夢の絆⑧~工藤有希子の反省とこれから~
夢の絆シリーズ コナン小説で逆行物 新志となります。
よって下記注意書きをお読みになられてから、ご覧下さい。
***注意書き***
本シリーズ作品はヒロインには優しくありませんので、RANちゃんファンはご遠慮願います。
この注意書きを無視して読んでからの苦情や誹謗中傷のコメントは受け付けておりません。
このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。
私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。
**************
注意書き読まれましたね?
ではどうぞW
その夜、工藤邸ではこんな親子の会話が為されていた。
「ねえ、新ちゃん。何か手伝える事はない?」
「うん、助けた後の居場所を彼らに創ってあげて欲しんだ。」
息子から黒の組織の危険さと概要は聞いた。
今救出作戦を立てている宮野姉妹 そして潜入捜査で正体が判明し、裏切り者として命を狙われるであろうFBI捜査官に居場所を与え、変装技術を教える事。
それらはお願いされたが正直母としては物足りなかった。
(危険だからって言う新ちゃんの言葉も分かるのよ。でもだからこそ手伝いたいのよ。)
優秀で聞き分けの良い一人で何でもやってしまう子供に対し、親ならば大抵の人が思う”寂しい””頼って欲しい”との気持ちが抑えられない-。
そんな気持ちを夜、夫婦の寝室でポツリポツリと優作相手に話していたら、思わぬ提案をされた。
「あるよ。有希子、君にしか出来ない事で新一の手助けになる事。」
「えっ?本当?新ちゃんの手助け出来るの?」
「ああ。」
「何、何っ?教えて~っ!!」
「‥‥ただ君にはちょっと辛い事になるかもしれないよ?」
此処で首を傾げ視線を空中に移しながら、言い淀む夫の姿に少し驚く有希子であった。
(私に負けず劣らず新ちゃんを溺愛している優作が為になると知りながら、口にしにくいって何かしら?)
心に暗雲が立ち込めるが、敢えて知らない振りをし明るく問いかける。
「なあに?」
「毛利家のお嬢さんだよ。」
「蘭ちゃん?」
何故此処に蘭が出てくるのか、組織相手には全く関係ないではないか。
敵ではないし、味方にするにしても空手が少し得意な女子高校生では戦力外。
おまけに息子の恋愛対象からとうに外れている-。
そう思ったまま述べたら、夫に曰くあり気な笑みを向けられた。
「本当に敵じゃないと思うかい?」
「…どういう意味?」
(蘭ちゃんがそんな組織に加担しているわけないわ。すぐ顔に出る子だし。正義感の強い子だし。)
より正確に言うなら、視野が狭い正義感なのだが、それでも正義感に溢れているのは間違いない。
まずそんな組織に関わったら、真っ先に誰かに言うだろう。
さっき逆行前に話された蘭の行動パターンを脳裏に浮かべていくと、その言う先は息子だろう。
(確か深夜でも電話してきたり、様子が可笑しいというので、車のトランク隠れたりとか無茶な事やっているわね。
まあ新ちゃんも幼児化してまで色々首突っ込んでたから、あんまり人様の事言えないけど。)
ただ先程の逆行の話を聞いた限り、息子の場合、その知識と行動力で自分で何とかしようとするが、彼女の場合、息子に頼っているパターンの方が多い。
「あっ!!」
「気付いたかい?」
「蘭ちゃんが足手まといになる・・って可能性があるって事?」
そして此処からは優作の独壇場だった。
「そう。新一は組織壊滅に的を絞っている。
誰でも救おうとする基本姿勢は変わってないけど、敵が大きいから優先順位を付け始めているんだ。」
「最優先は組織壊滅と恋人の宮野志保さん、その姉の明美さんの救出。
過去救えなかった明美さんは余計思い入れがあるだろう。」
「そうね。」
「そんな中、あのお嬢さんが気付かない間に組織の末端とでも接触し、新一に騒ぎ立てたらどうなる?」
「距離を置かれている今なら、息子に近づく手段として其れをしても不思議ではない。」
「で、でも優作。蘭ちゃんは新ちゃんに近づく為だけにそんな危ない、しかも態とらしい手使うかしら?」
「うん。ワザとやるほど、性格が悪いとは思わない。でも自覚なく無意識でならどうだい?」
女性はすべからず皆女優であると言ったのは有希子、君じゃないか-、との夫の言葉が有希子の心にずどんと響く。
競争に勝つことを求められる男とは違い、女は集団での共感、調和 つまり上手く溶け込む術を求められる事が多い。
(だから女性は意識的にでも無意識でも演じている部分がある って思って言った言葉よ。)
「つまり無意識下で、新ちゃんが助けてくれるのを期待して・・もしくは興味を持って近づいてくるのを狙って、”正義”の名の元にやりかねないって事なのね。」
「ご明察。流石、我が奥さん。」
「でね、無自覚な味方ぶった存在なんて、下手すると敵よりも厄介だよ。
だって何するか分からないからねえ。しかもすぐ出る空手つき。」
「ああ…。」思わず溜息が漏れてしまう。
「それで此処からが君にとっては辛い話だ。」
「え?」
(さっきの話ではないの?あ、でもそれからどうするか が抜けていたわね。)
「あのお嬢さんが其処までなったのは有希子 君に責任の一端がある。まあ新一を信用して何も言わなかった私も同罪だがね。」
其処で後悔しているような苦し気な表情をする夫の横顔に、言おうと思っていた否定の言葉を呑み込むざるを得なくなった-。
「ここ数日新一から聞き出しただけでもあのお嬢さんの新一に対する依存は異常だ。」
告白もしていない、されてもいないのに恋人きどりで、我が家で家事をしていく。
私達が日本を離れて、親の眼がなくなった弊害だね、失敗した。
これは周りが雰囲気であの二人がカップルのようだと認めたのもあるけど、有希子、君があのお嬢さんを”未来のお嫁さん”として、日頃から接した挙句、ロスに招待するとか特別に扱い過ぎた事が大きい。
既に心が離れた新一に対しても、「私がやってあげなきゃ」と親切通り越したお節介で無理に家に入ろうとしたことがあったそうだよ?
今は組織の資料があるし、勘違いさせたくないし、 されたくもないから絶対家に入れないようにしているが、我が物顔で入って来ようとするから疲れたと言っていた。
それも君が新ちゃんをよろしくねとか言ったんじゃないのかい?
まあ昔は確かに新一はあのお嬢さん好きだったし、君にしたら良かれと思ってなんだろうけどね。
この言葉だけなら、社交辞令上、それ程不自然じゃないしね。
但し鵜呑みにしてしまうか、無意識下で其れを免罪符にしてしまいかねないのがあの子だよ。
私から言わせれば、息子はきちんと家事は出来る。
だって一人暮らしする条件として君がきちんと仕込んでいたからね。
ただ優先順位が凄く低くて、そうだな洗濯とか溜め込んで土日にやるタイプ。
料理に至っては、今コンビニやファミレスが沢山あるから、食事には困らない。
気が向いたら自炊するって感じだろうな。
それを勝手に毎日やらなきゃと言って洗濯機回してたり、フライパン振るってそうなのがあのお嬢さんだ。
善意かもしれないが、他人の家だよ?親しき仲にも礼儀あり、だよ。
で「新一ったら何も出来ないんだから」と悦に入る いや浸るかな。
もしくはそれで自身の存在意義・立ち位置を確保している。
淡々と事実を述べる夫に「悪いのは蘭を優遇し過ぎて勘違いさせたのは自分」と言われた気がして、有希子は落ち込んだ。
それが真実なら息子の懸案事項を増やしてしまったのは、母親の彼女自身と言う事になる-。
(そんな・・・!!!)
「無論、君が全て悪いという訳じゃない。
違和感があっても新一が望むならと何も言わなかった私にも責はあるし、何より一番の責任は毛利夫妻だ。」
「え?英理ちゃんと小五郎ちゃん?」
「そうだよ。娘の行動がお節介通り過ぎて押し付けになっているのに気付いていない。」
「何より、あのお嬢さんの新一への過度な依存理由考えてみるとすぐに分かる。」
「え?えっ?」
「いざという時新一に頼りながら、普段は貶す-。
それは反抗しながらも、根底では甘えている思春期の子供の親に対する態度だよ。」
「馬鹿にしているのは精神的優位に立ちたいという想いがあるんだろうね。
まあ善意で解釈しても”何をしても新一なら許してくれる”という甘えが垣間見える。」
「それは裏を返せば、家庭に自分の居場所がない、甘える場所がない。もしくは彼女自身はそう思い込んでいるって事だろう。」
「あ、た、確かに。」
「10年前に家出したっきりで育児放棄の英理君に、娘に安心した居場所を与えてやれてない小五郎君。
どっちもどっちだが、まだ一緒に暮らしている分、小五郎君のがマシかな。
帰ってきて家に誰かいるってだけでほっとする面があるしね。」
「で、その足りない部分をあのお嬢さんは新一に求めたわけだ。
共働きの家庭で、両親に構って貰えない子供が祖父母や兄弟に懐くってパターンあるだろう。
アレに似ている、と言えば分かりやすいかな?
その上で恋愛感情も絡んでいるから、ややこしい。ああいう矛盾した言動になるんだろう。」
(それ-新ちゃんには蘭ちゃんがいないと駄目じゃなくて、蘭ちゃんには新ちゃんが居ないと駄目って事にならない?)
「うん。君が今考えている通りだよ。新一は好きだった時ですら、彼女の世話がなくても多分平気だろうね。
なのに真逆の事言って、”世話してあげている””私がいないと”と言う態度なのが私からしたら腹立だしい限りだ。」
「それで優作-。私は何をしたらいいのかしら?」
苦々しい顔付きで珍しく饒舌な夫に本題へと切り込む有希子。
(蘭ちゃんが増長した原因は私と英理ちゃんと小五郎ちゃん。
結果蘭ちゃんは新ちゃんに執着してしまっていて、それなのに無自覚。
ごめんなさいね 新ちゃん。親友の娘だから、息子の好きな子だからと色眼鏡で見過ぎていたのね、私。
それらが結果、組織壊滅の為に奔走するであろう新ちゃんの足を引っ張りかねない。
なら、蘭ちゃんを引き離すしかない。けれど…今の話を聞いていると下手に諭しても逆効果になりかねないわ。)
(蘭ちゃんを新ちゃんから引き剥がす必要がある。…蘭ちゃんの為にも。彼女では息子の目指す世界についていけない-。)
悪い子ではない。不幸になる事は望まない。
けれどもう息子とは一緒に居られない。事件に対する能力だけが問題ではない。
能力がなくとも理解者になるという道がある。有希子自身がそうだった様に-。
(それも難しそうね。理解出来ても幼児化と逆行で急激に成長した新ちゃんに追いつくのに何年掛かる事か-。)
そもそも追いつけるのか!?それまで待っていられないし、そもそも愛息子の心はもう彼女にはないのだ。
今の状況とやるべき事は理解した。反省もした。だが方法が咄嗟に思いつけない。
そして推理小説家である優作はこういう点では、とても頼りになるのだ。
「君の”女優”としての出番だよ、有希子。」
本領発揮だろうと続けた優作の計画はこうだった。
「1.まず周りを味方につけて、認識を変える。」
「?」
「まずあのお嬢さんの印象はどうだった?さっきの新一の話を聞く前の君の認識は!?」
「え、ええと。そうね。面倒見が良くて明るくて正義感の強い 優しい女の子、って感じかしら・・・?」
「そう。その前提で君が周りに話したから周りもそう思うし、扱う事が多くなる。」
「‥‥。」思わず俯く有希子。
「だから逆にその認識を壊せるのも正しい情報を周りに認めさせる事が出来るのも君なんだよ。」
「…っ!!」ばっと顔をあげて優作の顔を凝視する有希子。
「何もわざと悪し様に言えと言うのではない。
先程君が言ったのも確かにあのお嬢さんの一面だ。だが物事は表裏一体だ。
面倒見が良いという長所の裏にはお節介 小さな親切大きなお世話 な欠点があったりするように光があれば影がある。
その陰の部分をきちんと周囲に認識させるんだよ、有希子。」
「ああ。そういう事。‥‥他には?」
「誰にでも分け隔てなく優しいという性格の裏側で、新一に対する時だけあのお嬢さん、視野が狭いという欠点を持つ。
だから独善的な正義感を振り翳す傾向がある。
そして最悪なのが、自分の思い通りにならなければ泣き落としや空手を使ってしまう点だ。
あのサッカー選手関係の事件なんか良い例じゃないかね。」
「うん…。」
「だからだね、新一がお世話になっていると手土産片手に回ったついでに御礼と共に
”面倒見が良いのは良いが、新一が要らないと言っているのに押しかけようとしている”
”家人が必要ないと言っているものを無理やりやろうとするのはもう高校生になるのに分別がないんじゃないか”とご近所・警察・学校関係者にそれとなく言えばいい。」
「無論その際に、新一が家事をきちんと出来るという事を付け加えるのも忘れてはいけない。」
「そうすると、”推理しか興味なくて家事出来ない幼馴染を助けている女の子”はいなくなり、”他人の家庭に勝手に押しかけて家事をやろうとする娘さん”になる。」
同じ現象でも前提と見方が違うとこんなにも差が出るものなのか-!?
「なるほど。」
「もっと突っ込んだ話を出来る親しい人なら、断ると空手を振るう癖があって息子が困っていると”相談”すればいい。
ご近所さんなら、家の門で騒いでいたなら注意くらいしてくれるかもね。
注意しなくても、”幼馴染のじゃれた喧嘩”じゃなくて”一方的に押しかけている”と正しく判断してくれる。
それが間接的に新一の助けとなる。
あとはそうだね・・妹のように思っているのを分かっているのか、強く断ると泣きだす。 女の子相手だから息子も困っているみたいで・・助け船出してくれないか とでも付け加えるとより一層真実に近い。」
「そ、そっか。」
「性格良さげな娘さんが泣いていたら、傍にいる男は無条件で悪者にされる それを無意識の内にやっているんだろうねえ。」
「空手の部分は私も目暮警部辺りに言っておこう。下手したら暴行罪だよ。いや当たり所悪かったら殺人事件に発展しかねない。」「‥‥っ!!」思わず息を飲む有希子。
(そうだわ。新ちゃんと小五郎ちゃんがただ反射神経が良くて避ける事が出来ているだけだもの。)
「2.お嬢さん本人に釘を刺す。」
「え?でも蘭ちゃんに言ったところで素直に聞くかしら??」
「聞かないだろうね。だから本当の目的は彼女から息子の母親から頼まれたという”大義名分”、幼馴染だからと言う”免罪符”を奪うって事だよ。」
「ふむふむ。」
「その際に重要なのは正論を真っ向からぶつけて責めるではなく、あくまでも普段通りの君を装って、”あのお嬢さんの為だから”と所々で釘を刺した方がいい。」
「?」
「搦手から行くって手段だよ。そうしたら好感度を上げておきたい相手に対しては”良い子”の仮面を脱げない。」
「・・・!!!」
「この匙加減が女優魂の発揮しどころだ。」
「どうだい?出来るかい?有希子。」
娘のように可愛がっていた彼女に其処まで出来るのかい?中途半端ならやらない方がマシだよ?との優作の言外の意味を真っ向から受け止めて、有希子は不敵に花のように笑ってみせた。
「ふっ誰に言ってるの?優作。結婚するまで演技賞という賞を総ナメにした”藤峰有希子の演技力”に任せて頂戴!」
「期待しているよ。」
*********************
挨拶回りを首尾良く終えた有希子は本丸、つまり毛利親子をショッピングモールで捉え明るく声を掛けた。
「あら!蘭ちゃん、小五郎ちゃん、久しぶり~!」
「有希子さん!お久しぶりです!!」
「有希子ちゃん。久しぶりだな!」
久し振りの再会は最初和やかに始まったが、その内蘭が悲しそうにこう言った。
「最近、新一が側にいてくれないんです。冷たくって。」
「夕食作ってあげようと行っても、家に来るなって言われちゃって。」
言葉を紡ぎながら、縋る様な視線をちらりちらりと自身へ向けてくるのを有希子はまざまざと感じていた。
(よくも母親の私にこんな事言えるわね。そして私から新一に言って欲しい感がありありだわ。)
成程、これが優作の言っていた無意識の計算か-!!!
(どうして今まで気付かなかったのかしら?)
その打算に苦々しい思い半分、彼女がそれを当然と思うような言動をしてきた自身への不甲斐なさと息子への申し訳なさで更に気持ちが下降しそうになったが、お腹に力を入れて持ち直す。
(落ち込むのは後よ、有希子!)
そして誰もが見惚れる様な鮮やかさでにっこりと笑い、「あら、だってそれは当然でしょう?」と口火を切った。
「え・・・??」
信じられないと顔に書いて戸惑う蘭といつもと違う会話の流れに瞠目する小五郎をおいて、有希子は更に話し続ける。
「あのね、蘭ちゃん。年頃の女性が一人暮らしの男性の元に昼もなく夜もなく通うって、”不純異性交遊”と思われてしまうわ。」
「あ、えと。あのっ!」
「それは蘭ちゃんの為にもならないわ~”困る”でしょう?」
場を支配する空気、自身の望む方向へ誘導する力。
それらが溢れながら、それでいて華やかさは失わない-。
会話の合間に必要な事を入れ込んでいく。
「新ちゃんと蘭ちゃんは”ただの幼馴染”ですもの!!」
「だからもう”連絡もなしに家に来ないで欲しい”の。」
「でも新一、私がやってあげなきゃ、ろくに料理もしないんですよ!?」
食い下がる蘭に、新ちゃんは家事出来るわよと笑顔で続ける。
「蘭ちゃんが良くてもご近所の方の眼があるし、”新ちゃんも困っている”の。」
「小五郎ちゃんもそう思うでしょう?”交際してもいない二人”がそういう関係と見られるとお互い困るわ。」
「まあ、そうだな。」
「お父さんは黙っててっ!!」
「新ちゃんは”蘭ちゃんの事、妹みたい”に思っているけど、人からみたら他人だから”誤解”されてしまうものね。」
目的がはっきりしている元女優で大人の有希子と無自覚の故意で、無意識に周囲の人間の好意を甘受してきた子供の蘭では勝負にもならない-。
そして匿う人たちの為に、蘭が決して我が家に来ないよう、万が一来て撃退したとしても後で知らなかったと言われないよう父親の前で、最後のカードを切る。
「それに近い内に親戚の沖矢夫妻と同居するの。
だから”ただ近所に住んでいるだけの蘭ちゃん”が、其処まで気にする事ないわ。」
「夫妻にとっては”蘭ちゃんは他人”だから、新ちゃんにやっているように急に”家に突撃しないで”頂戴ね。
不法侵入で通報されてしまうわW」
「え?」更に蒼白になる蘭に素知らぬ振りをして続ける。
「彼らが住むにあたってセキュリティを強化するから迂闊に変な場所触らないで頂戴ね。電流流れているから。」
「ど、どうしてそんなに強いセキュリティを?」
「あら?何故其処まで蘭ちゃんは知りたがるの?
”余所の家庭の事”なのに。…まあいいわ 何でセキュリティ対策しているかと言うと夫妻がアメリカ帰りの方だからよ。
向こうは自己防衛も自己責任って思っているから。」
知りたがりやさんね~仕方ない子と身振りで示しながら応える。
「まあ”常識”がある子なら大丈夫なんだけどね。」
「ああ、ちゃんと招かれた場合は別よ?ただそろそろ”蘭ちゃんも彼氏とか作る”でしょう。そんな時間ないんじゃない?」
「か、彼氏なんてそんな。ええと」
「ふふ、小五郎ちゃんも心配よね~。お年頃の娘さん持つと。」
「蘭ちゃんはどんな子が好みなの??
やっぱり空手強い人?ちなみに新ちゃんはね。”年上で新ちゃんより頭良いクールビューティー”ですって。」
「あの推理オタクにそんな人見つかるわけ・・!!い、いえそんな都合良い女性いないと思いますよ。」
必死に言い募る蘭に言い聞かせるのは有希子の役目。
「え?そんな子いるわけない?世の中広いわよ、蘭ちゃん。
視野狭くしちゃだめよ。自分が知っている世界なんて、本当の世界の一握りなんだから。
いい男逃しちゃうわよ~。新ちゃんもね
”毛利も視野を広くして、早く彼氏出来るといい 甘えん坊だから年上がいいかもな”って応援してたわよ!!」
真っ白になった蘭の目の前で、有希子は最後までにこやかに言いきった。
(蘭ちゃん御免なさいね。でもこれは貴女の為でもあるの。
今までと同じように新ちゃんと接していたら、蘭ちゃんが組織に目を付けられる可能性があるのよ。
平凡な蘭ちゃんにはついていける能力もないし、守秘義務を理解した上での沈黙が保てるとは思えないの。
大丈夫。世の中広い。平凡は悪い事じゃないし、容姿だってプロになれる程じゃないけど可愛い方。
ただ新ちゃんとは合わないだけ。相性の問題よ。
組織相手なら致命的欠陥となるけど日常生活上なら、蘭ちゃんの世話焼きを有難く感じたり、頼ってくれている事に自分の存在意義を感じる男性はいるわ。
それか…出来れば、一緒に精神的に成長していける人だと尚いいのだけれど、ね。)
悄然とした顔つきの蘭が空手の部活に行った後、違和感を持ち追い掛けてきた小五郎と、家で二人きりで話した。
「3.小五郎君に娘の実態と息子のこれからを伝え、家庭内の問題は家庭内で解決するよう促す。」優作からのミッションをクリアする為だ。
其処で娘が自分達夫婦を仲直りさせる為のデートの下見と称して、新一を付き合わせた挙句、全額もしくは大部分の金額を彼に負担させていた事実、工藤邸へ無理やり押しかけて来た時の防犯ビデオ映像で空手・泣き落としを日常的に使っている事を知った小五郎は愕然としていた。
「一緒に出掛けていたのは知っていたが、まさかそんなに払わせていたとは…。てっきり割り勘かと。」
それが普通の感覚だろう。
「新ちゃんに渡している小遣いはそんなに多くないの。
テーマパーク2人で1日中いたら、入場料、ランチ、お土産、飲み物全部払ったら足りないくらいよ。」
「まさか…。」
「ええ、生活費からの捻出とお年玉貯金崩していたようね。」
「済まねぇ…!!済まない、有希子ちゃん。いくらになる?払うから。」
「その詫びは新ちゃんに言って頂戴。支払いは結構よ。
どうも私たちがロスに移ってから日常と化してたようで、総額がいくらなんて、分からないって。」やれやれと首を振る有希子。
「そ。そうか・・・。」幾らか分からない程の頻度と金額をまだ高校生の彼に負担させたのだと顔が青褪める小五郎。
「但しこれからなしにして頂戴。ビデオテープ見せたからもう分かっているわよね?」
本気で迷惑そうな新一と、お邪魔するのが当然の権利だと信じて疑ってない、約束もなく訪問した蘭との空手を交えた工藤邸での扉前でのやりとり-。
「あ、ああ…。」
何だかんだ言って新一が蘭を好きなのを当然と思い、過去の自分達を見ているようだと微笑ましい反面、娘を奪っていくと思えば男親としては面白くなく辛口対応していた小五郎は、知らぬ間に変わってしまった二人の関係と良い娘だと信じていた蘭の思わぬ性格の一面にショックを隠せなかった。
「蘭ちゃん、どうも英理ちゃんと小五郎ちゃんの関係がそのまま、自分と新ちゃんに当てはまると勘違いしているようなの。
違うわよねぇ。二人は別居してても夫婦、だからこそ奢ったり、悪口言っても許されているのに。」
どうして幼馴染しか過ぎない息子が本来親がやるべき事をやっているのか-!?
普段は鈍いが身内が絡むと鋭い小五郎は、有希子の言外の意味と眼が笑っていない笑顔にその怒りを正確に読み取った。
「す、済まない。本当に申し訳ねえ。」
「あと、小五郎ちゃん。空手を日常的に使う癖、本当に早く何とかした方がいいわよ。」
「ああ。俺だけかと思ってたんだが。新一にも使っていたとは・・!!本当に済まない!有希子ちゃん!!」
「それも新ちゃん本人に直接言ってくれると助かるわ。
新ちゃんと小五郎ちゃんが運動神経が良いから運良く大事に至っていないだけ。
だから反射神経が悪い人だったり、良くても体調悪かったら・・何が起こるか分かるわよね?」
「ああ‥‥。」呻くような小五郎の声がリビングに響いた。
声音を優しくして助言を続ける。
「きっとね、蘭ちゃん。寂しいと思うのよ。
英理ちゃんが家出したっきりで、小五郎ちゃんも・・間違っていたら御免なさいね??
淋しさを紛らわす為に、好きなお酒飲んだりとかパチンコとかに良く行っているんじゃない??
それ自体は別に悪い事じゃないけど、蘭ちゃんからしたら、お母さんがいないだけでも寂しいのに
お父さんまで自分を見てくれないって感じてしまっているのかもよ??」
他人の家庭に踏み込んだ発言だが、迷惑を掛けている上、事実だった為、小五郎には何も言い返せなかった。
「そう、かもしれねえ。」
「早く英理ちゃんと仲直りして家族全員で暮らした方がいいわ。
元々蘭ちゃんって甘えたがりなところがあるのに、一番甘えたい小学生の時期にそれが出来なかったんですもの。
今 その反動が出ているのかもしれないわ。根は良い子だもの。これからでも間に合うわ。」
そして最後に息子がこれから本当の”探偵”になる事、その事件の大きさを匂わせて、だから余計蘭を近づけさせないで欲しいと締めた。
「そんな…無茶だろ。あいつ幾ら頭回るって言ったって、まだ高校生なんだぞ!有希子ちゃん、止めねえと。」
最もだ。有希子だって、出来る事なら止めたい。
(けど、”コナン”の時ですら、あの組織とやり合ってしまう子なのよね。)
「止めて止まるような性格ならとっくに私と優作で止めているわ。」
「けど・・・!!」
「その”覚悟” ”実力”も持ってしまったの。優作が吸収が早いからって色んな事早く教え過ぎたわ。
何より・・・あの子は命を懸ける決意をしている。
母親として淋しくて仕方ないけど、息子の成長は喜ばないといけなんだけど・・・複雑ね。」
泣き出しそうな有希子の顔に何とも言えない気持ちなる。
実の母親が此処まで覚悟を決めているのか。
(そうか。探偵坊主はそんなに急に大きくなっちまったのか-。)
確かにこれでは、まだ子供の蘭が側にいたら、蘭と新一 両方危険だ。
(かと言ってこれをそのまま蘭に話す事も出来ねえ。
存在に勘付いたら即命の危険がある組織なんぞ・・!!どう諭したらいいもんか・・・!!)
それは後でじっくり考えよう。今は息子のように思っていた存在へ伝言を託す。
「有希子ちゃん。これでも俺は元 警察官だ。
伝手だってあるし、拳銃の腕だって結構優秀な方だった。
何か手伝える事があれば言ってくれと新一に伝えてくれないか。秘密は無論守る。」
「ありがとう。小五郎ちゃん。」
「帰ったようだね。」
「ええ。」
「お疲れ様。有希子。流石だ。」
「母親としての役目は果たせていたよ しかも息子の不得意分野をカバーすると言う最高の形でね。」
「ありがとう。…出来れば英理ちゃんにも一度だけでも直接忠告したかったけれど。」
親友だからこそ、直接苦言を呈したかったが、夫に止められた。
「それは駄目だよ。昨夜話した通り、君と英理君が親友だからこそ今の歪みが発生している。
その上、おそらく戻ってきてほしいが為に、あのお嬢さんは、きっと普段より遥かに良い娘さんで英理君に接している。
まず信じない。万が一信じて貰えたとしても、彼女の性格上、証拠や証言を欲しがるだろう。
証拠に関してはあの防犯カメラ映像があるが、それだって悪気はないとか言いかねない・・何より証言に付き合う時間も精神的余裕も新一にはない。」
「ええ。ええ、分かっているわ。優作。
今度は間違えない。優先すべきは新一よね。」
自身に言い聞かせるように言う有希子であった。
*********************
新ちゃん行ってらっしゃい。気をつけてね。
絶対生きて・・元気で帰ってきて頂戴ね-。
ああ、本当にそれだけで、それだけでいいの-。
貴方にはきっと輝かしい未来が待っているから-。
それは暫く後、緻密に立てた組織壊滅作戦が始動したその日に、息子の背中を見送った有希子がひっそりと祈った事-。
*********************
後書 夢の絆 有希子さん編の続きでございます。
まあ工藤夫妻編っぽくなりましたが。そして優作さんが相変わらずの”全てお見通し感”半端ないですがヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
今回で有希子さん編がやっと終わりました-(*^▽^*)
最大の懸念材料を有希子さんが事前に牽制する の巻でございました。
新一のあの舞台映えする立ち姿、会話運びと場の支配力は、きっと有希子さん譲りだと思うのですよ。
演技力を筆頭にそれらを如何なく発揮して貰いました。
それにしても何故蘭ちゃん絡みになるとこんなにも話が長くなるのかorz
最初『工藤新一の羽化』とこのお話込みで1話の予定だったのに!!( ゚Д゚)
つまり1話予定が2話 しかも1話ずつが長い・・・(;^ω^)
おそるべし公式ヒロインの空手力!!!!!(ノll゚Д゚llヽ) (違うか(笑))
今回”新ちゃん” ”新一”と区別をつけておりますが、原作でもほとんど明るく新ちゃん呼びなのに
ごくごく偶に真剣に新一呼びする時があるので、それを表現してみました。
PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))
「ねえ、新ちゃん。何か手伝える事はない?」
「うん、助けた後の居場所を彼らに創ってあげて欲しんだ。」
息子から黒の組織の危険さと概要は聞いた。
今救出作戦を立てている宮野姉妹 そして潜入捜査で正体が判明し、裏切り者として命を狙われるであろうFBI捜査官に居場所を与え、変装技術を教える事。
それらはお願いされたが正直母としては物足りなかった。
(危険だからって言う新ちゃんの言葉も分かるのよ。でもだからこそ手伝いたいのよ。)
優秀で聞き分けの良い一人で何でもやってしまう子供に対し、親ならば大抵の人が思う”寂しい””頼って欲しい”との気持ちが抑えられない-。
そんな気持ちを夜、夫婦の寝室でポツリポツリと優作相手に話していたら、思わぬ提案をされた。
「あるよ。有希子、君にしか出来ない事で新一の手助けになる事。」
「えっ?本当?新ちゃんの手助け出来るの?」
「ああ。」
「何、何っ?教えて~っ!!」
「‥‥ただ君にはちょっと辛い事になるかもしれないよ?」
此処で首を傾げ視線を空中に移しながら、言い淀む夫の姿に少し驚く有希子であった。
(私に負けず劣らず新ちゃんを溺愛している優作が為になると知りながら、口にしにくいって何かしら?)
心に暗雲が立ち込めるが、敢えて知らない振りをし明るく問いかける。
「なあに?」
「毛利家のお嬢さんだよ。」
「蘭ちゃん?」
何故此処に蘭が出てくるのか、組織相手には全く関係ないではないか。
敵ではないし、味方にするにしても空手が少し得意な女子高校生では戦力外。
おまけに息子の恋愛対象からとうに外れている-。
そう思ったまま述べたら、夫に曰くあり気な笑みを向けられた。
「本当に敵じゃないと思うかい?」
「…どういう意味?」
(蘭ちゃんがそんな組織に加担しているわけないわ。すぐ顔に出る子だし。正義感の強い子だし。)
より正確に言うなら、視野が狭い正義感なのだが、それでも正義感に溢れているのは間違いない。
まずそんな組織に関わったら、真っ先に誰かに言うだろう。
さっき逆行前に話された蘭の行動パターンを脳裏に浮かべていくと、その言う先は息子だろう。
(確か深夜でも電話してきたり、様子が可笑しいというので、車のトランク隠れたりとか無茶な事やっているわね。
まあ新ちゃんも幼児化してまで色々首突っ込んでたから、あんまり人様の事言えないけど。)
ただ先程の逆行の話を聞いた限り、息子の場合、その知識と行動力で自分で何とかしようとするが、彼女の場合、息子に頼っているパターンの方が多い。
「あっ!!」
「気付いたかい?」
「蘭ちゃんが足手まといになる・・って可能性があるって事?」
そして此処からは優作の独壇場だった。
「そう。新一は組織壊滅に的を絞っている。
誰でも救おうとする基本姿勢は変わってないけど、敵が大きいから優先順位を付け始めているんだ。」
「最優先は組織壊滅と恋人の宮野志保さん、その姉の明美さんの救出。
過去救えなかった明美さんは余計思い入れがあるだろう。」
「そうね。」
「そんな中、あのお嬢さんが気付かない間に組織の末端とでも接触し、新一に騒ぎ立てたらどうなる?」
「距離を置かれている今なら、息子に近づく手段として其れをしても不思議ではない。」
「で、でも優作。蘭ちゃんは新ちゃんに近づく為だけにそんな危ない、しかも態とらしい手使うかしら?」
「うん。ワザとやるほど、性格が悪いとは思わない。でも自覚なく無意識でならどうだい?」
女性はすべからず皆女優であると言ったのは有希子、君じゃないか-、との夫の言葉が有希子の心にずどんと響く。
競争に勝つことを求められる男とは違い、女は集団での共感、調和 つまり上手く溶け込む術を求められる事が多い。
(だから女性は意識的にでも無意識でも演じている部分がある って思って言った言葉よ。)
「つまり無意識下で、新ちゃんが助けてくれるのを期待して・・もしくは興味を持って近づいてくるのを狙って、”正義”の名の元にやりかねないって事なのね。」
「ご明察。流石、我が奥さん。」
「でね、無自覚な味方ぶった存在なんて、下手すると敵よりも厄介だよ。
だって何するか分からないからねえ。しかもすぐ出る空手つき。」
「ああ…。」思わず溜息が漏れてしまう。
「それで此処からが君にとっては辛い話だ。」
「え?」
(さっきの話ではないの?あ、でもそれからどうするか が抜けていたわね。)
「あのお嬢さんが其処までなったのは有希子 君に責任の一端がある。まあ新一を信用して何も言わなかった私も同罪だがね。」
其処で後悔しているような苦し気な表情をする夫の横顔に、言おうと思っていた否定の言葉を呑み込むざるを得なくなった-。
「ここ数日新一から聞き出しただけでもあのお嬢さんの新一に対する依存は異常だ。」
告白もしていない、されてもいないのに恋人きどりで、我が家で家事をしていく。
私達が日本を離れて、親の眼がなくなった弊害だね、失敗した。
これは周りが雰囲気であの二人がカップルのようだと認めたのもあるけど、有希子、君があのお嬢さんを”未来のお嫁さん”として、日頃から接した挙句、ロスに招待するとか特別に扱い過ぎた事が大きい。
既に心が離れた新一に対しても、「私がやってあげなきゃ」と親切通り越したお節介で無理に家に入ろうとしたことがあったそうだよ?
今は組織の資料があるし、勘違いさせたくないし、 されたくもないから絶対家に入れないようにしているが、我が物顔で入って来ようとするから疲れたと言っていた。
それも君が新ちゃんをよろしくねとか言ったんじゃないのかい?
まあ昔は確かに新一はあのお嬢さん好きだったし、君にしたら良かれと思ってなんだろうけどね。
この言葉だけなら、社交辞令上、それ程不自然じゃないしね。
但し鵜呑みにしてしまうか、無意識下で其れを免罪符にしてしまいかねないのがあの子だよ。
私から言わせれば、息子はきちんと家事は出来る。
だって一人暮らしする条件として君がきちんと仕込んでいたからね。
ただ優先順位が凄く低くて、そうだな洗濯とか溜め込んで土日にやるタイプ。
料理に至っては、今コンビニやファミレスが沢山あるから、食事には困らない。
気が向いたら自炊するって感じだろうな。
それを勝手に毎日やらなきゃと言って洗濯機回してたり、フライパン振るってそうなのがあのお嬢さんだ。
善意かもしれないが、他人の家だよ?親しき仲にも礼儀あり、だよ。
で「新一ったら何も出来ないんだから」と悦に入る いや浸るかな。
もしくはそれで自身の存在意義・立ち位置を確保している。
淡々と事実を述べる夫に「悪いのは蘭を優遇し過ぎて勘違いさせたのは自分」と言われた気がして、有希子は落ち込んだ。
それが真実なら息子の懸案事項を増やしてしまったのは、母親の彼女自身と言う事になる-。
(そんな・・・!!!)
「無論、君が全て悪いという訳じゃない。
違和感があっても新一が望むならと何も言わなかった私にも責はあるし、何より一番の責任は毛利夫妻だ。」
「え?英理ちゃんと小五郎ちゃん?」
「そうだよ。娘の行動がお節介通り過ぎて押し付けになっているのに気付いていない。」
「何より、あのお嬢さんの新一への過度な依存理由考えてみるとすぐに分かる。」
「え?えっ?」
「いざという時新一に頼りながら、普段は貶す-。
それは反抗しながらも、根底では甘えている思春期の子供の親に対する態度だよ。」
「馬鹿にしているのは精神的優位に立ちたいという想いがあるんだろうね。
まあ善意で解釈しても”何をしても新一なら許してくれる”という甘えが垣間見える。」
「それは裏を返せば、家庭に自分の居場所がない、甘える場所がない。もしくは彼女自身はそう思い込んでいるって事だろう。」
「あ、た、確かに。」
「10年前に家出したっきりで育児放棄の英理君に、娘に安心した居場所を与えてやれてない小五郎君。
どっちもどっちだが、まだ一緒に暮らしている分、小五郎君のがマシかな。
帰ってきて家に誰かいるってだけでほっとする面があるしね。」
「で、その足りない部分をあのお嬢さんは新一に求めたわけだ。
共働きの家庭で、両親に構って貰えない子供が祖父母や兄弟に懐くってパターンあるだろう。
アレに似ている、と言えば分かりやすいかな?
その上で恋愛感情も絡んでいるから、ややこしい。ああいう矛盾した言動になるんだろう。」
(それ-新ちゃんには蘭ちゃんがいないと駄目じゃなくて、蘭ちゃんには新ちゃんが居ないと駄目って事にならない?)
「うん。君が今考えている通りだよ。新一は好きだった時ですら、彼女の世話がなくても多分平気だろうね。
なのに真逆の事言って、”世話してあげている””私がいないと”と言う態度なのが私からしたら腹立だしい限りだ。」
「それで優作-。私は何をしたらいいのかしら?」
苦々しい顔付きで珍しく饒舌な夫に本題へと切り込む有希子。
(蘭ちゃんが増長した原因は私と英理ちゃんと小五郎ちゃん。
結果蘭ちゃんは新ちゃんに執着してしまっていて、それなのに無自覚。
ごめんなさいね 新ちゃん。親友の娘だから、息子の好きな子だからと色眼鏡で見過ぎていたのね、私。
それらが結果、組織壊滅の為に奔走するであろう新ちゃんの足を引っ張りかねない。
なら、蘭ちゃんを引き離すしかない。けれど…今の話を聞いていると下手に諭しても逆効果になりかねないわ。)
(蘭ちゃんを新ちゃんから引き剥がす必要がある。…蘭ちゃんの為にも。彼女では息子の目指す世界についていけない-。)
悪い子ではない。不幸になる事は望まない。
けれどもう息子とは一緒に居られない。事件に対する能力だけが問題ではない。
能力がなくとも理解者になるという道がある。有希子自身がそうだった様に-。
(それも難しそうね。理解出来ても幼児化と逆行で急激に成長した新ちゃんに追いつくのに何年掛かる事か-。)
そもそも追いつけるのか!?それまで待っていられないし、そもそも愛息子の心はもう彼女にはないのだ。
今の状況とやるべき事は理解した。反省もした。だが方法が咄嗟に思いつけない。
そして推理小説家である優作はこういう点では、とても頼りになるのだ。
「君の”女優”としての出番だよ、有希子。」
本領発揮だろうと続けた優作の計画はこうだった。
「1.まず周りを味方につけて、認識を変える。」
「?」
「まずあのお嬢さんの印象はどうだった?さっきの新一の話を聞く前の君の認識は!?」
「え、ええと。そうね。面倒見が良くて明るくて正義感の強い 優しい女の子、って感じかしら・・・?」
「そう。その前提で君が周りに話したから周りもそう思うし、扱う事が多くなる。」
「‥‥。」思わず俯く有希子。
「だから逆にその認識を壊せるのも正しい情報を周りに認めさせる事が出来るのも君なんだよ。」
「…っ!!」ばっと顔をあげて優作の顔を凝視する有希子。
「何もわざと悪し様に言えと言うのではない。
先程君が言ったのも確かにあのお嬢さんの一面だ。だが物事は表裏一体だ。
面倒見が良いという長所の裏にはお節介 小さな親切大きなお世話 な欠点があったりするように光があれば影がある。
その陰の部分をきちんと周囲に認識させるんだよ、有希子。」
「ああ。そういう事。‥‥他には?」
「誰にでも分け隔てなく優しいという性格の裏側で、新一に対する時だけあのお嬢さん、視野が狭いという欠点を持つ。
だから独善的な正義感を振り翳す傾向がある。
そして最悪なのが、自分の思い通りにならなければ泣き落としや空手を使ってしまう点だ。
あのサッカー選手関係の事件なんか良い例じゃないかね。」
「うん…。」
「だからだね、新一がお世話になっていると手土産片手に回ったついでに御礼と共に
”面倒見が良いのは良いが、新一が要らないと言っているのに押しかけようとしている”
”家人が必要ないと言っているものを無理やりやろうとするのはもう高校生になるのに分別がないんじゃないか”とご近所・警察・学校関係者にそれとなく言えばいい。」
「無論その際に、新一が家事をきちんと出来るという事を付け加えるのも忘れてはいけない。」
「そうすると、”推理しか興味なくて家事出来ない幼馴染を助けている女の子”はいなくなり、”他人の家庭に勝手に押しかけて家事をやろうとする娘さん”になる。」
同じ現象でも前提と見方が違うとこんなにも差が出るものなのか-!?
「なるほど。」
「もっと突っ込んだ話を出来る親しい人なら、断ると空手を振るう癖があって息子が困っていると”相談”すればいい。
ご近所さんなら、家の門で騒いでいたなら注意くらいしてくれるかもね。
注意しなくても、”幼馴染のじゃれた喧嘩”じゃなくて”一方的に押しかけている”と正しく判断してくれる。
それが間接的に新一の助けとなる。
あとはそうだね・・妹のように思っているのを分かっているのか、強く断ると泣きだす。 女の子相手だから息子も困っているみたいで・・助け船出してくれないか とでも付け加えるとより一層真実に近い。」
「そ、そっか。」
「性格良さげな娘さんが泣いていたら、傍にいる男は無条件で悪者にされる それを無意識の内にやっているんだろうねえ。」
「空手の部分は私も目暮警部辺りに言っておこう。下手したら暴行罪だよ。いや当たり所悪かったら殺人事件に発展しかねない。」「‥‥っ!!」思わず息を飲む有希子。
(そうだわ。新ちゃんと小五郎ちゃんがただ反射神経が良くて避ける事が出来ているだけだもの。)
「2.お嬢さん本人に釘を刺す。」
「え?でも蘭ちゃんに言ったところで素直に聞くかしら??」
「聞かないだろうね。だから本当の目的は彼女から息子の母親から頼まれたという”大義名分”、幼馴染だからと言う”免罪符”を奪うって事だよ。」
「ふむふむ。」
「その際に重要なのは正論を真っ向からぶつけて責めるではなく、あくまでも普段通りの君を装って、”あのお嬢さんの為だから”と所々で釘を刺した方がいい。」
「?」
「搦手から行くって手段だよ。そうしたら好感度を上げておきたい相手に対しては”良い子”の仮面を脱げない。」
「・・・!!!」
「この匙加減が女優魂の発揮しどころだ。」
「どうだい?出来るかい?有希子。」
娘のように可愛がっていた彼女に其処まで出来るのかい?中途半端ならやらない方がマシだよ?との優作の言外の意味を真っ向から受け止めて、有希子は不敵に花のように笑ってみせた。
「ふっ誰に言ってるの?優作。結婚するまで演技賞という賞を総ナメにした”藤峰有希子の演技力”に任せて頂戴!」
「期待しているよ。」
*********************
挨拶回りを首尾良く終えた有希子は本丸、つまり毛利親子をショッピングモールで捉え明るく声を掛けた。
「あら!蘭ちゃん、小五郎ちゃん、久しぶり~!」
「有希子さん!お久しぶりです!!」
「有希子ちゃん。久しぶりだな!」
久し振りの再会は最初和やかに始まったが、その内蘭が悲しそうにこう言った。
「最近、新一が側にいてくれないんです。冷たくって。」
「夕食作ってあげようと行っても、家に来るなって言われちゃって。」
言葉を紡ぎながら、縋る様な視線をちらりちらりと自身へ向けてくるのを有希子はまざまざと感じていた。
(よくも母親の私にこんな事言えるわね。そして私から新一に言って欲しい感がありありだわ。)
成程、これが優作の言っていた無意識の計算か-!!!
(どうして今まで気付かなかったのかしら?)
その打算に苦々しい思い半分、彼女がそれを当然と思うような言動をしてきた自身への不甲斐なさと息子への申し訳なさで更に気持ちが下降しそうになったが、お腹に力を入れて持ち直す。
(落ち込むのは後よ、有希子!)
そして誰もが見惚れる様な鮮やかさでにっこりと笑い、「あら、だってそれは当然でしょう?」と口火を切った。
「え・・・??」
信じられないと顔に書いて戸惑う蘭といつもと違う会話の流れに瞠目する小五郎をおいて、有希子は更に話し続ける。
「あのね、蘭ちゃん。年頃の女性が一人暮らしの男性の元に昼もなく夜もなく通うって、”不純異性交遊”と思われてしまうわ。」
「あ、えと。あのっ!」
「それは蘭ちゃんの為にもならないわ~”困る”でしょう?」
場を支配する空気、自身の望む方向へ誘導する力。
それらが溢れながら、それでいて華やかさは失わない-。
会話の合間に必要な事を入れ込んでいく。
「新ちゃんと蘭ちゃんは”ただの幼馴染”ですもの!!」
「だからもう”連絡もなしに家に来ないで欲しい”の。」
「でも新一、私がやってあげなきゃ、ろくに料理もしないんですよ!?」
食い下がる蘭に、新ちゃんは家事出来るわよと笑顔で続ける。
「蘭ちゃんが良くてもご近所の方の眼があるし、”新ちゃんも困っている”の。」
「小五郎ちゃんもそう思うでしょう?”交際してもいない二人”がそういう関係と見られるとお互い困るわ。」
「まあ、そうだな。」
「お父さんは黙っててっ!!」
「新ちゃんは”蘭ちゃんの事、妹みたい”に思っているけど、人からみたら他人だから”誤解”されてしまうものね。」
目的がはっきりしている元女優で大人の有希子と無自覚の故意で、無意識に周囲の人間の好意を甘受してきた子供の蘭では勝負にもならない-。
そして匿う人たちの為に、蘭が決して我が家に来ないよう、万が一来て撃退したとしても後で知らなかったと言われないよう父親の前で、最後のカードを切る。
「それに近い内に親戚の沖矢夫妻と同居するの。
だから”ただ近所に住んでいるだけの蘭ちゃん”が、其処まで気にする事ないわ。」
「夫妻にとっては”蘭ちゃんは他人”だから、新ちゃんにやっているように急に”家に突撃しないで”頂戴ね。
不法侵入で通報されてしまうわW」
「え?」更に蒼白になる蘭に素知らぬ振りをして続ける。
「彼らが住むにあたってセキュリティを強化するから迂闊に変な場所触らないで頂戴ね。電流流れているから。」
「ど、どうしてそんなに強いセキュリティを?」
「あら?何故其処まで蘭ちゃんは知りたがるの?
”余所の家庭の事”なのに。…まあいいわ 何でセキュリティ対策しているかと言うと夫妻がアメリカ帰りの方だからよ。
向こうは自己防衛も自己責任って思っているから。」
知りたがりやさんね~仕方ない子と身振りで示しながら応える。
「まあ”常識”がある子なら大丈夫なんだけどね。」
「ああ、ちゃんと招かれた場合は別よ?ただそろそろ”蘭ちゃんも彼氏とか作る”でしょう。そんな時間ないんじゃない?」
「か、彼氏なんてそんな。ええと」
「ふふ、小五郎ちゃんも心配よね~。お年頃の娘さん持つと。」
「蘭ちゃんはどんな子が好みなの??
やっぱり空手強い人?ちなみに新ちゃんはね。”年上で新ちゃんより頭良いクールビューティー”ですって。」
「あの推理オタクにそんな人見つかるわけ・・!!い、いえそんな都合良い女性いないと思いますよ。」
必死に言い募る蘭に言い聞かせるのは有希子の役目。
「え?そんな子いるわけない?世の中広いわよ、蘭ちゃん。
視野狭くしちゃだめよ。自分が知っている世界なんて、本当の世界の一握りなんだから。
いい男逃しちゃうわよ~。新ちゃんもね
”毛利も視野を広くして、早く彼氏出来るといい 甘えん坊だから年上がいいかもな”って応援してたわよ!!」
真っ白になった蘭の目の前で、有希子は最後までにこやかに言いきった。
(蘭ちゃん御免なさいね。でもこれは貴女の為でもあるの。
今までと同じように新ちゃんと接していたら、蘭ちゃんが組織に目を付けられる可能性があるのよ。
平凡な蘭ちゃんにはついていける能力もないし、守秘義務を理解した上での沈黙が保てるとは思えないの。
大丈夫。世の中広い。平凡は悪い事じゃないし、容姿だってプロになれる程じゃないけど可愛い方。
ただ新ちゃんとは合わないだけ。相性の問題よ。
組織相手なら致命的欠陥となるけど日常生活上なら、蘭ちゃんの世話焼きを有難く感じたり、頼ってくれている事に自分の存在意義を感じる男性はいるわ。
それか…出来れば、一緒に精神的に成長していける人だと尚いいのだけれど、ね。)
悄然とした顔つきの蘭が空手の部活に行った後、違和感を持ち追い掛けてきた小五郎と、家で二人きりで話した。
「3.小五郎君に娘の実態と息子のこれからを伝え、家庭内の問題は家庭内で解決するよう促す。」優作からのミッションをクリアする為だ。
其処で娘が自分達夫婦を仲直りさせる為のデートの下見と称して、新一を付き合わせた挙句、全額もしくは大部分の金額を彼に負担させていた事実、工藤邸へ無理やり押しかけて来た時の防犯ビデオ映像で空手・泣き落としを日常的に使っている事を知った小五郎は愕然としていた。
「一緒に出掛けていたのは知っていたが、まさかそんなに払わせていたとは…。てっきり割り勘かと。」
それが普通の感覚だろう。
「新ちゃんに渡している小遣いはそんなに多くないの。
テーマパーク2人で1日中いたら、入場料、ランチ、お土産、飲み物全部払ったら足りないくらいよ。」
「まさか…。」
「ええ、生活費からの捻出とお年玉貯金崩していたようね。」
「済まねぇ…!!済まない、有希子ちゃん。いくらになる?払うから。」
「その詫びは新ちゃんに言って頂戴。支払いは結構よ。
どうも私たちがロスに移ってから日常と化してたようで、総額がいくらなんて、分からないって。」やれやれと首を振る有希子。
「そ。そうか・・・。」幾らか分からない程の頻度と金額をまだ高校生の彼に負担させたのだと顔が青褪める小五郎。
「但しこれからなしにして頂戴。ビデオテープ見せたからもう分かっているわよね?」
本気で迷惑そうな新一と、お邪魔するのが当然の権利だと信じて疑ってない、約束もなく訪問した蘭との空手を交えた工藤邸での扉前でのやりとり-。
「あ、ああ…。」
何だかんだ言って新一が蘭を好きなのを当然と思い、過去の自分達を見ているようだと微笑ましい反面、娘を奪っていくと思えば男親としては面白くなく辛口対応していた小五郎は、知らぬ間に変わってしまった二人の関係と良い娘だと信じていた蘭の思わぬ性格の一面にショックを隠せなかった。
「蘭ちゃん、どうも英理ちゃんと小五郎ちゃんの関係がそのまま、自分と新ちゃんに当てはまると勘違いしているようなの。
違うわよねぇ。二人は別居してても夫婦、だからこそ奢ったり、悪口言っても許されているのに。」
どうして幼馴染しか過ぎない息子が本来親がやるべき事をやっているのか-!?
普段は鈍いが身内が絡むと鋭い小五郎は、有希子の言外の意味と眼が笑っていない笑顔にその怒りを正確に読み取った。
「す、済まない。本当に申し訳ねえ。」
「あと、小五郎ちゃん。空手を日常的に使う癖、本当に早く何とかした方がいいわよ。」
「ああ。俺だけかと思ってたんだが。新一にも使っていたとは・・!!本当に済まない!有希子ちゃん!!」
「それも新ちゃん本人に直接言ってくれると助かるわ。
新ちゃんと小五郎ちゃんが運動神経が良いから運良く大事に至っていないだけ。
だから反射神経が悪い人だったり、良くても体調悪かったら・・何が起こるか分かるわよね?」
「ああ‥‥。」呻くような小五郎の声がリビングに響いた。
声音を優しくして助言を続ける。
「きっとね、蘭ちゃん。寂しいと思うのよ。
英理ちゃんが家出したっきりで、小五郎ちゃんも・・間違っていたら御免なさいね??
淋しさを紛らわす為に、好きなお酒飲んだりとかパチンコとかに良く行っているんじゃない??
それ自体は別に悪い事じゃないけど、蘭ちゃんからしたら、お母さんがいないだけでも寂しいのに
お父さんまで自分を見てくれないって感じてしまっているのかもよ??」
他人の家庭に踏み込んだ発言だが、迷惑を掛けている上、事実だった為、小五郎には何も言い返せなかった。
「そう、かもしれねえ。」
「早く英理ちゃんと仲直りして家族全員で暮らした方がいいわ。
元々蘭ちゃんって甘えたがりなところがあるのに、一番甘えたい小学生の時期にそれが出来なかったんですもの。
今 その反動が出ているのかもしれないわ。根は良い子だもの。これからでも間に合うわ。」
そして最後に息子がこれから本当の”探偵”になる事、その事件の大きさを匂わせて、だから余計蘭を近づけさせないで欲しいと締めた。
「そんな…無茶だろ。あいつ幾ら頭回るって言ったって、まだ高校生なんだぞ!有希子ちゃん、止めねえと。」
最もだ。有希子だって、出来る事なら止めたい。
(けど、”コナン”の時ですら、あの組織とやり合ってしまう子なのよね。)
「止めて止まるような性格ならとっくに私と優作で止めているわ。」
「けど・・・!!」
「その”覚悟” ”実力”も持ってしまったの。優作が吸収が早いからって色んな事早く教え過ぎたわ。
何より・・・あの子は命を懸ける決意をしている。
母親として淋しくて仕方ないけど、息子の成長は喜ばないといけなんだけど・・・複雑ね。」
泣き出しそうな有希子の顔に何とも言えない気持ちなる。
実の母親が此処まで覚悟を決めているのか。
(そうか。探偵坊主はそんなに急に大きくなっちまったのか-。)
確かにこれでは、まだ子供の蘭が側にいたら、蘭と新一 両方危険だ。
(かと言ってこれをそのまま蘭に話す事も出来ねえ。
存在に勘付いたら即命の危険がある組織なんぞ・・!!どう諭したらいいもんか・・・!!)
それは後でじっくり考えよう。今は息子のように思っていた存在へ伝言を託す。
「有希子ちゃん。これでも俺は元 警察官だ。
伝手だってあるし、拳銃の腕だって結構優秀な方だった。
何か手伝える事があれば言ってくれと新一に伝えてくれないか。秘密は無論守る。」
「ありがとう。小五郎ちゃん。」
「帰ったようだね。」
「ええ。」
「お疲れ様。有希子。流石だ。」
「母親としての役目は果たせていたよ しかも息子の不得意分野をカバーすると言う最高の形でね。」
「ありがとう。…出来れば英理ちゃんにも一度だけでも直接忠告したかったけれど。」
親友だからこそ、直接苦言を呈したかったが、夫に止められた。
「それは駄目だよ。昨夜話した通り、君と英理君が親友だからこそ今の歪みが発生している。
その上、おそらく戻ってきてほしいが為に、あのお嬢さんは、きっと普段より遥かに良い娘さんで英理君に接している。
まず信じない。万が一信じて貰えたとしても、彼女の性格上、証拠や証言を欲しがるだろう。
証拠に関してはあの防犯カメラ映像があるが、それだって悪気はないとか言いかねない・・何より証言に付き合う時間も精神的余裕も新一にはない。」
「ええ。ええ、分かっているわ。優作。
今度は間違えない。優先すべきは新一よね。」
自身に言い聞かせるように言う有希子であった。
*********************
新ちゃん行ってらっしゃい。気をつけてね。
絶対生きて・・元気で帰ってきて頂戴ね-。
ああ、本当にそれだけで、それだけでいいの-。
貴方にはきっと輝かしい未来が待っているから-。
それは暫く後、緻密に立てた組織壊滅作戦が始動したその日に、息子の背中を見送った有希子がひっそりと祈った事-。
*********************
後書 夢の絆 有希子さん編の続きでございます。
まあ工藤夫妻編っぽくなりましたが。そして優作さんが相変わらずの”全てお見通し感”半端ないですがヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
今回で有希子さん編がやっと終わりました-(*^▽^*)
最大の懸念材料を有希子さんが事前に牽制する の巻でございました。
新一のあの舞台映えする立ち姿、会話運びと場の支配力は、きっと有希子さん譲りだと思うのですよ。
演技力を筆頭にそれらを如何なく発揮して貰いました。
それにしても何故蘭ちゃん絡みになるとこんなにも話が長くなるのかorz
最初『工藤新一の羽化』とこのお話込みで1話の予定だったのに!!( ゚Д゚)
つまり1話予定が2話 しかも1話ずつが長い・・・(;^ω^)
おそるべし公式ヒロインの空手力!!!!!(ノll゚Д゚llヽ) (違うか(笑))
今回”新ちゃん” ”新一”と区別をつけておりますが、原作でもほとんど明るく新ちゃん呼びなのに
ごくごく偶に真剣に新一呼びする時があるので、それを表現してみました。
PS:いいなと思ったら、コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))
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