夢の絆③~灰原哀の覚醒~
2017.01.21 00:00|夢の絆 本編|
志保にとっては毎日は研究室と住処とを往復するだけの味気ない、何気ない日々の積み重ねであった。
研究結果に遣り甲斐を感じる時もあったけれど、組織の中での息苦しさは変わらない。
けれと姉と自身の身の安全の為に、現状を変える事も出来ずにいた。
どうしたらいいのか-。
だが今夜、彼女は世界が一変するという事を味わう事になる-。
残業で夜遅く帰宅し、マンションの玄関口に行く。
カタンっとポストを開けると、フリーペーパー、請求書、通知書に紛れた大手通販サイトからの書籍が入ってあるであろう袋の形状。
いつも購入している化学雑誌もしくはファッション誌だと思い、自室に入るなり何の疑問もなく、封筒を開けた彼女は瞠目することになる。
何故なら中に入っていたのは”週刊推理”という見た事も聞いた事もない雑誌だったからだ。
「・・何コレ・・。」
深夜何も考えずにネット通販して、間違えて書籍を購入したことはあるものの、それは本来の目的の隣にあった本。
”推理””ライトノベル”のジャンルなどタッチしない自分にこんな間違いが起こるものか-?
「・・間違い?いえ、でも住所も宛名も私だわ。」
「付箋が付いてる。」
首を捻りながら、その付箋を捲ると”名探偵コナン” ”期待の大型新人 江戸川コナンが織りなす 小さな名探偵!”
”頭脳は大人 身体は子供”の文字が躍っていた。
「江戸川・・コナン・・。」
(ペンネームにしたって個性的というか何というか・・。)
だが何か頭に引っ掛かった志保は結局コートも脱がず、いつも帰宅後に飲むコーヒーも用意せず、その小説を一気に読む事になる-。
「何で私・・この小説・・知ってるの?」
大事な事を忘れていると必死に眼が文字を追う。
だが追う度に脳はそれは既に知っていると信号を出す。
(何?何を忘れているの?思い出したい!大事な事!私の大切な人!!忘れたくない人!)
そして一気に記憶が爆発した。
”哀ちゃーん!”
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
小さな私の親友。可愛い歩美ちゃん。
”灰原さん!”
年の割に賢い円谷君。江戸川君には叶わないけれど。あれはまあ反則だから比べなくていいわよ。
”お前、母ちゃんみたいに怖えな。”
小嶋君、貴方が部屋でサッカーして、カレー鍋にボール放り込むなんて事しなきゃ、私だってこんなに怒らないわ。
”哀君!大丈夫かの?”
行き倒れた私を拾ってくれた優しい人。
でも博士、食べ過ぎには注意よ。カロリー制限しなきゃ。
そして何より大切な人。大事な人。忘れたくない人。
”逃げるなよ 灰原。自分の運命から逃げるんじゃねーぞ。”
組織に見つかったと思い、バスの爆破もろとも自身を始末しようと思い残った自分を
銃を使って窓ガラスを破り、自身を抱えて飛び出すという、まるで映画のヒーローような行動で助けてくれた彼。
”それ掛けてると正体バレないんだぜ?”
”絶対守ってやっから!”
結局ばれちゃったけどね。
でも、貴方のその底なしの優しさと明るさと勇気に救われていたの-。
守ってくれたのは確かだったわ-。
「江戸川君!工藤君!」
”志保、好きだ。”
蘭さんではなく、私を選んでくれた彼-。
「ああああーーー!!」
どうしてこんな大事な事を忘れていたのか-。
宮野志保の中で、もう一人の自分”灰原哀”が覚醒した瞬間だった-。
(どうしてこんな事が起きるのかよく分からない。時間が巻き戻ってるの!?
お姉ちゃんはまだ生きているし、彼も私も幼児化していない。)
この本はおそらく彼からだ、とすると彼も記憶を持っている!?
(今ならまだお姉ちゃんを助けられる!彼に連絡を・・!でも、組織の目がある。どうやって。どうすれば!?)
部屋の観葉植物は緑色に輝き、室内灯でさえ温かみを感じる。
いつもと同じ部屋のはずなのに、彼らを想い出しただけで、この差、この不思議さ-。
ああ、考えなきゃいけない事が多すぎる。
志保の頭は、取り戻した記憶と情報量、現状把握、これからの事でパンク寸前だった。
けれど今、今この時だけはこの貴い記憶を、奇跡を抱きしめていたい-。
(工藤君、私また貴方に会いたい-。)
***********************************************
後書 またしてもミスリードな題名です(笑)
志保さんは哀ちゃんになっていません。
今回 名探偵コナンの小説によって、志保さんが記憶を取り戻すというお話
ちょっと短くて、申し訳ないのですが、これは必要不可欠な部分ですので('◇')ゞ
この夢の絆シリーズ、題名で遊ぶのが楽しくてなりません。
他の回でも遊ぶ回を作る予定 お楽しみに( *´艸`)
研究結果に遣り甲斐を感じる時もあったけれど、組織の中での息苦しさは変わらない。
けれと姉と自身の身の安全の為に、現状を変える事も出来ずにいた。
どうしたらいいのか-。
だが今夜、彼女は世界が一変するという事を味わう事になる-。
残業で夜遅く帰宅し、マンションの玄関口に行く。
カタンっとポストを開けると、フリーペーパー、請求書、通知書に紛れた大手通販サイトからの書籍が入ってあるであろう袋の形状。
いつも購入している化学雑誌もしくはファッション誌だと思い、自室に入るなり何の疑問もなく、封筒を開けた彼女は瞠目することになる。
何故なら中に入っていたのは”週刊推理”という見た事も聞いた事もない雑誌だったからだ。
「・・何コレ・・。」
深夜何も考えずにネット通販して、間違えて書籍を購入したことはあるものの、それは本来の目的の隣にあった本。
”推理””ライトノベル”のジャンルなどタッチしない自分にこんな間違いが起こるものか-?
「・・間違い?いえ、でも住所も宛名も私だわ。」
「付箋が付いてる。」
首を捻りながら、その付箋を捲ると”名探偵コナン” ”期待の大型新人 江戸川コナンが織りなす 小さな名探偵!”
”頭脳は大人 身体は子供”の文字が躍っていた。
「江戸川・・コナン・・。」
(ペンネームにしたって個性的というか何というか・・。)
だが何か頭に引っ掛かった志保は結局コートも脱がず、いつも帰宅後に飲むコーヒーも用意せず、その小説を一気に読む事になる-。
「何で私・・この小説・・知ってるの?」
大事な事を忘れていると必死に眼が文字を追う。
だが追う度に脳はそれは既に知っていると信号を出す。
(何?何を忘れているの?思い出したい!大事な事!私の大切な人!!忘れたくない人!)
そして一気に記憶が爆発した。
”哀ちゃーん!”
”逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん、ぜーったい!”
小さな私の親友。可愛い歩美ちゃん。
”灰原さん!”
年の割に賢い円谷君。江戸川君には叶わないけれど。あれはまあ反則だから比べなくていいわよ。
”お前、母ちゃんみたいに怖えな。”
小嶋君、貴方が部屋でサッカーして、カレー鍋にボール放り込むなんて事しなきゃ、私だってこんなに怒らないわ。
”哀君!大丈夫かの?”
行き倒れた私を拾ってくれた優しい人。
でも博士、食べ過ぎには注意よ。カロリー制限しなきゃ。
そして何より大切な人。大事な人。忘れたくない人。
”逃げるなよ 灰原。自分の運命から逃げるんじゃねーぞ。”
組織に見つかったと思い、バスの爆破もろとも自身を始末しようと思い残った自分を
銃を使って窓ガラスを破り、自身を抱えて飛び出すという、まるで映画のヒーローような行動で助けてくれた彼。
”それ掛けてると正体バレないんだぜ?”
”絶対守ってやっから!”
結局ばれちゃったけどね。
でも、貴方のその底なしの優しさと明るさと勇気に救われていたの-。
守ってくれたのは確かだったわ-。
「江戸川君!工藤君!」
”志保、好きだ。”
蘭さんではなく、私を選んでくれた彼-。
「ああああーーー!!」
どうしてこんな大事な事を忘れていたのか-。
宮野志保の中で、もう一人の自分”灰原哀”が覚醒した瞬間だった-。
(どうしてこんな事が起きるのかよく分からない。時間が巻き戻ってるの!?
お姉ちゃんはまだ生きているし、彼も私も幼児化していない。)
この本はおそらく彼からだ、とすると彼も記憶を持っている!?
(今ならまだお姉ちゃんを助けられる!彼に連絡を・・!でも、組織の目がある。どうやって。どうすれば!?)
部屋の観葉植物は緑色に輝き、室内灯でさえ温かみを感じる。
いつもと同じ部屋のはずなのに、彼らを想い出しただけで、この差、この不思議さ-。
ああ、考えなきゃいけない事が多すぎる。
志保の頭は、取り戻した記憶と情報量、現状把握、これからの事でパンク寸前だった。
けれど今、今この時だけはこの貴い記憶を、奇跡を抱きしめていたい-。
(工藤君、私また貴方に会いたい-。)
***********************************************
後書 またしてもミスリードな題名です(笑)
志保さんは哀ちゃんになっていません。
今回 名探偵コナンの小説によって、志保さんが記憶を取り戻すというお話
ちょっと短くて、申し訳ないのですが、これは必要不可欠な部分ですので('◇')ゞ
この夢の絆シリーズ、題名で遊ぶのが楽しくてなりません。
他の回でも遊ぶ回を作る予定 お楽しみに( *´艸`)