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幸福の姫君

非ッ常に面白くねえ!!
突然だが、彼は非常にイライラしていた。
まず、自国の王の無能ぶり。
第二に同じく王妃の浪費ぶり。
媚売ってくる女官ども。
そして長年の政治の腐敗により彼がどれだけ事を処理しても、減らない書類の山。
要は、オーバーワークと仕事による人間関係のストレス、が原因だった。

「おかえりなさいませ、旦那様」
「おかえりなさいませ、お食事なさいますか?」
こういう時は、気分転換に限る。
執事や女中の問いかけに頷きながら、頭脳を巡らせる。
如何にしてこのストレス解消させようか、と。
馬でも走らせるか?・・・ 却下。確かに思い切り駆けるのは気持ち良かろうが、今の俺にはそんな体力ない。

妃全部集めて、宴会でも開くか?・・・・ 却下。精神的に余裕あるときならともかく、今の俺には3派に分かれて、内輪の諍いが耐えない彼女らを相手する気にはなれない。
では側室の誰かの部屋に行くか。
・・・誰にするべきか。

サトラー 聡明で美しいが、こういう事には向いてないな、あいつは。
ラージャ 控えめで素朴な所が気に入ってるが、今求めているのは「癒し」ではなく
「娯楽・刺激」だ。
シャイン 独特のミステリアスな雰囲気がいいが、今はそんな気分じゃねえ。
彼の脳裏を十数人もの側室が現れては消えていく。

・・・こういう時、ユーリがいてくれたらな。
黒い髪、黒い少女、象牙色の肌の異国の少女。
自分が求めた「帝王の女」。政治の話にもすぐ返答、行動できる。
純真無垢でいつも元気良くて明るくて、目が離せない。
癒しが必要なときも
安らぎが欲しいときも 
刺激を求めているときも
どんなときでも彼の心を満たすことができる、女性。
彼が側室各々に振り分けた役割全てを担っていた。

・・・・らしくもないことを考えた。
ラムセスは自嘲の笑みを浮かべる。
最早、ユーリは遠いヒッタイト帝国の皇妃であるのに。
取り戻せない過去に縋る程、自分は弱くない。

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「ラムセス様!」
部屋に入った途端、艶のある喜びが含まれた女の声がした。
彼は結局、新参の側室の部屋の戸を叩いていた。
「嬉しゅうございます。おいでいただいて。さあ、ワインでもいかがですか?」
癖のある黒い髪、黒い瞳、小麦色の肌の小柄な女性、否少女である。
が雰囲気は落ち着いた大人を思わせる。
この側室・ティアはつい数ヶ月前に侍女から、妃になったばかりであった。
「ああ、貰おう。・・・ティア、何か面白い話聞かせてくれ。」
彼が、この歳若い側室の元を訪れたのは、これが目的だった。
この少女は、元はミタンニの貴族の娘であったが、
幼い頃故国の滅亡と共に各地を流転して生きてきた。
その為、貴族としての教養と、放浪先での伝承・神話・昔語り等を上手く組み合わせて話を創作するのが上手く、その上、話し手としても一流であった。

「お話・・でございますか?」
「そうだ。」
「どのようなのをご所望で?」
「聞いたことのないヤツがいい。」
「・・・さようで。かしこまりました。では、”幸福の姫君”を」
彼女がリュートを持ち出した。綺麗な旋律がその指先から流れる。

”昔、昔ある所に皇子様がいらっしゃいました”
”それは凛凛しく美しく、武勇にも勉学にも優れた皇子様。都中の娘の憧れの的”
”けれど、皇子は、どんなに美しい女性がいても心惹かれない”
”一体、彼を射止めるのはどんな女性なのだろう?”

・・・・どっかで聞いたような話である。
前聞いたやつと同じ話ではなかろうな?
前回は、確かその皇子が理想の姫を探していて、自分の侍従から妻が仕えてる姫が美しく優しい、姫だと聞き通うようになり、恋に落ちる。
自分の妻に迎えようとするが、それを快く思わない継母と継母の讒言を信じ込んだ父により、二人は引き離される。
侍従の妻で、姫の忠実な女官が奮闘し、皇子は姫を監禁先の塔から救出し幸せに暮らしました。
以上のような話だった。

はっきり言ってアレは面白くなかった。いや自分の娘たちは喜んで聞いていたが。
その姫のどこが魅力的なのか分からないからだ。
継母の苛めにも黙って耐える、健気で美しい姫。娘たちはそれを「可哀相」と同情していたが。
彼には「可哀相より自分で何とかしようって気ないのか?この姫さんは」と反感を感じた。
彼がそう思うのも無理ない話で、姫は自分からは、ほとんどといっていいほど行動してないのだ。
継母の苛めにも、黙って耐えるだけ。
実父の誤解にも、首を振るだけ。
監禁されるときもただ泣くだけ。
かろうじて皇子の求婚や、救出された後に個性が見えるが彼からすれば人形みたいな女は、嫌いだった。
それよりも皇子と姫の救出作戦を考えたり、監禁先に知恵をしぼって食事を運んだり、皇子の手紙を届けようと奮闘する侍女の活躍の方が、小気味良かったくらいだ。この話を最後まで聞けたのは、そのおかげだった。

彼がそんなことを思っている間に話は進んで行く。幾人もの姫と、本気でない恋愛をする皇子。
”泉の中から現れ出でた女神に出会い、皇子は一目で恋に堕ちる”
”天上界より現れた愛の女神も、人間界で初めてあった男性に心奪われる”
”だがそれは禁忌の恋”

朗々と響く声。
この話・・・まさか・・・
狼狽するラムセスに気づかず、ティアは歌い続ける。
話は延々と続く。
”誰にも及ばぬ知識で剣を見極め、戦場を駆け抜け”
”その白く繊細の手をかざし、流行病を抑えし”
やがて皇帝として即位した皇子は、正妃にしようとするが、彼女を”女神”と認めない、皇帝の継母や貴族達の反対。
それと、彼女の父である最高神の反対に遭う。
双方からの反対。

”されど、2人は惹かれあう” ”誰にも引き離せぬほどに”
”その姫は、私の愛娘、人間にはやれぬ”
天上界に引き戻されてしまう、彼女。
”彼女は私の命、太陽、水、風、美しいモノから成るもの全て”
”彼女なしでは生きていけない どうぞ私の腕に彼女を”
神に訴える皇帝。切ない恋心の旋律。
”人間との恋は、上手くいかない”
”掟を破り、神としての能力を得ようとした女” ”約束を違え、妻の正体を知ろうとした男”
様々な人間と神との、悲恋を持ち出し、娘を説得しようとする、最高神。
”けれど、私はあの人を愛してる”  
”愛している、愛している” 
”代償が、2度と天上界へ戻れぬことでも叶わない”

結果折れた、最高神は娘を降嫁させる。
ただし、条件付で。人間とそうでない者の悲恋を数多く見てきた彼ならではの、条件。
”その愛をどちらかが裏切ったならば”
”裏切ったならば” 
”為した者の命尽きる”
”為された者の記憶はすべて潰える”
彼は純粋な愛と美の女神たる我が娘が、裏切ることは考えていなかった。
ただ日々の生活や、情勢に左右されやすい人間は、
今はよくても十数年後には、別の若い娘に心を移すかもしれない。
あれほどの愛情を持ちながら
人間界の規則・風習についていけず、疎んじられた、もう一人の娘のように。
もう裏切られて傷つく娘をみたくなかった。だから条件をつけた。

そして皇帝は女神と再会する。
民衆は女神の降臨を寿ぐ。
”泉より現れ出でし、女神”
”国に華のごとき繁栄をもたらす”
それを巧みに使い、彼女を正妃にしようと画策する皇帝。
皇太后や貴族達の妨害を乗り越え、
皇帝は、民衆の歓喜の声を背景に、女神を正妃に迎える。
彼は、最高神の出した条件を知らなかったが、
側室を薦める周囲の声を退け、正妃を心から愛し、彼女一人を守り抜く。
”いつまでも若く美しい少女”
子供を産んでも変わらぬ、彼女の瑞々しい美貌、新鮮な可愛らしさ。
”その容姿、皇妃よりも「姫君」”
最愛の夫にただ一人の妻として愛された彼女を、憧憬した若い女性らが冠した名は。
”故に彼女のもう一つの呼び名、「幸福の姫君」”

・・・・これは間違いなく、あいつらがモデルになってやがる。
闘う妃はそのままだし、流行病のことは、例の七日熱のことだろう、看病しても全く移らなかった、というあの噂話。
水から現れた女神なんて、ヒッタイト駐屯時に知ってるし。
出来事が前後しているが、まちがいない。
ラムセスは憮然とした表情をした。
(せっかく、気分転換にと思ったのに。何故、ムルシリとユーリの話なんだよ。)

「ラムセス様、お気に召しませんでしたか?」
心配そうなティアの顔が近くにあった。
「・・・いや、ちょっと知ってるヤツ思い出したんでな。」
「さようでございますか。ではその方の奥様は幸せな方ですね。」
「・・・へ?」
「だって、妻を生涯一人と決めている方なのでしょう?」
「・・・、まあな」
(他の女なんか眼中にないだろうよ)
「でしたら、やはり羨ましく思われます。世の女性の憧れですわ。あっ、ラムセス様を非難しているわけではないのですわっ。身分高い方に多くの妃が居るのは当たり前・・・でもそう納得していても、心の底ではやはりただ一人として愛されたい、と思うものでございます。
他の女に通う姿など見たくありませんもの。・・・」
「そういうもんか。」
「ええ。」
笑顔で返してくるティアに何とも言えない気分になってくる。

だが・・・。俺がこの話を聞いて心に浮かんだ事は。

「ティア、女の感想はそうかもしれんが、男は違うぞ。」
「まあ。違うと仰せですか?ではどのような?」
好奇心で目が輝いている。

自分がかつて天に逆らってまで願ったこと。

「本当に幸福なのは、その姫君じゃなくて、”幸福の姫君を手に入れた野郎”だぜ」

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<後書>
寄贈小説第5弾☆ラムセス編です~
彼がつまらないと思ったのは日本古典「落窪物語」がモデルになってます。
私は平安時代シンデレラみたいで好きですけど、多分ラムセスはこういう姫君は好みじゃない
と思いました。
で、側室ティアが話した中での契約は劇団四季「オンディーヌ」という作品からヒント得てます。
水の精、オンディーヌは騎士ハンスと出会い、強く愛し合います。
けれど水界の掟に背いて人間を愛してしまったオンディーヌは、水界の王とある契約を
結ばなくてはならず・・。
その内容がハンスが裏切れば彼の命は尽き、オンディーヌの記憶は永遠に失われてしまうという契約。
これすごい契約だな~って覚えてたのが執筆中降りてきました






ある日の授業 カルチャーショック編

「では、授業を始めます。皇子様がた、よろしいか。」
「「はい!」」
ここはオリエント2強の一角を成すヒッタイト帝国の王宮の一室。
現皇帝の皇子2人に、王立学問院の博士が授業をするところである。
「ピア、おとなしく聞いてるんだよ。」
「うん。デイル兄様。でもさ、これから何しゅるの?」
棒色の瞳に期待を込めて、兄に授業内容を聞く第2皇子・ピア。
彼は、今日初めての授業であった為、かなり緊張とある種の期待感を持っていた。
「今日は確か、歴代皇帝の話じゃなかったかな…僕はもう聞いたけど。」
対して、かなりの授業数こなした皇太子は、落ち着いている。
「そうです。歴代皇帝陛下のお話です。ただ、今日はそれに加えて、そのお妃と皇子、皇女のお話をさせて頂きます。…これはデイル殿下もまだですな?政治の話にもつながりますので、少々難しいでしょうが帝王学には必要不可欠ですので、頑張って聞いて下さい。」
粘土版を取りだし、講義が始まった。
「最初にヒッタイトを統一され、皇帝になられたのは、タバルナ1世とおっしゃいまして、これは後に皇帝を意味する称号となりました。同じくお妃のタワナアンナも女性第1の称号になりました。
1にタバルナ皇帝、2にタワナアンナ皇妃、までは今の政治機構を同じですが3に当る元老院がまだなく、皇族会議や貴族会議といったような色々な要素で国事決定をしておりました。」
現皇帝ムルシリ2世とその正妃ユーリ・イシュタル皇妃の間に産まれた皇子たちであるのでこれは問題なく理解できるだろう、と踏んでいた博士だが、それは間違いであった。
「それって、父しゃまが国で1番エラくて、母しゃまが2番目ってこと?」
「ピア、お話の邪魔しちゃダメだよ。」
「でもぉ…」
釈然としないピア皇子の顔を見て、博士が一言。
「その通りですが、なにかご質問でも?殿下。」
「あのね、あのね、先生。母しゃまの方が父しゃまより強いよ?」
「…は?」目が点になっている。
「ケンカしてもいつも謝るのは父しゃまだし、それにハディがね、"さすがの陛下もユーリ様にはかないませんわね"ってゆってた。」
「母様が脱走すると、父様が役に立たないってイル・バーニ元老院議長もこぼしてたな」
冷静に事実をつき足すデイル皇子。
「はあ」
…どうやら皇帝と皇妃の個人的な力関係は、皇妃の方が上のようである。
…しまった。納得している場合ではない。そうじゃなくって、家庭内でどれほど皇帝が皇妃を溺愛しようが、じゃじゃ馬ぶりに手を焼いていようが、公的地位は皇帝が上なのである。そこのところを次代を担う皇子たちに分かってもらわねば!!
「ええとですね、政治的には、皇帝が1番、皇妃が2番目なのですよ。」
「ふうん。??」
まだ釈然としないピア皇子に、博士は懸命に説明をしだした。


今日の発見☆皇帝は皇妃よりえらいんだ!!   (ピア皇子の粘土版より)


一刻後、先程の出来事で授業の進度は遅れたものの、大分進んでいた。
「…アルヌワンダ1世には、アシムニカル御正妃の他に、ご側室が10数人おられまして、
その内の一人の寵姫サティが、治世5年に外交に口を出してご自分の出身地に有利に取り計ろうとしたため、却って事態が悪化しました。その時の訴訟と条約がこちらです。」
そう言って粘土版を差し出す博士。
まだ幼い皇子たちには難しいので見せるだけにとどめ、休憩にしようとして気がついた。
またしてもピア皇子が、不思議そうな顔をしている。
「先生のお話が一段落したみたいだから質問してもいいよ、ピア。」
どうやらずっと疑問に思っていたことがあるらしい。
だが、そんな難しい話をしただろうか?
彼がしたのは、歴代皇帝の業績とそれにどのように妃や子供が関わったかである。
嫉妬深い正妃が側室をいじめぬいて、死に追いやり、その妃の実家が有力な一族だった為訴えが起き、あわや内乱になりかけた事件。寵姫に溺れた皇帝が、無茶な政策を打ち出して、皇位を追われた話。国を傾けた女性だち。
反対に国を栄えさせた、素晴らしい女性の話もした。
ヒッタイト法典を作成したテリピヌ王(この当時は小国)の正妃・イシタパリヤは、良妻として知られており、夫の暗殺計画を察して、事前に食い止めた、と言われている。
王の手腕のおかげもあろうが、結果、内政が混乱していた自国の王位継承争いの終止符を打つ役割を果たした功績に一役買ったのだ。
その他は、年も資質も身分も大差ない、異腹の皇子たちが王位継承を争い、その母妃もその争いに巻き込まれてたものの、その内の1人の妃が仲裁した話。
外国へ嫁いだ姫が自国と嫁ぎ先を上手に仲介役を果たした話等々…。
…別になにも可笑しなことは言ってはいない、ハズ。
「何か分かりにくい点でもありましたかな?」
「うん、あのね、側室って何?」
「…は?」更に目が大きくなる博士。
"側室って何?"
皇帝の皇子、皇女の養育の教官として20数年働いてきた彼だが、こんな質問ついぞされたことがない。
当たり前である。皇帝ならば正妃を始めとする、数十人もの側室が後宮にいる。
皇子、皇女ならば産まれたときからその環境にいるわけであり、…あらら?そうである。
現皇帝ムルシリ2世には、妃は皇妃である正妃・ユーリ・イシュタル唯1人のみ。
「~、ええとですね。皇帝にはご正妃がいらっしゃいます。」
「うん。母しゃまがいるね」
「それとは別に、通常、他にお妃がいらしゃっいまして、その方が側室と呼ばれるのです。」
「他にいないよ?」
「っう!」
聞かれるとは思ってはみなかった質問に加え、答えるのが難しい…。
見かねたデイル皇子が一言。
「テリピヌ伯父様の内輪の宴に出た時のこと覚えてる?ピア。」
「うん。面白かったよね~。曲芸士とかが芸見しゃえてくれて。」
「…伯父様の隣の椅子に座ってらした方がいただろう。落ち着いた感じの女性。あの方が伯父様の御正妃。」
「うん。いたね。あのね、ピアにお菓子くれたの」
「…それは置いといて。その側に椅子ではなくて、床に敷物引いて座ってらした女性たちが十数人いらしただろう。」
「うん?…うん居たね~」
「あれが側室だよ、テリピヌ伯父様の。」
これでこの話終わり、と思っていた博士とデイルだが、それは甘かった。
「ふ~ん。じゃあ、父しゃまの側室ってハディ?」
「「はっっ?」」
「…なんでそうなる?ハディは女官長だよ。」
「でも皆で食べる時、床に座ってゆよ?」
…どうやらピアの頭の中には、側室=床に座ってる女性、という図式が出来てしまったらしい。
「違います、ピア皇子。」そして慌てて、博士は側室とは何たるか、を説明始めた。


今日覚えたこと 側室って言葉とその意味。世の中知らないことでいっぱいだ☆
(ピア皇子の粘土版より)


…「側室」の意味が分からなかったら、今までの話を理解できているのだろうか?
休憩して一刻後。
いささかどころかかなりの不安材料を抱えながら博士は大幅に遅れた講義を進める。
進めていく内に更に基本的な事柄を皇子が理解していないことが判明。


理解不能単語とその原因
「お召し」…原因 皇帝陛下が皇妃陛下の元へ行かれるから。
「異腹の兄弟」…他の妃がいないため、同腹の兄弟しかいない。等々…
(博士の粘土版より)


皇妃しか見てない上に溺愛しまくりの皇帝。そして慣例、前例を破りまくってる皇妃。
この両親を見て育った皇子には基本的事項から教え込まねばならない、ということを博士
は身をもって感じた。王宮に彼の悲鳴兼苛立ちの声がこだまする。(哀れなり 笑)
「だああああ~~~ッ!!」



未来のヒッタイト帝国の為に、頑張れ!教育係!!(爆)







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<後書>
「わるふざけ」あずま様への寄贈小説第3弾☆今回はギャグです。
面白く楽しく書きました。ピア皇子の無邪気な質問がポイントです
作中の歴代皇帝と妃、皇子、皇女に関する話ですが、創作がほとんどです。
ただ史実に忠実なのは、アルヌワンダ1世には、アシムニカル正妃が居た、と言うことと、
彼の代に対外情勢が悪化したことです。
(この原因が寵姫のせいってのは、創作です。)
ヒッタイト法典を作成したテリピヌ王(この当時は小国)の正妃・イシタパリヤが居たのと
暗殺計画があったこと。
ちなみに、未然に防がれてその一族が追放されました。
この正妃が計画を察知ってあたりは創作ですが、ありえる度50%くらい。
何故かと言いますと、暗殺首謀者は彼女の弟なんです。
この時小説のネタ探しに史実を調べまくりましたが
ヒッタイトの歴史は分かってること少なくて(泣
でも歴史書めくる作業はとても楽しかったですね

六花幻影

最初はあのヒッタイト帝国の皇妃として嫁げると喜んだ。
夫となるムルシリ2世には1人の妃もいなかった。
ただ幸運に見えたのは最初だけ。




話が来たのは冬の雪降る日だった。雪の結晶が花のようで、美しかった。
「え?私をヒッタイト皇妃に?」
父であるバビロニア国王・クリガルス2世から告げられた言葉に、王女ダヌヘパは戸惑う。
「そうだ!2ヶ月前に逝去したユーリ・イシュタル皇妃の後添えとしてお前を迎えたい、と
勿論、正妃としてだ!可愛いお前を側室としてなど、嫁がせんからな。」
満面の笑みを浮かべる父は、この縁談を心から喜んでいるようだった。
「でも、ムルシリ2世はもう既にお年を召してるのでしょう?」
「それはそうだが、私とお前の母に比べれば、大丈夫十分、似合いだよ。お前の母が私の元に
上がったのは、私が60歳近くで、お前の母が14,5だったからな・・・・それは可憐でな・・」
感慨深げに亡き妃を追憶するクリガルス2世は話を続けた。
「それに比べて、ムルシリ2世は確か50歳くらいで、お前が20になったばかりだ。
大丈夫だろう!」
無責任に太鼓判を押す、父であった。
「でも50だなんて!!お父様!!!私が末姫でなかったら、父親と年齢の変わらない殿方に嫁げ、て仰ってるのと一緒です!
それにヒッタイトはイシン・サウラ姉様を殺して、ナキア叔母さまを流刑にした帝国ではありませんか!!」
抗議の声を上げる王女。会ったこともない姉と叔母だがその二人が、かの国で不幸になったことに姫は良い印象を持っていなかった。
「ダヌへパ、言っていいことと悪いことがある!!」
瞬時に、父から国王としての厳しい顔に変わった。
「イシン・サウラのことは正妃になりたがった皇族の姫がやったこと。皇帝のせいではない。
ナキアのこともそうだ。むしろあれだけの事をしておいて流刑で済んだのが皇帝の寛容さを示しておる。
元老院は死刑を要求したそうだからな・・」
そしてバビロニア国王は、娘にナキアがした国家反逆罪、皇帝暗殺未遂等の所業を説明したのだ。
・・・だがさずがに姪である、イシン・サウラをナキアが殺した可能性やその他のこと――――彼は弟から帰国次第全てを聞いて知っていたのだ――――は教えることができなかった。
「そうでしたの・・・。ご無礼致しました、お父様。では、皇帝はご立派な方なのですね?」
一礼して問いかける姫。どうやらヒッタイト皇帝に対する心象は一転したようだ。
「うむ。分かれば良い。ムルシリ2世は賢帝と呼ばれて、その治世は磐石。
年齢のことは、さておき、そなたの嫁ぎ先としてこれ以上ない、と思っておるのだ」
「でも、私はお父様の側で暮らせる方が・・」
「無論、可愛いそなたを嫁がせるのは私としても、身が切られる思いだが、我が国のことを思えば、国王としてそんな事を言ってられんのだ。」
ダヌへパはクリガルス2世が年老いてから、寵姫との間にもうけた末姫であった。
その時の出産が元で妃が亡くなったこともあり、王は特にこの姫を可愛がり、ずっと手元に置くつもりで自国の王族に嫁がせるか、神官にさせると常々公言していたのだ。
だが、そんな親心も国王としての責務には、儚いものであった。
ナキア皇太后の失脚により、ヒッタイトからの援助がなくなりはしなかったものの目に見えて減り、理由が理由だけに、抗議もできず自国の勢力が後退したところに、代替わりしたアッシリア国王・エンリル・ニラリとの争いにも負けてしまった。彼の代でバビロニアは衰退してしまったのだ。それに頭を悩ませていた、バビロニア国王の元に、舞い込んだ、今回の話。
実は、皇妃の逝去の報を受け、もう一度オリエント1の勢力と縁を結ぶことができるなら、と話を持ち込んだのはバビロニアだった。
最悪、側室でもかまわない、と思い――――王女には言わなかった――――が、使者がヒッタイトからの承諾の返事を持ち帰ったのは、昨夜のこと。
(何としてもダヌへパにはヒッタイトに、嫁いでもらわねばならん)
周辺諸国も同じように求婚の書簡を出したときいている。今までユーリ・イシュタル皇妃への寵愛ゆえに妃1人を守ってきた皇帝と縁戚になるチャンスなのだ。
側室という話ならば、さすがに愛娘ではなく、王族に連なる娘――――姪か孫姫を嫁がせようと思っていたのだが、今回は話が違う。
女性の地位が高いヒッタイトで、皇妃になれるのだ。王女として産まれてこれ以上の幸せがあろうか。
親心と王としての打算的な計算の末の判断だった。
「ダヌへパよ、父ももう長くない。そうなったときに後見のないそなたの身が心配なのだよ。
それに酷な言い方だが、政略結婚は王族としての務めでもある。ヒッタイトと縁戚になるのは、必ず我が国の為になる。父のために行ってくれぬか」
「お父様・・・。」
「それにヒッタイト皇帝・ムルシリ2世はとても素晴らしい方だと聞いている。そして、イシュタルと呼ばれる皇妃を深く愛してらして、側室を1人も置かず、誠実な人柄らしい。最初は心を開いて頂くのに、時間が掛かるかもしれないが、それを超えれば、お前も同じように愛されよう・・・。何、お前程の姫はそうおらぬ、大丈夫だとも。」
重ねて言う父の声に、ダヌへパは頷いた。
「分かりました、お父様。ヒッタイトへ参ります!」
「おお、分かってくれたか。さすが我が娘。」




それからが大変だった。花嫁用の衣装、豪奢な支度。未来の皇妃になるための教育。
怒涛のように準備の1ヶ月が過ぎていった。
ダヌへパ姫は自分の身を幸せだと、思っていた。
王が寄越した教育係や自分付の侍女たちの夫となるヒッタイト皇帝の噂。
長身で誰もが見ほれる美貌。あふれる才気、存在感。
そして卓越した指導力。そしてヒッタイトがオリエントでどれほど発展しているか。
これからお会いする夫に期待と憧れが募った。




「ちょっと何しているの!?私はこんな衣装と装身具を持ってこいなんて言ってないわ!
紫の服とあの銀の細工がいいと言ったのに!」
ダヌヘパは後宮の女官を怒鳴りつけ、青い極上の衣装を投げつける。
知らない土地、知らない言葉。
嫁いで来たころは不安だった。だけどそれ以上の期待があった。
私はこの帝国の第一の女性になるのだと。
だが、現実はそんな甘いものでは、なかった。




そう。最初はあのヒッタイト帝国の皇妃として嫁げると喜んだ。
夫となるムルシリ2世には1人の妃もいなかった。そして評判通りの男性だった。
ただ幸運に見えたのは最初だけ。それを悟るのにそう時間は掛からなかったのだ。
嫁いで来て初めて知った事実。
皇帝の心を占めるのは死してなおーその後宮の最高位、伝説となった美貌と絶大な民衆の支持を誇る、女神と称えられた皇妃ユーリ・イシュタル。
皇太子は既に決まり、他にも神官ピア・近衛長官シンといった女神が残した自分より年上の皇子たち。そんな中に1人放り込まれ、自分は余所者なのだと悟った。




「どうして、私がたかだか平民出身のしかも、もう死んでいる皇妃より下なの!?」
やるせない思いと悲嘆にくれ、周りの家具や雑貨を壊し始めた。
「姫様。どうぞ落ち着き遊ばして。」故国より付いてきた侍女が慌てて主の行動を止める。
「これが落ち着いてられるの!?私はバビロニア王女よ、そしてヒッタイト皇帝の正室になるために嫁いできたのに・・・。」
現に後宮で与えられたのは、南側の正妃の間ではなく、格式が高いものの側室の部屋。
未だ、結婚式を挙げてないため、という名目ではあるが、前皇妃は立后前から住んでいたという。明らかに自分が低く見られてるといるとしか思えない。
そして女官たち。今、追い返した女官だけではない、前皇妃に仕えていた者達は、自分の振る舞いにいちいち、眉をひそめる。陰で悪口を言っているのも知っている。
「ユーリ様なら、もっとおやさしい」「イシュタル様なら、ねぎらいの言葉を・・・」等々。
私は王女。人より尊敬を受ける身。権力を行使する身分の女性。
それに慣れ、当たり前と思って父にも、愛されてきた王女には、そんな王宮に仕える者達の言葉や態度に合わせることや、分かりあう努力の仕方も知らず、またしようとも思わなかった。
「姫様、ここはバビロニアではありません!ヒッタイトです。タワナアンナになろうと言う方が前任の皇妃を、根拠なく悪し様に言われてはなりません。両国の関係にも影響が及びます。」
年嵩の腹心と言ってよい別の女官兼教育係・シャーナが、正論をぶつけてくる。
確かに彼女の言うことは正しい。自分はヒッタイトとバビロニアの両国の掛け橋となるべく、嫁いできたのだ・・・。でも・・。
「お前なんかに、私の気持ちは分からないのよ!!!」言い捨てて、部屋を飛び出していた。




女神の気配が色濃く残る後宮で悔しくて泣きながら、走った。
誰にも泣き顔を見られたくなくて、走って走って気がついたら、神殿前の水溜り、いや池の側に来ていた。そこで感情が極まった王女は、泣きじゃくっていた。
「うっっ、うっっ、」
流れ落ちる涙。感情が止まらない。そしてダヌへパの能力が、発動した。
彼女の能力は、故国の王家でも珍しいものであった。
それは、土地や物にある人の残った思念を読み取ると言うものだった。
そこでみたのは祖国の王家の特徴ある顔立ちをした自分と似た女性。
その女性は故国に犠牲にされた自分の運命を呪いながら、皇帝の側室として、生きていた。
貴族出身ですでに皇子、皇女を成している妃の下座になったことに憤りを感じ、泣きながら
走っている。まるで今の自分のようだ。




そこで、会った下級神官との恋。
会えるのは皇帝の寝所に行くときだけ。見つめあうだけの恋。
それでも姫は、己の気持ちをぶつけて、神官に言う。「私を連れて逃げて!」
だが、それは神官が宦官であるため叶わない。
そして、彼女は2年後。皇帝の皇子を産む。その子の髪は神官と同じ見事な金髪。
一目で恋に落ち、お互いに惹かれた。けれど実ることなかった恋。その金の髪を見てその恋が成就した気になった。皇帝の子供に違いないのに、彼の私の子のような気がして、愛しさが募った。――――決して過去の私や彼のような思いをさせぬため、そして故国を出た時の誓いのため、必ず至上の地位に!!――――


――――心の底からの叫び――――
自分で泳がなければ流される――――流される激流さえない
自分で立たなければ潰される――――私の居場所など初めからない。
だから私は自分で道を切りひらくしかなかった――――野心と才覚、魔術で競争激しい後宮を勝ち残った姫は、嫁いできたときとは別人のようだ。




私の道は何処にあるの?
ダヌへパは過去のナキアと自分の思念で頭が掻き乱されていた。ナキアの憤り、哀しみ、誇り。
それによって、血を染めた皇太后の所業がまるで自分自身の記憶のように、感じられて王女は
「いやああああっっ!!」
全身で拒絶して、その記憶の渦に耐えられなくて、気を、失った。




「姫様?お目覚めでらっしゃっいますか?ご気分は?」
気が付いたら、自分の後宮の部屋のいつもの寝台に寝かされていた。
心配気の女官・シャーナが水を浸した布をあてながら、声を掛けてきた。
何故あんなところにいたのか、と視線で訴えかける侍女たちの中で、シャーナ1人が冷静且つ
機敏に動いていた。役に立たない侍女など、要らない。
シャーナ以外の侍女を下がらせ、問うた。
「お前は私が何故あんなところにいたか聞かないの?」
「誰にでも、1人になりたいことはございますもの。」微笑んで、杯にワインを注ぐ。
そのワインに口をつけながら、彼女は先ほどの叔母の過去と自分がそれに共鳴し、恐怖して気を失った過程を語った。
王女の能力とその制御が効かないことをも熟知している彼女は、ある程度予期していたようだったが、さすがに元皇太后の所業は、その想像をはるかに越えていたため、話終わった後は、気丈なシャーナも顔色がよろしくなかった。
「それは・・・何と言ってよいか・・・。よもや姪御様まで・・・。それで、姫様?」
叔母に利用され殺された王女に対して哀しみの色が広がって、深いため息を吐き出した後、物問いたげな顔を向けた。
(姫様は何か言いたいのだ。言わせなければ。)
「・・・・私は何処にいるのだろう?・・・」
「はい?」
「・・・叔母のしたことは、確かに罪。でも私は羨ましいと思ってしまったのです。ねえ、シャーナ、側室として多くの妃との争いを生き抜くのと、ただ1人きりの正妃として、どちらが辛いと思う?」
主の言葉の意味が分かった気がした。
(姫様はこの帝国での存在意義が欲しいのだ。それも、両国の絆とかいう大儀や綺麗事ではなく、
もっと心の底からのもの)
「競争相手がいたら、辛い。私は嫉妬に苦しむ父上や兄上の妃達のようになりたくない。そう思って、いないことに喜んだのに。心穏やかに暮らせると思ったのに。なのに1人なのに苦しい。
まだ、相手がいれば、頑張りようもあったのに。手も打てるのに。・・・・・いいえ、居るのよ!!
この後宮の主は未だにユーリ・イシュタルなのよ!!!女神なんて、死んだ人間なんて、勝てっこないではないか!!死んだ人間は美しいままなのよ!!私がどんなに着飾っても、好みの振る舞いをしても、陛下は誉めて下さるけど、心は開いて下さらない!!私とイシュタルでは、勝負にすらならないのよ!!」
ダヌヘパはそこで息が切れ、拳を握り、ハアッハアッと宙をにらむ。
皇子の息子達や、知事夫人となった女神によく似ているというマリエ皇女の語らいや、正妃の間でかいま見た亡き妃を偲ぶ様子で分かった。
皇帝が、どれだけの愛情を前皇妃に注いでいたか。
そしてそこにおそらく誰も入り込む隙などないことを。




それには、シャーナも気が付いていた。皇帝は優しいし、礼儀正しい。政略結婚の相手としては、申し分ない。世情に疎い王女は、それを当然と受け止めているが、シャーナは安心した。
政略婚の相手が話と全然違うことなどよくあるからだ。
だが、その礼儀の中に決して見せない感情があるのを、感じていた。
「姫様・・・。」
(姫様もそれも感じてしまったのだろうか?)
「叔母様は、自分の息子を皇位にって目標があったでしょう?・・・もしかしたら、それしかなくてしがみついていたのかもしれないけれども!でも、それでも、何もない私よりは、マシよ!
・・・どうすれば良い?」
(きっと姫様は皇帝に好意を持っている。でなければ、こんなに前皇妃への嫉妬で苦しむはずがない。政略婚で決められた夫を好きになる。それは普通なら、幸せなことのはずなのに。)
胸がきしむ音がした。
出身・バビロニアの王宮で、領土の保証と引き換えに出された貴族の姫が、年老いた王など嫌だと、毎晩泣くのをこらえていたのも知っている。
遥か昔、バビロニアからエジプト王に嫁がされ、あまりの遠方ゆえに、王女であるのに、その無事さえ確かめられなかった女性もいた。政略結婚の多くの悲劇。
かといって、自国の後見もなく、嫁ぎ先を離れて暮らしていくのは、深窓の姫には、まず無理。
(本来なら、幸せなことのはずなのに。皇帝陛下に恋をして、側室もおらず)
それなのに。この後宮に妃と呼ばれる人はいないことが王女を追い詰めている。




あなたは、王女として何でも許されるご身分です。
お前は、王女としての義務を果たす為に、結婚せねばならない。
貴女は、お渡りがあるまで、ご結婚まで、こちらでお暮らし下さい。
南側の正妃の間は、お入りにならないように。ヒッタイトの流儀にお従い下さい。




・・・私は何処にいるのだろう?・・・
・・・幸せになれると信じていたのに・・・
縁談が出たときに見た雪の花が浮かんでは、浮かんでは、溶けて消えるのが、見えた。
*********************************************************************************
<後書>
寄贈した小説第二弾☆
これは悪役ナキア皇太后の過去話が出たころに思いついた話です。
由緒あるバビロニア王女でありながら、ヒッタイトではただの側室に過ぎなかった
屈辱の過去のフレーズが印象的だったことを覚えています。
「~その最高位には既に、民衆の圧倒的支持を誇る皇家出身の美貌の皇妃 しかも皇太子は既に決まっており
他にもカイル・ザナンザといった将来を嘱望された皇子達がいた。
そんな中で何も持たぬただの側室として、放りこまれたのだ~」

うろ覚えですが確かこんなフレーズでした。
これを読むまで、私はヒンティ皇妃が死んでからナキアが正妃として迎えられたと思ってました。
何せ一国の王女ですから。
でもそうじゃなくてこんな辛酸も舐めていたわけですね 
どうりで自分の息子をどんな手段使っても、皇帝にしたがるんだと納得。
彼女の過去話は側近ウルヒとの悲恋も凝縮されてて胸に響きます。
ええとこのフレーズと似たような、でも内容が違うのをこの小説では書いてみたくてチャレンジしたんです。
漫画本編フレーズは「大勢のライバル(しかも美貌で血統正しいカイルの母がトップ)がいる中に放り込まれた王女」です。
この小説のフレーズは「ただ一人の妃で女神という眼に見えない敵と戦わなければいけない王女」です。
うまく対比が効いてるといいな~


Happinest Life

ヒッタイト後宮、正妃の間。
うららかな午後のひとときのはずの時間が、今日に限って緊張を伴った空気が流れていた。
この後宮の主、ユーリ・イシュタル皇妃が、倒れたからである。

「ユーリッ!!!!大丈夫かッ?」報を聞いてすぐ血相変えてやってきた皇帝。
「母上、お加減はいかがですか?」と長男で皇太子のデイル。父親よりも大分落ち着いている(笑
「母上、大丈夫ですか?」と父親似の第二皇子、ピア。
「お母様…」と心配そうな黒い瞳を、向ける第一皇女、マリエ。

家族皆の来訪を受け、心配させまいとユーリは微笑んだ。
「大丈夫。そんなに心配しないで。少しふらっとしただけだから。」
「少し熱があるな。今日の会議は欠席だな。」
皇妃の額に手を当て、断言する皇帝である。
「そんな…大丈夫だってそれに今日の会議は重要なものだし。」
「いいや、病気は初めが肝心なんだ。誰か医師を!」
「病気じゃないってば!カイル心配しすぎ」過保護ぶりに少しむくれるユーリ。
「だめだ!安静にしてろ!」一歩もひかないカイル。
このままだと皇帝夫妻の口喧嘩に発展すると踏んだ、いつでも冷静な元老院議長イル・バーニが、一言。
「典医の判断により、会議の出席の有無を決めましょう?両陛下よろしいですね?」
//////////
「まあ、お医者様が安静って言うならしょうがないけど…。」しぶしぶうなずくユーリ。
「確かに、そうだな」とカイル。

そこへタイミング良く、医者がやってきて、皇帝一家、側近たちの見守る中、診察が終った。
のだが、何やら考え込んでいる様子だった。何かに気付いたように皇妃の方を見ると
「皇妃様、失礼ですが、月のものはいつありましたか?」と聞いた。
「は??え、えーと1,2.3ヶ月くらいかな・・?あれ最近全然ない…?」
「やはり」
「妃は何かの病気なのか?」と心配のあまり口を出す皇帝に典医が笑みを浮かべて
「おめでとうございます、陛下」と一礼した。
「は?」と間抜けな声をあげる皇帝。
(人が妻の心配をしているのに何がおめでとうなんだ?)
続いて言った台詞が質問の答えだった。
「ご懐妊なさっておいでです。」

それからは、一騒動であった。それぞれの反応は以下の通りであった
この国の最高権力者たる皇帝であるハズのカイルは大喜びした挙句、
「ハディ、ミルクとはちみつをありったけ」「シャラ、何か羽織るものを」
「ユーリ、私の目の届かないとこに行くな」等々・・・
心配と溺愛にいつもより拍車がかかった。
ユーリは40歳近くの妊娠にさすがに恥ずかしそうであるが、喜びも感じられる笑みを浮かべていた。
「カイル、産まれるのは半年後よ!!!」
・・・・ただしカイルの溺愛ぶりに閉口気味の妃であった。
20歳になったばかりの皇太子・デイルと最近宮を持ち独立したピアは、「あの父上と母上は」と顔を合わせて苦笑いしていた。
ピアは側室を迎えたばかりの兄に
「兄上の方はまだですか?」
と言われて皇太子殿下は、ヒュン、ヒュン。
仕返しとばかりに求婚の書簡の山から、タブレットを投げつけていた。
「何されるんですかー??兄上!」抗議の声を上げるピア皇子。
「うるさい!!!これからの事を思うと頭が痛いのに、それに拍車をかけることを言うな!!!!おまえも妃の1人でも持って私の負担を軽くしろっ!!」
倍に言い返され???が浮かんだ弟に根は優しい兄は、これから先起こるであろう事を説明しだした。

現在のヒッタイトはオリエント一の領土、権力を誇っている。
その頂点に立つ父カイル・ムルシリには即位直後、いや前からも降るような縁談があった。
なにせ皇帝の持つ権力、領土、容姿、実力等々これでもかとばかりに、周辺諸国が手を結びたい条件が揃っていたのだ。
彼の父、彼ら皇子の祖父に当たる、先々帝は自分の王女を近隣の王に嫁がせ、自分自身も藩属国、同盟国の姫たちを娶り、その力も得てヒッタイトを発展させた。
言わば、政略結婚を国のために上手に活用したのだ。
それについては、賛否両論あろうが、結果的にヒッタイトを一流国まで、のしあげたのは確かであり、成果でもあった。
そうでなくても、王の政略婚は、国の利益として当たり前であり、妃も複数いて当たり前のこの時代である。だからその息子も・・・と周辺諸国は思ったのだが、そうはならなかった。
現在の皇帝ムルシリ2世は、結婚に対して、亡き父と反対の政策を貫いていた。
義母、ナキア皇太后の横暴を見ていた彼の考えは、妃の後見は当てにせず、その代わり求めたのはその女性自身の力。
「人の上に立つ器量、自戒心、自制力を持つ女性。その代わり側室は持たぬ」
帝国第1の女性としてのその期待に応えたのが、彼らの母、ユーリ・イシュタル。

ハッティ族から製鉄法を献上された女性。
ミタンニ戦、アルザワ戦、エジプト戦を勝利に導き、戦いの女神。
そしてその人柄に惹かれた、絶大な民衆の支持。
皇妃になるに足りないのは、身分だけだったといって良かったが、それさえも元老議会で出した条件をクリアし、正式にタワナアンナに就任した。現在では、泉から現れた女神という、身分を越えたものとして、貴族・民衆にも容認されている。
そして現在の皇帝の妃は彼女だけだ。
それが結果として、帝国をますます富強にしていた。
というのも先々帝の婚姻政策は一流国に成長するにあたって、必要であったがそれと同時に、問題も抱え込んだ。
第一の火種はその犠牲になった嫁がされた姫たちー主にナキア皇太后の所業であった。国家反逆罪、皇帝暗殺未遂で流刑にされるまで、自国の利益より自身の野望を果たすために行動した。
第二に姻戚諸国への援助。
この2つが彼らの母1人が妃になった時点で、一気に解決したのである。
第一はそのままであり、第二の問題は、小国であったころには特定の国との誼を通じていることが、政略上有効であったが、ここまで強国になると却って逆効果になる、できるだけ平等に接することが自国のためになる方が多いからである。

が、しかし、である。
「周辺諸国はどうしても我が帝国と誼を通じたい。しかし父上は母上しか妃を持たない。と、どうなる?」
そこまでの事情を説明してデイル皇子は弟に問い掛けた。
ちなみに正妃1人と決めたのは、その女性にそこまでのものを要求するのだから、と言っていた父の言葉は、伝えなかった。
嘘ではなかろうが、それが真実の全てではないこと ―― つまり父が母を溺愛している ―― を知ってたからだったりした。
「次期皇帝たる兄上に縁談が来る・・・?」
「よく出来た。その通り!!その上、母上が懐妊したと知れてみろ!祝いと称した使者がまたわんさかやってきて、ついでに(このついでが曲者だ)皇太子殿下もそろそろ正妃を持たれては?とか、側室でもよろしいから、わが国の姫を、とか言ってくるに決まっている!!」
バキっ。求婚の書簡に八つ当たりする皇太子殿下(笑
使者の口上まで覚えてるところを見ると、今までにもよほどたくさんの縁談があったらしい。
(ぼく、第二皇子で良かった。)
心の底から思ったピア皇子であった。
「他人事と思うなよ?はい、土産!!」
兄がにこりと差し出したのは、例の書簡の山。
「だってこれ兄上宛でしょう?」
慌てまくるピアにデイルが、「残念だな。皇子の内どっちでもいいのだそうだ。お前にやる。私は、要らん」
「私だって要りませんよ~~~」
ピア皇子の悲鳴が王宮に響いた。^^;


さてマリエ皇女は兄達と違い、両親と素直に喜び一生懸命に名前を考えてたりした。
「男だったら、シシとかシンとか簡潔なのがいいな~呼びやすいしカッコイイ!!
女だったら、お母様も私も女神の名前だから神話から取ろう!ね、お母様!」
「ふふ、男だったら、マリエの案でも良いわね。でも女の子だったら、名前はもう決まってるのよ・・」
「え~?何て名前?」
ユーリは少し儚げに微笑み「エイミ、と言うのよ。」
「エイミ?」
「そう、母様の大事な人の名前よ。」
それまで、母娘のやり取りを笑顔で見ていたカイルだったらが、心配そうな顔をして
「ユーリ・・・」と言い愛妃を抱きしめた。
「カイル、大丈夫。私は幸せよ。」

その様子を見ながら側近たちは絶句から立ち直り、お祝いを言ってきていた。
あの皇帝夫婦ならありそう的納得モードが周りを流れている。
ただしイルはカイルの心配ぶりを見かねて ―― 高齢出産は死亡率が高い ――
「そんなに心配なら作らないで下さい」
「そんなこと(1人寝のことね^^;)私が我慢できると思うか!」
「それならそれで結構、ただし政務に支障はきたさないで下さい」 最初が肝心とばかりの元老議長と皇帝とのやりとりが続いていた。
ヒッタイト帝国は今日も平和?であった・・・・。

************************************************************************************************
<後書>
かなり前にハマりまくった「天は赤い河のほとり」の二次小説です。
一応歴史小説になるのかしら?やっぱり二次小説?(笑)
これは天河の二次小説サイトを運営してる「わるふざけ」さんのサイトに寄贈した小説でした。
せっかくなので自サイトにもUP^^


プロフィール
ご訪問ありがとうございます(≧▽≦) 名古屋OLが歴史・節約・日頃・二次小説のことを書き綴っています。 コメント大歓迎★ ですが、宣伝や本文に何も関係ないもの もしくは激しく不愉快、コピペ等、そういった類は、私の判断により 誠に勝手ながら削除の方向です。楽しく語りたいです♪ 二次創作小説もありますが、このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。

雪月花桜

Author:雪月花桜
タイトル通り名古屋OLがブログしてます。
歴史を元にした小説なんかも大好きでそれらについても語ったり、一次小説なんかも書いてますす。好きな漫画(コナンやCLAMP etc)&小説(彩雲国物語)の二次小説をupしておりますし、OLなりの節約・日々の徒然をHappyに語っています。

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