クリスマスの奇跡~10年目の真実~(一滴の水 番外編 歩美編)
急に消えた、大好きな幼馴染。
どんな困難な状況でも、溢れる知恵と勇気と度胸でどうにかしてしまう彼が大好きだったから、淋しくて仕方なかった。
(初恋だった…。コナン君、どこ行ったの?)
正確には消えたのではなく、転校。
親元に帰っただけと聞かされたのだが、父親が地質学者で世界中を飛び回っているらしく、彼からの手紙も届いたのはほんの数通だけだった為、歩美にとっては、消えたとしか感じられなかった。
続いて哀までも、イギリスの親戚に引き取られていってしまった。
大好きな二人ともが自分の元からいなくなってしまって、あの頃の歩美は呆然としたものだ。
(光彦君と元太君が必死に慰めてくれたっけ。)
その後二人が大人になったかのような、彼らの親戚である新一お兄さんと志保お姉さんと交流が始まった。
結婚式でブーケを貰ったのは、今でも幸せな思い出だ。
(哀ちゃんから貰えたようで-。)
とても似ている彼らと話していると、コナンと哀がいるかのようで嬉しかったけれど、本人ではない。
彼らはやはりお兄さん、お姉さんで保護者的立ち位置だった。
小学校高学年から徐々に疎遠になり、中学生になった頃、工藤一家は海外に引っ越していったと聞いた。
会えなくなって淋しいと同時に正直ほっと一安心もしていた。
(新一お兄さんと志保お姉さんがコナン君と哀ちゃんに似すぎてて、思い出して切なかったんだよね。)
「でも今は素直に会いたいなぁ。」
日本に戻ってきたと風の噂で聞いたから、博士の家に久しぶりに顔を出してみよう。
二人に会えるのは博士の家が多かった為、咄嗟にそう思いつく。
「今日クリスマスイブだし。ケーキ買ってこうっと。…会えるといいな。」
(博士も元気かな。食べ過ぎてないといいな。フサエさんが管理しているから大丈夫だよね。)
街中でケーキを買って近道をしようとしたら、公園に新一と志保が見えた。
「わあ。」
(会いたいと思ったら…!)
喜んで駆け寄ろうとした瞬間、二人の側にいる子供達がかつてのコナンと哀にそっくりで歩美は棒立ちになった。
(そ、、そっくり。あ、でも眼の光が違う。コナン君はもっと意志の強い光る瞳をしていた。哀ちゃんは知性ある瞳をしていた。)
当たり前だよね、コナンと哀は自分と同じ17歳のはず。きっと彼らは、赤ちゃん時代に見たことある、工藤夫婦の子供達だ。
何となく声を掛けそびれて、でも離れがたくて静かに彼らの背中に近づく。
「新一、貴方、美保に甘過ぎよ!」
「そ、そうか!?ついつい志保が言い聞かせてくれっからさ。」
「もう!あの子達にはもきちんと叱っていたじゃない。」
「え?あいつらにだって、雪山で志保が もう言った って言ったから俺、結局説教しなかったぜ。まあする必要なかったっていうか。」
「しなかった時の話だけ取り上げない。…懐かしい話するわね。元気かしら?あの子達。」
「歩美は可愛くなってんじゃないか。光彦は見所あるから将来、探偵になってくれたら面白いな。元太はうな重食ってそうだな。」
「どうして彼だけ今日の献立なのよ。…今日だからケンタッキーフライドチキンじゃないかしら?」
「なるほど。」
”おめーら!!!”
”もう言った。”
歩美の脳裏に雪山で無茶をして、コナンに叱られかけた時のことが蘇る。
(それに新一お兄さん、呼び捨てにした。いつもは歩美ちゃん 光彦君 元太君って呼ぶのに。)
”あの二人、絶対、年齢 誤魔化してますよ。””サバ読んでるぜ。”
光彦と元太の声が歩美の脳裏に響く-。
彼女は直観的に真実を悟った。新一がコナンだったのだ。志保が哀だったのだ-。
コナン君、どこ行ったの?-こんなところに居たんだ-。近くにいてくれたんだ-。
二人が転校していってから10年が過ぎて女子高生の歩美は泣きそうになり、俯く。
騙されたという想いがなくはない。
大人が子どもになるわけがないという理屈も心のどこかにはある。
けれど歩美はこれこそが真実だと何故か確信があった。
(だからあんなに知識があって、頼りがいがあったんだ。)
そしてこの時歩美は、後から振り返って自分でも驚くほど、最良の選択を無意識に選び取っていた。
懐かしさと共に詰りたい、問い詰めたい気持ちもある。けれど真実は言ってもらえないだろう。それに1番大切なのは-。
(コナン君に告白出来なかったこと。好きと言わなかったこと。)
出来なかったのは勇気がなかったから。しなかったのは別れが受け容れられなかったから。
(そして多分、歩美が恋愛対象外だったのが悔しかったから。)
あのね、コナン君 歩美は貴方が好きでした-。
告白してくれる人もいたけれど、貴方が強烈過ぎて、鮮明過ぎて、中々上手くいきませんでした。
それももう終わりにしよう。真実を知って何やらすっきりしている。
「歩美はコナン君が好きだった。大好きだったよ。」新一の背中に小さく、ちいさく呟く。
聞かせる気はない。困らせる気はない。これは歩美の初恋の終わりの儀式だから-。
「ありがとう。コナン君。」
それに相手は新一お兄さんではなく、5人で一緒に過ごした歩美の中の”コナン君へ”。
そうして歩美は大きく息を吸った。
「メリークリスマス!新一お兄さん。志保お姉さん。」
明るく大きい声で呼びかける。
驚きと喜びに満ちた顔で振り返る二人に歩美は飛び切りの笑顔を向けた。
クリスマスの夜の奇跡に感謝を-。

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後書 まさかの一滴の水 歩美ちゃん編です。久しぶりに書いた一滴の水 しかも歩美ちゃん編 作者が一番驚きました(おい)
少し早いクリスマス小説でございます。
最初の2行だけ蘭ちゃんチックです(笑)こういう誤認トリック?っぽいの好きで♪
蘭が初恋の人、新一に10年ぶりに会い初恋をきちんと終わらせたのと同日に歩美ちゃんも急に消えた初恋の人 コナン君の真実を知り、初恋を終焉させるという仕掛けになっております。副題 初恋よ さようなら でしょうか。
光彦と元太の台詞はうろ覚え 確かこんなようなことを原作かアニメで言ってたような記憶があるんです。
しかし罪な男になっておりますなぁ新一(笑)
最初、別のシリーズで歩美ちゃんが結婚式にコナン君を呼びたくて新一に依頼⇒新一がコナンに扮して出席とかも考えたんですが…中々ちょっと難しくて💦そのシリーズならではの物語展開とマッチしないなぁ、と。
あとせっかく12月なのでクリスマスネタがいいかも♪ と思ってからは、クリスマスなら一滴の水でしょ と思い、こう相成りました。
あ、歩美ちゃんの結婚年齢を30歳前後にすれば、コナンの年齢30歳と40歳(新一)の差って眼鏡とメイク次第でどうとでも出来ましたね、一滴の水シリーズで。
後書でそれに気付くっていったいorz
うーん 全部知っててでも”コナン君”に会いたくて依頼する歩美ってのもありかな?どなたか書いて下さいませんか-!(他力本願)
楽しんで頂けたら嬉しいです(((o(*゚▽゚*)o)))
感想コメント頂けたら、もっとHappyです(⋈◍>◡<◍)。✧♡
PS 万里様 夢見る少女シリーズ ”忘れ雪 ~ 夢見る少女29歳 焦りの婚活の果てに”は2022年1月2日up予定です。
乞う お楽しみに☆彡
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