逃がした魚は海だった
愛し合っていても別れるなんて、世の中にはよくあることで弁護士として何度も見てきた。
でも自分の身に降りかかったその時に英理はそんなこと起こるはずがないと高を括っていた自身の心を思い知らされた-。
「どうして…!どうして愛し合っているのに別れなきゃいけないの!?」
泣きながら夫に訴える。
「…どうしてだろうな。」
対して夫も泣きそうな顔をしながらも、答える。
言葉こそどうしてと言っているがもう答えは分かっている。蘭の間違った認識を正す為の親としての責任。
それを受入れたくない感情があり、拒否しているだけだ。
仕事ばかりか愛する夫さえも娘の為に取られるのか-。そんな感情が英理を支配する。
人は様々な貌を持つ。親としての顔、子供としての顔、職場での顔、友人に見せる顔。
夫はその中で最優先として娘を選んだのだ。夫として妻の自分を選んではくれなかった。
父親としては正しいのだろう、きっと。
哀しみの底でぼんやり思う。
魂の抜けたような顔つきのまま、動かない手で必死に離婚届に記入する。
(涙で良く見えない…。でも皮肉ね。仕事で何回も見たから、何を何処に書くかなんて頭に入っちゃってる…。)
書き終わり、のろのろと頭を上げる。
「…貴方から出しておいて頂戴。」
「分かった。」
本当は出して欲しくなかった。心が悲鳴を上げる。
書きはしたものの、提出されることがない事を願い、一縷の望みを掛けて自身が知らないところで出すよう言う。
今でも夢に見る夫との別離。
痛みを伴った別れをしても手に入れた都会での生活は英理に合って、仕事にプライベートに生き生きとしていた。
けれど-。
ふと雑踏のざわめきの中で小五郎の視線を感じて、声を聴いた気がして、振り向くことがある。
(私 らしく生きている、のに-。)
都会は物質的に確かに英理に合っていた。
やりがいのある仕事、プライバシーの守られたバーでの息抜きや百貨店での選ぶ楽しみのある買い物。
だが時折、ごっそり何かが抜き取られたような妙な感覚に陥る。
(あの閉鎖的な島では私は生きられない。だから戻りたいと軽口でも言えはしない。けれど-。)
時折、英理は苦労して手にしたものを全て投げ打ってでも、小五郎の元に戻りたくなる焦燥感に駆られる時がある。
貴方 がいない-。
淡水で生きられない海水魚の私。都会という海にきてやっと自由に泳げた。やっと息がつける、なのに-。
(あの人の存在がこんなに大きかったなんて-。)
精神面ではいつでも受け止めてくれる夫の存在が海だったのだ。
小五郎という海の中だから英理は自由に泳いでいられた 心のままに、生きられたのだ。
よく言う 逃がした魚は大きかった ではない。もっともっと大事なもの。
(男性が船乗り、港が女って例えはあった。船は必ず港に帰るって…でも私とあの人は逆…というか少し違う 港ではなくもっと大きなもの。)
逃した魚は海だった
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後書 逃がした魚シリーズ 第二弾 英理⇒小五郎です。
夢の会話の時間軸は 夢の絆 英理番外編 淡水で生きられない海水魚 で、現在の時間はその離婚より数年後に生活が安定してふと過去を振り返る といった感じです。
彼女って実は小五郎を心の底では凄く頼りにしていて、でもそれが空気みたいで気が付かない。
魚ε( ε•∀•)эにとっての海 という意味で必要不可欠だったんですね 実は。
でも物理的にあの島で順応出来なかったので、決定的に何か欠けながらも都会で暮らしていくしかないという…。
なんだか夢の絆シリーズで再婚(そもそも離婚届け出したのか?作者も半信半疑)させてあげたくなりました。
小五郎のビルに戻ったら…ワンチャンあり ですかね??読者の皆様どう思われますか?
コメントや拍手頂けると作者が狂喜乱舞ゥレシ━.:*゚..:。:.━(Pq'v`◎*)━.:*゚:.。:.━ィィして次なる作品のエネルギーにもなりますので、宜しくお願い致します(((o(*゚▽゚*)o)))
Oo。 ⌒⌒
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