とある妊婦の独り言
夢の絆シリーズ(コナン小説で逆行物 新志小説)の番外となります。
時系列的には、瑪瑙石の輝きの後 出会いなおしの前のお話です。
夢の絆 本編 番外編をすべてお読みになってからの方がより理解が深まると存じます。
下記注意書きをお読みになられてから、ご覧下さい。
***注意書き***
本シリーズ作品はRANちゃんには優しくありませんので、ヒロイン派 新蘭派はご遠慮願います。
後、本作品に出てきませんが、服部君にも優しくありませんのでご注意願います。
この注意書きを無視して読んでからの苦情や誹謗中傷のコメントは受け付けておりません。
このサイトは個人作成のものであり、原作者・出版社とは一切関係がありません。
私なりの解釈を加えた二次小説もございますので自己責任でご覧になって下さい。
*************
注意書き読まれましたね?
ではどうぞW
これまで見えてこなかった周りの世界が急に理解出来たり、何かが繋がってはっとなる成長の瞬間がある。
井戸の水に触れて「すべての物には名前がある」と気づいたヘレン・ケラーのように。
蘭の妊娠と相手が発覚した時の会社の皆の反応は冷淡なものだった。
休憩時間に総務のベテラン社員と営業事務の中堅社員たちに既婚者だったなんて知らなかったと訴えてみても反応は芳しくない。
「いや毛利さん、東都で10年以上ホステスしてたんだよね?妻子持ちかどうか普通分かるでしょ。」
(”普通”分かるってそんな…!普通って何?)
「だから、(不倫なんて)大丈夫?って聞いたじゃない?」
「恋愛に関してだと思ってた…。恋人との仲について聞かれたのだと思って…」
「あ~そっちに解釈しちゃったか。」
「新卒の子ならともかくさあ。」
「今年の新人、西本さん可愛いのに手出さないなと思ってたら、まさかねえ。」
「やっとあの女癖おさまったと思ったのに。」
会社内での話に耳を傾けると社長令嬢である妻に頭が上がらない彼は部長という役職を利用し、世間知らずの新人の女の子に手を出す悪癖があるのだという。
数年それが続き、女子社員の間では新卒採用の女子はみんなで守ろうと、席を離したり、二人きりで残業させないよう一致団結しているらしい。
しかしまさか夜の世界で10年以上働いてきた女性、しかも30代半ば頃という年齢の彼女が引っかかるとは誰も思わなかった。
仲がそれとなく会社で周知されるようになってからも元ホステスという色眼鏡からか、すべて承知の上の交際と見做され、「大人の付き合いなら下手に口を出すのも…」「仕事に支障がなければ」といった雰囲気になっていたようだ。
前述の通り、みかねてそれとなく忠告してくれた女性もいたが蘭は意味を取り違えてしまった。
そして会社内では今までの彼の悪行があるので、騙されていたと同情してくれる人半分、都会で長年ホステスしていて気づかないわけがない。確信犯では?と辛辣な見方をする人半分だった。
そして同情してくれていた人達ですら、「でも、自己責任だよね。」という意見が大多数を占めていたことに蘭は打ちのめされ、失意の内に会社を去った。
彼の妻諸共巻き込み泥沼化した争いの後、激怒した彼の妻から慰謝料を請求しない代わりに、夫との縁を完全に切ること、産まれてくる子供も認知しない 養育費も出さない旨で押し切られたがそれでも小五郎は怒ってくれて、彼を何とか訴えようと動いてた。
しかし常習犯というべきか、メールやLINEには決定的な証拠が全くなかった。
調べれば調べるほど分かる彼の狡猾さ。
(優しいのは無責任だから。お金払いがいいのは、後腐れないようにしているだけ。今の役職にいるのは奥さんのお蔭。)
そして蘭自身の”知らなかった”ということの証明の難しさも浮き彫りになったのであった。
結局、彼を訴えてもほぼ無理だという事が分かり、そのせいで相手の妻に訴えられたら確実に負けることが判明し、涙を呑んだのであった。
悪阻が酷く、寝てばかりの日々が続いていたある日、隣の奥さんが自分の畑で出来た野菜を持ってきてくれた。
いつもなら感謝するが、今は殆ど何も食べられない有様で調理なんてもっての外。
「あ、あの有り難いんですど、今ちょっと調子悪くて…。」
言外に断ろうとしたのが良く言えばおおらか、悪く言えば鈍感な奥さんには通用しない。
「遠慮しなくていいのよ!ね!!」
笑顔で押し切られてしまった。
(あ-あ。また野菜腐らせちゃうかも。お父さん焼くだけのお肉とかお魚はやってくれるけど、野菜はあんまり食べないし。)
お節介に気が重い、相手が善意なら尚の事と思った瞬間、突然まるで忘れていたことをぼんやりと思い出したかのような感覚に襲われた。
”「新一はやらないから家事してあげなきゃ!」”
「あ…。」
それは過去の彼女自身だった。
今なら分かる。あれは善意の押し付けだった。
(自分が新一が好きで彼の特別になりたくて…。自分がやりたくてやっていたんだ。)
それなのによくもあんなに恩着せがましく”やってあげている”風に言えたものだと思う。
初恋を吹っ切った今、彼女は過去の彼女自身を客観視出来ていた。
”「新ちゃんと蘭ちゃんは”ただの幼馴染”ですもの!!」”
”「だからもう”連絡もなしに家に来ないで欲しい”の。」”
”「でも新一、私がやってあげなきゃ、ろくに料理もしないんですよ!?」”
そして冷たくされ距離を置かれた高2の一学期。何とかしてほしくて、有希子に告げたが逆にNOを突き付けられたことも。
(食い下がる私に、新ちゃんは家事出来るわよと笑顔で言ってたよね。有希子さん。)
あの笑顔は蘭への決別だったのだ。もう息子に関わらないでほしいという。
(なのに認められなくて…北風と太陽の”北風”みたいなことばっかりやっちゃってた。)
これを機に蘭は現在の出来事から過去に想いを馳せ、自省することになる。
役所で年齢らしからぬ振る舞いを見咎められた時にはホステス時代のママに「身だしなみを整えるのは最低限の義務よ。」先輩ホステスに「ママにああいうこと言わせないで。もう蘭さんも中堅なんだから、わざわざ言われなくても分かるでしょう。」と言われたときのことを。
産婦人科で不安で泣き出してしまい、落ち着いて話をもう一度聞いて下さいと何度も窘められた時には
「蘭、先生になんてことするの!」「人の話を聞きもしないで空手を使うなんて!」と獣医さんに空手を仕掛けてしまったときに母親に叱られた時のことを。後で示談するのにかなり苦労したと聞いた。
病気ではないけれど身体が自分の思うように動かせないこと、考える時間があることがこのような過去と現在とを邂逅させることになった。
何度も何度も…それはまるでじわりじわりと地に染みていく水のように、誰にも知られないひそやかな変化-。
悪阻も収まり臨月となったある日、軽く身体を動かそうと、近所の公園に散歩に出かけた際にそれは起きた。
キャッチボールしていた野球の球がコントロールミスで蘭の腰かけていたベンチに当たった。
びくっとした蘭に頭を下げて球を追い掛けていく小学生たちだが一人が「当たってねえじゃん。」と言っているのが漏れ聞こえてくる。
(もうっ!当たったらどうするのよ!お腹に赤ちゃんがいるんだから!はあ!?当たらなきゃいいってもんじゃないでしょう。)
妊婦は足元が見えにくい。驚いた拍子にけつまずいたりしたらどうしてくれるのと一人憤る。
我が子を守れるのは私だけと、身体にもたらされる刺激に過敏になっていた。
”「しょうもないことで空手を俺や新一に使うのはやめろ!当たったらどうする気だ!?」”
”「何よ!お父さんも新一も避けられるじゃない。それに私がそんなヘマするわけないでしょ!」”
矛盾を矛盾とも思わず言い返す若い蘭。
(あれは…島に来る直前のころ。)
”「当たらなければいいってもんじゃねえ。近くにいたご老人とかが驚いてひっくり返ったらどうするつもりだ!俺は暴力を振るうなと言っているんだ!”」
暴力なんてふるっていないと主張する娘に対し、「咄嗟の時に出るぞ。いつか後悔するぞ。その前に辞めるんだ!」と主張した父親。
そして起きたベルツリータワーでの事件。
親友を突き飛ばした犯人をやっつけただなのに、警察に連れていかれ理不尽な目に遭った。
罪状は過剰防衛。
FBI捜査官が落ちていく犯人を掴み取らなければ犯人は死亡し、殺人者になっていたところだと説明され、やり過ぎだと言われた。その上、園子の為といいつつ、蘭が空手をふるったことによって逆に銃は乱射され、その弾はそこかしこに散らばっていた。
無事だったのはただ単に運が良かっただけに過ぎないという。
(それでもわざとじゃないのに園子からも絶縁されて信じられなかった。私たちの友情ってそんなもんだったの?って嘆いた。)
”「当たり前だろうが、蘭 おめえが無駄に暴れたことで嬢ちゃんの命の危機は上がったんだよ。そんな我が子を危険にさらす存在を傍に置いておきたい親なんざいねえよ!」”
そうだけど でもでもと頭では納得しても心が追い付かなくて理解出来なかった10代の蘭。
今なら分かる。そういうつもりがなかったとかの問題ではない。
危険から遠ざけたいのが親心だし結果が物を言う。 そして謝っても今まで通りには戻らないこともある。
(お父さんの言う通り、だった。)
「ごめんなさい。園子…。」
(謝らなきゃいけない相手は園子だけじゃない…。お父さん、新一、有希子さん、あの獣医さんにそれから…。)
叫び出したくなるような恥ずかしさと、口惜しさと己の間違い、弱さを突き付けられて泣きたくなる。
でも今は泣いている時ではない。目に力を込め、ぐっと堪える。
(とりあえず今の私の仕事は、無事にこの子を産むこと。そして機会があれば…きちんと謝ること。)
でも出した手紙が今まですべて舞い戻っている現実を見るとそんな機会はもう巡ってこないのではないかと思えてならない。
(ううん。決めつけちゃダメ。)
これまで見えてこなかった周りの世界が急に理解出来たり、何かが繋がってはっとなる成長の瞬間がある。
井戸の水に触れて「すべての物には名前がある」と気づいたヘレン・ケラーのように。
だがこれに気付くのにはサリバン先生の献身的な教育と、彼女を雇い見守った両親の支えなしにはあり得なかった-。
(お父さん、ありがとう。色々あってその都度、沢山の人がアドバイスしてくれた。でも今の今まで離れずにずっと言ってくれたのはお父さん一人だけ。)
***************************
後書
読んで頂きありがとうございます。
『出会いなおし 中編』でまだ園子との交際復活厳しいのではというコメントを頂き、「うーん(゜レ゜)あんまり成長過程書いてないから無理もない。しかし後編では(実は)蘭成長(してました)物語にするプロットなんだけど、どうしよう?」から始まってます。
プロットをばらすなというお話ですね(;'∀')
このご意見を頂いたとき、①後編で成長が分かるように書く→めっさ長くなる予感しかしない( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \前編・中編とのアンバランスさが気になる。
②原作その後シリーズでコメントのご意見で、新一と蘭の対照的な象徴として復縁予定だった毛利夫妻を破局に変更したように
今回も成長したけど、財閥トップと付き合う程ではなかった と変えるか
この二つで悩んでいたところ ①後編に説得力を持たせるために、精神成長過程編を書けばよいのでは✨と閃き、本作品になりました。妊婦という言わば、病気ではないが些か社会的に弱くなったこと(本物語では悪阻が酷い&無職)で色々考えるようになったという感じです。
人が変わったねと言われるのは大抵身なりが派手になったりして悪い方に変わった場合が多く、善い方に変わった場合は地味にひっそりと気付いたら って感じだと思うんですよね(ヘレン・ケラーをモチーフにしたのでこの文章入れれなくて残念)
なのに蘭が園子に謝っていないのは皆様突っ込みされそうですが…これまた実に調理しがいのあるネタでしてね( ̄ー ̄)ニヤリ
コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))
PS 真実の扉シリーズで参考にさせて頂いたジュエリー漫画を描かれた野間美由紀先生が亡くなられたとの訃報にショックを受けております。新しい宝石が知ることができて知識欲が満たされ、推理も楽しめて大好きでした。
ご冥福をお祈り申し上げます。
- 関連記事
-
- 出会いなおし 後編~蘭編~
- とある妊婦の独り言
- 出会いなおし 中編~新一編~