夢見る少女 最後の日~『夢見る少女の長い夢 エピローグ』~万里様ご提供
万里様より頂いた作品です。
珍しく?新哀です。
遅れてきた誕生月プレゼントかバレンタインチョコかと思いました(´∀`*)ウフフ
***注意書き***
ヒロインには優しくありません。厳しめですので、ranちゃん派の方は此処で周り右願います。
この注意書きを無視して読んでからの苦情 不満等は対応致しかねます。
尚、他人様の作品であるという事で無断転載や引用、誹謗中傷は御止め願います。
また同じ理由で予告なく、掲載を取り下げるやもしれない事予め通知致します。
**************
万里様からの注意書き:
このお話は、蘭厳しめの新哀です。
蘭がかなりピエロな役割なので、ご了承の上ご覧下さい。
最後に管理人からの再確認です。
注意書き読まれましたね??厳しめです。ヒロインファン 新蘭派はリターン下さい。それでもOK 大丈夫という方のみ どうぞw
ではスタート↓
少女は長いこと夢を見ていた。
それはとても幸せな夢だったが、目覚めなければ、現実で幸せにはなれない。
※
新一の結婚式当日。
「やっほー蘭、久しぶり~」
「園子!久しぶり!」
「うわ~!蘭、あんた今日は一段と美人よ~!大人の魅力満載、って感じ!
これなら二次会ではイケメンが釣れまくり間違いなし!」
「やだ、園子ったら。大袈裟だよ~(笑)」
手放しで褒める園子に、照れたように笑う蘭。
他の参列する友人たちも、
「毛利さん、スッゴい美人になったね!」
「ホントにビックリ!これじゃ花嫁さんより目立っちゃうんじゃない?(笑)」
と口々に蘭を褒めちぎる。
「やだ~そんなことないよ~」
などと口では謙遜しながらも、蘭の目の奥はまるで空手の試合に挑むときのように闘志に燃えていた。
(当たり前じゃない…。この日のためにダイエットしてエステ通って、ドレスも靴もバッグも全身全部、貯金崩してまで新調したんだから…!)
みんなに花嫁よりも美しいと思われたい。
花嫁に「負けた」と思わせたい。
新一に、蘭を選ばなかったことを後悔させたい。
その一心で、蘭は今日という日のために、せっせと女を磨いてきたのだ。
この雪辱をはらすには、女友達の一通りの賛辞などでは足りない。
―――欲しいのは、哀の悔しげな視線と、新一の後悔の表情だった。
「おー二人とも、よく来てくれたな。」
「うっわ、新一君!?」
(!新一…)
不意に声をかけられ、蘭は挑むような気持ちで顔をあげた。
美しい大人の女性となった自分を新一に見せ付けたくて。
が。
(………!)
新一の姿を見た蘭は、言葉を失った。
「すごーい!工藤君、めちゃくちゃかっこいいよ!!」
「パーティーで見慣れたつもりだったのに、今日は流石に一段とスゴいわね…」
「芸能人通り越して、王子様みたい!」
「ホントに!スッゴいオーラ出てる~!!」
「蘭ちゃんもそう思うでしょ!?」
「う、うん……」
(し、新一ったら、いつの間にこんな、綺麗になって…!)
蘭は、この新一の隣には立てない、否 立ちたくない、と思った。
何故なら、新一の隣に立てば、明らかに自分の方が見劣りする、と瞬時に理解したからだ。
こんな美しい男は見たことがなかった。
頭の先から爪先まで、神が計算し尽くしたかのような完璧な造形。
綺麗なのになよなよとした印象はなく、瞳には強い輝きが宿り。
威風堂々として気品すら感じられる姿は、まるで貴族か王族のようだった。
(こんな、自分よりも綺麗な男の人の隣に立つなんて、女のプライドへし折られるだけじゃない…)
蘭は昔から新一のような完璧な美男子が幼なじみだということを自慢に思っていた。
しかし、今の新一は「自慢できる彼」の域を遥かに超えていた。
彼の側に居ては確実に蘭は劣等感を抱く。
(……新一の隣に立てる女の子なんて、きっといないわ。
花嫁さんより花婿の方が綺麗だなんて、哀ちゃん可哀想。)
負け惜しみ半分、自分への慰め半分で蘭はそう考える。
が。
「皆さん、本日は来てくださってありがとうございます。」
(え…?)
蘭は一瞬、天使が現れたかと思った。
それくらいに、目の前にいる女性は美しかった。
(あ、哀ちゃん…なの…!?)
「うわあ~!!哀ちゃん、スッゴいキレイ!!」
「ホントに!めちゃくちゃ綺麗だよ!!」
「天使か妖精みたい~!!」
繊細な刺繍がほどこされた純白のドレスを身に纏った哀。
色素の薄い髪は光に透かすとキラキラと輝き、翡翠の瞳はまるで宝石のよう。
元より美しい顔立ちには本日は化粧が施されており、普段よりも更に大人びて瑞々しい色気すら感じさせる。
そんな女性が幸せそうに頬を染めて微笑を浮かべているのだから、もはや神々しいまでの美しさを放っていた。
(も、元々可愛いとは思ってたけど、こんなに綺麗だなんて…!)
あまりの美しさに、蘭は言葉も出ない。
いくら可愛くても所詮は子供、新一の隣に立つには大人の色気のある自分の方が相応しい
―――などという蘭の自負は、瞬時に木っ端微塵に破壊された。
先程はどんな美女でも新一の隣に立てば霞むと思っていたが、哀が新一の隣にいる光景は見事に調和された一枚の絵画のようだ。
新一に見劣りしない、それどころか互いの美しさを引き出すようなカップルだった。
「二人ともほんっとキレイ!超お似合い!」
「ていうか、二人が出会ってくっついてくれて本当に良かったよね。」
「だよね。うちらが隣に立っても釣り合わないもん(笑)」
「工藤君の隣に立てるのは哀ちゃんだけだし、哀ちゃんの隣に立てるのは工藤君だけだよ!」
仲睦まじげに寄り添う新郎新婦の、幻想的なまでの美しさ。
先ほど蘭を褒めてくれた友人達は、うって変わって口々に哀を新一に相応しい花嫁だと賛美している。
彼らの羨望と憧憬のこもった眼差し、興奮に満ちた感嘆の声。
――蘭に対するものとは、明らかに温度が違う。
ついさっきまで自分がちやほやされていただけに、その対象が新郎新婦にアッサリ移ったことで、蘭はまるで自分を引き立て役のように感じた。
それがより一層、蘭の敗北感を煽った。
(…勝てない……)
耐えられずに蘭はそっとその場を離れて、化粧室に駆け込んだ。
鏡を見ながら、呆然と考える。
(今朝鏡で見た私は、人生で一番綺麗だと思ったのに…)
鏡の中の女の目に涙が滲む。
(なのに、あんなカップルを見た後じゃ、今の鏡に映る私なんて、その他大勢の平凡な女にしか見えないよ…!)
普通に考えて結婚式のヒロインは花嫁であり、招待客の女性などエキストラであり花嫁の引き立て役であるべきだ。
だが、ヒロインに返り咲こうと必死で挑んだ蘭は敗北した悔しさに、綺麗にアイメイクされた目元から紫色の涙を流した。
モチベーションは最悪だったが、蘭は何とか女子力を絞り出して化粧直しを終えた。
重い足取りで新一達の所に戻る。他の友人達は既に会場に移動したらしく、新一と哀と園子だけがそこには残っていた。
新一と園子の話し声が聞こえてきて足を止める。
「蘭も早く結婚出来ればいいなあ」
「それ、頼むから絶対に蘭の前では言わないでよね。」
「わーってるよ!
今時そんな台詞言ったら、男女問わずモラハラになるって。
俺だって今まで、周りから言われて散々嫌な思いしてきたんだし。」
(…分かってないわねえ。そんな一般論じゃなくて。
初恋の人からそんなこと言われたら、蘭の立つ瀬がないじゃない。)
「貴方が心配しなくても、蘭さんならすぐに好い人捕まえられるわよ。あんなに綺麗なんだから。」
「哀の方が綺麗だぜ?」
「もうっ、今はそんな話じゃないでしょっ(*/△\*)」
「ラブラブね~♪(´ε`* )」
その会話に蘭はカッとなった。
(私が他の男性と結婚すればいいっていうの!?
誰のためにこれまでフリーでいたと思ってるの!?
新一をずっとずっと待ってたから今まで一人でいたんじゃない!!)
(綺麗だなんて、哀ちゃんにだけは言われたくない!新一に言って欲しかったのに、何で!?何でなのよ、何で新一は哀ちゃんのことしか言わないの!?何で私には何も言ってくれないのよっ!?)
(園子も何で!?昔は私と新一を散々夫婦扱いしてきた癖に!新一が別の人を好きになったら今度はその人との仲を冷やかすワケ!?酷いっ!私はどうなるのよ!?)
待てずに彼氏を作ったのは蘭だし、その後も端から見たら男をとっかえひっかえで到底新一へ好意があるとは思えない態度だったし、そもそも新一とは「単なる幼馴染」であり何の約束もしていない。
周りもこの十年間、蘭と新一を「単なる幼馴染み」扱いしてきたし、蘭もそう公言していた。
取らぬ狸の皮算用で勝手に期待して待っていたのは蘭だけである。
そんな突っ込みを冷静に考えられないくらいに蘭は頭に血が上っていた。
屈辱、嫉妬、怒り、蘭の負の感情はとめどなく溢れてくる。
――この時に蘭が少しでも冷静になれていれば、これ以上の負け戦で打ちのめされずに済んだかもしれない。
「お待たせ―!」
「あ、蘭。皆もう行っちゃったし、うちらも会場行こう。」
「うん、そうだね。」
「蘭さん、今日は来てくれて、本当にありがとうございます。」
「ありがとな、蘭。哀のやつ、お前が来てくれて本当に喜んでてさ~。」
「ふふっ、こちらこそご招待ありがとう。
そういえばさ、」
蘭に悪気はなかった。
正確に言えば、誰かを傷つけようという確固たる悪意はなかった。
その時の蘭の頭の中にあったのは、『可哀想な自分』のことだけ。
――どうしてこの二人は自分の気も知らずに幸せそうに笑っているのだろう?
――私がこんなに悲しんでいるのに。
――気付いてもらえない自分はなんて可哀想なんだろう。
それは深く掘り下げ突き詰めると、『自分がこんなに可哀想なんだから、幸せな人には何をしてもいい』という犯罪者に有りがちな貧しい思考であり、無意識の悪意あった。
だが、蘭自身はそこまで自覚はないのだから、悪気は無かったとは言える。
(新一、私を思い出して。)
そう願いながら、蘭は言葉を投げ掛けた。
「新一、ロンドンでのこと、覚えてる?」
場の空気が凍りついた。
と、感じたのは、蘭だけだった。
「え?何で知ってるんだ?」
「、え?」
驚いたように、照れたように、新一は答えた。
その様子には後ろめたさや気まずさなど微塵も感じない。
「やだなー、服部か?園子か?ま、結構色んな奴に喋っちゃったからな~。どこまで聞いたんだ~?」
「…ハズカシイ(/-\*)」
照れて笑う新一と、真っ赤になってうつむく哀。
予想していた反応とは180度違う。
その様子に、蘭はただならぬ嫌な予感が背筋を駆け巡る。
(何、この反応…?なんなの…!?)
何か自分にとって良くないことが起きている、今すぐこの場から逃げ出せ。そう本能が訴えるものの、蘭の足は動かない。
新一の言葉が無慈悲に耳に入ってくる。
「ロンドンで哀に告白されたことだろ?」
「っ、」
「いや~、あれは人生で一番嬉しかった思い出だからな~、今際の際まで覚えてる自信あるぜ♪」
「哀ちゃんから告白したんだよね!やるぅ~( ´∀`)σ)コノコノ」
園子が色めき立つが、そんな冷やかしにも哀は反発することなく、
「だって、新一さんは素敵な人だから、早くしないと、誰かにとられちゃうって思って…」
と素直な気持ちを口にした。
恥じらいながらもはっきりと新一への想いを口にする哀。
紅潮した頬にきらめく瞳、口元には幸せそうな微笑みを浮かべ、それはもう美しかった。
恋とはかように人を美しくするものなのか、などと場違いな思考に逃避しながらも、蘭はボンヤリと(負けた…)と感じていた。
だって、それは蘭にはない発想だったのだ。
蘭は、誰かが新一を誉めるたび、
『皆は新一の表面しか見ていない。新一の駄目なところを知ってて好きでいられるのは私だけ。』
と見当違いな優越感を募らせていた。
蘭の知る新一は、付き合ってはフラれてばかりだったから。
『本当の新一を知っても付き合えるのは私だけ!』と安心していたし、油断していたのだ。
しかし実情は違っていた。
新一の歴代彼女は、皆聡明で自立心がありプライドが高い。
そんな彼女達が、新一に他に忘れられない本命がいることに気づかないはずがない。
そして、形振り構わずすがりついても彼の気持ちを自分に向けることは不可能だということも。
とある偉大なデザイナー曰く、恋の終わりとは自分から立ち去るもの。
賢明な彼女達は新一にフラれる前に、せめて自分からフッて去っていき、自らの手で恋に幕を下ろしていたのだ。
こうして新一の恋の終わりはいつも、フラれる形でフっていた、というのが真相だ。
蘭はそれに気がつかず、ただ新一がフラれたことに喜びと安堵しか感じていなかった。
哀のように、新一の魅力に危機感を募らせ行動するなど考えもしなかった。
『新一なんかに付き合ってあげられるのは自分だけ』
そんな相手を見下した思考を愛と呼ぶなどなんと烏滸がましいことか。
『女の子は皆、新一の見てくれしか見ていない』
蘭こそ、新一の魅力をまるで見ていなかったではないか。
『私は新一のことを何でも知っている』
新一が哀と付き合っていたことすら知らなかったくせに。
新一の元カノ達に対して内心で『新一のうわべだけしか知らない女達』と見下していたが、蘭こそその『新一のうわべだけしか知らない女』だったのだ。
――自分は哀ほど新一を愛していないし、哀ほど新一を見ていないし、新一のことを何も知らない――
蘭は敗北を認めざるを得なかった。
敗北感に覆い尽くされ、呆然とたたずむ蘭は、
(あ…夢と同じ指輪…)
哀のほっそりとした指できらめく大きな石のついたリングを見て、ボンヤリと『正夢…』などと考えてしまった。
指輪を貰った人間は自分ではないというのに。
ロンドン旅行についての思い出を幸せそうに惚気ながら語りだす新一に、自分が何と返したのかは覚えていない。
だが、その後二人が笑顔で控え室へと去っていったところを思い返すに、上手く愛想笑いは出来ていたのだろう。
(ロンドンは、新一が私に告白してくれた 思い出の場所だった…)
(でも、もう新一にとって、ロンドンは哀ちゃんとの思い出の場所なんだ…)
自分は新一に告白されたことがある―――
そんな自負のようなものが、音をたてて崩れていくかのようだった。
※
その後のことは、蘭はよく覚えていない。
気が付いたら式は終わっており、後は帰るなり二次会へ移動するなりとなった。
蘭は会場の人気のない場所をぼんやりとさ迷っていた。
そこへ、歩美・光彦・元太の幼馴染3人組の姿を見付ける。
歩美の手には美しいブーケがあった。
(そういえば…ブーケを受け取ったのは歩美ちゃんだったっけ…)
披露宴の最後のブーケトスで、人見知りな哀の一番の親友として歩美が紹介され、会場は二人の厚い友情に大いに盛り上がっていた。
『蘭と新一君の結婚式の時には、私にブーケちょうだいね!予約したからね!』
唐突に、高校時代の園子の言葉が蘭の脳裏に甦った。
(…本当なら私が、あの場所で園子にブーケを渡していたのに…)
高校時代、蘭は親世代と同じく若くして新一と結婚する未来を信じて疑わなかった。
『まだ結婚なんて分かんないよ~』と口では否定したものの、園子にそう言われればまんざらでもなく、蘭は新一との結婚式で園子にブーケを渡す妄想をしては楽しんでいたものだった。
だが現実では、先に結婚したのは園子の方で、更には新一はつい先ほど自分以外の女性と結婚式を挙げ、幼馴染二人から自分は一人取り残されている。
ブーケトスなど自分はまるで蚊帳の外だった。
思い返して嫉妬と屈辱に震える蘭。
そんな蘭の存在に気が付かず、歩美達は話をしている。
「でもよー、蘭姉ちゃんにやらなくて良かったのか?ブーケ。蘭姉ちゃんだって、新一さんの幼馴染なんだろ?」
「元太君、ブーケは新郎の女友達よりも、新婦の女友達に渡すほうが自然ですよ。」
「そうだよ。
それに、園子さんが言ってた。
それは余計に蘭さんを傷つけちゃうって。
蘭さんにとって、新一さんは初恋の人で元恋人。その花嫁さんからブーケを譲られたりしたら、蘭さんの立つ瀬がないって。」
「そんなもんなのかなー?俺だったら、くれるもんはなんでも欲しいけど。」
「元太君ったら乙女心分かってなーい」
「何だよー(・ε・` )」
「あはは!(笑)」
10才も年下の歩美に複雑な乙女心を看破され気を遣われ、蘭は羞恥で真っ赤になった。
(確かに、歩美ちゃんと園子の考えは当たってる。)
(もし私が哀ちゃんからブーケを受け取ったら、新一を奪っておいてよくも、って思っちゃう)
(しかも、高校生時代の友達もいる。そんな中で、ブーケ貰って注目なんてされたくない。いい晒し者だよ!)
客観的には新一と蘭は完全にいい友人関係に落ち着いているので、そんな目で見られる筋合いはない。
だが、当時 蘭を祝福しつつ、内心羨ましがっていた女子は少なくない。
蘭がいるからと新一を諦めた女子だっているはずだ。
高校時代は公認カップルと持て囃されていた二人が、男は結婚して、女はまだ未婚、しかもブーケを渡される。
この構図を見て、内心ほくそ笑む女友達がいないとは言えないだろう。
少なくとも、もしも本当に蘭がブーケを受け取っていたら、そんな周囲の目が気になって、惨めな気持ちになったに違いない。
(園子は私を分かってくれてる、心配して、守ってくれようとした。
―――でも、こんなの、余計に惨めだよ…!)
親友が自分を気遣ってくれたのは分かっている。
だが、人間、気を使われていたことを知ってしまうと、余計に惨めに感じてしまうものである。
(――だめ、このままじゃ、園子に当たっちゃう。)
二次会には行かず、蘭は一人そっと帰路についた。
※
その夜、蘭はアルバムを整理していた。
アルバムから新一の写真を抜いてしまうために。
新一のことを忘れるために、彼のことを思い出すものを全て処分してしまいたかったのだ。
(私はこんなに昔から新一と一緒にいたのに…!どうしてそんな私を忘れてぽっと出の子と結婚出来るのよ…!?)
出会ったばかりの幼稚園の頃の写真を見て、蘭は泣きながら歯噛みする。
だが、写真を整理していくうちに、蘭はあることに気付いて愕然とした。
「うそ…、これで終わり…?」
(―――高校で引っ越して以来、新一と一緒に写った写真が、一枚もない―――)
幼稚園で新一と出会ってから、高校の修学旅行までは、新一と一緒に写っていない写真のほうが少ないくらいだった。
しかし、それ以降の10年間、新一が写った写真は一枚もない。
(高校卒業してからの私たち、こんなに浅い付き合いだったの…?)
蘭が東都で就職して以来、新一とはポアロでちょくちょく顔を会わせていた。
だから、自分と新一は、付き合っていなくとも特別な仲だと思っていた。
だが、顔を会わせる頻度は高くとも、付き合いの内容は顔見知りの店員と客レベルの薄いものでしかなかった。
新一は珈琲豆を買ったら大抵はすぐに帰ってしまう。
ごく稀に店でコーヒーを飲んでいく新一と、店番がてら昔話をするくらい。
デートどころか店外で会ったことすらない。
カメラで写真を撮るとなると、一緒に旅行にいったりイベントを過ごしたりしない限り、そう機会はない。
そして、蘭と新一はこの十年間、そういった“特別な”ことが何もなかったのだ。
高校までは新一との写真がたくさんあるからこそ、余計にそれ以降の写真の少なさが際立った。
一方で、披露宴のスライドショーで見た、新一と哀の写真――キャンプや旅行、誕生日を祝っているところなど――この十年間で、哀は新一と着実に絆を重ねていたのだ。
「せめて、スマホの写真なら…!」
蘭は思い付き、必死に携帯のアルバム内で新一の写真を探し始める。
しかし、新一は普段、流出が容易な携帯の写真は「信用のおける者」にしか撮られないようにしていた。
蘭は気が付いていないが、蘭にスマホを向けられた時、新一はそれとなく断っていたのだ。
なので、蘭の携帯に新一の写真は出てこない。
諦めきれずに探す蘭は、一枚の写真を見て、手を止めた。
「あはは…十年ぶりに手に入った新一との写真が、『コレ』だなんて…」
それは、正に今日撮ったばかりの写真。
蘭は式の間の記憶が曖昧だが、どうやら流れで式場の人に携帯を渡して写真を撮ってもらっていたらしい。
沢山の人が映った集合写真。
中心には仲睦まじげに寄り添う新一と哀。眩いまでに輝く新郎新婦を囲むように、友人達も写っている。
そしてその端には、確かに蘭が写っていた。
中央で花嫁と共に写る新一と、その端っこで背景のように佇む自分――その写真は、現在の自分達の関係を端的に表していた。
「何が『幼馴染み』よ…何が『特別』よ…
こんなの、『単なる友人の一人』じゃない…!
今更気が付くなんて、私って、ホント馬鹿…」
確かに、出会ってからの年月だけを見てみれば、蘭と新一のつき合いは長い。
しかし、既に蘭は新一の人生において「ヒロイン」ではなく「エキストラ」だった。
エキストラがヒーローの側を何年うろちょろしていようと、何かが始まるわけもない。
だってラブロマンスではいつも、ヒーローとヒロインこそが運命に導かれ結ばれるのだ。
大勢のエキストラを背景にして。
(――私はもう、とっくの昔に新一の“ヒロイン”じゃなかった。)
高校の修学旅行を最後に、新一の写真が一枚もないアルバムが。
携帯にある結婚式の集合写真が。
―――無言でそのことを証明していた。
「いつもカッコつけのカメラ目線の癖に…最後の写真くらい、こっち(私)を見なさいよ、新一っ…」
スマホの新一はカメラ目線ではなかった。
彼の視線は、隣で夫の方を見つめる最愛の妻へと向けられていた。
新一と一緒に写った最後の写真は集合写真。
それはまるで、初恋からの卒業写真だった。
※
こうして、夢見る少女の長い初恋は、本当の意味で終わりを告げたのでした。
おしまい。
え?
甘い夢にどっぷり浸っていた彼女が、この先苦い現実を生きていけるかって?
それは皆様のご想像にお任せいたします。
夢見る少女が夢から覚めればこの喜劇は終劇です。
あとは野となれ山となれ。
道化の一人芝居にお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
【Fin.】
――――――――――
( ・ω・)∩質問コーナー
Q.筆者は蘭ちゃんに全財産騙し盗られでもしたんですか?
A.そのような事実は一切ございません。
はい、という訳で長々とお付き合い下さいましてありがとうございました。
今回はまた、蘭ちゃんに何の恨みがあるんだ、ってくらいのバカ長妄想となりましたが、まあ彼女もこれといった実害は被ってないじゃないですかー。
ちゃんと働いて収入あるし喫茶店の看板娘だし、今の年齢で婚活始めれば余裕余裕。
現実見据えれば案外幸せになれるんじゃないですかね?(適当)
うん。誰も不幸になってないですね。(幸せになっているとは言っていない。)
優しい世界ですね。めでたしめでたし。(なげやり)
裏話。
哀は高校時代のロンドンでの告白を知らない設定です。
修学旅行で新一と蘭が恋人になったことは聞きましたが、ずっと新一が浮かない顔だったので、詳しい話は聞けなかったのです。
新一も、蘭の所業(ロンドンで無理矢理告白させておきながら放置)を哀に話せば、蘭を姉に重ねている哀を幻滅させ悲しませると思い、その辺は説明しませんでした。
因みに、ロンドンの件を知っている園子と服部も、空気を呼んでその事には一切言及しませんでした。
はい、それではこの後、「新一視点」に続きます(爆)
(なんてこった、まだ終わらないのか(;゜∀゜))
***雪月花桜の感想***
さあ始まりました!万里様曰くの地獄編(笑) 皆様お待ちかねですかね(性格悪っ)でも楽しいww
ダイエットにエステ ドレスに化粧にと女を磨くことに余念がない蘭ちゃん・・・・!
女子力の使い処間違っているような気がするのは私だけ・・・??
いやまあ同じ立場でも綺麗になりたいって思うけど、肝心の恋人とのデートにもこれくらい力入れればいいのに。
まあその甲斐ありまして人生で一番綺麗な蘭・・・友人達も誉めてくれます。
でも園子はともかく
「ホントにビックリ!これじゃ花嫁さんより目立っちゃうんじゃない?(笑)」の彼女は半分以上リップサービスの匂いがします。
(それか例のモブ子の場合(でも主役は貴女より綺麗な新郎新婦だけどね)という副音声があるとか・・・!)
もしくはその場のノリで「**ちゃんも綺麗」を期待されているのでは(女子特有の誉めあい文化 蘭は気付かないと思います)
駄菓子菓子 万里様ワールドではそうは問屋が卸しません・・・!
何とそんな美戦闘力MAXな蘭を無効化するほど美しい花婿 新一が登場・・・(≧▽≦)
花嫁じゃなくて花婿に負けるって何なの 流石、万里様。
そしてそんな花婿王子の隣に立っても遜色ない哀妖精が降臨・・・!天使にも見える・・!
子供と舐めていた彼女に完膚無き敗北 蘭ちゃん大ダメージ!倒れそうだ・・・!
何か昔、万里様に書いていただいた有希子VS蘭 エアボクシング小説話を思い出しましたので続けます(笑)
屈辱、嫉妬、怒りの蘭 苦しまぎれの反撃ばーんち-!!
だが思わぬ照れえへへ(〃´∪`〃)ゞ W攻撃!蘭のHPはもう0!カンカンカン!
・・・試合中みたいな感想文にしてみました。遊ぶって楽しい。
何とか結婚式をのりきった蘭ちゃん 妄想が激しいとはいえちょっと誉めてあげたい。可哀想になってきた(本当か??
そして写真エピがここで披露されます・・・!
そうやっと気付いたのですね。再会してからはたまに会う顔なじみの店員と客という関係性でしかなかった自分達の関係に(゚д゚)(。_。)ウン(゚д゚)(。_。)ウン
大丈夫 気付けたから!万里様が言う様に今から婚活すれば大丈夫!
でも男性の理想が高すぎる 要求が多過ぎる 辛口を直さないとねえ。
いっそのこと本性がでないお見合いとかなら、あっさり話はまとまりそう。でも結婚生活でバレるか。
どうしたらいいのやら?ねえ 万里様!
すっごく楽しませて頂きました。
ひたすら健気に待つと言えば聞こえの良い、何も動かなかった彼女はヒロインからエキストラになっておりましたとさ。
ただ一言言わせて頂けるなら・・・エキストラでも自分から動けばヒロインは無理でも、もうちょっとマシだったのでは。
自分からエキストラになっていったのだって気付きますかね。
きりがない感想はここまでにして・・・
最後の万里様の呟き 皆さんご覧になりました??なりましたね??そう新一編もあるんですよv( ̄Д ̄)v イエイ
お楽しみになさって下さいませヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
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