一滴の水 志保編⑥
「お姉ちゃんは大丈夫だから、志保は自分の事だけ考えてね。」
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
姉が自分の為に、自身以外にも大切な人を作らせようとしていたのを知っていたけれど
物心つく前に両親が他界した為、少女にとって姉だけが唯一の家族で大事な人だった。
『Ladies&Gentlemen!It’s show time!!』
その言葉と煙幕と共に合同結婚式が始まった。
最初に博士とフサエの結婚式、次に自分達の番だった。
新郎姿の阿笠博士が新婦姿の志保と腕を組み、これまた新郎姿の新一の元に誘うという、傍から見たら不可思議な光景が展開されていた。
既に新婦の父親の如く、涙でうるうるしている博士である。
(ちょっと早過ぎやしないかしら?)
「新一、志保君を頼んだぞ。」
「ああ、博士。」
神妙なそれでいて自信に満ちた彼はいつもより数段カッコイイと思うのは惚れた欲目だろうか?
式は滞りなく進み、神父の言葉が紡がれる。
*****************************************
汝【工藤新一】は、この女【宮野志保】を妻とし
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、
神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
*****************************************
「誓います。」
こっそり横目で見た、静かに告げる彼の横顔が凛としていて見惚れる。
”自分の運命から逃げるんじゃねーぞ”
爆破数秒前のバスから命掛けで助けてくれた。
”心配すんな!やばくなったら俺が何とかしてやっからよ。”
本当に組織を何とかしてしまった彼。
今までの彼の言動が鮮やかに蘇る。
ああ、なんて愛おしいのだろう。
(きっと私は世界一幸せな女だわ。)
同じ誓いの言葉が花嫁にも向けられ、迷う事なく首肯する。
この男性とずっとずっと一緒にいたい。
”「死が二人を分かつまで”
―いいえ 例え死が訪れようとも、私はずっと貴方に恋をし続ける―。
「おめでとう。志保お姉さん!!綺麗~!!」
「おめでとうございます。宮野のお姉さん。お綺麗です!」
「おめでとーっ!宮野のねーちゃん。」
「ちょっと元太君。食べながらお祝い言わないで下さいよ。失礼ですよ。」
「いいじゃねーかよ。このサンドイッチ、スゲー旨いんだぞ。光彦も食えよ。もぐもぐ。」
「元太君~。こんなに綺麗な花嫁さんの前でそれないんじゃない?」
歩美が元太を呆れた目で見てから、キラキラした憧れの眼差しでまた志保を見上げる。
(変わらないわね、この子達。)
挙式後のガーデンパーティで少年探偵団と志保はにこやかに談笑していた。
「ちなみにこの後、展望レストランで食事あるから、それ以上食べるとはいらなくなるわよ?」
(とりあえずには小嶋君には、この後の予定を伝えておいてあげよう。)
「あっ!しまった・・!!やべー食べらんなかったら、どうしよう。」
「心配ないと思うよ。」「心配要りませんよ。」
ほぼ同時の歩美と光彦の突っ込みに志保は思わず噴き出してしまった。
(ふふ幸せね。そうだ・・!忘れない内に。)
「歩美ちゃん。これ、どうぞ。」
年上の女性らしく、歩美をちゃん付けし、ブーケを差し出す。
(同じ男性を愛した私の親友へ)
江戸川コナンは、歩美の初恋の人は、もう二度現れないし、真実も告げられない。
その事を思うと罪悪感が襲うし、心が締め付けられる。
それでも、大事な事を教えてくれた親友へできる限りの感謝を示したい。
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
(ありがとう、吉田さん。)
心の中でのみ、今だけと言い聞かせながら灰原哀になる。
「ええ!!あの、あのもらっていいんですか?」
「もちろんよ。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!!うわあ綺麗!!」ぱああと顔を輝かせる歩美。
「次は歩美ちゃんの番ですね!」
「何だそれ?」
「花嫁のブーケもらった女性が次の花嫁って云われてるんですよ。」
「へえ~。」
子供たちの様子を微笑ましく眺めながら、志保の思考はもう一人の女性に向っていた。
(蘭さん・・。もう一人の同じ男性を愛したお姉ちゃんに似た人。)
天然な夫は気付いていないが、志保はホテルで会った時に、彼女の心がまだ新一にあると気付いてしまった。
(バレンタインの時は半信半疑だったけどね。)
待ち切れず作った彼氏はどうとか経緯はよく分からない。
けれどあれは恋する女性の眼だった。
それでも、と思う。
(それでも新一が選んだのは、選んでくれたのは私。蘭さん、ごめんなさいね。私譲れないわ。だって彼を愛しているもの。)
今まで色んな事を諦めてきた、かつての彼女だったら、優しい命の恩人に譲っていたかもしれない。
かつて震えながら身をもって、哀を庇ってくれた女性。
でももう彼の側にいる心地良さ、抱かれる安心感を知ってしまった。
新一の存在は志保にとって、空気や水のように必要不可欠なものだ。
「志保!」「志保君~!」「志保さん!」友人らに囲まれた夫と父とも慕う博士とフサエが笑顔で手招きしている。
背後に見える銀杏並木の金色のせいだろうか、やけに眩しく感じる。
(お姉ちゃん、私幸せよ。)志保は飛び切りの笑顔で、3人に腕を振った。
「お姉ちゃんは大丈夫だから、志保は自分の事だけ考えてね。」
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
その姉が自分を助ける為に死んだ時、彼女の世界は灰色になった。
姉を看取った少年を責めながら泣いたけれど、その少年こそが少女を助けてくれた
彼が掛け替えのない男性になった時、世界に色が戻った。
否、より色鮮やかな世界が、其処にはあった。
少年だけではなく、周りの人たちも自分にとって大事な人達になった事に気付いた時、自身以外にも大切な人を作らせようとしていた姉の想いを知る。
(自分を愛してくれる、信用してくれる人がいる。それがこんなにも幸福なものなのね、お姉ちゃん。)
***************************************************
後書 歩美ちゃん⇒蘭ちゃん⇒明美さんと結婚式で思いを馳せる志保さんです。
ブーケを歩美ちゃんに渡す志保さんが書けて満足です(^◇^)
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
姉が自分の為に、自身以外にも大切な人を作らせようとしていたのを知っていたけれど
物心つく前に両親が他界した為、少女にとって姉だけが唯一の家族で大事な人だった。
『Ladies&Gentlemen!It’s show time!!』
その言葉と煙幕と共に合同結婚式が始まった。
最初に博士とフサエの結婚式、次に自分達の番だった。
新郎姿の阿笠博士が新婦姿の志保と腕を組み、これまた新郎姿の新一の元に誘うという、傍から見たら不可思議な光景が展開されていた。
既に新婦の父親の如く、涙でうるうるしている博士である。
(ちょっと早過ぎやしないかしら?)
「新一、志保君を頼んだぞ。」
「ああ、博士。」
神妙なそれでいて自信に満ちた彼はいつもより数段カッコイイと思うのは惚れた欲目だろうか?
式は滞りなく進み、神父の言葉が紡がれる。
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汝【工藤新一】は、この女【宮野志保】を妻とし
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、
神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
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「誓います。」
こっそり横目で見た、静かに告げる彼の横顔が凛としていて見惚れる。
”自分の運命から逃げるんじゃねーぞ”
爆破数秒前のバスから命掛けで助けてくれた。
”心配すんな!やばくなったら俺が何とかしてやっからよ。”
本当に組織を何とかしてしまった彼。
今までの彼の言動が鮮やかに蘇る。
ああ、なんて愛おしいのだろう。
(きっと私は世界一幸せな女だわ。)
同じ誓いの言葉が花嫁にも向けられ、迷う事なく首肯する。
この男性とずっとずっと一緒にいたい。
”「死が二人を分かつまで”
―いいえ 例え死が訪れようとも、私はずっと貴方に恋をし続ける―。
「おめでとう。志保お姉さん!!綺麗~!!」
「おめでとうございます。宮野のお姉さん。お綺麗です!」
「おめでとーっ!宮野のねーちゃん。」
「ちょっと元太君。食べながらお祝い言わないで下さいよ。失礼ですよ。」
「いいじゃねーかよ。このサンドイッチ、スゲー旨いんだぞ。光彦も食えよ。もぐもぐ。」
「元太君~。こんなに綺麗な花嫁さんの前でそれないんじゃない?」
歩美が元太を呆れた目で見てから、キラキラした憧れの眼差しでまた志保を見上げる。
(変わらないわね、この子達。)
挙式後のガーデンパーティで少年探偵団と志保はにこやかに談笑していた。
「ちなみにこの後、展望レストランで食事あるから、それ以上食べるとはいらなくなるわよ?」
(とりあえずには小嶋君には、この後の予定を伝えておいてあげよう。)
「あっ!しまった・・!!やべー食べらんなかったら、どうしよう。」
「心配ないと思うよ。」「心配要りませんよ。」
ほぼ同時の歩美と光彦の突っ込みに志保は思わず噴き出してしまった。
(ふふ幸せね。そうだ・・!忘れない内に。)
「歩美ちゃん。これ、どうぞ。」
年上の女性らしく、歩美をちゃん付けし、ブーケを差し出す。
(同じ男性を愛した私の親友へ)
江戸川コナンは、歩美の初恋の人は、もう二度現れないし、真実も告げられない。
その事を思うと罪悪感が襲うし、心が締め付けられる。
それでも、大事な事を教えてくれた親友へできる限りの感謝を示したい。
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
(ありがとう、吉田さん。)
心の中でのみ、今だけと言い聞かせながら灰原哀になる。
「ええ!!あの、あのもらっていいんですか?」
「もちろんよ。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!!うわあ綺麗!!」ぱああと顔を輝かせる歩美。
「次は歩美ちゃんの番ですね!」
「何だそれ?」
「花嫁のブーケもらった女性が次の花嫁って云われてるんですよ。」
「へえ~。」
子供たちの様子を微笑ましく眺めながら、志保の思考はもう一人の女性に向っていた。
(蘭さん・・。もう一人の同じ男性を愛したお姉ちゃんに似た人。)
天然な夫は気付いていないが、志保はホテルで会った時に、彼女の心がまだ新一にあると気付いてしまった。
(バレンタインの時は半信半疑だったけどね。)
待ち切れず作った彼氏はどうとか経緯はよく分からない。
けれどあれは恋する女性の眼だった。
それでも、と思う。
(それでも新一が選んだのは、選んでくれたのは私。蘭さん、ごめんなさいね。私譲れないわ。だって彼を愛しているもの。)
今まで色んな事を諦めてきた、かつての彼女だったら、優しい命の恩人に譲っていたかもしれない。
かつて震えながら身をもって、哀を庇ってくれた女性。
でももう彼の側にいる心地良さ、抱かれる安心感を知ってしまった。
新一の存在は志保にとって、空気や水のように必要不可欠なものだ。
「志保!」「志保君~!」「志保さん!」友人らに囲まれた夫と父とも慕う博士とフサエが笑顔で手招きしている。
背後に見える銀杏並木の金色のせいだろうか、やけに眩しく感じる。
(お姉ちゃん、私幸せよ。)志保は飛び切りの笑顔で、3人に腕を振った。
「お姉ちゃんは大丈夫だから、志保は自分の事だけ考えてね。」
笑顔でそう言う姉こそを守りたくて、少女が研究を続けた日々があった。
その姉が自分を助ける為に死んだ時、彼女の世界は灰色になった。
姉を看取った少年を責めながら泣いたけれど、その少年こそが少女を助けてくれた
彼が掛け替えのない男性になった時、世界に色が戻った。
否、より色鮮やかな世界が、其処にはあった。
少年だけではなく、周りの人たちも自分にとって大事な人達になった事に気付いた時、自身以外にも大切な人を作らせようとしていた姉の想いを知る。
(自分を愛してくれる、信用してくれる人がいる。それがこんなにも幸福なものなのね、お姉ちゃん。)
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後書 歩美ちゃん⇒蘭ちゃん⇒明美さんと結婚式で思いを馳せる志保さんです。
ブーケを歩美ちゃんに渡す志保さんが書けて満足です(^◇^)