一滴の水 新一編②

2015.01.18 09:41|一滴の水 本編
~まるで息をするように恋をしていた~
それが新一の志保に対する気持ちだった。

年始を数日過ぎたある夜、工藤邸では、珍しく親子3人で食後の団欒をしていた。
両親に志保との事を報告すると、二人共とても喜んでくれた。
父:優作はともかく、母:有希子は”親友の娘”という事で蘭を贔屓にしていた。
だから、その反応が新一には少々意外に映った。
「母さんは蘭じゃねえ事に疑問とか難色示すかと思ってた。」
「いやあね。それは蘭ちゃんは英理ちゃんの娘だし、小さい頃から知ってるから情はあるわよ!?
でも私は新ちゃんの母親なの。新ちゃんの幸せが一番に決まってるじゃない!それに蘭ちゃんには彼氏出来たんでしょう?」
「・・そっか。ありがと。」
「で、志保ちゃんの何処が好きになったの?」
顔にわくわくと書いてあるような表情で母親が聞いてくるので、助けを求めて父親に視線を向けるもこちらも好奇心で眼が輝いていた。
この両親がタッグを組むと、一人息子である彼に勝ち目はない。
おまけに負傷した為、有希子という同性がいる工藤邸に同居している志保も隣の阿笠邸へ夕食作りに行ってる為不在である。
観念した新一がぽつりぽつりと話し始めた。
「あいつといると楽なんだ。」
「うん、うん。」
「事件起きても、考えてる事がほぼ同レベルだし知識も度胸もあるから”頼む”だけで通じるし。」
「新一、それなら友人でもいいんじゃないかね?」
優作が疑問を投げ掛ける。
「確かにそれだけなら今まで通り相棒でいい。でもそれだけじゃないんだ。」
「ほう。」
「あいつさ、出会った頃本当に冷静って言うか、クールでさ。
蘭や園子みたいな女しか知らなかった俺はびっくりした。最初は冷たいとすら思った。」
「でも歩美や光彦、元太と出会って、平穏な日常生活に慣れて
自惚れじゃなければ俺や博士が絶対の味方だって信じられたのか、だんだん感情表現が豊かになってさ。」
「それなのに、平和に慣れて組織の匂いを感じれなくなった事に申し訳なさそうにしてんだよ。そんなのいいのに。」
彼女は顔に出さなかったが、その口調から組織の人間が居ても感じ取れなくなって、”役立たず”な自分を責めてる事をコナンは見抜いていた。
だからあの時「いいじゃねえか。」と声を掛けたのだ。本心からの言葉だった。
「笑った顔が可愛いなって思った。」滅多に見れない彼女の笑顔。
多分あの頃から、徐々に魅かれていたのだ。
「でもその頃、新ちゃんまだ蘭ちゃんの事好きじゃなかった?」
「ああ。でも蘭の愛情って言うか独占欲が重いなとは無意識に感じてた。」
「なあに、それ?」首を傾げながら問う有希子。
両親にイブでの出来事は、志保の報告ついでに話したが、コナンだった頃の話はあまりしていない。
まあ普通、思春期の息子が両親に自らの恋愛-しかも片思い-や日常生活を進んで話したりしない。
そこで、新一は例の”プロサッカー選手脅迫事件”の事を簡単に語り始めた。
「俺に助けを求め、連絡を取りたいばっかりにある女子高生が、俺の彼女を騙って毛利探偵事務所に来たことがあるんだ。したら蘭、俺が嘘ついて彼女と付き合ってるって思い込んでさ。
嫉妬剥き出しですごい形相。おかげで推理しづらいったらない。
おまけに依頼人と被害者宅の様子から誘拐って気付いて、犯人の目星も付けてそこに3人で乗り込んだ。したらさあ」
そこまで話して大きな溜息を付く息子を見て、顔を見合わせる両親。
「したら、どうだったんだい?新一。」
「犯人は顔見しりだから素知らぬ振りで尋ねたけど、マンションのドアにチェーン掛けてたんだ。
そしたら俺がそこに逃げ込んだと思い込んだ蘭が何と空手でドアを蹴破った。」
「「!?」」驚く二人。
「ドアの下敷きになっちまってた犯人の事心配して「生きてるか」って声掛けたくらい。
で、依頼人が誘拐された守君を必死で探してる横で蘭は鬼の形相で俺の事探してるんだよ。
ちなみに言っとくけどその時まだ告白もしてないし只の幼馴染の関係の時だぜ!?ありえねえだろ」
「・・それは浮気見つけた正妻の反応だね。いや、奥さんでもそこまでする人少ないね。」
驚愕から立ち直った優作が冷静に感想を言う。
「つまり蘭ちゃんは付き合ってもいない新ちゃんへの独占欲と嫉妬心でいっぱいだった事ね。確かに無いわ。」
首を横に振る有希子。
「蘭は最初から最後まで浮気・・じゃねえけど浮気してた俺を見つけて問いただす事で頭一杯だった。
普通なら傷害罪・器物破損罪になっても可笑しくない状態。ならなかったのは相手が誘拐犯で、たまたま結果的に
被害者を助ける行動になっただけ。事件を表沙汰にしなかった被害者と加害者の都合もあるだろうけど。」
「武道を嗜むものは日常的にその技を遣ってはならないはずだが。」顎に手を当てる優作。
「私見た事ないわよ!?」
「母さんたちの前ではやってないから。俺や毛利のおっちゃん、結構やられてた。
多分英理さんの前でもやっていないと思う。」
新一が推理するに、蘭がそういう振る舞いをするのは、誤解や思い込みによる暴走を除けば、父親と新一(コナン)だけだ。
おそらく無条件に甘えられる、我儘を言える、自分より強いであろう”男性”というのが、対象人物なのだ。
それで言えば、母親である英理は当然であるが同姓だし、蘭を置いて出ていったから無条件に甘えられる存在ではない。
「志保は無理やり力でねじ伏せて言う事聞かせるなんてしない。
こちらが分かるようにアドバイス・・って言うには耳が痛いけどでも忠告をくれたり、フォローしてくれる。」
”逃げるの?”
”分からないの!?あなたが事件をとけばとくほど、あなたが工藤新一だってことを証明することになるのよ”
”ええ”
その時の状況が、新一の脳裏に鮮やかに蘇る。
「分かりにくいけど、それがあいつの優しさや思いやりなんだって。」
「あら、おのろけね。」
蘭のように食事を作ったりする分かりやすい気遣いではない。
けれど気付いた時、何だかとても愛おしく感じた。
「新一。結構やられたと言ったね。他にもあったという事だよね?」目線で他の事例も言うよう促される。
「ああ。自分の主張を通したいのが多かったかな。たださっきの件じゃないけどあり得ないって思ったの3回くらいある。」
「ほう?」
「一つ目が英理さんを泣かせてる不倫相手と勘違いして、獣医さんを攻撃しようとした事。
俺って言うかコナンが間一髪で止めた。
二つ目がバスで痴漢と勘違いして、世良に空手技を仕掛けた事。
まあ相手が蘭に負けない遣い手だったから大事にならなかったけどさ。
実際は世良が痴漢を捕まえてくれてたんだから、失礼極まりないよな、あれ。」
それでもこの二つは誤解が元になっているから、理不尽な中にも言い訳ができるかもしれない。
「三つ目は中華料理店。食事券が使えないって言ってる店員に、空手の足技発動。
食事券には日曜と祝日は使用できません と明記してあったってオチ。」
小さく土日は使用できませんとかランチは使用不可とか記載があるのは、飲食店のクーポンや割引券には良くある事だ。
がっかりはするだろうが、それで空手を仕掛けられては店員もたまったものではない。
それにこれは誤解ではない。店員が強面だから追い出されるに違いないという偏見と
あの後高熱で倒れた事から、体調不良による無意識な苛々が原因だろうと新一は見ていた。
「以前はさ、困ったなって思ってたけど、そこまで深刻に捉えなかった。恋は盲目ってやつと慣れかな。
俺避けるのは得意だし。」
「でも好きじゃなくなって、覚めた眼で見るとさあ。」
別に蘭に全く魅力がないとは言わない。
くるくる動く大きな瞳と笑顔、感情表現が豊かなところ、だらしない父親や赤の他人のコナンの面倒を
見てくれた世話好きな面、家事を一手に担うしっかりした面は、今でも彼女の魅力だと感じる。
ただ”新一”に対する蘭の態度は、彼女でも恋人でもないのに、愛されている事が前提になっていた。
それは確かに事実だったが、だからと言って何をしても良いわけではない。
おまけに愛されることばかり求め、自分が彼を”愛する事”、それを伝える事を怠っていた。
告白の放置がそれを証明している。
一方的な関係と言うのは長続きしないのだ。
お互い有名人で時に喧嘩しながらも、良好な夫婦関係を維持してきた二人はそれを良く分かっていた。
そんな時に、正反対な魅力を持つ、対等に話ができる異性がいたら、心惹かれるのも当然の摂理と言える。
何だか、蘭から志保へと息子の心が移る様が見えるようだと両親同時に思った。

「って蘭じゃなくて、志保の話だろ?」
嫌いになったわけではない幼馴染みのこれ以上を話すと、何だか振られた腹いせに悪口言ってるような罪悪感に
襲われ、新一は強引に話を戻した。
「あいつ、組織や明美さんの事があるから、何か人生諦めてるって節があってさ。歯痒かった。」
自分さえいなくなれば、皆の安全を確保できるという考えから、何度か消極的自殺をし掛けてる。
ビル爆破の時は元太と光彦が頑張ってくれた。バスジャックの時は、自身が抱えて飛び出した。
「世の中には確かに辛い事、悲しい事がたくさんある。でもそれ以上に美しいものや楽しい事だってあるって
組織潰したら言おうって思ってた。」
「今はさ、その事言う時に俺が、世界中の綺麗な場所や志保が楽しいと思うところへ連れてってやりたくなった。
行く時は、俺が傍にいたい。俺が楽しませてやりたい。」
「これってそういう事だろ?」
彼女を好きな理由をそう締めくくる息子に両親は、頷いていた。
「そうだね。それは私が有希子に対して思ったのものと同じだね。」
「ま、優作ったら彡」
「はいはい・・・・・・。まったくこの万年新婚バカップルは・・・・・・部屋戻ろうかな。」
コーヒーと”世界遺産”の本を持って立ち上がろうとする新一を有希子が止めた
「ちょっと待って。私の眼が正しい事が分かったでしょ!?
新ちゃん!!」
「へ?」
「もう!!彼女が新ちゃんの事好きよって指摘したのに、新ちゃんたら「ない、ない」とか言ってて鈍かったの
覚えてないの?」
「あ!」。
「思い出した?ふふ、母さんの事は、恋愛マスターとお呼びなさい!」
「あ~凄い、凄い。」些か面倒になってきた息子は棒読みである。
「さて、そんな恋愛マスターからアドバイス。」
「?」
「蘭ちゃんとは距離を置きなさい、ね!!」
「何で?」
「新ちゃん、蘭ちゃんとは今まで通りの付き合いするつもりでしょう?」
「そうだけど?だって幼馴染みって関係は変わんねえだろ?」
「あまーい!甘過ぎよ!新ちゃん!!今まではね、二人が小さい頃から一緒だったって事の他に2人が両片想いだからこそ成り立ってた事がいっぱいあるのよ。」
「・・例えば?」
「そうね、一番分かりやすいのが家事・・中でも食事かな。蘭ちゃんの事だから、時々家で作ってくれたりお弁当や差し入れしてくれてたんじゃない?後は登下校一緒だったとか。」
「うん。」頷く新一。
「それはね、もう通用しないのよ。志保ちゃんと蘭ちゃんの彼氏視点で考えてみなさいな。」
確かに自分より親しい異性がいるのは、恋人からしたら面白くないに違いなさい。
「そっか。でも蘭もそれ位分かってるんじゃ?」
「ほら、彼女元々世話好きな性格で、おまけに天然でしょう?気付かないかもよ。」
(本当はそれだけじゃ、ないんだけどね。さっきの誘拐事件で聞いた”新ちゃんは自分のっていう強烈な独占欲”が
まだ彼女の中に残ってるかもしれない。だから先手を打っておくわ。蘭ちゃん御免ね。私は新ちゃんが可愛いの。
今まで大変な目にあってきた志保ちゃんも幸せになって欲しい。
新ちゃんが命がけで手に入れた幸せを、みすみす失わせる事はしたくないの。)
母親の本音は、心の中でひっそりと呟く。
「新ちゃん、恋愛という名の船の定員は2名限定なの。それ以上乗せたら沈むわ。」
声に力を込めて言う母親にいつになく真面目に聞く息子が其処に居た。
「ありがとう、母さん。」
「それにね、距離を置くことは、志保ちゃんの為でもあり、蘭ちゃんの為でもあるのよ。」
優しい息子は待たせた彼女に負い目を感じている。
この上遠ざけるなんておそらく罪悪感を抱くだろう。
それを取り除く為、あえて彼女の為にもなる、と口にした。
別にこれは嘘ではない。彼女に恋人ができた以上、いずれは通る道だ。
「新ちゃん、大事な事だからもう1回言うわね。
恋愛という名の船の定員は2名限定なの。それ以上乗せたら沈むわ。
志保ちゃんが好きなら、乗せるのは志保ちゃんだけよ。」
*****************************************************
後書 新一、両親の前で志保の魅力を語る、になるはずが蘭の空手暴走の話にかなり持っていかれました(;'∀')
いや、でも頑張って志保の話も盛り込んだんですが
志保の魅力って蘭と比較した場合に光るんですよね~。
すぐ新一ってなる蘭に比べて、自分で考え行動し彼のサポートも自然にこなす。
引き立て役になってしまう公式ヒロインも、如何なものかと思いましたが('◇')ゞ
ですがこの章で書いた事が私が蘭が苦手な理由と考察です。
そして書いていた楽しかったのが。”恋愛マスター”な有希子さんです。
可愛い息子の為に助言するさすがな元大女優☆彡

コメント

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早速のコメントありがとうございます☆彡

あおい様

こんばんは!早速のコメントありがとうございます。
工藤夫妻気に入って頂けて何よりです。のりのりで書いてました。
私も奏さんの工藤夫妻も大好きですので、嬉しいお言葉!(^^)!

新志の味方・・・この作品はですね~蘭が孤独から彼氏をつくった事により
自然と皆祝福ムードなんです(^◇^)
ただ敢えて言うなら、第1 工藤夫妻(味方に付けたら最強と思う)第2 阿笠博士(志保にとっては父親、
新一にとっては昔から言いたいこと言える人の良い男性なので是非☆)
第3に歩美ちゃん (憧れのお兄さんお姉さんにになって懐きそうだ)
歩美ちゃんは志保にとって今でも大事な存在なので、哀として接する事は出来なくても良好な関係を築いてほしい。っていうか少しですが、そういうエピも考えてます(^^♪
頑張って更新しますね♪

共感ありがとうございます。

奏様

こんばんは!
新一編②の共感ありがとうございます。
そうなんです。志保さんは蘭ちゃんと比較すると尚更良さが際立ちます!!
いや、でも苦労しました。だって蘭ちゃんへの突っ込み書きそうで・・!!(笑)
そこを削除し、志保さんへの想いへって流れにしたんです。
奏様に正解と言って頂けて、自信持って続編へ進めそうです。

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雪月花桜

Author:雪月花桜
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