【園子編~カルネアデスの友情~】~万里様ご提供~
万里様より頂いた作品です。
新哀で 『夢見る少女の長い夢』の園子編です。
先に蘭視点 本編/新一編/哀編 をお読みになった方が分かりやすいかと存じます。
***注意書き***
ヒロインには優しくありません。厳しめですので、ranちゃん派の方は此処で周り右願います。
この注意書きを無視して読んでからの苦情 不満等は対応致しかねます。
尚、他人様の作品であるという事で無断転載や引用、誹謗中傷は御止め願います。
また同じ理由で予告なく、掲載を取り下げるやもしれない事予め通知致します。
**************
万里様からの注意書き:
このお話は、蘭厳しめの新哀です。
蘭がかなりピエロな役割なので、ご了承の上ご覧下さい。
最後に管理人からの再確認です。
注意書き読まれましたね??厳しめです。ヒロインファン 新蘭派はリターン下さい。
それでもOK 大丈夫という方のみ どうぞw
それでは、どうぞ↓
カルネアデスの板は、二人でつかまれば沈んでしまう。
どちらか一人だけでも助けたいなら、どちらか一人を海に突き飛ばさなければならない。
※
「ほら、調査結果。
お前が睨んだ通り、産業スパイだったぜ。」
「やっぱりコイツかあ。私に色目使ってきた時点でおかしいとは思ってたからねえ。」
「で、コイツの黒幕、こんなところにまで手を出してる訳だ。」
「あらあら、バレたらさぞかし困るでしょうね~。」
「本当だなー、エリート街道から転落だよなー。で、バラすか?」
「やだ~、そんな告げ口みたいなことしないわよ。ただ念のため、この辺の証拠も欲しいかなー、って。
ほら、鈴木財閥を敵に回すってことの意味を、知らないなら教えてあげた方が親切じゃない?」
「そう言うと思って、ここに用意してある。ついでに鈴木園子が世間知らずのお嬢様だと未だに勘違いしてる世間知らず共にも、きっちりお勉強させてやるといいぜ。」
「流石新一君。世界をまたにかける探偵ね。お代は弾んどくわ♪」
「そっちこそ、流石世界的な財閥の跡取りだぜ。いつも毎度有り♪」
「うふふふ♪」
「あははは♪」
「…そういう黒い密談は、アルバイトのいないところでやってくれるかしら?」
園子は新一の探偵事務所で、依頼の報告を受けていた。
現在、事務所には園子と新一と哀の三人だけ。
「あら哀ちゃん、コーヒーありがと。名探偵の婚約者兼有能秘書さんは気が利くわね。」
「なんだよ哀、他人行儀だな。
お前は正式にアルバイトになるずっと前からここで仕事手伝ってくれてた、この事務所一の古株だろ。」
「そうそう。婚約のこと知ってる一部では、“紫の局”なんて呼ばれてるものね♪」
「何なのそのごちゃ混ぜな呼び名…」
古株女子社員の「お局」と、年下の恋人の「紫の上」という相反する言葉が混ざったあだ名である。
「まあまあ。この情報だって、お前の科学捜査のお陰なんだし、実際ベテランだろ。」
「貴方、アルバイトに重要な仕事任せすぎなのよ。」
「哀は学生だから正社員にはできないだけだし。肩書きなんて関係なしに、信頼してる相棒だから任せたに決まってるだろ。」
「その割には、この前の鈴木財閥主催パーティーの爆破予告事件でも、避難先に私を置いていった癖に。」
「いやいや、あれは哀には避難した人の安全確認という重要任務を任せたからだって!」
「あれ本当に凄かったわよ。新一君たらすぐに爆弾の場所突き止めたし、哀ちゃんのお陰でパニックも起こらなかったし、流石ね。」
「園子さんの采配のおかげよ。」
「もう、相変わらず謙遜するわね。
それに新一君の方には真さんがついてたんだから、何も心配要らないわよ!」
「…うん。それはそうね。『新一さんは私が必ずお守りします!』って一層気合いが凄かったわ…。」
「…うん。凄かったな。ほぼ京極さんのフィジカル頼みの作戦だったし。犯人腰抜かしてたし。」
「格闘家引退して事業に専念してる筈なのに、戦闘能力の成長が止まらないのは何故なのかしら…。」
「引退してからというもの、『園子さんと鈴木財閥を守る為に!』って、より精進してるからねえ。愛の力ってやつよv(* ̄ー ̄)」
「相変わらず仲が良いわね。」
「あら、そちらこそ。
『そっちは任せた』『気を付けて』だけで通じ合える以心伝心ぶりには負けるわ。
相変わらずの息の合った相棒ぶり、既に長年連れ添った夫婦みたいじゃない♪」
「もう(*/□\*)」
「冷やかすなよ~(*´∀`*)」
「何言ってんの。今まで私が何度、『あんた達、両思いなんだからさっさとくっつけ!!』って突っ込み入れたかったことか。
焦れったいカップルを邪魔しないよう我慢して見守ってきたんだからね!
やっとくっついてくれたんだから、今までの分まで冷やかすわよ~o(*゚∀゚*)oワクワク」
「(*/□\*)ハズカシイ」
「いや~、だから園子には、告白からプロポーズまで説明したろ~?」
「新一君からはさんざん惚気られてもうお腹いっぱいよ。私は哀ちゃんの話が聴きたいのに┐(´・c_・` ;)┌」
「ええっ(〃△〃) 新一、貴方どこまで話してるのよ?」
「いーじゃねえか、園子だし。特にロンドンでの告白は、人生で一番嬉しかったことだから、何回話しても足りないんだよ。」
「もうっ(*≧д≦)」
「ラブラブねえ♪」
そんなラブラブカップルを前にして、園子はもう一人の幼馴染みのことを考えていた。
(色々やってみたけど、結局この二人の結婚までに、蘭に諦めさせるのは無理か…。)
蘭は隠せているつもりのようだが、園子は蘭が未だに新一に未練があることに気付いていた。
大学時代にもしやとは思っていたが、その時は蘭に彼氏が居たためすぐに新一のことは忘れるだろうと楽観していた。
だがこの数年で、蘭は「未練」どころか「いつかまた新一の彼女になれる」とまで「期待」しているようだった。
(蘭はこの二人の仲に全然気が付いてないみたい。
新一君とは会えてもほとんど話す時間ないだろうしなあ…っていうか、蘭って就職してから、ポアロ以外で新一君と会ったことあるのかしら?
これじゃ、新一君と哀ちゃんの以心伝心ぶりなんて、知るはずもないか。
哀ちゃんが探偵事務所でバイトしてるのも、かなり後で知ったみたいだし。)
以前 探りを入れてみたときも、蘭は新一と哀が恋愛関係になる可能性など微塵も考えていなかった。
(気が付いてないならないで、この二人の間に余計な波風立たせずに済むから良いんだけど。)
蘭は恋敵を潰すために人を悪し様に噂するような人間ではないが、良くも悪くも嘘はつけない。
蘭が新一と哀が恋人であると気付けば、必ず情報は漏れるだろう。
高校生と大人の恋が噂になれば、周囲は無責任に噂する。婚約報告までは、信用のおける者以外には秘密にしておくべきだ。
日本はとかく、未成年の婚前交渉に煩いが、“結婚”と聞くだけで手のひら返して祝福する御国柄であるのだ。
(まあ、新一君のことだから、上手くやるでしょうね。
でもだからこそ、何の心の準備もない状態で、いきなり新一君の結婚話なんて聞いた日には、蘭は一体どうするのかしら?)
相手が哀だとは気付かないにしても、“新一が結婚してしまうかもしれない”という心構えくらいはしていて欲しい。
その方が衝撃はやわらぐだろうから。
園子もその努力はしてみたのだが、蘭は相変わらず油断しきっているようだった。
(せめてその時、蘭にも付き合ってる人がいたらいいんだけど、最近は合コン誘っても全然のってこないからなあ。)
それが蘭なりの新一への操立てであることは分かっている。
しかし。
(今更遅いわよ…。
散々 元彼の悪口聴かされてきた新一君にとっては、焼け石に水。
もうその程度のことじゃ、アプローチにはならないって気付いてないのかしら。)
哀はともかく、新一が蘭に関する情報を聞いてくることはこの10年間で皆無に等しかった。
新一は蘭の恋愛事情など、さっぱり興味がないのだ。
自分に興味のない相手に対して「待ち」の姿勢でいたところで、何かが起きるはずもない。
(本気で好きなら早く告白しなさいよ。)
もっとも、新一は哀しか目に入っていないようだし、告白したとしてもフられるだけだが。
(それでも、告白さえすれば、夢から覚めることができる。
そうしたら、蘭も現実的な幸せについて考えざるを得ない。)
昔は園子も、蘭と同じくらいにロマンチックな恋愛を夢見ていた。
しかし、京極との結婚を現実にするには、夢見るだけでは叶わなかった。
園子と京極は、数々の試練を乗り越え結ばれたのだ。二人で努力したし、誠意も尽くした。
しかしそれだけでは敵わず、時には権謀術数尽くし、ロマンチックとはかけ離れた道を歩まざるを得なかったこともある。
そうまでしても二人で生きたかったのだ、お互いに後悔はない。
だが、園子は蘭にその話をしたことはないし、この先もするつもりはない。
いつぞや、蘭に無邪気に言われたことがある。
『園子はいいなあ。恋愛に対する悩みなんかなくて、順風満帆だもんね。』
悩みがなかったのではない。
蘭には言えなかったのだ。
お姫様はイノセントでいさえすれば王子様が幸せにしてくれると信じる蘭に、反対派排除の為に何か良い謀略はないか、などと相談できようか。
純粋無垢が故に無知で視野狭窄の蘭には、自らの正義に反する物語を受け止められる度量などない。
その評価は正しいと園子は考えているし、新一も同意見だろう。
だからこそ、新一も蘭に自分のことを話さない。園子と同じく、新一の生きる世界も甘くはないのだ。
そうして誰にも現実を教えてもらえない蘭は、未だに甘い夢だけを見続けている。
傍目にはおとぎ話のようなカップルも、結ばれる為には現実で苦労しているということも知らずに。
(蘭は、私と真さんが結婚するのにどれだけ苦労したのか、知らない。)
言わなかったのだから、知らないのは当然だ。
園子が口をつぐむだけで、素直な蘭は何も気付かない。
――園子が内心、どんなに悩み苦しんでいようとも。
だが、そんな蘭とは対照的だったのが、新一と哀だった。
あの頃、園子は新一へ調査を依頼したことがある。
反対派への工作のため、という理由は伏せていた。
が。
『これ、調査結果な。』
『…え、こんなことまで調べてくれたの…?』
『ああ。関連情報だから、別に職務範囲外って訳じゃねえだろ?』
『だってこんな、大変だったでしょ!?追加料金を…』
『今回はまけとくよ。結婚祝いってことで。』
『新一君…』
『おっと、礼なら哀に言ってくれよ。園子の様子がおかしい、って気付いたの、アイツなんだから。』
『哀ちゃんが…。』
『哀から伝言。「貴女と京極さんなら何があってもきっと乗り越えられる。」ってさ。俺も、同じ意見だよ。』
『……二人とも、ありがとう。』
そしてその情報が反対派に大打撃となり、園子と京極は結婚へ。
『良い友人ですね、園子さん。』
『ええ、最高の幼馴染みとその相棒なのよ。』
そうして園子だけでなく鈴木若夫妻にとって、新一と哀は数少ない信頼できる友人となったのだ。
(新一君や哀ちゃんは、言わなくても察してくれるんだよね…。)
園子は財閥を背負う立場になった頃から、蘭とは本音だけでは話せなくなった。
反対に、子供の頃は馬が合わないと思った新一の方と、親密な関係になっていった。
(子供の頃からの付き合いだから気心知れてるし、新一君も守秘義務の多い立場だから、こっちの秘密は触れないでくれる。
でも困ってることは察してくれる。)
(子供の頃に新一君と合わないと感じたのは、彼が早くから大人びてたせいかな。
私は子供の頃は蘭に似ていたけど、大人になってからは、きっと新一君寄りの考え方になってる。
でも、蘭は変わらない。
だから、私も蘭とは合わないところ出てきちゃったんだろうな…。)
それは、日常生活の些細なことだったり、金銭感覚だったりと、仕方のないこともある。
しかし、こと恋愛観においては、園子にとって蘭のそれはもはや宇宙人と話している感覚だった。
(蘭はとにかく、男性への理想が高すぎるわ。)
蘭だって魅力的な女性だが、いくらなんでも分不相応な要求が多いのだ。
少女の頃はそれでよくても、普通は大人になるにつれ現実を知り、自分に見合ったレベルに理想像を修正するものだが。
(新一君が基準になっちゃってるんだろうけど、そこまでレベル高い男が望みなら、自分の方もレベル高い女にならなきゃ無理よ。)
そして、何よりも不可解なことがある。
(どうして蘭は、新一君に対して未だに望みがあると思えるんだろう。)
蘭と新一の関係は、高校の時点でとっくに終わっている。それも、先に彼氏を作ったのは蘭の方だ。
園子は今まで、新一の妻を務めるのがどれだけ大変なことか説いてきたし、才色兼備な元彼女達を見れば、蘭では太刀打ちできないことは分かるはずだ。
何よりも、新一を知る者は皆理解している。
彼がどれだけ魅力的な男性であるかを。
その美貌、頭脳、教養、行動力、世界で戦ってきた実績、セレブ家庭に生まれたサラブレッドであり、おまけに性格も穏和で女性の扱いも紳士だ。
並の女がこんな完璧な男の隣に立てば、プレッシャーや劣等感に押し潰されてしまう。
だから新一が成人した辺りから、一定レベル以上の女性しか彼にアプローチする者はいなくなった。
我が身を省みられる女ならば、自分が彼に釣り合うかくらい判断できるからだ。
いくら蘭が魅力的といっても、それはあくまで「普通」の範囲内だ。新一のような「特別」な魅力はない。
なのに蘭からは、そんな完璧な男に対する気後れもなく、だからといって釣り合う女になろうという気概を感じたこともなかった。
それどころか、『新一 な ん か に付き合えるのは私だけ』と言わんばかりの見当違いな余裕すら感じられた。
(蘭は新一君の何を見てるんだろう…。
もう、蘭の考えてることが分からない…。
むしろ、新一君と哀ちゃんの考えの方が、私には理解できることが多い。)
今でも蘭は大事な友人だ。
だが、今の園子は、蘭よりも新一と哀の方に共感し、多く友情を感じている。
その二人は目の前で、告白やプロポーズについて恥ずかしそうに、しかし幸せそうに語り合っている。
(この様子じゃ、新一君はとぼけてるんじゃなくて、本当に忘れてるみたいね。)
新一から哀にロンドンで告白されたと聞いた時。
園子の脳裏には、高校時代、『新一にロンドンで告白された』と蘭から打ち明けられた時の記憶が蘇っていた。
蘭の青春時代で一番幸せだったろう出来事、下手したら今でもそれを心の支えにしているかもしれない出来事である。
だが、新一はそのことをきっと忘れてしまっている。
蘭だけが昔の中に取り残され、新一は哀と現在を生きている。
もう、『公認の幼馴染みカップル』は存在しないのだ。
(あの頃の自分達は、こんな未来になるなんて、少しも考えもしなかったなあ…。)
自分達はずいぶんと遠いところに来たものだ、と園子は少し、寂しく思った。
だが、新一には何も言わなかった。
今の新一が愛しているのは哀なのだ。ならば、そんなこと思い出す必要はない。
(別に、哀ちゃんに隠すことでもないけど、わざわざ教えることでもないしねえ。
まあ、この子なら知ったとしても気にしないだろうけど。これだけ新一君に愛されてるんだもの。)
(でも、時と場合、伝え方によっては、哀ちゃんが傷付く可能性もある。)
だから園子は、大阪の幼馴染みカップルにも電話で口止めしておいた。
最も、彼らももう大人であり、いらぬお節介だったようだが。
他に蘭が打ち明けられるような相手はほとんどいなかったはずだ。
当時、蘭と新一を夫婦などと冷やかしつつ、内心妬んでいた女子は少なくない。
蘭も無意識で理解していたから、自慢になるような話は大っぴらにはできなかった筈だ。
(これで安心ーーと言いたいところだけど、当の蘭本人がねえ。
新一君の結婚のことを知ったら、どう行動するかしら。
蘭は基本的に受け身だから、何かきっかけがない限り、大胆な行動を起こすことはないと思うけど。
…結婚式の招待が不安要素かしら。止めるべき?
でも高校の友人枠で蘭だけ招待しないのも不自然よね。蘭は同窓会にもバッチリ出てて、今も新一君と親交あるの知られてるし。
私が下手に止めたりしたら、哀ちゃんは勘が鋭いから、蘭の未練に気付くかもしれないし。
まあ、どうせ招待されても蘭は断るだろうから、これも杞憂かしら。)
考えようによっては、これは蘭にとって前に進む為の良い機会だ。
新一と哀が今 結婚してくれるなら、蘭は人生をこれ以上無駄に過ごさなくて済む。
ーーそう、蘭が前向きに考えられるならば。
(杞憂だといい。
でも、もしも蘭がこの二人の仲を害するような行動をとったなら、)
高校生の頃の園子なら、迷うこと無く蘭の味方をしただろう。
だが、今は新一と蘭では一緒になっても幸せにはなれないことを理解している。
少なくとも、蘭が変わらないかぎりは。
そして蘭は、この10年間で変わることはなかった。
蘭と新一。
二人とも、園子にとっては大切な幼馴染みだ。
けれど、どちらか一方の幸せしか選べないというのならば。
(新一君の恋を応援するって決めたの。
だから、その時 私は蘭の味方はできない。
ごめんね、蘭。)
まるでカルネアデスの板だ。
どちらも助けようとすれば、どちらも沈んでしまう。一方を助けるには、もう一方を水底に突き落とすしかない。
しかし、いざという時どちらを選ぶか、園子はもう決めている。
(だけど、出来ればそんな日は来ませんように。)
覚悟は出来ていたとしても、
友人を水底に突き落とすなんてしたくはないのだから。
※ ※ ※
「園子、どうした?」
「園子さん、具合でも悪いの?」
「え、あ、ちょっとハシャギすぎたかな~、疲れただけ!」
結婚式の後で。
ボンヤリとしていた園子は、新一と哀に声をかけられ、慌てて明るく返す。
『新一、ロンドンでのこと、覚えてる?』
式が始まる前の、蘭の言葉。
あれは、明らかに“そういう意図”での発言だった。
無邪気に無意識に、だが深層心理には確たる悪意を秘めて。
(新一君はともかく、哀ちゃんは気が付いてないみたいね。本当に良かった…。)
その質問が出た時には内心凍りついたが、新一が上手く流してくれた。
なので園子も素知らぬふりでスルーした。財閥令嬢として鍛え上げられた笑顔の仮面は伊達ではない。
哀も不信を抱くことはなく、その場を切り抜けられたことに園子は心底安堵した。
別に、若気の至りの告白ごときでこの二人の仲が拗れるなどとは思わない。
だが、女性にとって結婚式とは特別な日なのだ。
一点の曇りもない最良の日として記憶に残して欲しい。
(不発に終わったものの、こうなってみると強引にでも蘭を招待するのは止めるべきだったか。
招待に応じたって聞いた時は、欠席に持ってけないかと蘭に電話したけど、逆に行く気満々で止められなかったものね…。)
蘭が今日の式に臨んだのは、祝福の為などではなく、哀に挑戦しに来たのだということを園子は分かっていた。
だが、園子はそれでもいいと思った。
新一と哀が最高のカップルであるという現実を直視すれば、嫌でも夢から覚める。
それで蘭が諦められれば、蘭の為にもなるから。
結果、夢破れただけでなく、蘭の最後の拠り所であるロンドンの思い出まで粉々にされた訳だが。
(ブーケトスを蘭相手になんかしなくて、本当に良かったわ…。)
念のために釘を指していた園子であったが、今回はその用心が役に立った。
式の最中の蘭の精気のなさからみて、もし蘭にもブーケトスをやろうものなら蘭は泣き崩れるかキレるかのどちらかだったろう。
(約束果たせなくて、ゴメンね、蘭。)
『蘭と新一君の結婚式の時には、私にブーケちょうだいね!予約したからね!』
園子は高校の頃の約束を覚えていた。
自分から一方的にした約束だったが、蘭も少なからず期待していただろう。
それが叶うことがないのは、蘭よりもずっと早くに分かっていたが。
(ならせめて、私の結婚式で蘭にブーケを渡せば良かったのかもしれないけど…。)
園子は社交界等の関係者を海外挙式に招待し、後日、国内で簡易お披露目パーティーを開いた。
結婚式ではブーケを哀に渡した。哀は自分達の結婚を後押ししてくれた友人だから、どうしても渡したかったのだ。
遠慮がちに受け取る哀と、笑顔で礼を言う新一の姿は今でも心に残っている。
そして、蘭はお披露目パーティーの方に呼んだが、式ではないので、当然ブーケトスはなかった。
(あの時私は、蘭の為にわざわざブーケを用意するなんて思いつきもしなかった。)
園子は気付いていなかったが、あの時点で既に、蘭よりも哀の方が友人として大切な存在だったのかもしれない。
(蘭……。)
園子は蘭を可哀想に思う。
幼馴染み二人ともに、自分の青春で最も輝かしい瞬間を忘れ去られたのだ。
もしかしたら、自分だけでも「覚えているよ」と言ってあげたならば、蘭は少しでも救われたのかもしれない。
しかし、それは新一と哀の晴れの日を台無しにする行為だ。
まるでカルネアデスの板だ。
どちらも助けようとすれば、どちらも沈んでしまう。一方を助けるには、もう一方を水底に突き落とすしかない。
(まあ、カルネアデスの板の論点は、二者択一ではなく、その行為が罪に当たるかどうかだけど。
でも、罪になろうがなるまいが、私は後悔していない。
蘭よりも新一君と哀ちゃんの幸せをとると決めた。
自分で決めて、自分で行動したこと。
だから、後悔なんてしないわ。)
ただ、園子が蘭に対して思うことは一つだけ。
(どうか蘭が、別の幸せを見つけられますように。)
カルネアデスの板は、二人乗せれば沈んでしまう。
誰かを助けたいのなら、他の誰かを犠牲にしなければならない時がある。
財閥を背負い人の上に立つ園子は、そんな現実を理解しているし乗り越えてきた。
罪になろうがなるまいが、自分で決めて行動したことなら、後悔などしたくない。
けれども。
(突き落とした相手が、何処かで別の板に捕まってくれることを、祈らない訳じゃないのよ…。)
園子は目の前の友人の幸せを祝福しながら、心の中ではもう一人の友人の幸せを人知れず祈ったのだった。
(END)
―――――――――――
(万里様の後書き)
カルネアデスの板:
緊急避難の例として有名な寓話。
『船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。一人の男は板切れにすがりついた。するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。しかし、二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、その者を突き飛ばして水死させてしまった。男は罪に問われるだろうか?』
はい。
ということで、園子編でした。
これにて、『夢見る少女の長い夢』シリーズは全ておしまいでございます。
長々とお付き合い、ありがとうございましたm(._.)m
本来、この『園子編』は書く予定は全くありませんでした。
しかし、雪月様の『そうして幸せに暮らしました』で京園のリアルを読んで、「この二人って結婚するには苦労が多そうだよな~」とか妄想してたら、なんと園子編が出来てしまいました(爆)
お陰で園子と新哀の親密度がUPし、蘭への死体蹴り(酷)が追加されましたね。
まあ、見方によっては、「蘭ちゃん、知らぬが仏だね。良かったね (´∀`*)ウフフ」というお話です。
知らぬが仏一覧↓
・親友が財界で暗黒女王様になってた
・親友が自分を差し置いて恋敵にブーケトスしてた
・いつの間にか親友と想い人と恋敵が仲良くキャッキャする仲になってた
・親友の恋バナからはハブられ、好きな男と恋敵に相談してた
・自分の青春の思い出を幼馴染み二人に忘れたふりでスルーされてた
・「貴女の恋は身の程知らず」という言葉を飲み込んでもらっていた
・「彼ったらぁ、私のことまだ諦めてないみたいでぇ~」という自分の勘違いがバレバレだったのを気付かないふりで通してもらえた。(←私的には、これがバレてることをもし蘭が知ったら一番ダメージ食らうと思う)
***雪月花桜の感想と御礼***
ついにやって参りました!園子編!お恵みありがとうございます、万里様。
まさか原作のその後シリーズの財閥令嬢と格闘家の結婚は難しい というリアルに触発されて園子編書いて下さるとは…!何が幸いするか分かりませんね(((o(*゚▽゚*)o)))
最初は園子と新一の腹黒やり取り(笑)
哀ちゃんのごちゃませあだ名と京極さんなぜかどんどん強くなる で笑いました。
二組の幸せカップルがいて何よりです(´∀`*)ウフフ 楽しそうなやり取り
そしてそして…肝心のお花畑住人に関しては・・・私が予想していたより園子は事態を見抜いておりました。
蘭が知ったら羞恥で死ねるレベルには( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
なんでそんなに余裕ぶっこいてられるの?と思われるくらいには(笑)
そして園子の成長が素晴らしい…!
高校生時代には無条件に蘭の味方し過ぎて偏っていた彼女ですが、財閥で活躍するようになり且つ京極さんとの恋愛で綺麗ごとだけではやっていけないのを知り、どんどん精神的成長を遂げました。
引き換え10年何も変わらない幼馴染…。だめだこりゃ(コント風に)
言わないと気付かない時点で…ねえ?
”純粋無垢が故に無知で視野狭窄の蘭には、自らの正義に反する物語を受け止められる度量などない。”に凄く納得。
だからこそ園子は蘭に何も話せず…逆に新一や哀に心を寄せていくのでした。
高校生 新一が行方不明時代…組織に関してのことだからこそ沈黙を守ったと園子は知っているのかしら??
財閥である程度成長を遂げた後に知らされそうですね。そして現時点では、もう知ってそうですね。
軽はずみだった過去の自分を反省した園子が新一に人肌脱いだり、懺悔代わりに何か提供したりして もう1話出来そうな…!
そして新哀のフォロー要因に回る園子にブラボー👏
お蔭様で哀ちゃんは何も知らずに幸せな花嫁さんに…(⋈◍>◡<◍)。✧♡(新一の惚気返しが一番凄かったけど)
そして二人の大事な幼馴染に人生で最も輝かしい思い出を上書き(哀のロンドン告白)されてしまった蘭ちゃんでした ちゃんちゃん。まあでも無意識の悪意で自業自得ですね。結婚式の主役は花嫁さんだから☆
カルネアデスの板!金田一で初めて知ったあの故事を此処でもってくるとはwwww凄いΣ(゚Д゚)
ただあれはどちらかが生きるか死ぬかという非常に切実な事情がありましたが…今回の場合、片方は妄想(と書いてゆめ)の愛、片方が真実の愛であり…なんていうか釣り合っていません。片やピエロ 片や緊急避難 でございます(・∀・)ウン!!
落差も激しければ、お題の深刻さも世界が違いますね。きっと生きる世界が違うのです。
そして園子が選んだのは新一と哀でした 蘭ではなく。でも憎んでいるとかではなく幸せは祈っているのですよ。
私も同意見。
蘭君は別の世界で幸せになってください(しみじみ
今回ツボだったのが、知らぬが仏一覧v( ̄Д ̄)v イエイ
これ知っちゃったパターンとか読みたくなります(鬼
特に 『親友が自分を差し置いて恋敵にブーケトスしてた』 とか『いつの間にか親友と想い人と恋敵が仲良くキャッキャする仲になってた』とか一番ダメージがあるであろう 『彼ったらぁ、私のことまだ諦めてないみたいでぇ~」という自分の勘違いがバレバレだったのを気付かないふりで通してもらえた』 とかが読みたいです!万里様…!
モブ子たちのトークを偶然漏れ聞いてしまいΣ( ̄ロ ̄lll)ガーンとか有り得そうな…書いちゃおうかしら??でも万里様の作品だし。
うーん(゜レ゜)読みたい…!書くご予定はございませんか?万里様
…許可を頂いたことですし、もしも雪月花桜が浮かんだら書いちゃいますよ(´∀`*)ウフフ
これが最後なのが残念なほど楽しい万里様ワールド(*´▽`*)
皆様も同じくらいenjoyしてくれていたら嬉しく思います(((o(*゚▽゚*)o)))
そして 最後に…!万里様へ
このような素敵な大作 『夢見る少女の長い夢』をご提供頂き、掲載許可を下さり、本当にありがとうございました。
読むときも編集作業も感想文を書くときも、皆様の感想コメントを読むときもそれらに返信する時も、とてもとても楽しい時間を過ごさせて頂きました。
万里様ワールド最高でした((o・д・)bグッジョブ♪
皆様にも楽しんでいただけましたようで管理人冥利に尽きました☆
心よりの感謝とありがとう♡を捧げさせて頂きます。
これからも末永く良いお付き合いいただけたらと願っております。
雪月花桜より(⋈◍>◡<◍)。✧♡
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