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ある日の授業 カルチャーショック編

「では、授業を始めます。皇子様がた、よろしいか。」
「「はい!」」
ここはオリエント2強の一角を成すヒッタイト帝国の王宮の一室。
現皇帝の皇子2人に、王立学問院の博士が授業をするところである。
「ピア、おとなしく聞いてるんだよ。」
「うん。デイル兄様。でもさ、これから何しゅるの?」
棒色の瞳に期待を込めて、兄に授業内容を聞く第2皇子・ピア。
彼は、今日初めての授業であった為、かなり緊張とある種の期待感を持っていた。
「今日は確か、歴代皇帝の話じゃなかったかな…僕はもう聞いたけど。」
対して、かなりの授業数こなした皇太子は、落ち着いている。
「そうです。歴代皇帝陛下のお話です。ただ、今日はそれに加えて、そのお妃と皇子、皇女のお話をさせて頂きます。…これはデイル殿下もまだですな?政治の話にもつながりますので、少々難しいでしょうが帝王学には必要不可欠ですので、頑張って聞いて下さい。」
粘土版を取りだし、講義が始まった。
「最初にヒッタイトを統一され、皇帝になられたのは、タバルナ1世とおっしゃいまして、これは後に皇帝を意味する称号となりました。同じくお妃のタワナアンナも女性第1の称号になりました。
1にタバルナ皇帝、2にタワナアンナ皇妃、までは今の政治機構を同じですが3に当る元老院がまだなく、皇族会議や貴族会議といったような色々な要素で国事決定をしておりました。」
現皇帝ムルシリ2世とその正妃ユーリ・イシュタル皇妃の間に産まれた皇子たちであるのでこれは問題なく理解できるだろう、と踏んでいた博士だが、それは間違いであった。
「それって、父しゃまが国で1番エラくて、母しゃまが2番目ってこと?」
「ピア、お話の邪魔しちゃダメだよ。」
「でもぉ…」
釈然としないピア皇子の顔を見て、博士が一言。
「その通りですが、なにかご質問でも?殿下。」
「あのね、あのね、先生。母しゃまの方が父しゃまより強いよ?」
「…は?」目が点になっている。
「ケンカしてもいつも謝るのは父しゃまだし、それにハディがね、"さすがの陛下もユーリ様にはかないませんわね"ってゆってた。」
「母様が脱走すると、父様が役に立たないってイル・バーニ元老院議長もこぼしてたな」
冷静に事実をつき足すデイル皇子。
「はあ」
…どうやら皇帝と皇妃の個人的な力関係は、皇妃の方が上のようである。
…しまった。納得している場合ではない。そうじゃなくって、家庭内でどれほど皇帝が皇妃を溺愛しようが、じゃじゃ馬ぶりに手を焼いていようが、公的地位は皇帝が上なのである。そこのところを次代を担う皇子たちに分かってもらわねば!!
「ええとですね、政治的には、皇帝が1番、皇妃が2番目なのですよ。」
「ふうん。??」
まだ釈然としないピア皇子に、博士は懸命に説明をしだした。


今日の発見☆皇帝は皇妃よりえらいんだ!!   (ピア皇子の粘土版より)


一刻後、先程の出来事で授業の進度は遅れたものの、大分進んでいた。
「…アルヌワンダ1世には、アシムニカル御正妃の他に、ご側室が10数人おられまして、
その内の一人の寵姫サティが、治世5年に外交に口を出してご自分の出身地に有利に取り計ろうとしたため、却って事態が悪化しました。その時の訴訟と条約がこちらです。」
そう言って粘土版を差し出す博士。
まだ幼い皇子たちには難しいので見せるだけにとどめ、休憩にしようとして気がついた。
またしてもピア皇子が、不思議そうな顔をしている。
「先生のお話が一段落したみたいだから質問してもいいよ、ピア。」
どうやらずっと疑問に思っていたことがあるらしい。
だが、そんな難しい話をしただろうか?
彼がしたのは、歴代皇帝の業績とそれにどのように妃や子供が関わったかである。
嫉妬深い正妃が側室をいじめぬいて、死に追いやり、その妃の実家が有力な一族だった為訴えが起き、あわや内乱になりかけた事件。寵姫に溺れた皇帝が、無茶な政策を打ち出して、皇位を追われた話。国を傾けた女性だち。
反対に国を栄えさせた、素晴らしい女性の話もした。
ヒッタイト法典を作成したテリピヌ王(この当時は小国)の正妃・イシタパリヤは、良妻として知られており、夫の暗殺計画を察して、事前に食い止めた、と言われている。
王の手腕のおかげもあろうが、結果、内政が混乱していた自国の王位継承争いの終止符を打つ役割を果たした功績に一役買ったのだ。
その他は、年も資質も身分も大差ない、異腹の皇子たちが王位継承を争い、その母妃もその争いに巻き込まれてたものの、その内の1人の妃が仲裁した話。
外国へ嫁いだ姫が自国と嫁ぎ先を上手に仲介役を果たした話等々…。
…別になにも可笑しなことは言ってはいない、ハズ。
「何か分かりにくい点でもありましたかな?」
「うん、あのね、側室って何?」
「…は?」更に目が大きくなる博士。
"側室って何?"
皇帝の皇子、皇女の養育の教官として20数年働いてきた彼だが、こんな質問ついぞされたことがない。
当たり前である。皇帝ならば正妃を始めとする、数十人もの側室が後宮にいる。
皇子、皇女ならば産まれたときからその環境にいるわけであり、…あらら?そうである。
現皇帝ムルシリ2世には、妃は皇妃である正妃・ユーリ・イシュタル唯1人のみ。
「~、ええとですね。皇帝にはご正妃がいらっしゃいます。」
「うん。母しゃまがいるね」
「それとは別に、通常、他にお妃がいらしゃっいまして、その方が側室と呼ばれるのです。」
「他にいないよ?」
「っう!」
聞かれるとは思ってはみなかった質問に加え、答えるのが難しい…。
見かねたデイル皇子が一言。
「テリピヌ伯父様の内輪の宴に出た時のこと覚えてる?ピア。」
「うん。面白かったよね~。曲芸士とかが芸見しゃえてくれて。」
「…伯父様の隣の椅子に座ってらした方がいただろう。落ち着いた感じの女性。あの方が伯父様の御正妃。」
「うん。いたね。あのね、ピアにお菓子くれたの」
「…それは置いといて。その側に椅子ではなくて、床に敷物引いて座ってらした女性たちが十数人いらしただろう。」
「うん?…うん居たね~」
「あれが側室だよ、テリピヌ伯父様の。」
これでこの話終わり、と思っていた博士とデイルだが、それは甘かった。
「ふ~ん。じゃあ、父しゃまの側室ってハディ?」
「「はっっ?」」
「…なんでそうなる?ハディは女官長だよ。」
「でも皆で食べる時、床に座ってゆよ?」
…どうやらピアの頭の中には、側室=床に座ってる女性、という図式が出来てしまったらしい。
「違います、ピア皇子。」そして慌てて、博士は側室とは何たるか、を説明始めた。


今日覚えたこと 側室って言葉とその意味。世の中知らないことでいっぱいだ☆
(ピア皇子の粘土版より)


…「側室」の意味が分からなかったら、今までの話を理解できているのだろうか?
休憩して一刻後。
いささかどころかかなりの不安材料を抱えながら博士は大幅に遅れた講義を進める。
進めていく内に更に基本的な事柄を皇子が理解していないことが判明。


理解不能単語とその原因
「お召し」…原因 皇帝陛下が皇妃陛下の元へ行かれるから。
「異腹の兄弟」…他の妃がいないため、同腹の兄弟しかいない。等々…
(博士の粘土版より)


皇妃しか見てない上に溺愛しまくりの皇帝。そして慣例、前例を破りまくってる皇妃。
この両親を見て育った皇子には基本的事項から教え込まねばならない、ということを博士
は身をもって感じた。王宮に彼の悲鳴兼苛立ちの声がこだまする。(哀れなり 笑)
「だああああ~~~ッ!!」



未来のヒッタイト帝国の為に、頑張れ!教育係!!(爆)







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<後書>
「わるふざけ」あずま様への寄贈小説第3弾☆今回はギャグです。
面白く楽しく書きました。ピア皇子の無邪気な質問がポイントです
作中の歴代皇帝と妃、皇子、皇女に関する話ですが、創作がほとんどです。
ただ史実に忠実なのは、アルヌワンダ1世には、アシムニカル正妃が居た、と言うことと、
彼の代に対外情勢が悪化したことです。
(この原因が寵姫のせいってのは、創作です。)
ヒッタイト法典を作成したテリピヌ王(この当時は小国)の正妃・イシタパリヤが居たのと
暗殺計画があったこと。
ちなみに、未然に防がれてその一族が追放されました。
この正妃が計画を察知ってあたりは創作ですが、ありえる度50%くらい。
何故かと言いますと、暗殺首謀者は彼女の弟なんです。
この時小説のネタ探しに史実を調べまくりましたが
ヒッタイトの歴史は分かってること少なくて(泣
でも歴史書めくる作業はとても楽しかったですね
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雪月花桜

Author:雪月花桜
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