、ロバートを人殺し呼びしたのもそのためであった。~

語り終えたその瞬間、ロバートの眼に涙が盛り上がり、体中から力が抜けたように膝から崩れ落ちたのであった。

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ドガァッ!!
数日後別件で大阪府警内にいた平次は、父である服部平蔵に呼び出された挙句に速攻殴られていた。
「何すんねん!!親父!!!」
「…ほう心当たりないんか?」
「あるわけあらへんやろ!!」
バキィ!!机が割れる寸前の音を立てる。
「ほなら話してやるか。」
「何やねん一体!!」
カァッと片目を見開く平蔵に、内心恐れ慄きながら表面上は必死に平静を装う。
「鳥取の蜘蛛屋敷での事件や。」
「あれなら工藤が推理したんや。」
「推理が問題なんやない。その後のお前の行動や。」
鳥取県警から苦情が来たわと苦々しげに語られたのはその後の犯人の事だった。
平次から美沙の自殺の真相を知らされたロバートは連行されるパトカーの中で、『なんで僕は日本人じゃなかったんだ… なんで彼女はアメリカ人じゃなかったんだ…』と何度も何度も同じことを繰り返していた。
まるで魂が抜けてしまったようで、事後処理が全く進まないらしい。
言い過ぎた気まずさに心中ギクリとしながらも、悪い事はしていないと必死に自身に言い聞かせる。
「それが何やねん。探偵がホンマのこと言うて何が悪いんやっ!!」
「勘働きが頼りの危なっかしい推理か。平次、お前には工藤新一君ほどの理論構成力はないわ!!」
かっとなって反論しようとするも、父親に畳み掛けられる。
「おまけに言わんでいいことの区別もつかへんのか!!」
「せやかてヤツ、関係ない和葉まで…!!」
「事件に巻き込まれるのが嫌なら和葉ちゃんを連れていくな!!」
ドガァッッ!!
先程より強い渾身の力で殴られた。
口の中を切ったのか錆びた鉄のような味がする、と思ったところで衝撃の一言が放たれた。
「犯人がな自殺を図ったそうや。」
「‥‥え?」咄嗟に言われた内容が理解出来ない。
「幸い、工藤君からの指示で注意していた鳥取県警がすぐに応急処置して大事に至らんかったそうやが。」
「…良かった。」
「良くないわ!!この馬鹿息子がァ!!」
阿呆ではなく馬鹿呼びで平蔵の怒りの程が伺える。
「って工藤の指示?」
「そうや。どうせお前の事や、和葉ちゃんの事だけやない。工藤君が気付かん思ってた事実を自分が、って思うたんやろ?」
「ところがどっこい工藤君はお前より早く気付いて指示出してたんや。」
鳥取県警からや、とそう言った平蔵は1枚のFAX用紙を平次の前に広げる。
其処には例の事件の真相が綴られていたが、最後に注意書きがあった。

”~以上がこの事件の真相です。
ただ1つ懸案事項があります。
美沙さんの自殺原因がロバートさんが誉め言葉のつもりで書いた「shine」をローマ字読みしてしまった可能性がある事です。
ご両親の喧嘩で顔に傷を負い美沙さんが精神的に落ち込んでいたこと、英語が苦手でローマ字で何とかやり取りしていた彼女の当時の状況ですと残念ですが、その可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
そして同じく間違った読み方をした武田紗栄ちゃん、絵未ちゃんからその事が伝わってしまう恐れがあります。
どうか二人を接触させず、又いない場所で連行願います。
また同じく服部探偵も気づく可能性があります。同じ配慮を彼にも適応願います。
万が一、三人の誰かもしくは別人物から知らされてしまった場合、彼が命を絶つ可能性がありますので厳重体制で対応願います。

工藤新一”

(そう言えば、推理終わった後、工藤何やら紙を渡していたな。)
「‥‥。」自身より早く事件を網羅し、先手を打っていた新一に対し、平次は愕然とし、もう言葉もなかった。
「分かったかァ!!全てにおいてお前は工藤君の足元にも及ばん!!」
「警察がな、お前の声に耳を傾けるのは儂の息子やからや!!実力で刑事達の信頼を勝ち取った彼とお前とでは雲泥の差や!!」
「俺は親父の力なんて借りたことあらへんっっっ!!」親の七光りは平次の最も嫌う事の一つだ。
「お前にそのつもりはなくとも、周りはそうは思わへんわ!!お前の後ろに儂を見るから辛うじて捜査協力に応じてくれてるだけや!!」
「ほなら工藤かてそうやんか!!工藤の親父さん、有名な推理小説家で探偵やろ!せやから…」
「工藤君が活躍し始めたのは、優作氏がロスへ移住してからや。そんな事も知らんのか?」
まあ子供時代に父親経由で刑事に顔見知りがいたくらいはあるだろうが、其処は黙っておく。
警察関係者の身内がおらず、彼だけの実力で事件を解決したという点が重要なのだ。

『まあこっちもせっかくの工藤君の忠告を活かせなかったのは痛恨の極みですけどね』
『立ち去ったと思ってた御子息が、まさか顔を知らない新人刑事が側にいる時に来て暴露してしまうとかねえ』
『双子ちゃんの方は、子供だから連行シーン見せたくないしでかなり気を遣ってたんですけどね おばあさんが上手く誤魔化してくれましたし。』
『運が悪い時は重なるものですなぁ』

鳥取県警からの溜息交じりの電話が忘れられない-。
(同い年でこの違い…。なんなんやろ。)
事件に対する姿勢、遺族や犯人までも考え行動する深慮遠謀さ-。
普段表に出して認めていないが、平蔵は平次を我が子ながらよく出来た息子だとは思っている。
だが今回の件はいただけない。
まだ未熟で頭に血が上ると危なっかしくて仕方がない息子の悪い面ばかりが露呈された。
(いや、違うな。平次が未熟というより、工藤君が出来過ぎなんや。成熟し過ぎというか。)
平次が犯した過ちは才能のある若者が驕って、自己顕示欲が前面に出てやりがちな類のモノだ。
優秀な新人によくある傾向だと、数多く部下を持つ大阪府警本部長は経験上知っていた。
だが新一の言動は、其処から更に社会人になって、失敗等沢山の経験を積み、新人から一人前になった部下の刑事を彷彿とさせる。
(なんぞよっぽどの経験でも積んだんやろうか?)
流石は大阪府警本部長、といったところである。
物事の本質を見抜いている。
(まあ今は平次の事や。)
助け舟を出してばかりでは育つわけがない
我が子が大事なら、今回は厳しくすべきとこだろう。
「平次!!お前当分、事件に関わるなッ!!」
「何でやっ!!」
「お前の要らん言動のせいで人一人殺しかけたんや!!それを肝に銘じや!!」
「ぐッ!!」
「お前が来ても協力せえへんように通達しとくさかいな。これで話は終いや。」
好奇心旺盛で謎解きが大好きな息子にはこの仕打ちは堪えるだろう。
だがもしも探偵を続けるなら、分かって貰わねばならない。
不用意な言動が自身も含め誰の命を危険に晒すかもしれない事を-。
(まあホンマに好きなら1・2年くらい我慢しいや。)
(ちょうど、進路を考える時期やし、良い機会や。)
おそらく息子は諦めきれず事件に関わろうとするだろうが、親としては此処は徹底させる。
這い上がってくる事を疑わない程度には自分は息子を信頼している。
(せいぜい気張れや、平次。)

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後書 服部探偵 フェードアウト編でした(身も蓋もないな('◇')ゞ)
大阪弁と題名に苦心した作品でした。
題名は”敗北”とか付けると推理は勝負じゃないに反する気がするし、”殺人未遂”とかだと何やら字面物騒な( ゚Д゚)
”戦力外通告”もいいんだけど・・・うーん(゜-゜)と悩み、結局、”独り相撲”にしました。
一人相撲(本来2人で行うべき相撲を1人で行う神事)でなく、独り相撲なのは、物事を1人だけで気負いこむことを意味しているからです。
しかし今回色々調べたら、語源が本来は神事の一つで神様と相撲を取るもので、神様は姿が見えないことから一人で相撲をとっているように見えるところからいい、最後は神様に負けて終わる という意味があるのに驚きました。へ~ボタン 連打(゚д゚)!

そして大阪弁は・・・・ええっと関西人の方、もしや此処は可笑しいぞ?ってな内容ありましたが、是非にコッソリ優しく教えて下さいませ
紙メンタルなので、平次ばりに「何しとんじゃ!」とか言われると、天の岩戸化しそうです。チキンです(;^ω^)
ちなみに逆行後は以前も書きましたが、概ね前と同じになりますが、微細はどんどん変化していっています。
犯行原因が誤解でそれを解けば解決orそうでなくとも本人の意思次第で成実さん様に救われるケースもあれば、今回のロバートさんのように、其れをする暇もなく、おまけに平次の言動によりショックを自殺未遂 というルートになってしまう場合もありました。
PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))

夢の絆⑤~浅井成実が捧げる鎮魂歌~

2年前から成実の中には、ずっと燻っている復讐の炎がある-。
当時村長だった亀山が自分が麻生圭二の実の息子だと知るなり、怯えたように麻薬や暗号の事、口封じの為に家に火を放ち一家を殺害したと12年前の真実を語り、心臓発作で死んだあの夜からずっと-。

「成実もピアノが好きか。そうかそうか。」
そう言って嬉しそうに笑った父。
あの穏やかな父が狂い、母と姉を殺して家に火を放ち、ピアノを演奏しながら亡くなったなど信じられなかった。
だからこそ引取先の浅井家の養子になり、名字を変え、生来の女顔を利用して月影島に真実を探りにやってきたのだ。
「その結果がこれ、か。」
父が無実と判明したのは良かった。
けれど自分以外の家族全て殺された挙句に父親にその罪をきせるなど、我慢ならなかった。
復讐という言葉が彼の脳裏にちらつく。

「浅井先生、いつもありがとうございます。」
「小さい島ですから…本当に助かります。」
「せんせーさよーなら!」
けれど島の住人の感謝の言葉、子供達の無邪気の笑顔、お世話になった浅井家の人たちへの想い、何より医者としての良心がそれを押しとどめた。
(人を救う為に、医者になったはずだ。)
(家族を殺した奴に天誅を与えるだけだ。これは正当な権利だ。)
(けれど、このままでは父の汚名はそのまま。あんまりだ。)
(私怨から彼奴らを殺しても、同じ犯罪者に堕ちるだけだ。)
良心と復讐 家族の無念と自分の未来を天秤に掛けて、ぐらぐらする日が続いた。
そして村長選で人殺しにも拘わらず、我が物顔で選挙に参戦している川島と黒岩の顔を見た瞬間、許せないという気持ちが勝った。
勝ってしまった-。
けれどそれでも尚、躊躇が残っていた。

”次の満月の夜
月影島で再び影が消え始める
調査されたし  麻生圭二 ”

だから名探偵と評判だった彼に、父の名であんな殺人予告と50万円を送ってしまった。
父の名で送ったのは事件を解明して欲しいという気持ちからだが、それだけではなく…
(父さんに止めて欲しかったのかな…?)
だが心の何処かで、諦めていたようにも思う。
それはまるで月光のような淡い光のような微かな望み…。

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諦めたはず、だったのに。
かの高校生探偵 工藤新一は、島に来るなり的確過ぎるくらい的確にすばやく動き、最後に村駐在所の長島さんに頼み、12年前の火事で唯一無事だった楽譜を取り出して貰っていた。
それは死んだ前村長から真相を聞いた自身には思いも寄らない”物証”だった。
工藤君は信じられないくらいあッという間に、暗号を解読しピアノのからくりも麻薬取引も看破してみせた。
警視庁の馴染みらしき目暮警部に事の次第を電話し終えると、彼は俺に楽譜を差し出しこう言った。
「我が息子 成実へ お前だけは真っ当に生きてくれ。…とあります。」
「え?」
「成実(なるみ)さんではなく、成実(せいじ)さん、ですよね?」
余りの事に唖然として何も言えない。
「俺ね、マジシャンの卵なの。で、変装とかも、かじってるんだけど、浅井先生アンタの骨格がね どーみても男なんだな。」
「細身だから分かりにくいけど-。」
と続けて、工藤探偵によく似た顔立ちの黒羽という青年が、あっけんからんと言う。
(まさか初対面から見抜かれていた!?…そうか だからあんなにピンポイントで父の楽譜や事件資料を聞き出した上に、俺だけに推理結果を語っていたのか。)
「これ、貴方が出したものですよね?」
眼の前に広げられたのは例の予告状。
「ああ。参ったな。」
(ジ・エンドだよ。父さん。)
「成実さん。これだけの物証があれば、彼らを殺人罪で起訴出来ます。麻薬ルートも断ち切る事が出来ます。」
ここから彼は声を潜めて続けた。
「ですから貴方が手を血に染める事はありません…ッ!!」
何かを耐えるような必死の形相で訴える彼の顔を見て、得心した。
(彼は理解しているんだ…”影が消え始める”が彼らを殺そうとした俺の殺人予告であることを。)
それを必死に止めようとしている。
(止めてくれようとしている。)
それを自覚した瞬間、思いもよらない歓喜が体中を駆け抜けた。
「俺がそれをする必要はないよ。」
(ああ俺は人殺しなんてしたくなかったんだ…!誰かに止めて欲しかったんだ…!)
証拠があるなら、彼らの犯罪が明らかにされ裁かれるなら、私刑などしようと思わない-。
あからさまにほっとした顔の工藤君の顔に、彼が本当に優しい青年なのだと感じ、こちらもほんわかしてしまった。
「それ、見せて貰っていいかな…。」
「はい。暗号訳しましょうか?」
「いや、自分でやるよ…父の遺書だし。」
「そうですね。この依頼文はご家族の死に疑問を持った貴方が父親の名で出したという説明にさせて頂きます。」
「ありがとう。」
その日の夜、公民館からはピアノソナタ 月光が聞こえていた-。
(こんなに穏やかに弾けるのはいつぶりだろう。-父さん、母さん、姉さん 安らかに-。)
家族への鎮魂歌を弾き続けた その曲の合間に例の暗号で彼への感謝も綴る。
-ありがとう 名探偵- 

「良かった。間に合った。」
「良かったじゃん、新一。」
その陰で秘かにそんな会話が交わされていたとは露知らぬまま、成実にとってピアノの音が響く穏やかな夜は過ぎていった。

その後、村長選立候補者3人のうち2人が、殺人罪と麻薬法違反で逮捕され、月影島は大騒動となった。
最初は否認していたが、動かぬ証拠がある事と亀山前村長の死後、麻生圭二の亡霊に怯えて引きこもりとなっていた西本が自白してからはもう芋づる式だった。
自身には被害者遺族という事で、同情が集まった。
だが、性別を偽っていた事と犯人の一人が村一番の資産家である川島だったことから、小さな島では色々気まずくなってしまった。
「せんせー 本当に行っちゃうの?」
「うん。ごめんな。」
「先生。あの…今までありがとうございました。」
「お元気で…悪いのはあの人ら、ですから。」
「先生は悪くねえべ!!」
「そうですよ。真相を知りたいって言う気持ち。あたしらだって同じ立場だったら思いますもん。」
結局、診療所を後にすることになった成実は、大多数の気の良い漁師やその妻子から温かい言葉を貰い、笑顔で月影島を後にした。
(最後に月光が弾きたかったな。)
件のピアノは証拠品として警察に押収され、もう公民館にない。
「さて行きますか-。」
目指すは東都 かの名探偵君に御礼と感謝をもう一度。
(優しい彼が探偵を続けるなら、これからはかなり険しい道になるかもしれない。)
美しい海を眺め、船に揺られながら漠然と思う。
きっと彼は犯人だろうと見捨てられないだろう。救い出そうとするだろう。この自分のように。
(この海と同じ青の眼をした慧眼の名探偵君-。少しでも君の助けになるのなら-。)
医者としての自身の腕が、もしかして彼の手助けになれるかもしれない-。

その後、工藤邸で彼のヴァイオリン 自身のピアノとで合奏したり、無茶をした彼に説教しながら怪我を手当したりするのは少し遠い未来のお話-。

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後書 はい。成実さん救出ミッションクリアの巻でございます。
亡くなった娘さんが姉か妹か分からなかったので姉にしました。
彼はこの後、東都で働きながら、新一君とそのお仲間の専属医師みたいになります。
はい。工藤新一 極秘親衛隊第1号(笑)誕生!
この時も新一君は自身の名を出さないよう頼んでいるので警視庁での評判は鰻昇りです!✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌

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夢の絆④~黒羽快斗のもう一つの顔~

新一が記憶を取り戻す少し前に時は遡る-。

黒羽快斗は一人憤慨していた。
青子と出会った思い出のあの時計台と鐘。
それをあんな奴らにいいようにされるなど、我慢ならなかった。
だから作戦を練った。
怪盗キッドが時計台を盗むと予告し、世間の注文を集め、スクリーンで時計台の針が消えたと見せかけて、その裏で時計台の文字盤に暗号を刻む。
オーナーの宝田の悪事を暴露し、時計台の移動を実質阻止させるという作戦を-。
「見てろよ。怪盗キッドの名は伊達じゃないぜ・・・!」

”月が満ちる土曜の夜、零時の鐘と共に天高き時計を頂きに参上する”
キッドが予告状に記した土曜の夜、時計台では中森警部の指揮の下、警視庁の厳重な警備体制が敷かれていた。
上空には無数のヘリコプターが飛び交い、時計台の周辺の道路はすべてパトカーで固められ、蟻の出る隙間もないほどの万全の警備。
この状況下で一体どうやってキッドは時計台を盗むのか-!?と付近に集まった野次馬たちは誰もが期待と不安を胸にキッドの登場を今か今かと待っていた。
但し時計台に想い出がある為、怪盗キッドが盗むことに反発し、時計台をじっと見つめている青子だけは複雑な思いで一杯だった。


一方そのキッドは周囲を警戒していた警官の一人を眠らせ、奪った警官の服装を身にまとい、その警官に成りすますことで時計台に近づいていた。
あっさりと成功し、キッドはその警官の声色を使ってまんまと警察の内部に潜り込んだ。
此処までは順調だった。
だが警官に変装したキッドは免許証の番号という普通ならすぐ答えられない質問に、持ち前の頭脳で答えてしまい、慌てて逃げだす羽目になった。
最初こそいつもより中森警部が鋭いと感じていただけだったが、その後もなぜかことごとく自分の現われた先に警官が待ち構えていた。
(行動を読まれている…!?)
そう悟ったキッドは、警察の中にとんでもない切れ者の助っ人がいると直感していた-。
「中森のおっちゃん。どんな助っ人呼んだんだよっ!」
……その後の事は、思い出したくもない。
ヘリから発泡され、本当に命からがら何とか逃げおおせた。
オーナー宝田の悪事も周知の事実となり、時計台の移築はなくなった。

(何とか目的は達成出来たけど・・あのジョーカーの正体は誰だ?)
初めて自身をあそこまで追い込んだ正体を知りたくて、快斗は変装して警視庁に潜り込んだ。
キッドという単語を聞きつけ数人で話している刑事部らしき人らの傍をなに食わぬ顔をして通り抜ける。
「工藤君流石だね・・!!」
「彼がいれば怪盗キッドの逮捕も夢じゃないぞ!」
「そうだ 盗む前に退散したなんて快挙だよ!」
(けっ勝手な事言いやがって!工藤君・・ジョーカーは高校生探偵の工藤新一か!?)
「いえ、キッドは目的果たしてますよ。”コノカネノネハワタセナイ(この鐘の音は渡せない)」”」
「どういう意味だね?工藤君!」不思議そうに目暮警部が問う。
「時計台の文字盤に刻まれた暗号の答えですよ。あのトリックでは時計台は実際には動かせませんし・・。
つまり怪盗キッドは最初から時計台を盗むつもりはなくて、暗号を刻む事によって警察に管理を委ね時間稼ぎをし
オーナーの悪事を暴くことによって、時計台の移築を阻止したって事です。」
「あれにそんな意味があったのか・・!!流石工藤君、暗号一瞥しただけで其処まで分かるなんて!!」
驚嘆と賞賛を浴びる名探偵の傍で、快斗は慄然としていた。
(一瞥しただけで、暗号を解いただと!!???しかも俺の目的も何もかも見抜かれていやがる!)
不確定な証拠だけで自身をキッド呼びする白馬よりも余程侮れない相手だ-。
”工藤新一”
その名は怪盗キッドにとって忘れられない名前となる。
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その出来事があって1カ月以上経った頃-。
黒羽快斗は郵便物を前に、だらだらと冷や汗を流していた。
大きい茶封筒の差出人が、何と件の工藤新一だったのである。
(これ俺正体ばれた!??ど、どどどどうしよう!!)
いや、焦るな俺 正体がバレたとしても決定的な証拠はない。
キッドは窃盗犯だ。だから決定的証拠がなければ、現行犯逮捕するしかないはずだ。
(だから大丈夫、大丈夫だ-。)
だがあの慧眼が忘れらない。真実を何処まで見抜くあの-美しい青-。
(工藤新一・・!!白馬なんかよりずっと鋭い・・!!くっそ!負けるつもりはねえけど、逃れられる気もしない。)
思考がぐるぐると迷路している気分である。
というか郵便物を手に足も勝手にグルグル回っていた。
(ええい。くそっ!とにかく開けるしかねえ。何だよ!)
そうして開けた郵便物は”週刊推理”という見た事も聞いた事もない雑誌だっだ。
「へ?・・何コレ・・。」
ぽかーんとした顔で立ち尽くす快斗( ゚д゚)
この場に幼馴染の少女がいたらバ快斗と呼ばれていた事だろう(笑)
気を取り直してその雑誌をしげしげと眺めると付箋がついている。
首を捻りながら、その付箋を捲ると”名探偵コナン” ”期待の大型新人 江戸川コナンが織りなす 小さな名探偵!”
”頭脳は大人 身体は子供”の文字が躍っていた。
「江戸川・・コナン・・。」
(ペンネームにしたって個性的というか何というか・・。)
奇しくもほぼ同時刻 別の場所で同じ思考に陥っている女性がいると露知らず首を捻る。
「…読めってか??」
頭を疑問符だらけにしながら、取りあえず頁を捲る。
そして読み進めていくうちに、不思議な感情が湧き上がってくることになる。
(こんな無茶もしてたの!?アイツ本当に容赦ないというか…うわあこれ懐かしいな あったあったこんな事!)
「何で俺・・この小説・・・懐かしいんだ・・・?」
知らない事のはずなのに、必死に眼が文字を追う。心が追う。
だが追う度に脳はそれは既に知っていると信号を出す。
(何?何が起きているんだ!??)
そして一気に記憶が流れ込んできた。

*************************

”「よう坊主こんなとこで何してるんだ?」
小学生らしからぬ笑顔で眼鏡の小学生は言った。
「花火!!」
それは怪盗キッドの居場所を知らせる合図で小さな名探偵の宣戦布告だった。”


”「優れた芸術家のほとんどは死んでから名を馳せる。
お前を巨匠にしてやるよ、怪盗キッド。監獄という墓場に入れてな!」
不敵に笑うサッカーボールを構えた名探偵の姿。”

次々と脳裏に蘇るこの小説の元となった”本当の出来事”-。
「ああああーーー!!」
「…嘘、だろ??そうだ 俺らあのパンドラの光を浴びて。」
其処からが記憶にない。
そして今の時期はあの時より約1年前-。
「…時間が巻き戻し?パラレルワールド?」
何にせよ、新一に会いに行かなければいけないのは確定だった-。

*************************

そして会いに行った先で、案の定記憶保持者だった新一と友人になる。
其処まではいい-だが何故自分まで事件現場に駆り出される羽目になっているのか!?
(俺、怪盗なんですけど~!!??)
「いやあ 助かったぜ!あ、今から行く月影島にな 浅井成実さんっていう女医さんいるんだけど女性じゃないんだよ。」
「はい?」
女医と言いながら女性ではないそれは…。
「犯人?」
「にさせやしねえ。と言う訳でお前の出番だ。世紀末の魔術師さん。 
いやこの場合はマジシャンの卵ってしておいた方がいいな。黒羽快斗として暴くんだから」
「はいー?」
「大丈夫だ。お前なら見破れる。本名が女性名でも通じそうな漢字名と女顔って事で変装してるだけだから。」
奴らみたいに変装のプロじゃない、と声を潜めて言う。成程奴らとは黒の組織の事だろう。
確かに素人の変装なら快斗が見破っても不自然ではない。
だが何故それを新一自らがしないのか-!?
疑問の眼差しを受け取ったのか新一は静かに説明し出した。
「俺は”前回”彼女が彼だと外見だけでは見抜けなかった。」
どうしても必要なら偶然を装って暴くが、自分の能力でない事が出来ると認識されると困るし
何より前と同じでない場合に対処出来ない、と新一が続ける。
「確かに前と同じ事件内容なら新一が間違える事はないけど…違っていたら…」
「取り返しのつかないことになる可能性がある-。」
「いや、でも新一の能力なら、イレギュラー起きても対応できるだろ!?」
「だが前回の記憶が足枷になって先入観に囚われるかもしれない。…何より手は多くあった方がいい。」
だからお前に傍にいて欲しいんだ。
特に変装とかトリックだと俺よりマジシャンのお前が気づいたって言った方が信憑性もあるし。
そう言われた深い眼差しに囚われた快斗は、以後新一の傍で助言し続ける事になる。
逆行した快斗のもう1つの顔-。
それは怪盗キッドだけでなく、まさかの”名探偵の助手”であった-。

おまけ
その後見事に浅井成実を殺人犯にする事なく、事件を解決した二人は事情聴取の為、警視庁を訪れていた。
(だから、俺、怪盗なんですけど~!!??( ゚Д゚))
視線だけで言いたい事を悟る我らが名探偵。
「気にするな。」
「気になるわ!!」
「あの二人仲良いわね~。」
「容姿もそっくりで双子みたい。二人とも頭良いし♩」
「本当よね~けど工藤君は美麗とかイケメンという言葉が似合うのに、黒羽君は可愛い、やんちゃって感じ!」
「「「分かる~!!」」」と警視庁 婦警達にきゃいわいされる二人であった。
(ほらファンが付いたじゃねーか!)
(男が可愛いだの言われて嬉しいわけねーだろうがよ!この天然探偵!)
*************************
後書 こちらの話は原作 まじっく快斗とアニメ版を併せて且つ私独自の解釈も交えて書いてあります。
なので少し違うぞ?という箇所もありますが、多目に見て頂ければ幸いです。
志保さんがシリアスなので、快斗君はギャグ担当なのはお約束(笑)
楽しんで頂ければ幸いです。
きっとモブ婦警さんになって二人を愛でたいという方がいらっしゃるはず( ´艸`)
あ、月影島の話は快斗視点なので短いまとめですが、もう少し長く次話で書きたいなって思ってます。

PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪して次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します

夢の絆③~灰原哀の覚醒~

志保にとっては毎日は研究室と住処とを往復するだけの味気ない、何気ない日々の積み重ねであった。
研究結果に遣り甲斐を感じる時もあったけれど、組織の中での息苦しさは変わらない。
けれと姉と自身の身の安全の為に、現状を変える事も出来ずにいた。
どうしたらいいのか-。
だが今夜、彼女は世界が一変するという事を味わう事になる-。

残業で夜遅く帰宅し、マンションの玄関口に行く。
カタンっとポストを開けると、フリーペーパー、請求書、通知書に紛れた大手通販サイトからの書籍が入ってあるであろう袋の形状。
いつも購入している化学雑誌もしくはファッション誌だと思い、自室に入るなり何の疑問もなく、封筒を開けた彼女は瞠目することになる。
何故なら中に入っていたのは”週刊推理”という見た事も聞いた事もない雑誌だったからだ。
「・・何コレ・・。」
深夜何も考えずにネット通販して、間違えて書籍を購入したことはあるものの、それは本来の目的の隣にあった本。
”推理””ライトノベル”のジャンルなどタッチしない自分にこんな間違いが起こるものか-?
「・・間違い?いえ、でも住所も宛名も私だわ。」
「付箋が付いてる。」
首を捻りながら、その付箋を捲ると”名探偵コナン” ”期待の大型新人 江戸川コナンが織りなす 小さな名探偵!”
”頭脳は大人 身体は子供”の文字が躍っていた。
「江戸川・・コナン・・。」
(ペンネームにしたって個性的というか何というか・・。)
だが何か頭に引っ掛かった志保は結局コートも脱がず、いつも帰宅後に飲むコーヒーも用意せず、その小説を一気に読む事になる-。
「何で私・・この小説・・知ってるの?」
大事な事を忘れていると必死に眼が文字を追う。
だが追う度に脳はそれは既に知っていると信号を出す。
(何?何を忘れているの?思い出したい!大事な事!私の大切な人!!忘れたくない人!)
そして一気に記憶が爆発した。


”哀ちゃーん!”
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
小さな私の親友。可愛い歩美ちゃん。

”灰原さん!”
年の割に賢い円谷君。江戸川君には叶わないけれど。あれはまあ反則だから比べなくていいわよ。

”お前、母ちゃんみたいに怖えな。”
小嶋君、貴方が部屋でサッカーして、カレー鍋にボール放り込むなんて事しなきゃ、私だってこんなに怒らないわ。

”哀君!大丈夫かの?”
行き倒れた私を拾ってくれた優しい人。
でも博士、食べ過ぎには注意よ。カロリー制限しなきゃ。


そして何より大切な人。大事な人。忘れたくない人。
”逃げるなよ 灰原。自分の運命から逃げるんじゃねーぞ。”
組織に見つかったと思い、バスの爆破もろとも自身を始末しようと思い残った自分を
銃を使って窓ガラスを破り、自身を抱えて飛び出すという、まるで映画のヒーローような行動で助けてくれた彼。

”それ掛けてると正体バレないんだぜ?”
”絶対守ってやっから!” 
結局ばれちゃったけどね。
でも、貴方のその底なしの優しさと明るさと勇気に救われていたの-。
守ってくれたのは確かだったわ-。
「江戸川君!工藤君!」
”志保、好きだ。”
蘭さんではなく、私を選んでくれた彼-。

「ああああーーー!!」
どうしてこんな大事な事を忘れていたのか-。
宮野志保の中で、もう一人の自分”灰原哀”が覚醒した瞬間だった-。


(どうしてこんな事が起きるのかよく分からない。時間が巻き戻ってるの!?
お姉ちゃんはまだ生きているし、彼も私も幼児化していない。)
この本はおそらく彼からだ、とすると彼も記憶を持っている!?
(今ならまだお姉ちゃんを助けられる!彼に連絡を・・!でも、組織の目がある。どうやって。どうすれば!?)
部屋の観葉植物は緑色に輝き、室内灯でさえ温かみを感じる。
いつもと同じ部屋のはずなのに、彼らを想い出しただけで、この差、この不思議さ-。

ああ、考えなきゃいけない事が多すぎる。
志保の頭は、取り戻した記憶と情報量、現状把握、これからの事でパンク寸前だった。
けれど今、今この時だけはこの貴い記憶を、奇跡を抱きしめていたい-。
(工藤君、私また貴方に会いたい-。)
***********************************************
後書 またしてもミスリードな題名です(笑)
志保さんは哀ちゃんになっていません。
今回 名探偵コナンの小説によって、志保さんが記憶を取り戻すというお話
ちょっと短くて、申し訳ないのですが、これは必要不可欠な部分ですので('◇')ゞ
この夢の絆シリーズ、題名で遊ぶのが楽しくてなりません。
他の回でも遊ぶ回を作る予定 お楽しみに( *´艸`)




夢の絆②~江戸川コナン 誕生の巻!~

あれから新一は、志保と快斗の情報収集すると同時に”現在”が逆行前と同じかどうか注意深く観察し始めた。
なるべく犯罪にならないよう、被害を食い止めるべく手も打ってみた。
するとある法則が浮かび上がってきたのである。
発生している事件は、トリック、人間関係や動機は以前とほぼ同じ。
だから難なく解決出来るが、既に知っている事の確認をするだけの事が多い為、カンニングしているような後ろめたい気分になった。
そして助けようとした事案だが、新一の時は、事件が起きてから呼ばれる事が多かった為、関係者達に接点がなく、これは地味に難しかった。
かろうじて成功した例の幾つかは、記憶に残る後悔の念が大きいもの、被害者か加害者に新一自身の思い入れが強いものといった結果になっていた。
(想いが強い者が勝つ-。ってこういう事か。なら志保、快斗、明美さん、成実さん、アイリッシュ、キュラソー・・・ 今度こそは!)
かつての仲間と助けられなかった幾人かの顔が脳裏をよぎり、今度こそと思う。
(だがそうなると未来は変わってくる。死んだはずの人物が生きるという事はその先にある未来の選択肢が増えるという事。)
推理力を磨いておかなければ、そして知っている事件だからと先入観で解決する事のないようにと自分を戒める日々が続いた。
組織と対立する未来も視野に入れて、報道を控えて貰うと、「急に謙虚になって、どうしたんだね。」と目暮警部にいぶかしがられた。
(本当あの時は、目立ちがりやでしょうがなかったんだな。)
過去の自分をそう振り返る新一であった。

数日後、黒羽快斗が江古田高校に在籍している事、志保がかつて新聞で見せられた炎上した研究所に在籍している事を遠目とはいえ自身の目で確認した新一は、一気に安堵の息を吐いた。
(よし。逆行前通りの情報だな。さてこれからどうするか・・。)
帰り道、ひとりごちながらゆっくり歩いていると、小学校の集団下校が視界をよぎった。
(懐かしいな・・。あいつら元気かな。元太、光彦、歩美。)
思い出すのは、無鉄砲で困ったでも元気な少年探偵団の面々。
(だがコナンじゃ守れない。打てる手も少ない。)
それなりに楽しかったとはいえ、”コナン”では手が届かない案件が少なくない。
(それに今回も幼児化だけで済むとは限らねえ。)
あの薬は、毒が身体に残らないものであり、幼児化というのは限られた人間だけに起きた副作用でしかないのだ。
そんな危険な賭けにのる気は新一にはなかった。
(けど、淋しいな。)
”江戸川コナン”として動き回った日々-。
大変だったけれど、精一杯やったし、充実感もあった。
耳を貸してくれない大人に、手が届かない歯がゆさに苛まれたりしたけれど、それでもコナンになったからこそ成長した部分も沢山ある。
(犯罪を犯す者の悲哀や遣り切れなさ。・・コナンになる前だって考慮してた。でも何処か薄っぺらかった。)
”コナンにはならない”と決めつつも、新一はあの日々をなかったことにされるのが耐えられなかった。
もう一人の自分 かけがえのない輝いていた日々。それが無にされるのか-。
(矛盾してるぜ、でも・・・!!)
その切なさと未だ事が動くまで時間があった事から、新一は且つての”江戸川コナン”の話を、自身の気持ちを書斎にあった父の白紙の原稿用紙に綴っていた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

それは突然だった。
かつての記憶では、こんな事なかったはずなのだが-。
「新一、これ面白いね。」
目の前には例の原稿を手ににっこり微笑む、食えない笑顔の工藤優作 つまり父親の姿。
「なああ-!!それ!!」
人に見せるつもりがない原稿を寄りにもよって、小説家の父に見られ、慌てて取り上げようとするも、ひょいと避けられてしまう。
何時の間に帰国したのか。
「で、物は相談なんだけどね、新一。」
「あんだよ。」
優作がこんな言い方する時、嫌な予感しかしない。
「この原稿、週刊推理に掲載してみないかい?」
「はあ!?何言ってんだよ!素人が書いたものをひょいひょい載せるわけねえだろ!」
「いいえ!これなら期待の新人って事で十分載せれます!さすが先生の息子さん!」
「いえ、あのそれただの趣味で書いたもので・・そういう気ないんです。」
「そんな~先生の原稿もなくて、代わりの原稿もなんて僕はどおしたら!」おいおい咽び泣く週刊推理 担当者を見て新一は事の次第を悟った。
「つまり父さん、また原稿を落としたんだな?」その代わりに新一の原稿を掲載させようというわけである。
(急な帰国も逃亡してきたとかか?)
「いや~あはは。」
「アハハじゃねえ。絶対ダメ!」
此処で泣き落としの担当者とあの手この手で言いくるめようとする優作からの攻撃に遭うが、新一とて譲れない想いがある。
(俺はコナンになるつもりはねえけど、万が一ってこともあるし、あいつ等と解決した事件は、これから起こる未来の物だ。)
未来の事件を言い当てるような小説を書いてしまったら、どうなるか-。
少年探偵団が結束されていない以上、解決するのは恐らく警察だろうが、それでも知っていた事を説明する術がない。
おまけに、登場人物を実名で書いてしまっている。
(これはアウトだよな-。)
普段なら何だかんだ言いつつも折れる息子の思わぬ拒絶に優作は眉を上げ、担当者を下がらせ真意を問う事にした。
もう一つ気になる事もあったからだ。
「新一、何故そんなにも頑なに断るんだい!?」
「あったり前だろ!?俺は父さんみたいに小説家じゃないんだよ!素人だよ!」
「掲載側がいいっと言っているから問題ない。それにプロの意見が必要なら、これは十分に読むに値するものだ。
世界的推理小説家の言葉信じられないかい?」
「いや、でも。」
「それと新一、何があった?」
「?」
「この小説・・まるで本当にあったことのように臨場感がある。そして、雰囲気が随分変わったね。」
「勿体ないよ。少年時代は男にとって掛け替えのないものなのに、新一はもうその階段を昇ってしまったかのようだ。」
全て見通すかのような慧眼。
新一はこの世でただ一人叶わないと思う父にじっと見つめられ、進退窮まってしまった。
(逆行の事を話すしかないか!?けど、そうなると組織の事で巻き込む事に。いやそれよりも俺は父さんと母さんの”息子”になるのだろうか!?)
逆行前の息子しか知らない両親からしたら、幼児化し更に未来の1年過ごした自分に取って代わられた、云わば乗っ取った、という解釈だって出来る。
新一は逆行前の事も覚えているし、自分は自分だから乗っ取ったと思いたくないが、周りからしたらそれが自然な反応だろう。
蘭や園子の戸惑った顔が浮かぶ。
そう、新一が恐れているのは彼らの息子のこの世界の”新一”を殺したと責められる事-。
他の人はいい。でも両親にだけはそんな眼で見られたくなかった。
「・・・・。」
思わず黙ってしまった息子に優しく微笑み、声を掛ける優作。
「何があっても私は、私達はお前の味方だよ、新一。」
父のその台詞と表情に、新一は遂に白旗を上げたのだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

幼児化し”江戸川コナン”となった事、その発端となった黒の組織、毛利探偵事務所での居候生活と遭遇した事件、蘭の告白放置から相棒の志保が恋人になった事、パンドラと思しき宝石を見つけた途端に逆行としか思えない現象が起きた事などなど洗いざらい話す事になった。
普通なら隠しておきたい告白放置をあっさり話せたのは、もう既に新一の中で初恋が昇華されていたからだ。
「フム。中々に興味深い事例だね。」
覚悟した罵りも奇異な視線もなく、眼の前には興味深く考え込む優作の姿。
「あのさ、父さん。少しは嘘だって疑わねえの?」
「嘘なのかい?」
「いや、ちげえけど。」
「なら問題ない。」
「あっそ。」
「お前は私の息子だよ。新一。」
拍子抜けするくらいにあっさりと受け入れたのは流石、度量が大きいと言うべきか否か-。
だが新一は心の底からほっとした。
和やかな雰囲気が書斎を包む。だが次の瞬間、新たなる爆弾が投下された。

「なら猶更これは発表した方がいいね。」

「はあっ!!??父さん、人の話聞いてた!?駄目だろ!未来に起こる事件なんか!下手したら関与を疑われる!」
「聞いていたとも。其の上でこれを利用したらいいんじゃないかと思ってね。無論、ある程度の細工は必要だが。」
「・・・!?どういう事?父さん。」
「同じパンドラの光を浴びた二人も逆行している可能性が高い。だが確認する術がない。快斗君はともかく宮野さんは接触すら難しい、だね?」
「ああ。」
「だったらこの小説を送って様子を見てみればいいじゃないか。」
「あ!」
「もし新一と同じなら、おそらくファンレターに見せ掛けて連絡が来るのではないかな?その真意に気付かない二人ではないだろう。」
「そんな方法が・・。」眼から鱗だった。
「無論、実名の変更と事件の要となる部分以外の訂正は必要だが、彼らなら分かるだろう。」
「確かにそれなら奴らの検閲にも引っ掛からないけど。」組織の監視下にいるであろう志保に想いを巡らせる。
「それに記憶がなくても怪盗キッドが同じ暗号を使用する事はなくなる。」
「???」
「つまらないだろう、既に答えの分かっている暗号や事件なんて。」
「!!!」図星だった。
記憶がなくとも小説を送られた怪盗キッドは其処にある暗号は使用しないであろう。
新一にとっては誰も傷つけない彼との対決は心躍る一時だっただけに、その提案は魅力的だった。
「ったく叶わねえな。」
自分より一枚も二枚も上手な父親に、表情には出さず尊敬の念を新たにした。

その後、小説は関係者の中にミスリードとなる架空人物を混ぜたりして、これから起こる事件との区別化を図った。
少年探偵団の名字を変更し-名前でなかったのは、コナンが彼らを下の名前で呼んでいた為、実名の方が筆が進むからであった-、灰原は逆に哀を”愛”に変えた。
そして最も変えたのがコナンの居候先を探偵事務所ではなく、とある財閥家にした事だった。
これは主人公が怪盗に関わる事を自然の成り行きにする為であったが、根底には蘭との距離を置きたい新一の深層心理も働いていた。
こうやって世に出た”名探偵コナン”は、子供ならではの着眼点、天才的な頭脳の眼鏡の少年と奇術が得意な怪盗との軽快なやりとりが評判になり、デビュー作としては異例の売り上げを記録する事になる。
小説家”江戸川コナン”の誕生であった-。
******************************
後書 さてサブタイトルで「え?新一君、コナンになっちゃったの!?」とミスリードに引っ掛かった読者様はどれくらい いらっしゃいますか?(笑)
このネタずっと温めてやっと世に出せて嬉しいです。
コナン時代の事をなかったことにはしたくない新一君が書いた小説はペンネーム 江戸川コナンとして世に出されます。
作中の主人公名と筆者が同じ名前と言う珍しい点も、注目を集めるようになった原因の一つですが
彼としてはそんな計算はなく、もう一人の自分という事でこの名前以外使う気がなかっただけでした。
感想お待ちしております(((o(*゚▽゚*)o)))
プロフィール
ご訪問ありがとうございます(≧▽≦) 名古屋OLが歴史・節約・日頃・二次小説のことを書き綴っています。 コメント大歓迎★ ですが、宣伝や本文に何も関係ないもの もしくは激しく不愉快、コピペ等、そういった類は、私の判断により 誠に勝手ながら削除の方向です。楽しく語りたいです♪ 二次創作小説もありますが、このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。

雪月花桜

Author:雪月花桜
タイトル通り名古屋OLがブログしてます。
歴史を元にした小説なんかも大好きでそれらについても語ったり、一次小説なんかも書いてますす。好きな漫画(コナンやCLAMP etc)&小説(彩雲国物語)の二次小説をupしておりますし、OLなりの節約・日々の徒然をHappyに語っています。

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