結婚式舞台裏その5(次なる縁談へ)
陸清雅と紅秀麗の婚礼は無事終わり、花嫁は陸家へ輿で、持参する調度品や
衣装とともに、運ばれていった。
これで本日の予定は終了である。
娘を見送ったばかりの紅邵可が少し寂しげな、けれど穏やかな表情で下の弟にねぎらいの言葉を掛ける。
「玖琅、お疲れ様。婚儀が無事終わったのは君のおかげだよ。」
「邵兄上。秀麗は私の姪。当然の事をしただけです。ただ・・。」
「なんだい?何か問題でも?黎深のことなら、百合姫と絳攸殿が面倒を見ているよ。」
「黎兄上の事ではありません。・・そうですね。やはり早急に絳攸との縁談まとめておけば良かったですね。」
若干顔をしかめながら言う。
「おや、今更な事を言うね。君らしくもない・・清雅君は気にいらないかい?」
「いえ。前王のせいで零落したとはいえ、陸家は旧紫門家の1つ。そして無能な前当主ならともかく彼なら必ず
家を建て直すでしょう。王家の一族であり有能な官吏でもある。そして年齢的にも釣り合ってる。
紅家の姫の嫁ぎ先としては悪くない。
嫁にされたが最後官吏を辞めなければいけない王や何の力にもなれない、ただの平民よりずっといい」
「じゃあ何故そんな顔をしてるんだい?」
「陸家の当主では、婿にできないからですよ。その1点が残念です。」
「ああ。」心得たように頷く
「私は秀麗かその夫を当主に据えたかったのです。当主代理と補佐に伯邑を」
以前言っていた話だ。紅家の跡継ぎ。直系の少ない紅家の問題。
絳攸と秀麗の結婚はそれをすべて解決するものだった。
秀麗は紅家に残り、黎深の養い子である李絳攸もまた紅家の人になることができる。
そして有能な二人には紅家の権力、紅家には優秀な当主を戴くことができる。
そうでなければ秀麗が別の男を婿に取るという手段もあったのだ。
紅家当主候補に相応しい血筋と実力のも持ち主であればそれはたやすい事だった。
だが秀麗は別の男に嫁いだ。
こうなると途は二つだ。
前当主で現当主の弟である黎深の養い子 李絳攸か。
同じく現当主の弟である玖琅の息子 紅伯邑か。
絳攸は冗官から這い上がり今また刑部侍郎の地位を得ていた。そして王の側近。
実力は文句なし。ただ血のつながりがないという点を除いて。
伯邑は逆だ。血のつながりなら文句ない。
けれどもまだ仕事の点では、絳攸には及びつかない。
玖琅にとって絳攸は可愛い甥だった。
あの性格ひねくりまがりのどこがどう間違ったのは分からない兄の元で、よくぞここまでまっすぐに優秀に育ったと感心すらしていた。
(百合義姉上!よく頑張りました!!)
心密かに義理の姉に拍手を送っていた。
そんな甥と息子の次期当主争いなど見たくはない。
二人とも当主の地位にさほど執着していない。むしろ伯邑は絳攸の事を兄のように慕っている。
だが当主争いに巻き込まれたら、周りがあらぬ事を吹き込む。
仲が良いとはいっても始終会えるわけではないから、その隙を狙われたら、特に若い伯邑は讒言を信じてしまう
危険がある。
だから今の内に何か手をー。
こんこん。
気付けば、扉を軽く叩く音がしていた。
「どうぞ?」
入ってきたのは百合姫だった。
「難しい顔してるね。どうしたの、玖琅。」
「絳攸殿の縁談の話だよ。」のほほんと邵可が返す。
「ええ!!絳攸に縁談がきてるのっ?どんな子?可愛い?」
「邵兄上!そうじゃないでしょうが。」
「いや、そうなるよ。だって君は伯邑君が当主向きではない、補佐向きの人間だって言っただろう。」
そうしたら絳攸殿を次期当主にと考える。
出自が確かでない彼に足りない身分を、「紅家の姫」を娶ることで補わなければならない。
すると再び紅家の中から、彼に相応しい姫を探さなければならないのだ。
途中からのこれだけの会話で百合姫は話の概要を悟った。
「私も秀麗ちゃんがお嫁さんに来てくれたら嬉しかったな~。」
「全くです。秀麗ならあの黎兄上を舅に持っても平気でした。」
「そうだよね。秀麗ちゃん以外あんなわがまま大魔王の舅なんか無理だよ。」
二人ともに話しながら気づいた。
そうだ。絳攸の女嫌いよりも何よりも高く厚い壁があったのだ。
(秀麗以外に誰が黎兄上を舅に持てるんですか!)
かつて自分が言った言葉が蘇る。
・・・本当にどうするのだ!!
蒼褪める百合姫と目が合う。
「こ、根本的な問題が・・・・このままだと絳攸に嫁の来手がありません!!」
「・・・ど、どうしよう。」
「・・奇跡が二度起きたなら三度目も起こして見せましょう!
人間死ぬ気になれば何でもできます!!諦めてはいけません!」
「奇跡が二度って何?」首を傾げる百合姫。
「薔義姉上と百合義姉上の事ですが?」
「は?私と義姉上?」
「妻がどうかしたかい?」
「糸が切れた凧のような邵兄上を捉まえて、妻になり一箇所に留めて下さった上
秀麗を産んでくれた。奇跡一度目です。気づいたらどこぞ放浪してた邵兄上をあんなに御せる女性がいるとは!」
「・・・・」
糸が切れた凧と評された邵可は思わず無言になってしまった。
切ないが弟に嘘ばかりつき、信用をなくしたのは自分。
評価がまっとうな為、何も言えなくなってしまった。
「なるほどね。で私って?」
「あの黎兄上の嫁になれる可能性があるのは百合義姉上しかいないと思っておりました!
他の女性なら3日で逃げ出す・・失礼3日ももちませんね・・1日でしょうか。
ですから後は黎兄上がその気になるかということだったんです。
資金準備しておいた甲斐がありました。奇跡二度目です。」
「酷い仕打ちだよね。今でもよーく覚えてるよ。」
後ろめたい二人は慌ててあさっての方向を向いた。
「お。お茶淹れようか」
「「要りません!」」二人の声が重なる。
邵可の地獄茶のまずさは身に沁みて知っている。
玖琅は素早く茶器を取り上げ、素早く自分で準備し始めた。
「私がやります。邵兄上はお座り下さい。お菓子も用意他致します。」
相変わらず器用で心遣いができる弟である。
「というわけで奇跡三度目を目指し、今から準備しなければいけません。
総動員して嫁探し用の名簿を作成して、後は見合いですね。」
話しながらも、お茶を淹れる手は素早く動いている。
瞬く間に二人分のお茶と菓子を用意すると、
「では早速仕事に取り掛かりますので、失礼します。
お二人はどうぞゆるりとなさってください。」
そして彼は次なる仕事:大魔王 紅黎深を舅にもっても平気な女傑もとい、甥;絳攸の嫁さがしに奔走することに
なるのであった。
衣装とともに、運ばれていった。
これで本日の予定は終了である。
娘を見送ったばかりの紅邵可が少し寂しげな、けれど穏やかな表情で下の弟にねぎらいの言葉を掛ける。
「玖琅、お疲れ様。婚儀が無事終わったのは君のおかげだよ。」
「邵兄上。秀麗は私の姪。当然の事をしただけです。ただ・・。」
「なんだい?何か問題でも?黎深のことなら、百合姫と絳攸殿が面倒を見ているよ。」
「黎兄上の事ではありません。・・そうですね。やはり早急に絳攸との縁談まとめておけば良かったですね。」
若干顔をしかめながら言う。
「おや、今更な事を言うね。君らしくもない・・清雅君は気にいらないかい?」
「いえ。前王のせいで零落したとはいえ、陸家は旧紫門家の1つ。そして無能な前当主ならともかく彼なら必ず
家を建て直すでしょう。王家の一族であり有能な官吏でもある。そして年齢的にも釣り合ってる。
紅家の姫の嫁ぎ先としては悪くない。
嫁にされたが最後官吏を辞めなければいけない王や何の力にもなれない、ただの平民よりずっといい」
「じゃあ何故そんな顔をしてるんだい?」
「陸家の当主では、婿にできないからですよ。その1点が残念です。」
「ああ。」心得たように頷く
「私は秀麗かその夫を当主に据えたかったのです。当主代理と補佐に伯邑を」
以前言っていた話だ。紅家の跡継ぎ。直系の少ない紅家の問題。
絳攸と秀麗の結婚はそれをすべて解決するものだった。
秀麗は紅家に残り、黎深の養い子である李絳攸もまた紅家の人になることができる。
そして有能な二人には紅家の権力、紅家には優秀な当主を戴くことができる。
そうでなければ秀麗が別の男を婿に取るという手段もあったのだ。
紅家当主候補に相応しい血筋と実力のも持ち主であればそれはたやすい事だった。
だが秀麗は別の男に嫁いだ。
こうなると途は二つだ。
前当主で現当主の弟である黎深の養い子 李絳攸か。
同じく現当主の弟である玖琅の息子 紅伯邑か。
絳攸は冗官から這い上がり今また刑部侍郎の地位を得ていた。そして王の側近。
実力は文句なし。ただ血のつながりがないという点を除いて。
伯邑は逆だ。血のつながりなら文句ない。
けれどもまだ仕事の点では、絳攸には及びつかない。
玖琅にとって絳攸は可愛い甥だった。
あの性格ひねくりまがりのどこがどう間違ったのは分からない兄の元で、よくぞここまでまっすぐに優秀に育ったと感心すらしていた。
(百合義姉上!よく頑張りました!!)
心密かに義理の姉に拍手を送っていた。
そんな甥と息子の次期当主争いなど見たくはない。
二人とも当主の地位にさほど執着していない。むしろ伯邑は絳攸の事を兄のように慕っている。
だが当主争いに巻き込まれたら、周りがあらぬ事を吹き込む。
仲が良いとはいっても始終会えるわけではないから、その隙を狙われたら、特に若い伯邑は讒言を信じてしまう
危険がある。
だから今の内に何か手をー。
こんこん。
気付けば、扉を軽く叩く音がしていた。
「どうぞ?」
入ってきたのは百合姫だった。
「難しい顔してるね。どうしたの、玖琅。」
「絳攸殿の縁談の話だよ。」のほほんと邵可が返す。
「ええ!!絳攸に縁談がきてるのっ?どんな子?可愛い?」
「邵兄上!そうじゃないでしょうが。」
「いや、そうなるよ。だって君は伯邑君が当主向きではない、補佐向きの人間だって言っただろう。」
そうしたら絳攸殿を次期当主にと考える。
出自が確かでない彼に足りない身分を、「紅家の姫」を娶ることで補わなければならない。
すると再び紅家の中から、彼に相応しい姫を探さなければならないのだ。
途中からのこれだけの会話で百合姫は話の概要を悟った。
「私も秀麗ちゃんがお嫁さんに来てくれたら嬉しかったな~。」
「全くです。秀麗ならあの黎兄上を舅に持っても平気でした。」
「そうだよね。秀麗ちゃん以外あんなわがまま大魔王の舅なんか無理だよ。」
二人ともに話しながら気づいた。
そうだ。絳攸の女嫌いよりも何よりも高く厚い壁があったのだ。
(秀麗以外に誰が黎兄上を舅に持てるんですか!)
かつて自分が言った言葉が蘇る。
・・・本当にどうするのだ!!
蒼褪める百合姫と目が合う。
「こ、根本的な問題が・・・・このままだと絳攸に嫁の来手がありません!!」
「・・・ど、どうしよう。」
「・・奇跡が二度起きたなら三度目も起こして見せましょう!
人間死ぬ気になれば何でもできます!!諦めてはいけません!」
「奇跡が二度って何?」首を傾げる百合姫。
「薔義姉上と百合義姉上の事ですが?」
「は?私と義姉上?」
「妻がどうかしたかい?」
「糸が切れた凧のような邵兄上を捉まえて、妻になり一箇所に留めて下さった上
秀麗を産んでくれた。奇跡一度目です。気づいたらどこぞ放浪してた邵兄上をあんなに御せる女性がいるとは!」
「・・・・」
糸が切れた凧と評された邵可は思わず無言になってしまった。
切ないが弟に嘘ばかりつき、信用をなくしたのは自分。
評価がまっとうな為、何も言えなくなってしまった。
「なるほどね。で私って?」
「あの黎兄上の嫁になれる可能性があるのは百合義姉上しかいないと思っておりました!
他の女性なら3日で逃げ出す・・失礼3日ももちませんね・・1日でしょうか。
ですから後は黎兄上がその気になるかということだったんです。
資金準備しておいた甲斐がありました。奇跡二度目です。」
「酷い仕打ちだよね。今でもよーく覚えてるよ。」
後ろめたい二人は慌ててあさっての方向を向いた。
「お。お茶淹れようか」
「「要りません!」」二人の声が重なる。
邵可の地獄茶のまずさは身に沁みて知っている。
玖琅は素早く茶器を取り上げ、素早く自分で準備し始めた。
「私がやります。邵兄上はお座り下さい。お菓子も用意他致します。」
相変わらず器用で心遣いができる弟である。
「というわけで奇跡三度目を目指し、今から準備しなければいけません。
総動員して嫁探し用の名簿を作成して、後は見合いですね。」
話しながらも、お茶を淹れる手は素早く動いている。
瞬く間に二人分のお茶と菓子を用意すると、
「では早速仕事に取り掛かりますので、失礼します。
お二人はどうぞゆるりとなさってください。」
そして彼は次なる仕事:大魔王 紅黎深を舅にもっても平気な女傑もとい、甥;絳攸の嫁さがしに奔走することに
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